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畠中恵の「まんまこと」(2007)を読んだ。神田の古名主のお気楽息子高橋麻之助とそのまわりの面々を中心としたお話。親友でやはり名主の息子である八木清十郎,同心見習いの相馬吉五郎,押しつけられ許婚の野崎寿ず,病身の水元又四郎などのキャラクター設定もよく,全体のほのぼのとした雰囲気もよい。ただ,ちょっともの足りないのは,鳴家が出てこないせいか……(笑)本作に関しては「文体」と「背景」に関してちょっと不満が残ったが,この作家に大いに期待をしていているからこその不満でもある。「江戸時代のしいたげられた女」的なものを前面に出してこない書きっぷりには小気味よさを感じるし,シリーズ化して「畠中調」を完成していってほしい作品でもある。登場人物のお気に入りは,……,やはり清十郎だな(笑)畠中恵の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (畠中恵)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックスまんまこと 畠中恵
2007/11/01
しゃばけシリーズ6作目の,畠中恵の「ちんぷんかん」(2007)を読んだ。シリーズ前作の「おまけのこ」で箱根に行き,ひょっとして江戸に帰ったら少しは強くなっているのではないかと思えた若だんなだが,本作では,ますます弱くなっていた(笑)鬼と小鬼油屋の大場屋から出た火事の煙を吸って若だんなが三途の川の手前まで行ってしまう話。鳴家を一緒に連れて行ってしまうというか鳴家がついてきてしまうというのがよかった。冬吉はそのうちきっと登場するだろう。ちんぷんかん広徳寺にきてすぐに妖を見て,長年それに気づかなかった寛朝の弟子秋英の話。「和算」に変にこだわってしまうところに,著者のちょっと悪いクセが見えたが……男ぶり以前から「ただの人ではない」と思っていた若だんなの母「おたえ」の話。この時期を待って書いたというより,著者は書くことを全く考えていず,誰かからいわれてやっと気づいて書いた……という感じ(ただの邪推です)。しかし,守狐が庭にまだいるとは思わなかった(笑)今昔若だんなの兄松之助の縁談と式神使いの陰陽師が絡んだ話。式神相手の鳴家の活躍(?)が楽しかった。はるがいくよ桜の花びらである小紅を若だんなが守ろうとする話。松之助の結婚も決まりそうだし,幼なじみの栄吉もよそに修業に行くようだし……変化を素直に受け入れることになるのかどうか……ところで,今回はフリーページでの「まとめ」を,「しゃばけ」から改めて読み直し整理したいと思い,とりあえず見送り,「畠中恵メモ」は「おまけのこ」のときのままです。畠中恵の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (畠中恵)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックスちんぷんかん 畠中恵
2007/09/25
「火怨」(日記は→こちらから)にコメントをいただいたayafkさんのオススメで,熊谷達也の「荒蝦夷」(2004)を読んだ。780年に蝦夷の勢力が多賀城を一時陥落させるという事件が起きる。「火怨」が780年の事件をきっかけにそれ以降阿弖流為(あてるい)が蝦夷を率いて大和朝廷軍と戦っていく話なのに対し,「荒蝦夷」は780年の事件で終わっている。その意味では,作者が違い,したがって設定や視点に異なるものがあるにしても,「荒蝦夷」を「火怨」の前日譚として読んでも楽しい。