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2019.02.02
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『夢十夜』夏目漱石(岩波文庫)

 この文庫には、表題作と後、『文鳥』『永日小品』の2作が入っています。と、いっても、『夢十夜』は10の短編だし、『永日小品』は、…えー、今数えてみましたら、25の短編作品から成っています。

 という短編集ですが、私がこれらの作品を初めて読んだのは、たぶん小学校高学年あたりで、少年少女日本文学全集とかのシリーズの一冊だったと思います。
 漱石作品をまとめた一冊で、一番長かったのが『坊っちゃん』で、後、…えー、これも少々うろ覚えなんですが、『坊っちゃん』『二百十日』『文鳥』あたりが全文収録、『永日小品』はこれは抄録でしょう、『夢十夜』が全文載っていたかどうかの記憶がありません。(たぶん全文載っていたんじゃないかと、今の私の判断では思うのですが。ついでにこれも今の判断ですが、『吾輩は猫である』の抄録はなかったんでしょうか。それとも『猫』は、別に一冊全集の中に立てられていたのかも知れません。)

 しかし考えてみれば、漱石作品に、少年少女文学はあまりないのかなという気はしますね。日本一の文豪なんだから、もう少し作品があってもいいように思いますが、でもさらに考えてみれば、これは漱石に限ったことでもありませんかね。

 文豪の書いた少年少女小説で思い浮かぶのは、芥川龍之介・森鴎外・有島武郎あたりの数作ずつしかないんじゃないですかね。後は、これは少年少女とは言えないかも知れませんが、川端康成の『伊豆の踊子』とか、三島由紀夫の『潮騒』くらいですか。
 とすれば、漱石は案外健闘しているのかも知れませんね。何といっても『坊っちゃん』のインパクトは、大きいと思います。

 というわけで、『永日小品』は作品によりますが、他の2作は再読以上になる本短編集をこの度読んでみました。
 実は本作を取り上げたのは、加えて別の理由もありまして、いえ、理由というほどのことでもないんですが、……モーツァルト、が少し絡んでいます。

 少し以前になりますが、ご本人もチェロ演奏が趣味という知人がいまして、私はクラシック音楽についてあれこれお教えをいただいたりしていました。
 いろんなよもやま話をしていたのですが、私が以前から何となく気になっていた、モーツァルトの40番ト短調交響曲について、何の見識もない私は、第1楽章だけが異様に充実していて残りの楽章は今ひとつ面白くないなーと、つい、言っちゃったんですね。

 こうして書くと恥ずかしいもので、全く自らの不明を恥じるばかりなのですが(事実別のクラシックファンの友人に同様のことを言った時は、ちょっと馬鹿にされました)、とにかくそんなことを話しますと、チェロの彼は、なるほど、それは第1楽章の圧倒的に印象深いメロディラインが、2楽章以降はやや不明瞭(複雑)になるからだろうと指摘してくれました。

 なるほど、そうだったのかと私は、長年の懸案事項がいっぺんに解決したような思いになり、気持ちがすっとしました。そして、その時ふっと思ったのが、この『夢十夜』であったわけです。

 『夢十夜』の中では、第三夜だけが圧倒的なできの良さを示してはいませんかね。
 まるでモーツァルトのト短調交響曲第1楽章のように、冒頭から最終行まで、異様なほどの充実したストーリー展開は、全く間然としたところがありません。

 しかしそれ故に、他の九つの話は、少なくとも私の中では極めて印象の薄いものになっていまして、その印象の薄さが正しいのかもう一度読み直してみようと思い至った次第であります。

 そんなわけで、私としてはかなり気合いを入れて読んだのですが、じっくり読んでみるとこれはやはりなかなか一筋縄ではいかない短編連作だと思いました。
 これももう少し以前だと思いますが、漱石研究の中でこの『夢十夜』がかなり重要だと注目され始め、少なくない研究者が読解を試みた時期がありました。
 有名なところでは、確か江藤淳が、この短編連作のテーマを「漱石の低音部」「裏切られた期待」とまとめたのではなかったでしょうか。

 しかし、難しいことはわたくしのアバウトな頭ではいかんともしがたいので、以下に私の個人的な各作品の面白さ判断でまとめてみたいと思います。
 わがまま勝手に、私が面白かったと思う順に並べますと、こんな感じになりました。

「三夜・石地蔵」→「一夜・百合」 →「九夜・お百度」→
 「六夜・運慶」 →「二夜・参禅」 →「十夜・豚に舐められる」→
 「七夜・船の中」→「五夜・天探女」→「四夜・蛇になる」 →「八夜・床屋」

 こんなあたりで、どうでしょ。
 まず「三夜」と「一夜」の間にはかなりの開きがありますね。やはり「三夜」の面白さとまとまりは圧倒的です。
 「一夜」から「二夜」までは僅差な感じです。今回予想外に面白く感じたのは、ストーリー的には「九夜」、表現の素晴らしさに驚いたのは「二夜」でした。

 「十夜」から「四夜」もほぼ差がありません。
 順に少しだけ感じたところを述べますと、「十夜」にはナンセンス嗜好が明らかに感じられ、それは作品がどこか広いところに出ようとしているようで、なるほど最終話としてふさわしく思いました。

 「七夜」は冒頭からのいきなりの分厚く陰気な描写が、救いのないエンディングまで一気に描かれます。漱石研究者ならば興味深いところでしょうが、一読者として読みますと、辛気くさくてかなりつらいです。

 「五夜」は一応筋らしいものはありながら、どこか分裂的な匂いのするお話しです。なんだか気味が悪い。「四夜」も散漫な感じがして、その散漫さが、危うい感じです。

 最後の「八夜」は、ほぼストーリーラインがありません。江藤淳式に「裏切られた期待」でまとめることはできるでしょうが、その「期待」に重み(あるいは魅力)が感じられません。

 というふうに、私のごくわがままな「面白さ順」でまとめてみました。
 確かに漱石研究者にとっては、本作にいろんな宝物の隠された短編連作だと思います。

 最後に、触れないでおりました『永日小品』ですが、『夢十夜』を少し希釈したような作品集だと感じました。
 面白い話もいっぱいありますが、もちろん25もこんな話を作ったのはすごいと感心しつつ、少し「希釈」しすぎたようなのもあるんじゃないかなと、大文豪の作品に思ってしまった分をわきまえない私でありました。

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Last updated  2019.02.02 13:37:16
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analog純文 @ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩 @ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
analog純文 @ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03)  おや、今猿人さん、ご無沙汰しています…
今猿人@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03) この件は、私よく覚えておりますよ。何故…
analog純文 @ Re:漱石は「I love you」をどう訳したのか、それとも、、、(08/25) 今猿人さんへ コメントありがとうございま…

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