改正民法における時効を止める新たな手段とは!?
借金に時効があることは多くの人が知っていますが、時効が止まることに関してはあまり知られていません。
時効を止める手段としては「催告」や「債務承認」などがありますが、改正民法において新たな手段が設けられました。それが 「権利についての協議を行う旨の合意をする書面(または電磁的記録)」の作成です。
この書面の作成によって、時効が完成猶予(旧法の停止)されます(更新(旧法の中断)にはなりません)。
【改正民法151条】
権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一.その合意があった時から一年を経過した時
二.その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三.当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
引用元: 民法の一部を改正する法律(債権法改正) について内の 法律 より
改正民法151条は話し合いによる解決を目的としている
151条の目的は話し合いによる自立的な解決を促すことです。
例えば、当事者同士で債務の返済についての協議が行われている途中で、時効の完成が迫ったとします。そこで、時効を止めるために従来の法的な手続きをとってしまうと、以後協議を行う意味が無くなります。
かといって、債務者が債務の承認をしてしまうと、時効がリセットされることで債務者が不利になります。これでは、円満な解決は望めません。
そこで、当事者同士が『話し合いを継続させる』という約束を書面で交わせば、時効の完成を引き延ばせるというのが151条の条文です。いったん先延ばしして、完成猶予の期間内に示談を図ります。
まずは協議を行うことの合意から始まります
まず、協議を行う旨の合意を書面(または電磁的記録)で行うことが必要であり、口約束は無効です。
完成猶予される期間は文書を作成した時から1年(一号)、当事者が定めた1年未満の期間(二号)のどちらかです。
話し合いの打切りから6ヶ月で時効完成
当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する通知を「書面」で行った時は、その通知の時から6ヶ月を経過すると、時効の完成猶予が終了します。
例えば、合意書面の作成から3ヶ月が経った時点で、どちらかが協議の続行を拒絶する内容の文書を送った場合、その後6ヶ月が経つと完成猶予が終了します。つまり、完成猶予期間は9ヶ月となります。
なお、完成猶予期間の最長は1年であるため、6ヶ月を経た後に拒絶通知を送っても意味がありません。
例えば、8ヶ月が経った時に拒絶通知を送っても、4ヶ月が過ぎると1年になるため、その時点で完成猶予は終わります。
また、合意書面で協議期間を6ヶ月以内に定めた場合も、拒絶通知は必要なくなります。
【改正民法151条2項】再度の合意とは?
【改正民法151条2項】
前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。
引用元: 民法の一部を改正する法律(債権法改正) について内の 法律 より
協議を行っている途中で再度、協議を行う旨の合意をすることもでき、それを定めたのが2項です。1項における完成猶予と同じことが認められます。
ただし、無限にできるわけではなく、協議の合意がなかった場合に時効が完成するはずであった時から5年を超えることができず、それ以上の完成猶予の効力は認められません。
逆に見れば、当事者の合意さえあれば、時効の完成猶予の期間を5年先延ばしにできることになります。
催告との関係性はどうなっているの?
【改正民法151条3項】
催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
3項で規定されていることは、先に債権者から「催告」をしている場合、催告における時効の完成猶予期間(6ヶ月間)は、協議の合意をしても完成猶予の効力が認められないということです。
逆に、協議の合意をしている時は、その合意による時効の完成猶予期間に催告をしても、完成猶予の効力が認められません。
合意内容は電磁的記録でも可能です!
【改正民法151条4項】
第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
協議の合意は書面ではなく、電磁的記録でも可能です。なお、「電子計算機」はパソコンのことであり、仮に「Word」で作成した文書も有効です。
債権者からの催告は一度だけしか有効でないことからすると、 協議の合意による完成猶予の規定はかなり異例の措置といえます。 それだけ、新しい民法は当事者同士の話し合いによる解決に重点を置いているということです。
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