「火怨」では鮮麻呂と表記され,きっかけを作り影響力を残した人物ではあるが表には出てこなかった伊治公呰麻呂(あざまろ)が,「荒蝦夷」で阿弖流為の父親として,また,猛々しく知略に満ちた情け無用の「生きた」人物として描かれているのもうれしい。阿弖流為とともに河内で処刑されることになる母礼(もれ)は,「火怨」では阿弖流為の妻の兄という設定だが,「荒蝦夷」では母の妹で恋仲になりそうなのか! 蝦夷の長老的存在で呰麻呂の後ろ盾にもなっている伊佐西古は「火怨」の最初のほうで引退した父親のほうだな! 「火怨」で,最初は「若造」と阿弖流為を馬鹿にしつつも,最後まで行動をともにすることになった諸絞はこんな登場の仕方をするのか! 坂上田村麻呂はどちらでも「かっこよく」かかれているなあ! など,「火怨」との違いや共通点を思い浮かべながら読んでいくのも楽しかった。もちろん,以上はたまたま「火怨」を読んでいたからの比較で,道嶋の一族でありながら多賀城の近衛兵の隊長になっている若い道嶋御楯が,最初は呰麻呂,次に母礼に利用される苦悩と,それを助けてくれた自分より若い坂上田村麻呂に結局は利用されることになるであろう皮肉,非情を貫いて生きた呰麻呂が最後の最後に陥れられた謀略などなど……「荒蝦夷」単独でもじゅうぶんに読み応えがある。熊谷達也の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (熊谷達也)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス荒蝦夷 熊谷達也
2007/06/13
出久根達郎の「ぐらり! 大江戸烈震録」(2007)を読んだ。安政2年10月の大地震によって引き起こされた様々な人間模様が描かれている。第一部「おようの物語」は,この地震によって両親や奉公人を失った仏具商「甲子屋」の少女おようが,生き残った叔父喜之助,避難先で知り合った元竹問屋の奉公人千三郎とともに「甲子屋」の再興をはかり,3人を合わせた筆名「千三屋陽喜」で「安政地震見聞録」を出版するまで。第二部「安政地震見聞録」は,上記の本の内容の一部といった体裁をとった短編集。「千三屋-あとがきにかえて」は,著者とこの本のネタ本の提供者であるらしい古書店主Kとのやりとり。実は,この「あとがき」が最もフィクションっぽくっておもしろかった(笑)ちなみに第二部に収録されている「いろはにほ」には,同著者の「おんな飛脚人」シリーズのまどかと清太郎が出てくる。出久根達郎の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (出久根達郎)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックスぐらり!大江戸烈震録 出久根達郎
2007/06/02
高橋克彦の「火怨」(1999)を読んだ。桓武天皇期に坂上田村麻呂が征夷大将軍として東北地方を平定するとふつうの歴史書に書かれる事件が,「火怨」では平定された側から見た物語として書かれている。朝廷に対する蝦夷の抵抗の中心となるのが若い阿弖流為(あてるい)なのだが,歴史上の「アテルイ」は「資料」的には「白紙」に近いようだ。つまり,「火怨」は歴史上の人物をモデルにしたのではなく,歴史上の人物を作り上げてしまったということであり,やはりこの作者はすごい!! と思わざるをえなかった。アテルイとともに処刑されたとして史書に残るモレ(母礼)はどちらかというと三国志の諸葛孔明より水滸伝の呉用を思わせる魅力たっぷりの軍師として描かれ,彼の立てる戦略によって少数で多数を制する話の展開にワクワクさせられる。「負け」が決まっている物語の終わらせ方もきれいで,後味もよいが,どのようにきれいなのかは実際に読んでもらうほかはない(笑)以下は,朝廷軍との戦いの簡単なまとめです。