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2006/11/10

クレイトン・ロースンの「帽子から飛び出した死」（Death from a Top Hat，1938）

語り手であるロス・ハートは，自分が「探偵小説」を書かない理由として数多くの先行する探偵の46人の名前を挙げ（デュパンからネロ・ウルフまで，もちろんホームズやポワロやフレンチ警部や…は入っている），殺人方法も様々挙げて，「残っているのはただ……」と記している。

このパターンは70年近く経った今でもよく使われているのだが，あまり好きではない（毛嫌いするほどではないけれど，笑）が，それ以降の内容は最初の「気負い」と関係なく，結構楽しく読めた。

警察と素人探偵の「蜜月時代」でもある。
ニューヨーク市警の捜査係長であるガヴィガン警部は自身が優秀であるために，事件の最初の関係者であり，新聞記者であった「私」ことハートの捜査へのオブザーバーとしての参入をあっさりと認めてしまう。
さらに，事件にかかわっているのが奇術師や霊媒などだったことから，ハートのすすめで，奇術師マリーニの手助けまで求めることになる。

ということで，マリーニが名探偵役となるのだが，「マリーニ」という名前は著者が奇術師として実際に使っていた名前らしい。

密室で神秘哲学者（ハートと同じ階の住人）が殺される。
容疑者がタクシーから消失する。
鍵を握っていると思われ，警察に拘束されている奇術師の家で，新たな密室殺人事件が起こる。

などの事件が起こり，もちろん無事に解決するのだが，相手が（って探偵側も）奇術師だけに，何でもできてしまって，読むほうとしては始末におえない（笑）
降霊会の暗闇で手をつなげば，アリバイトリックに使えそうだし，腹話術師がいれば密室の外から中の声を聞かせることもできそうだ。
これらが，「決め手」にならず，そのうちのいくつかはミスディレクションとして使われるのだから，結構頭がぐちゃぐちゃになる。

とはいうものの，犯行手段の１つとして催眠術（メンバーを考えれば，当然アリではあったのだが……）が使われた以外おもしろく，特に，最後に犯人を引っかけるために使ったトリックは楽しかった。

マリーニの経営する奇術ショップやマジシャンの大会なども出てきて，泡坂妻夫の「曾我佳城」シリーズとゆっくり比較しながら読み直したい一冊でもある。

クレイトン・ロースンの他作品についての日記は，フリーページ　読了本（海外）　（クレイトン・ロースン）からごらんください。

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