それからが勝負。
三々五々、ライトを点ける車が、行きかう車列に滑り込む。
例のビルに辿りつく。
そのまま通り過ぎて、道路の同じ側にあるコンビニへ、駐車場の端に車をとめる。
エンジンをきる。
運転席で、タイトスカートの両膝を揃えて、車を降りる。
履き替えたピンヒールを響かせて、コンビニに入る。
ペットボトルの飲料とスチール缶のコーヒー、一つずつ買う。
袋に入れてさげると、コンビニを出て、何食わぬ顔でビルに向かう。
あたりに怪しげな車はない。
二人と踏んで、躊躇うことなくビルに入る。
灯のない、解体前のビル。
陽が落ちると建物の中は、寧ろ外より暗い。
埃っぽい中を、静かに一歩ずつ進む。
最上階ではないにしても、何階か上のフロアにいるはず。
音を立てないよう、階段をゆっくり上る。
暗がりを、耳だけでなく五感を鋭くして進む。
階段を上がってフロアに着く度に、耳をすませる。
外の喧騒が遠く聴こえるだけで、物音一つしない。
何一つ聴き漏らさないよう注意しながら、また階段を上る。
次は4階。
フロアに辿りつく前に、砂を踏むような音。
身体を固めて立ち止まる。
耳をすます。
少し離れているが、微かにヒトの声、日本語ではない。
ゆっくりと、残りの階段を上る。
上りきると声の方向に進む。
聴き取れる距離。
聞き覚えのあるニュアンスとアクセント、お隣の国の奴等か。
細身の男は、そうは見えなかったが。
フロアの中ほどの部屋、といっても内装は撤去してあるので、コンクリートの壁で仕切られているだけの区画。
光がなくて暗い分、小さな灯でも、よく分かる。
小さな灯がもれる部屋とは反対の暗い区画、そこに身を潜めるワタシ。
買い物袋からペットボトルを取り出す。
暗い区画から、下手で放物線を描くように、階段下にペットボトルを抛る。
静かな建物の中に響く。
落ちていくペットボトルの音。
【このカテゴリーの最新記事】
- no image
- no image
- no image
- no image
- no image