【不眠症カフェ】 Insomnia Cafe

【不眠症カフェ】 Insomnia Cafe

2005.03.24
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一日に日記を三日分も書いたりしているので、PC無しの日記空白期間をだいぶ埋めることが出来た。
ついでに、過去ログからコピーして、復刻日記としてみよう。
これでまた一日分をかせげる・・・、って、一銭にもならないんだけれど。

■■■■■■■

「復刻日記」

私がお薦め web site に入れているパリ在住のカリグラフィー作家、摩耶さんが、日記の中で「昔のポルトガル商人の古い日記を読んでいる」と書いていた。
大航海時代のヴァスコ・ダ・ガマあたりの時代のものなんだろうか?
面白いだろうな~。

今日は「ポルトガル尽く」しといこう。

            ~~~~~

私にとってポルトガル人というとまずルイス・フロイスである。
16世紀の日本にイエスズ会の宣教師として来日、膨大な「フロイスの日本史」を書いてくれた後、長崎で亡くなっている。
信長や秀吉にも謁見し、世界のいろいろな情報を彼らに披露して重宝された。
フロイスはそんな信長や秀吉の容貌や性格その他もろもろの情報を first hand で日記に書き込んでいて、それが今や極めて貴重な時代の証言となっている。

私も「フロイスの日本史」の全集をもっていて、以前はちびちび読んだのだがその後は例にもれず「積ん読」になってしまっている。

            ~~~~~

彼の生涯の簡単な年表を下記に書いてみる。

1532 リスボンに生まれる
1543 (ポルトガル船が種子島に漂着 鉄砲伝来)
1548 イエスズ会に入会 ゴア(インド)に向かう
1557 ゴアで哲学・神学を修得
1562 日本へ出発
1563 日本到着 31才
1569 織田信長に二条城で謁見
1583 日本史執筆開始
1586 大坂城で秀吉に謁見
1592 マカオへ出発
1595 マカオから帰国
1596 日本史執筆完了
1597 二十六聖人の殉教 殉教を記録 長崎で死亡

正直なところこの年表はあるサイトにあったものを参考に他の飼料も読んで作ってみた。

       ―――― ◇ ――――

イエスズ会というとフランシスコ・ザビエルである。
誰でも知っている歴史上の人物。
フロイスは、インドのゴアに行った時にそこに滞在していたザビエルと会って、しばらく一緒に生活している。
そのザビエルのみならず、イエスズ会はバスク人中心に運営されてきた。
アメリカのボストンの近くにもイエスズ会が経営する HOLLY CROSS 聖なる十字架という優秀な大学がある。
イエスズ会というのは発足当時はファナティックな宣教意識を持った、武力でもってでもキリスト教化をいとわない戦闘的な宗教団体だった。

またバスク人というのはフランスとスペイン国境のピレネー山脈あたりに住む欧州の謎の民族。
スペインからの分離独立を目指してテロを繰り返している民族でもある。

奇妙なことに彼らの言語がそもそも印欧語に属さない謎の言語である。
欧州で印欧語に属さない言葉なんて他には無いはず。
それなのにバスク語はその印欧語に属していない!
そんなはずは無いと思うんだけれど、事実だ。
多分、印欧語を話す人々は先住のバスク人より遅れて欧州にやって来たのだろうと思う。
もしその反対にバスク人が遅れてやってきたのなら、その途上の印欧語の海の中で、印欧語を受け入れるか?または印欧語をバスク語にある程度は取り入れたはずだと思う。

バスク語には印欧語には無い、息を吸い込みながら発音する音があるという。
一説によるとこれは長い期間、洞窟内で暮らした民族に特徴的な音だという。
つまり氷河期に寒波を避けて洞窟内で暮らしていたのだろうと思う。
クロマニヨン人の直系の子孫とも言われている。

