近代日本文学史メジャーのマイナー

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2009.08.02
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『青春の蹉跌』石川達三(新潮文庫)

 石川達三といえば、文学史的にはどういった位置づけになるんでしょうかね。
 どうも私の持っている文学史の本(高校の国語の副読本ですかね。ブックオフ105円です。)によると、よく分からないですね。

 ここ二年ほど、こういう文学史上のマイナーっぽい作家を読んでいくという、ひねくれた読書テーマを考え出して、それに従って文学史の本をちらちら見ていますと、よく分からないことがいくつかあります。

 その中の最大のものが、その時代時代の文学的派閥・流派に属さなった人々の位置づけです。
 というより、結局文学史という歴史的評価は、個人の作家・作品は評価しきれないんじゃないかと言うことですね。派閥・流派の位置づけだけを、何とか解説してくれるという感じです。
 (もっとも、百年やそこらでは客観的評価は難しい、という事情もあるのかも知れません。)

 そして、時代を代表するような大きな文学的派閥・流派のよく見えない時期が、この石川氏のデビューの頃、つまり昭和初めから十年代じゃなかったかと考えます。

 えー、105円文学史本に導かれつつ、この辺りの文学的派閥・流派をまとめますと、こんな感じになります。

1、プロレタリア文学……小林多喜二・葉山嘉樹・徳永直・等
  2、新感覚派……川端康成・横光利一・等


 この二つが時代を代表する大きな流派であるようですね。後はごじゃっと二つ三つ載ってあります。こんなんです。

新興芸術派・新心理主義・転向文学

 とすると、たとえば私の好きな中島敦はどこに入っちゃうんですかね。
 確かに中島敦は夭折したため、充分な文学史的業績をあげなかったかもしれませんが、作品に漂うあの格調の高さは、文学史上他に比較すべき作品が見あたらないほどのものだと思います。

 ということで、同時代である石川達三ですが、文学史教科書には、ほとんど記述がありません。文学史的メジャーじゃないんでしょうかね。

 ただ、僕がこの作家の事績として知っているのは、第一回芥川賞受賞作家ということです。ついでになぜ僕がそんなことを知っているかというと、太宰治がらみですね。

 芥川が大好きな太宰は、私生活上の行き詰まりを打開する乾坤一擲として、本当に、喉から手が出るほど芥川賞を切望しました。
 そのための、佐藤春夫や川端康成宛の、卑屈なばかりの手紙が今も残っています(賞が取れなかった時の、手のひらを返したような太宰の手紙も残っています)。

 (ついでに、太宰は第二回芥川賞の時も切望し、しかし取れませんでした。そのときの受賞者は、なしでした。)

 というわけで、第一回芥川賞受賞作家の石川達三です。
 うーん、こういうのって、やはり「風俗小説」というんでしょうかね。

 「風俗小説」といって一番に頭に浮かぶのは、永井荷風の諸作品です。
 かつては、バイアスのかかった私の中では、あまり高評価ではありませんでした。なぜかというと、たぶんそれは、中村光夫『風俗小説論』のせいですね。

 しかし、何も知らない若い頃の読書というものは、読者に与える影響たるや、きわめて大きなものがありますよねー。(昔の上流階級家庭では子どもに小説は読ませなかったそうですね。さもありなんと思います。)

 この中村氏の文芸評論は、かなり昔に読んだ本なので、ほぼ完璧に内容を忘れているんですが、ただ、風俗小説について、あまり高い評価じゃなかったような印象の記憶が残っています。
 えらいもので、僕のバイアスのかかった頭は、知らず知らずのうちにこうして形作られていったんですねー。

 その後、どうも「風俗小説」というものは、さほど評価の低いものではなさそうだと気がついたのは、丸谷才一氏のおかげです。
 丸谷氏のきわめて上質な風俗小説を読んだおかげですね。

 と、そんな風に思っている「風俗小説」なんですが、丸谷才一が、何かのエッセイでこんな風に触れていたと思います。

 そもそも風俗は、古びるのがとても速い。そのことを知りつつ、風俗小説は書かれねばならない。つまり、いかに古びない(古びるのを遅らせる)風俗小説を書くかということ。そして、にもかかわらず、風俗小説も、必然的に古びるものであるということ。
 確かそんな丸谷氏の文脈だったように思います。(ちがったかしら。)

 で、この『青春の蹉跌』ですが、うーん、それとはちょっと違うかも知れませんねー。
 描かれている「風俗」が古びているんじゃなく、取り上げられた「テーマ」が、古びてしまったんじゃないか、と。

 基本的なプロットは、『罪と罰』の小型版です。そこに(僕は最後まで読みきれなかった)大西巨人の『神聖喜劇』が少し被っています。大体そんな話です。

 うーん、時代のせいなんでしょうかねー、ちょっと「ルーティーン」な感じに終わってしまったように思います。

 申し訳ありません。今回はこんなところです。


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Last updated  2009.08.02 06:55:24
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七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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