年齢は事件の年に関係なく780年のものに換算してあります。☆780年(宝亀11年)春伊治公鮮麻呂が按察使紀広純(参議,従四位下)と牡鹿郡大領道嶋大楯を討つのを助ける。胆沢の阿弖流為(18)は途中で黒石の母礼(25)を誘い,胆沢の兵130名を率いて,伊治城内の多賀城の兵を外に誘い出す。側近の飛良手(26)が鮮麻呂に仕える多久麻につなぎをとろうとして,物部天鈴(41)と出会う。☆780年秋征東将軍藤原継縄(中納言,従三位),副将軍,陸奥守大伴益立(従四位下),副将軍紀古佐美(従五位上),副将軍百済王俊哲(従五位上),陸奥守多治比宇美(従五位下)率いる2万の軍が相手。阿弖流為,母礼,江刺の伊佐西古(21)が兵300で,多賀城に通じる道を守備していた紀古佐美の本陣を襲って4千の兵をひきつけ,地元の蝦夷に多賀城の焼き打ちをさせる。藤原継縄,大伴益立は解任される。☆781年(天応元)春(桓武天皇に)征東将軍藤原小黒麻呂(参議),副将軍紀古佐美(従五位上),百済王俊哲(従五位上),内蔵全成,多犬養率いる2万5千の軍を4千で相手。阿弖流為,伊佐西古,和賀の諸絞率いる騎馬2千5百と母礼が率いる弓隊5百で,鮮麻呂の腹心だった孟比子(23)の手引きによりあらかじめ潜んでいた伊治で山越えしようとする2万を迎え撃って兵糧を焼き,川をさかのぼる5千と分断する。小黒麻呂は軍を解散し,4人の副将軍を連れて都に戻る。☆陸奥按察使兼鎮守将軍として大伴家持(従三位)が派遣され長い平和が続く。☆789年(延暦8)春征東将軍紀古佐美(参議,正四位下),副将軍入間広成,鎮守将軍多治比宇美率いる5万2千の軍を1万2千で相手。古佐美の全軍が山越えして衣川の平地(胆沢のある側)に陣を張るように仕向け,主力を日高見川の対岸黒石の側に置いて,いかだで川を渡った6千を壊滅させる。古佐美は残ったすべてを多賀城に引きあげさせて軍を解散。☆789年(延暦8)秋阿弖流為,伊佐西古,母礼,飛良手,孟比子が天鈴に連れられて都に行き,坂上田村麻呂(近衛少将,780年23歳)と会い,腹心の美園とも知り合う。東日流の赤頭を訪れた帰りに軽米で取実に出会い,連れ帰る。☆794(延暦13)春征東将軍大伴弟麻呂,副将軍百済王俊哲,多治比浜成,巨勢野足,坂上田村麻呂(従四位下)率いる10万の軍を1万5千で相手。束稲山,東岳に砦を作り,5万の攻め手を撃退。俊哲,浜成,野足がいる手薄な本陣を伊佐西古が襲撃して撤退させる。弟麻呂は「病気」として退けていた田村麻呂の言を入れ,梅雨時に軍を引きあげる。☆801年(延暦20)春~秋征夷大将軍坂上田村麻呂率いる4万の軍を,4千で相手。胆沢の柵を田村麻呂の本陣とさせ,金成山にこもって応戦。美園と相打ちした伊佐西古,孟比子,取実を失う。☆802年(延暦21)春阿弖流為,母礼,死んだことになっている諸絞らが田村麻呂に投降。阿弖流為と母礼は都に上り河内で処刑される。高橋克彦の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (高橋克彦)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス 火怨(上) 火怨(下)高橋克彦記事関連のオススメ日記やまと鏡(さとまさ♪さん)
2007/05/26
