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2019年07月04日

フランス料理の巨人! オーギュスト・エスコフィエ



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われわれが堪能することができるフランス料理。

その源流をたどると、フランス革命に行きつきます。


フランス革命が終焉を迎え王政が崩壊した時に、貴族の権力失墜のために、そのお抱えコックたちも全員失業の憂き目にあってしまいました。
宮廷での仕事を失ったコックたちは、ヨーロッパ各国の有名ホテルや大富豪邸の調理場などで職を得ていきましたが、職を得られなかったコックは、自身の生活のために街場で続々とレストランを開きました。
これまで王侯貴族のためだけのものでしかなかった宮廷フランス料理は、こうして一般人の食生活の中にも取り込まれていくことになってゆきます。

こうした、フランス料理の一般化ののち、現代まで通じるその料理体系を我々に伝えてくれた偉人の中に「オーギュスト・エスコフィエ」がいます。

フランス料理関係者全員が崇拝するほどのこの人物は、どのようにフランス料理とかかわってこられたのでしょうか?




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オーギュスト・エスコフィエは1846年、ニース郊外の小村、ヴィルヌーヴ・ルーベの一般の家庭に生まれ、十三歳の時にニースのレストランで修業をはじめました。

このエスコフィエがのちに、「フランス料理史上最大の巨人は誰か?」と問われたフランス料理関係者10人中10人が選ぶほどの偉大なシェフになるとは、当時誰が予想したでしょうか?

パリのレストランで料理長となった頃から、エスコフィエは徐々に頭角を表します。

その評判は「ホテル・リッツ」や「リッツ・ロンドン」創業者のセザール・リッツの耳に入り、モンテカルロのグランドホテルのシェフとして招かれます。

その後1890年、リッツは経営不振に陥っていたロンドンのサヴォイ・ホテルの経営を請け負うと、エスコフィエと共にサヴォイ・ホテルの再建を図り、大成功を収めます。

同時にエスコフィエはその確固たる腕前とともに、世界から注目を集めるほどの評価を得ることに成功します。


エスコフィエによって生み出された数々の料理は、現在のフランス料理店でも提供されるほどの名品が多いです。

代表的なものには、オペラ歌手のネリー・メルバに捧げられたデザート「ペーシュ・メルバ」(ピーチ・メルバ)があり、またレシピとして残しているものの中には、大作曲家ロッシーニの好物と言われる「トゥルヌード・ロッシーニ」(牛フィレ肉のロッシーニ風)などもあります。


ここで「ペーシュメルバ」についてご紹介します。

当時大評判のオペラ歌手だったネリー・メルバがサヴォイホテルに来訪した際、そのリクエストに応えて、サヴォイホテル料理長だった頃のエスコフィエが考案したデザートです。

これを堪能したメルバが感動し、デザートの名前を尋ねたところ「ペーシュ(桃)・メルバと呼ばせて頂ければ光栄です」とエスコフィエが答えたという逸話が残っています。

「ペーシュメルバ」のレシピは至ってシンプルで、バニラ・アイスの下地にシロップ漬けの桃を乗せ、ラズベリー・ソース、アーモンドのスライスを掛ければ、完成です。

今でこそ簡単なデザートですが、当時は冷蔵庫も冷凍庫もなかったため、「クレームグラセ(アイス)」は基本的にはとんでもない贅沢なものだったのです。



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卓越した料理の実績以上にこのエスコフィエの功績として大きいのは、それまで複雑な料理と位置付けられていたフランス料理の料理技法や食材について、体系化・単純化を行うことにより、現代に繋がる基本技術とスタイルを確立させたという点でしょう。

「料理人の使命はいかに味を損なわずに手順を簡略化するか」の考えのもと、外見や装飾に偏重した盛り付けや提供方法を見直し、調理法からも無駄をなくし、味本位で顧客満足を重視したものに、フランス料理を改革していったのです。

もともとフランス料理と言うのは、一握りの王侯貴族のための料理であり、高額な材料を使ったり、何日も前から仕込んだり出来るような、財力や時間を料理にかけられる人のためのものだったのです。

エスコフィエは常日頃から、その様な料理を一般の人が食べられるようにしたいと考え、努力を重ねていきました。

その結果確立したのは、


・庶民が食べることのできる金額で作れる料理にする
・仕込みに日数をかけず、お客様が見えてから料理をする
・注文を聞いてから料理を極力早く提供できるように、厨房設備・レイアウト・仕事の分担方法を組織化する