フランスではバスク人は味覚の鋭い人々として知られていて、レストランやビストロの経営者・シェフが多い。

       ―――― ◇ ――――

ポルトガルは東洋に大きな足跡をのこしている。
インドネシアにもポルトガル領があったし(マカッサルだったかな?)、もちろん香港の隣のマカオはインドのゴアとならんで東洋の起点。
そういえば、ボンベイ支店の現地職員にもゴアの出身者がいて、ダ・シルヴァなんていかにもポルトガル系の名前を持っているカトリック信者だった。

マカオにはいまだにポルトガル語をしゃべるポルトガルの血をひいた中国人のマイノリティー社会があるというテレビのドキュメンタリー番組を見たことがある。

徳島で亡くなったポルトガルの総領事モラエスも小泉八雲に似た境遇の知日外国人。文人で小説などを書き残していて、徳島市内にモラエス通りという通りがあり、そこにかれの旧居があったらしい。
青空文庫にモラエスの作品はあるだろうか?

通説ではポルトガル人が種子島に持ち込んだ鉄砲・種子島銃が日本に普及したと言うことになっているが、日本の堺で大量生産された鉄砲はポルトガル方式の鉄砲じゃないようだ。
弾込め方式とかその他が違う。
多分、中国とかそのあたりから導入した、もっと進化した鉄砲の技術を日本は別ルートで取り入れてそれを改良したらしい。
そうして日本人はたちまち数千丁の鉄砲を作ってしまった。
これは当時世界最多の鉄砲の所持率だった。
だから、ポルトガルに対する感謝も半分でいいらしい。

ポルトガルには行ったことがない。行ってみたい。
特にリスボンの隣の大学町で古い町のコインブラ。
コインブラって、響きが美しい。

       ーーーー ◇ ーーーー

去年、米国である結婚式があって私も招待されたのだけれど、その時に知人のポルトガル人の人々と話していて、アマリア・ロドリゲスの話がでた。
出たと言うより彼らがポルトガル人だと言うことで、私としてはある種のサーヴィス精神もあって彼女の話題を出したのだが。

昔の映画に「過去のある愛情」というフランス映画がある。
フランソワーズ・アルヌール ダニエル・ジュラン主演のポルトガルを舞台の男女の愛情のもつれを描いた映画だが、たしかまだ高校生だった私は、この映画を映画館にまで観に行った。
というより聴きに行ったと言う方が正しいかも知れない。

この映画の主題歌「暗いはしけ」という歌をアマリア・ロドリゲスというポルトガルの女性歌手が歌っていて、この歌はポルトガル独特のファドといわれるジャンルのものなのだが、その当時は世界的な話題になっていて、私はその歌をラジオで聞いてからは、ぜひ彼女が出演して謳っているというこの映画を観たかったわけだ。

実際に行ったことがないのにこう言うのもいけないかも知れないが、隣国スペインと比較してポルトガルはなんとはなしに貧弱というか侘びしい印象がぬぐえない。
写真などで見るポルトガルの映像は黒い衣装をまとった猟師の女房などのものが多いからそういう印象になるのかも知れない。
ヨーロッパと言うよりイベリア半島を数百年にわたって支配したムーア人(アラブ人)の面影も見えるような機がする。

ファドというのは哀調を帯びた歌だ。
スペイン風な激しいものとは対照的に淡い味わいで、まるで風になびく哀愁という風情がある。
これにもやはりアラビアのエキゾティックな旋律が混じり込んでいるような気がする。

やはりポルトガルにはそういう軽い持ち味があるのか?ポルトガル領だったブラジルの音楽、ボサノヴァも淡くて軽い。
名画「黒いオルフェ」の主題歌「カルナヴァルの朝」もファドの直系の子孫という趣だ。


ポルトガル語で「サウダーデ」という言葉がある。
英語で近い言葉は solitude だろうけれど、それだけではない。
この言葉は実に深くて微妙で・・・幅の広い意味のある言葉らしい。
平凡社のスペインポルトガルを知る辞典には次のようにでているという。