畠中恵の「うそうそ」(1983)を読んだ。ドラマの中で温泉のシーンが出てくるとしたら,ハリセンボンの2人よりはグラビアアイドル系の美少女,石塚・内田のコンビよりはジャニーズ系の美少年が入っているほうがちょっとワクワクする(笑) とまあ,これはいちおう冗談ではあるが,それでもやはり若だんなが箱根に行くとなれば,若だんなの入浴シーン,それも鳴家たちと浴場で遊んでいる(仁吉と佐助は一緒には入りそうにない)シーンなどを期待してしまうではないか。そして,それがいつ出てくるのかなどと思っていたのだが……今回の話のきっかけは,江戸で頻発し始めた地震。どうやらこれは「明日を,己を見つけたいとの千年ほどの迷い」が引き起こしているようで,己を捜しつづけている「うそうそ」とした様子が地震になっているらしい。自身の中で見た夢で,自分を邪魔にして殺したがっていたり,自分が持っているものを欲しがっていたり,自分が死んでしまうと心配したりする声や,悲しそうな泣き声を聞いた若だんなは,庭の稲荷神の御神託(実は祖母おぎんこと皮衣の根回しによる)もあって,箱根に湯治に行くことになる。お供には屏風のぞき以外の妖がぞろぞろついていくかと思ったら,意外にも仁吉(白沢)と佐助(犬神)のほかには鳴家が3匹と付喪神になりたての印籠の獅子だけだったが,鳴家がくすぐりで姫神のお比女の口を開かせたり,じゃんけんで若だんなに勝たせたり,佐助を救出したりと大活躍!これまでの出番が少なかった一太郎の兄で手代の松助もお供として一行に加わっていたが,怪我をしたり,置き去りにされたりでけっこうお気の毒様(笑)江戸を出発してからの3日間で,夢とからんだ,姫神のお比女の若だんなへの羨みからくる憎悪,その守役蒼天坊に率いられる天狗たちの殺意,朝顔の種を狙う貧乏藩士の企みなどにかたがつくのだが,その後1か月も寝込んでしまい,最後の最後まで「まともな」温泉に入っていないというのがいかにも若だんならしい。その後湯治は続けるようだが,結局最後の最後まで入浴シーンは出てこなかった(笑)畠中恵の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (畠中恵)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックスうそうそ 畠中恵記事関連のオススメ日記オボエガキ(ムウみんさん) ミステリの部屋(samiadoさん)日々のあぶく(kiyu25さん) ぷち てんてん(ぷちてん525さん)Happiness(あおニャンさん) 本を読みましょ(miwa125さん)魔女の隠れ家(たばさ6992さん)
2007/05/20
「上」(日記は→こちらから)に続き,藤沢周平の「よろずや平四郎活人剣-下」(1983)を読んだ。今回も参考のための原作のまとめてなので,ネタバレ注意です。消えた娘◎天保13年8月。末吉町の老婆おとらから頼まれ,孫娘のきえ(14)を田所町の呉服問屋信夫屋の若旦那文次郎から取り戻し,10~20両をおとらへの詫び料とさせる。+嫂里尾から1分。おとらから2分~1両(胸算用)。→次話で明らかになるが,文次郎は5両しか出さず,平四郎はおとらからの1両の礼金を100文にして,300文にすればよかったと悔やむ(笑)-「笹川」のおちよに,きえと藤吉の様子を聞くために2朱。山鹿屋と信夫屋の裏取引を突き止めた仙吉に駄賃?☆御小人目付の樫村喜左衛門,配下の仙吉などを使って鳥居耀蔵の動きを監視する兄の監物を警護。今回は堀留町の小間物問屋仙北屋。嫉妬●9月。寺子屋の北見も手習いの子が減って不景気,平四郎も不景気で,明石が道場主をいいように操っていると愚痴。平四郎は一時赤ん坊を明石の家に預ける。◎橋本町で拾って,大工の徳助,おくま夫婦,駕籠かきの三造,およし夫婦などの手を借りてしばらく世話をした赤ん坊の母くみの頼みで,牛込御門外の旗本小谷外記と50両で話をつける。待ち伏せした間瀬仲之進(小谷の養子になる予定)を倒し,兄の名で脅す。+小谷から5両。過去の男◎9月。