と、入口に近い応接セットに、あの政治屋が陣取っている。
その脇に、細身の黒いスーツにサングラスの男が立っている。
男は、ワタシが入っても、ピクリともしない。
その様子に間合いを計ろうとするが、空気に隙がない。
彼女が、秘書に頷いて、政治屋の正面に腰をおろす。
座るやいなや、有無を言わさぬ口調で言う。
「アポイントもなしに、何の用でしょう?心当たりはないですが」
「明日の質問…、どうしてもやるのかね」
「あなたには関係ないことです、私は信じることをやるまでです」
「少し、力を抜いたらどうだね…」
言外に意味を含ませるように、政治屋が応える。
脇に立つ男が、一瞬の動きで、足元の紙袋を応接テーブルに載せる。
「もう少し、いい事務所に移ったらどうかな」
彼女がテーブルには目もくれず、政治屋を睨みつけるようにして言う。
「お帰りください、あなたがたに用はありません」
「そんなことを、言っていいのかな」
「私は、これからも、言いたいことを言いたい相手に言います」
政治屋が諦めたように、立ち上がりながら言う。
「後で泣きついても知らんぞ」
「あなたにだけは頼みませんから、ご心配なく」
彼女の最後の言葉に、政治屋が鼻を鳴らして扉に向かう。
脇の男が扉を押さえる。
相変わらず、動作に隙がない。
サングラスの目元を睨みつけるワタシ。
視線は見えないが、見返されているのを感じる。
互いに動けず、仁王立ちしている。
「おい、帰るぞ」
扉の外で、政治屋の声。
促されるように男が、無駄のない動きで出て行こうとする。
「忘れ物よ」
彼女が、紙袋を指して言う。
男が、素早い動作で紙袋を掴むと、ワタシを一瞥して出て行く。
扉が閉まると彼女が言う。
「もう、朝からやんなっちゃうわね、塩まいといて」
彼女の思わぬトーンに振り返る。
彼女が、苦笑してソファから立ち上がると、奥の部屋に向かう。
女性秘書が、ホントに塩を持って戻ってくる。
扉の外に、二、三度まいて、笑顔を取り戻す。
あらためて挨拶を交して、彼女が奥の部屋に秘書たちと入っていく。
しばらくして、女性秘書が出てくる。
車を手配したことをワタシに伝えて、申し訳なさそうに言う。
「私たちは行けないので、車の受け取りをお願いします」
言いながら、近隣の案内図を広げてレンタカーオフィスの場所を教えてくれる。
このまま帰りに寄れそう、思いながら、二人で広げた地図を覗き込む。
「それじゃ、また夕方に」
そう言って席を立つ。
ピンヒールを響かせて、彼女の事務所をあとにする。
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