といったことでした。


これらの確立により、現代のフランス料理店で提供されているスタイルの原型が出来上がったと言えるでしょう。


また、コース料理の提供方法においても重大な変革をもたらします。


エスコフィエ以前のフランス料理は、

スープ数種 → アントレ十数種 → 魚料理が数種 → 肉料理が数種 → ロースト数種 → アントルメ → サラダ → デザート


という、永遠に続くかのような長大な提供方法でした。
途中でどこまで食べているのかわからなくなりそうですよね。

これよりさらに以前は、豪勢に盛り付けられた大皿料理を、一度にテーブルに並べてまず目で楽しみ、食べる時に取り分けていくというスタイルが基本だったそうです。
大皿料理の中には、実際には食べることのできない装飾のためだけの品も盛り付けられていたようです。

料理自身をいかに絢爛豪華に目で楽しませるか、という豪華さを前面に出したゲストのもてなし方法を基本に考えられていたとの事でした。


これに対してエスコフィエは、


前菜 → スープ → 魚料理 → 肉料理 → ロースト → サラダ → デザート


というような、現在にほぼ近いコースを採用し、一皿ずつ料理を提供することにより、出来たての料理を出来立ての状態で食べられるようにしました。

見かけ上の豪華さよりも、最高の料理を最もおいしいタイミングで提供することによりもてなす方法を優先したわけです。


さらにエスコフィエは、フランス料理における厨房組織の確立や調理法の変革にも挑みます。


 厨房組織で現代でも使われる、


「シェフ・ド・キュイジーヌ」(総料理長)
「スー・シェフ」(副料理長)
「シェフ・ド・パルティ」(部門料理長)
「ソーシエ」(ソース係)
「ロティスール」(焼き物係)
「パティシエ」(菓子係)



といった、大きな厨房組織の役職制度を最初に構築したのはエスコフィエです。
総料理長の帽子を高くしたのもエスコフィエが最初と言われています。



調理法の変革では、ソースの改革が代表的です。

ベシャメル・ソース(ホワイトソース)は、エスコフィエ時代もそれ以前も基本のソースとされていますが、作り方は全く違います。

 エスコフィエのベシャメル・ソースは、


・バターと小麦粉を合わせて炒める
・それを牛乳で伸ばす
・塩とスパイスで味と風味を加える



というシンプルな作り方で、現在でも用いられている調理法です。



しかしそれ以前、フランス革命直後から活躍した大料理人アナントン・カレームの時代では、


・バターと小麦粉を合わせて炒める
・フォンを合わせソース・ヴルーテを作る
・煮詰めたら濃い生クリームを徐々に加え伸ばす
・火にかけながら良く混ぜ合わせ煮詰める
・火から外してバターを加える
・ソース・ドゥーヴルを加える
・ナツメグを加えて完成



という、非常に手間のかかったものでした。


 エスコフィエは、ソースに手をかけ過ぎることで用途が限定され、料理ごとに何種類ものソースを別にスタンバイしなくてはならなくなることは非効率だと考え、複雑な調理工程を簡略化し、ベースとなるソースはシンプルにして種類を減らし、料理に応じて味を加えて展開していく手法を取ったのです。


そうしてエスコフィエがまとめあげた調理法は、現在もなおフランス料理の基本とされています。



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このようにしてまとめ上げた調理法の集大成として、エスコフィエはフランス料理のバイブルともいえる「ル・ギード・キュリネール」を1903年に刊行しています。
この「ル・ギード・キュリネール」の刊行こそが、エスコフィエの行ったもう一つの功績と言えるでしょう。

この書にかかれているルセット(=レシピ)の数は、なんと5000以上。
現代においても基本の確認のためにプロの料理人がバイブルとして手放すことのできないものとなっています。
世界中で料理人が同じ料理本を共有すると言うのは非常に珍しいことなのです。

その他にも1912年「メニューの本」、1934年「私の料理」と、いずれも世界中に知られている料理本を著しています。


こうした一方で、エスコフィエは料理の世界で得た自らの地位に甘んじることなく、社会貢献にも力を入れました。
例えば残った料理を廃棄処分にしないで、さらに手を加えて今で言うホームレスの人々が集う施設に持っていって食べさせてあげたりしていたようです。
決して食材を無駄に使わないという確固たる姿勢と、世界の一人でも多くの人に対して料理を提供したいという精神が垣間見えるようなエピソードですね。
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いかがでしたか?

グルメの方は先刻ご承知のオーギュスト・エスコフィエですが、一般の方の中にはご存じない方も多いのではないでしょうか?

一方で「フランス料理」はどなたも何回かは食べたことがあると思います。

われわれ一般の人間が、現在のスタイルの「フランス料理」を食べることができるのは、エスコフィエのおかげと言っても良いかもしれません。


今度、フランス料理を堪能する機会があったら、エスコフィエのことを思い出してあげるときっとご本人も喜ばれると思います。



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