a.さあ、上流に向かってサイクリングロードを進んで行こう、
b.残念ですが道もここまで、安曇川( アドガワ
)上流へ向かうサイクリングロードはもうありません、
a.なんと、わずかここまでかい、山も雪も深いから自転車乗るヒト居てないんか、
b.どうしましょう、
a.交通量はあまりないけど、そんでも国道は走りたくないしなあ、対岸の細い道を行こう、
b.いや無理です、これもすぐ国道に合流してるし、谷が狭(セバ)まってもう選択肢がありましぇん、
a.しゃあないなあ、じゃあ死を覚悟して、携帯片手運転のドライバーと国道を併走しよう、
b.ところで、国道と関係あんのか、道べりに見たことないほど立派な四阿(アズマヤ)が、
a.きっと雪の重みに耐えられるような作りなんやなあ、四阿(アズマヤ)というより壁のない頑丈な山小屋みたいや、誰も居ないしちょっと休憩や、
b.ところで、我々はどこへ向かってるんすか、
a.もうじき左手に林道の入り口があるはず、それを登ってまた峠を越えるんや、
b.じゃあまた元のエリアへもどるんすか、せっかく峠を越えて来たってのに、
a.用事で走るわけやなし、走る道すべて回り道みたいなもんや、
「好きで行く 道はおおかた 回り道」、
b.なるほどねえ、こりゃ好きやないと、ただの拷問や、
a.しかし、分からへんなあ、どこが林道の入口や、
b.使い込まれた木製のグリップが、地味かっこよくすりへったクワをにぎる、そこのお婆さんに聞いてみましょう、
a.ああ、やっぱりコレでええんか、集落の道かあ思たけど、
b.いきなりスゴい水量の渓流ときつい坂のお出迎えっす、
a.でも、意外と路面はアスファルトでキレイやなあ、道幅もそれなりにあるし、
b.さいきん、この手の林道が増えてますね、
a.ちょっと前まで林道って言うと土の道が相場やったけどなあ、
b.さあ、登っていきましょうか、峠までの高低差はどれほどなんすか、
a.さっきと同様に今回もトンネル仕立ての峠、登りはじめの国道からトンネルの手前まで、高低差283m、けっこうあんなあ、数字にしなきゃよかった、
b.ここも杉の密集地帯ですね、オマケにかなりせまくてけわしい谷、
a.こんだけ森が深いと汗冷えで肌寒い、
b.しかし快適な道ですね、当然ながらクルマは滅多に来ないし、
a.さあこっからが本番や、スイッチバックできつい坂に入るで、
b.スイッチバックのおかげで、今来た安曇川(アドガワ)やふもとの村が少し見渡せます、
a.いっつも感じる事やけど、のぼり坂はちょっとの時間で景色が劇的に変わって楽しい、
b.ふもとからわずか10分か、
a.コレがあるから峠はやめられんなあ、
b.そして7分後、ふもとの村も見えないほど高くなりました、
a.こんな深い谷を登って来たんか、俺らもやるなあ、
b.しかし杉がびっしりですね、急斜面に、
a.なんかクラクラすんなあ、見慣れない山の険(ケワ)しさに、
b.登山なら、遠くに見える尾根づたいにテントかついで歩くんでしょうね、山で1〜2泊とかしながら、
a.ちょっと憧(アコガ)れるなあ、でもその日のうちに家でゆっくりすんのも安楽やしなあ、
b.乙女が池じゃ満開だったアジサイも、まだほとんどつぼみのまんま、
a.スイッチバックを抜けたら、ずいぶんラクやなあ、
b.ここなんかちょっと下ってますぜ、親方、と思ったらすぐ登り始めたけど、
a.地図やと昔は左手のルートで越えてたんやな、トンネルが無い分100mほど高い峠道になってる、
b.ああ、ちらっと見えてますね、土の道みたいなんが、もちろん我々はトンネルですよね、
a.そうなんやけど、なんか変やで、このトンネル、明かりが無いんか、
b.スイッチとかあるんじゃないすか、通るときだけ点(ツ)けるような、
a.いや見当たらんなあ、それに中でカーブしてて、出口も見えへんし、ほんとうの真っ暗闇、
b.どうしましょう、しんどいけど旧道で山越えしますか、
a.770m真っ暗闇のトンネルか、小さい点滅のLEDじゃ役に立たんし、クルマは来ないし、気味悪いなあ、
b.っていうか、心底怖いっす、コトリとも音がしない、
a.やっと登って、ホッとしたら今度は暗闇トンネルかい、かなわんなあ(=まいったなあ)、俺らの人生もここまでかもな、