部屋から、微かな灯を背に、中肉中背の男が出てくる。
片手に何か持って、用心するように階段を下りていく。
男が、下の階段に見えなくなる。
ワタシは静かに、しかし素早く、灯のもれる部屋にとりつく。
通路の壁に背中を押し付けたまま、部屋の中を覗き込む。
部屋の奥、床に置かれた防災用らしきライト。
その灯の奥に、椅子に座らされた彼女。
表情は分からないが、動く気配はない。
睡眠薬でも飲まされているのか。
彼女の脇で、床にすわっている男。
大きな背中に、ピンヒールのワタシでも、立ち上がると見上げそうな巨漢。
無意識に、上着のボタンを外す。
左手で上着の腰を捲って、ブラックジャックを取り出す。
次の瞬間、一気に部屋の奥に駆け込む。
男が、ヒールの音に気づいて、振り向きながら立ち上がる。
男の顔にめがけて、スチール缶を投げるワタシ。
暗がりで避け損ねた男が、悪態をつく。
距離があると思っている男の足に、左手のブラックジャックを叩き込む。
「うぐっ」
男が呻いて片膝をつく。
絶妙の高さ、ここは逃さない。
右脚を軸に左脚の飛びまわし蹴り、一閃。
巨漢が蹌踉めく。
着地して背を向けたワタシに、掴みかかろうとする奴の気配。
「…貴様あ…」
時間はかけられない。
反転して屈むと、下からブラックジャックで突き上げる。
そのまま、手元のスイッチを押す。
男が痺れたように痙攣している。
構わず、椅子の彼女に近づく。
ぐったりしている彼女の首に、手をあてる。
眠らされているだけ?とにかく此処を出よう。
椅子の背に後ろ手に縛られているロープを解く。
椅子のまま彼女を押して、コンクリート?き出しの部屋を出る。
階段に向かおうとして、椅子を押す手をとめる。
そこに、息を切らして中肉中背の男が立っている。
物音を聞きつけて、下から一気に駆け上がって来たらしい。
右手に黒い塊。
窓から入る通りの薄明かりの中、右手を真ん中に構えて息の間から言う。
「…動くな…」
ゆっくり両手を挙げるワタシ。
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