       ―――― ◇ ――――

懐かしさ・未練・懐旧の情・愛惜・郷愁・ノスタルジー・孤愁。
しかし、いずれの訳語もサウダーデの表す多面体的な意味のいづれかの面に対応するものであって、それが持つ意味の総体を示す訳語ではない。
サウダーデとは、自分が愛情・情愛・愛着を抱いている人あるいは事物(抽象的なものを含む)が、自分から遠く離れ近くにいない、またはいない時、あるいは自分がかつて愛情・情愛・愛着を抱いていた人あるいは事物が、永久に失われ完全に過去のものとなっている時、そうした人や事物を心に思い描いた折に心に浮かぶ、切ない・淋しい・苦い・悲しい・甘い・懐かしい・快い・心楽しいなどの形容詞をはじめ、これらに類するすべての形容詞によって同時に修飾することのできる感情、心の動きを意味する語である。
そこには、たんにそうした人や事物を思い描いたときに心に浮かぶ感情だけでなく、そうした人や事物をふたたび眼の前にしたいと願う思いも含まれている。サウダーデはこのように複雑で豊かな意味を持つ語であるから、外国語で1語によってその意味を表すことは不可能であることも、訳語としてあげられている種々の語の意味の一面しか表しておらず思い出す対象によって訳語が異なるざるを得ないことも明らかであろう。
また大切にしていた物を手放さざるを得なくなったとき、心に感じる痛み・悲しみを伴う感情もサウダーデであり、家族・親友・恋人などと永く別れるときの惜別の情もまたサウダーデである。

       ―――― ◇ ――――

これでは長々しくて大変だけれど、私の解釈では「愛着のあるものから離れていることから生ずる執着を含んだ喪失感・悲哀感」なのでは?
つまり英語で言うと nostalgy や missing feeling や in solitude がその核にあるのではないだろうか?

ポルトガルは欧州の最先端、どん詰まりである。
その先は茫漠たる大西洋。

英国のコーンウォールの先端に文字通り「LAND END」という岬があるが、陸地が切り落ちていて、そこからは見渡す限りの大西洋である。
まだ見ないリスボンにも(リスボアというのがポルトガル語の発音かな?)やはりそんな風景があるような気がする。
大航海時代に船乗り達が未知の大海に乗り出した土地だ。

そんな前例もない世界の果てへの恐ろしい航海に船出して行った夫や父親、恋人など・・・。
そんな彼らを想いつづけて帰りを待ち続けた切ない感情が、ポルトガルの女性達の心の中に染みついてファドになったのではないだろうか?

       ―――― ◇ ――――

「火宅の人」の作者、壇一雄が一時ポルトガルに滞在していたことがあって、たしか昔に週刊朝日に連載していた随筆に自ら書いていたが、ポルトガルではイワシの塩焼きが安くてまたことさら美味であるという。
さらにそれにレモンを搾ってかけると・・・。
・・・言うまでもあるまい。

       ーーーー ◇ ーーーー

またアメリカでの結婚式パーティーでのポルトガルの人達との話にもどるのだが・・・。

他の東海岸真性エリート白人連中に比べて遠慮がちなポルトガルの人々を気遣って、私はアマリア・ロドリゲスの歌が聞きたさに「過去のある愛情」を観に行ったこと、および壇一雄が好きだったというイワシの塩焼きがぜひ食べたいものだ・・・などとしゃべると、彼らがいきなり私に抱きついてきて「今度来たときには私たちの家に来てくれ!イワシの塩焼きをご馳走する ポルトガルのワインも最高だよ」というのだ。

それだけでは無い。
一人が自分の荷物の中からアマリア・ロドリゲスのCDを数枚とりだして「プレゼントする」といって聞かない。
「せっかくのCDじゃないか?」と遠慮すると「ここではいくらでも安く売っているから大丈夫」という。
たしかにこの州にはポルトガル系住民や移民が多く、いわゆるポルトガル・スーパーまでもあるのだ。
遠慮無くいただくことにした。

       ーーーー ◇ ーーーー

フロイスからアマリア・ロドリゲスまで、私の本日の大航海もやっと帰港となった。
ああ、しんど。





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最終更新日  2021.04.30 21:28:06
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