令和二年二月二日、午後八時より、NHK総合(地上波)にて、長谷川博己主演「麒麟がくる」の第三回が放送されました。
前回放送の最後では、美濃国守護職の土岐頼純が斉藤利政(道三)によって毒殺される、というショッキングなシーンがありました。
土岐氏は足利幕府草創期から足利家を支え、室町時代において美濃国に君臨してきた守護大名であり、源氏の地をひく名家です。
しかし、世は下克上の戦国時代。応仁の乱を例にとるまでもなく、細川だの畠山だの上杉だのといった名家も兄弟同士、一族同士の争いが絶えず、分裂によって家自体の力が弱まり、かわりに家臣の力が強まり、守護代やその下の家臣が台頭してきました。美濃国も同様で、頼純の父と、頼純の叔父が対立し、家臣の斉藤利政(道三)が実権を握るようになったわけです。
その実験を取り戻したかった若き守護職・土岐頼純はひそかに尾張の織田信秀と通じ、信秀と利政(道三)を戦わせたのです。
その頼純の動きが読めない利政(道三)ではありませんでした。
さすがに戦国時代を代表する梟雄です。頼純が尾張に送った密書を入手しました。利政(道三)が信秀の軍を撃退した後、城を訪れた頼純がなにくわぬ顔で戦勝の喜びを述べると、頼純の密書を見せつけます。
美濃という国を安んずるのが守護職の役目であるはずなのに他国の軍勢を引き入れ、稲葉山城下を混乱させ、自国の兵も民も疲弊させる。それは守護職にあるまじき行為です。
利政(道三)ににらまれ答えに窮するかと思いきや、頼純は逆ギレしたかのように利政(道三)に対し、「成り上がり者が」と、いろいろ罵った挙句、退席しようとしますが、利政(道三)は、この城の主は自分であるから自分の許しなく勝手なことは許されぬ、といい、無理やり引き留め、茶を点て、頼純に飲ませます。
その茶に毒が入っていたわけです。
斎藤利政(道三)を演じるは本木雅弘さん。某飲料メーカーのお茶のCMに出ていますのに茶で毒殺とは、と放送直後からネットで話題になったとか、なんとか。さらにその某メーカーが騒ぎを受けて「シャレの利いた」コメントを出した、とネットのニュースになりました。
このシーンがショッキングだったのは下克上の象徴で利政(道三)が頼純を全然恐れていないだけでなく毒殺してしまうことですが、さらに問題なのは、頼純が利政(道三)の娘婿だったということです。
織田信長の正室となる帰蝶は斉藤道三の娘ですが、山岡荘八氏や司馬遼太郎氏の小説などでは織田家に嫁いだときが初婚であるかのように描かれていました。が、このドラマでは、信長より前に土岐氏に嫁いでいたことになっています。
その娘の夫を平気で殺してしまう、というのがさすがに戦国時代の梟雄です。
今回の放送では、帰蝶が城を出て明智の荘を訪れます。
かつて、帰蝶は明智の城で一年ほど過ごしたことがあったという。いわば第二の故郷みたいなもの。
夫を父が毒殺するという衝撃に、いろいろ考えることがあって、なつかしい明智の荘を訪れたのです。そして光秀の母や、京の医師の弟子である駒などと会い、話をするうちに、徐々に癒されてきます。
それから、帰蝶は光秀に訊きただします。夫が死んだ件をどう聞き、どう考えるか、と。
光秀の人物像をとらえる上での重要なシーンでした。
一方、利政(道三)は息子の高政(義龍)とともに、頼純の叔父にあたる頼芸を訪れます。頼芸は隠居同然の身でした。その頼芸を道三は、美濃国再建のために守護に担いでおこうとします。土着の豪族である国衆たちが利政(道三)の言う事を聞かず、守護職のいう事なら聞く為、あやつり人形として担ぐ必要があったのです。
頼芸は「頼純を毒殺したのか?」と言い、「操り人形にはならぬ」と言います。「毒殺されてはたまらぬ」というような言葉まで吐きます。それに対し利政(道三)は、頼純の毒殺を否定したにも関わらず、「あやつり人形は毒殺しませぬ」などと言うのです。
なんとも恐ろしい言葉です。あやつり人形でいるうちは殺さないが、そうでなくなれば容赦なく殺す、とも言っているようなものです。
結局、頼芸は守護職になるのですが、利政(道三)に対する憎しみが増し、利政(道三)の息子・高政(義龍)に耳打ちします。そなたの母親はかつて儂の屋敷にいた、そなたを息子と思うぞ、と。
高政(義龍)は父親について不信感を持つとともに自分の出生に疑問を持ちます。
高政(義龍)の母、深芳野はかつて頼芸の屋敷に仕えており頼芸の寵愛を受けていましたが土岐家の家臣である道三に下げ渡されて高政(義龍)を生んだのでした。
「本当の父は」と問いただす高政(義龍)に深芳野は息子の疑問を打ち消します。が、高政(義龍)の疑問と父親に対する不信感は深まるばかり。
そして、後日、光秀を招き、鉄砲の試し打ちをするために外出したときに二人きりになり、父親に対する不信感を打ち明け、自分の味方になれと光秀に言います。
明智光秀を演じる長谷川博己だけでなく、斎藤利政(道三)を演じる本木雅弘さん、土岐頼芸を演じる尾美としのりさん、高政(義龍)を演じる伊藤英明さん、深芳野を演じる南果歩さん、帰蝶を演じる川口春奈さん。どれも「らしさ」を感じる演技でした。
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