煮豆屋のおとし(「娘心」)から聞いたという本所のおあき(17)の頼みから,夫婦約束をした桶職人(おとしが結婚した参吉と同じ親方)喜太郎(21)の生家生駒屋をつぶした元高利貸し百蔵である深川六間堀町の鼻緒問屋鮫島屋長兵衛に詫びを入れさせ,襲撃を退ける。+おあきから口論の仲裁料として20文。-喜太郎に蕎麦。※赤ん坊を背負って鎌倉河岸の叔母の家にいるくみに届けるところを米沢町で早苗に見られる。密通●?月,冬。国許から北見の奥方がきて金を置いていき,3人で道場を構えることが視野に入る。◎堀留町の染種商美濃屋八兵衛に頼まれ,手を出してしまった女中おくまの亭主徳五郎と10両で話をつける。+美濃屋から5両。-徳五郎に酒を飲ます。家出女房●天保14年正月。◎表通りの煮しめやのおちか(25)の頼みで隣家の大工芳次郎(34)の出て行った女房おきち(柳橋の船宿で住み込みの女中)を船頭で博奕打ちの長吉(25)と別れさせて,元のさやにおさめる。+おきちから50文とおちかから煮しめ1皿。-船宿住吉の通い女中おくめに20文。住吉での銚子代。☆使いの嘉助に呼び出され,鳥居の配下の動きを見張りに深川に行く監物の供。走る男●2月。道場の話を明石にもっていくが,そこで,彼が商人から賄賂をとり,筒井道場にいづらくなったことを聞く。◎小舟町の小間物問屋小花屋の手代清助の頼みで,堀江町の檜物職人熊五郎の女房およし(東両国の小料理屋つばめ屋で働く)と浮気したという誤解を解くが,それをきっかけに間男が本物に。+清助から1分。※☆兄の供をするが,途中で樫村も合流し,行った先で御書物同心の菱沼惣兵衛が鳥居の配下に連れ出されるのと早苗が立ち尽くすのを見る。帰り際御小人目付の奥田伝之丞と睨み合う。逆転◎?月。富沢町の古着商手嶋屋彦六(42)に頼まれ,彦六を1日2分(10日で5両)で御旅所裏のおてるに預け,帳場を彦六に任せようとしない女房のおうらとの立場を逆転させる。+彦六からの手間賃3両。-金之助へのおごり。※伊部金之助から菱沼惣兵衛が小普請組に編入され,金貸しで手に入れた金を上納させられたことを教えられる。襲う蛇◎?月。越後村松藩の助川六兵衛(「伝授の剣」)の紹介で北国小藩の留守居役宮内喜平に頼まれ,弟で笠間藩士の戌井駒之助が切腹した逆恨みで彼をつけまわす直心影流の免許をもつ浪人戌井勘十郎が襲ってきたところを矢部道場の極意剣「飛鳥」で斬る。+宮内から6両。-仙吉への駄賃?※白壁町で早苗と会ってうどん屋で話をし,借金の棒引きがわりに菱沼の妻になった事情を聞く。暁の決闘●?月。北見十蔵の元妻高江と子の塚原保之助が江戸にきて,彼の離藩の事情が明らかになる。三徳流の遣い手野瀬金十郎を青山梅窓院裏での果し合い(平四郎,明石も立ち会った)で殺したため,十蔵の帰藩は不可能となり,10年後保之助が元服して嫁をもらったら高江が江戸にくることに。◎長崎屋(「娘心」)から聞いたという駿河町の真綿問屋山城屋善助の頼みで,放蕩息子万之助と香具師の親方灰屋門左衛門の囲い者のおくみとの件で間に立ち「身代か息子かみな殺し」という枡六(「亡霊」)に兄の目付職も持ち出して500両で話をつける。+山城屋から10両。-仙吉への駄賃?浮草の女●?月。北見が30両+α,明石が15両を出し,下準備は明石がすることで道場の話がまとまりつつある。その話の前々日に明石は筒井道場をクビになっていた。◎雉子町の雪駄商筑波屋の娘なみから,父親弥助(48)の商売女おまつへの200両を超える散在を止めてほしいと頼まれる。それはおまつから作蔵へ流れる金だったが,おまつがなみの母とわかり,作蔵におまつから手を引かせる。おまつは筑波屋に戻ることになるが約束の日に姿を消す。+なみから1分。※早苗が平四郎を訪ねてくる。宿敵●?