椅子の陰で男からは死角。
漸く呼吸を整えた男が、余裕を見せて笑う。
その瞬間、彼女の椅子を、ピンヒールで部屋の中へ蹴飛ばす。
同時に、腰のブラックジャックを、左手で男の右手めがけて投げつける。
鈍い音の後、黒い塊が落ちる音。
すかさず、スリット限界まで左股関節を屈曲し、右股関節を伸展する。
これ以上ない大股で、銃を飛越す。
ひと跳びで、男の間合いに入る。
勢いのまま男の胸に左の正拳、弾みで突き出す顎に右の掌底。
ひるんで下がったところに、左の後ろまわし蹴り。
全てが、きれいに極まる。
男が、そのままコンクリートの床に崩れ落ちる。
暫くは、二人とも目覚めないはず。
踵を返して部屋に戻る。
部屋の中ほどに、椅子の彼女。
椅子の背を押して、急いで部屋を出ると、階段まで戻る。
階段の前で止まると、椅子の前に片膝をついて屈む。
椅子から彼女を背中に移す。
彼女をおんぶする格好で、気合を入れて立ち上がる。
暗い足元に気をつけながら、ピンヒールで一段ずつ下りていく。
フロア二つ分下りたところで、前屈みのまま、壁にタイトスカートのお尻をついて一息つく。
彼女、以外と着やせするのかしら、などと思いながら、壁からお尻を上げる。
二階から一階への階段。
もう少し、思ったところで脚を止める。
階段の下に人影。
人影に視線を向けたまま、踊り場から二段下りる。
段差を利用して、彼女を踊り場におろす。
彼女の両脇に腕を入れて、踊り場の隅の壁に凭せかける。
一階への階段の踊り場から、あらためてビルの玄関ロビーを見下ろす。
例の、細身のサングラスの男が立っている。
外の明かりが、薄く差し込んでいる。
男がサングラスを外す。
目元に傷、夜のサングラスはそのためか。
サングラスを胸ポケットにしまいながら、男が言う。
「上の二人は相手にならなかったか、どの程度のものか、拝見しよう」
ニュアンスとアクセントは、恐らく大陸の国。
そういうことか。
例によって、使われる半島と上手く使う大陸との関係。
大昔から、相変わらずの互いのお国柄。
戦後、おおっぴらにこの国を奪い侵食している勢力。
叩き潰すには丁度いい相手。
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