この本も何気にとりあげて、「女はどうして、男を困らせる事ばかりするのだろう」
というサブタイトルを目にした瞬間、もう手放せなくなってしまいました。著者は
海老沢泰久氏ですが、名前は知っていましたが、ほとんど読んだ事はありませんでし
た。短編集をまとめたものですが、各編ともなかなかです。
銀座のホステスの直子さん。好きだったのに家まで送って抱けなかった。十年後に又
同じ店で再会するも、昔と違うの一緒に住んでる人がいるのという第一話の「一度の
機会」。これもクラブのホステスまゆみちゃん。10年前にチャンスがあったのに逃
してしまった。まゆみちゃんは今度故郷に帰って自分の店を出すそうな。最後に誘っ
て家まで行ったのに、姉の子の大学生の女の子が邪魔をする第二話の「十年」。
ああ、好きなのに好きなのに、どんなにかっこつけてアプローチしても、なびいてくれ
ない晶子ちゃん。いつもはとてもいい感じなのに女はなぜ?第三話「彼女の哲学」。皆
このような水商売のお姉さんの話かと云えば、そうでもありません。第四話の「小型ボ
ート」では、大学生の話。万葉集の講義で仲良くなった良江ちゃん。サイクリングに誘
い、筑波山への旅へ。途中で一泊し彼女の足をもんであげたまでは良かったが。
第五話は「ショートケースのケーキ」。大学生の工藤宏、二股かけた祐子とかおるを一
体はどうするつもり。都合の良い女と本命の女の間で揺れる心とその結末は。そして「
ウェイター」、「小田原まで」、「夜の色」、「すみれ荘」、ラストの「将来」と話は
続きます。
どの話も、結果的に女に翻弄される男の物語なのだが、なぜか男も女も憎めない。お互
いに信じ合いたいのに、そして信じ会えると確信して付き合っているのに、いつも結果は
ほろ苦い思い出に。女も淋しい、男も淋しい。だから一緒に暮らせば楽しいはずなのに、
何で男と女は理解し会えないのだろう。
自分の事を考えてみても、40年以上も一緒に生活しているのに、本当に自分の奥さんの
考えている事がわかりますかと聞かれると、はっきり「はい」と云えない自分が悲しい。
一人の人を理解するという事は、それほど難しい事なのか。況してや男と女の場合は、翻
弄されるのはいつも男ばかり。
この短編集の全編に流れるのは、女と男のほろ苦い関係。但し、どろどろしたものではな
く、お互いを理解し会おうとする甘づっばい香。テーマはそれなりに重いのだけれど、読
後感は甘くさわやか。それでは又。
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