月,晩夏。明石が借家を見つけたが,道場に改築することに大家がなかなか同意しない。◎手嶋屋(「逆転」)から話を聞いた十軒店の呉服商桔梗屋小兵衛に頼まれ,元小田原の入れ墨者と女郎という夫婦の前身を知っている元岡っ引の勘七と20両で手打ちに。+里尾から小遣い1両。桔梗屋から?両。-仙吉の小田原行きの路銀と駄賃。☆上知令と水野に対する幕閣の反発を監物から聞かされる。通町の料理茶屋を見張る監物を護衛。越中橋あたりで奥田伝之丞に襲われ,矢部道場の極意わざ「磯波」で奥田を倒す。燃える落日●閏9月。神田連雀町の裏通りに「雲弘流指南」の看板を掲げ道場を構える。道場には平四郎が早苗とともに住むことに。矢部道場から近辺に住む門弟を5~6人譲られ,明石も筒井道場から3人ほど誘い,北見も藩邸に披露目をすることで,当初の門人の見込みもつく。◎酒びたりの同朋町の桶職人八助を探す。+道場びらきと早苗とともにそこに住むことを報告し,兄監物から10両。八助の女房から200文。-道場の費用70両のうち20両を出す。菱沼の刺客に1両。※菱沼惣兵衛と掛け合い10両で早苗の去り状を書かせる。☆監物から鳥居の裏切りと水野が近く老中を罷免されることを聞かされる。堀田も幕閣を去り,監物は土井老中の指図で動くことに。藤沢周平の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (藤沢周平)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックスろずや平四郎活人剣(下) 藤沢周平
2007/05/05
天保の改革時に独り立ちしてバタバタ生きようとする旗本の部屋住みを描いた,藤沢周平の「よろずや平四郎活人剣-上」(1983)を読んだ。もちろん,テレビドラマの影響である(笑)ということで,参考のために原作のほうをまとめてみた。ということはネタバレもあるので,注意してください。話の流れは次の4本線●旗本の部屋住みから脱しようとする神名平四郎は雲弘流矢部三左衛門道場(芝露月町)の友人北見十蔵(仙台浪人,紺屋町糸屋の離れで寺子屋の師匠をする),明石半太夫(肥後浪人)2人と道場を構えようとする。◎「よろずもめごと仲裁」で生計を立てる。※許婚であったが,旗本塚原家改易で消息不明になった早苗と平四郎の恋の成り行き。☆「水野忠邦(老中)と鳥居耀蔵(天保9年から目付→12年12月南町奉行)」VS「堀田(老中)と神名監物(天保2年から目付,平四郎の兄)」の暗闘。以下は,各話のまとめ。辻斬り●天保12年8月。平四郎(村松町与助店)は北見,明石とともに西神田に道場を構えようとするが,明石の夜逃げにより頓挫。◎駕籠かきの三造,およしの夫婦喧嘩を仲裁しようとして失敗。+道場をつくり家を出るということで兄夫婦から10両。窪井の件で監物から2両。-平四郎が5両,北見が10両を明石にとられる。※5年前に平四郎(19)と塚原早苗(14)が婚約するが,塚原家の改易で立ち消え。☆監物(45)の命で,辻斬りの常習者である築地の旗本窪井小左衛門(36,無形流居合の名手)を斬る。浮気妻●9月。明石を見つける(南本所石原町)。◎明石の紹介で,石原町の紙商市毛屋のおかみおこう(28)の浮気相手枡蔵を手切れ金5両で追いはらう。神名家の中間政之助が枡蔵行きつけの賭場を突き止めた。+おこうからの手間賃1分,礼1~2両。-書いていないが,政之助への駄賃。☆下男の嘉助が羽織、袴を届ける。監物とともに老中の堀田正篤(30前後)と会い,高野長英の「蛮社遭厄小記」の件での協力を求められる。帰り道で侮れない剣を遣う男と軽い手合わせ。盗む子供◎?月。北見の紹介で,紺屋町に住む種物屋の隠居伊兵衛(56)に盗み癖のある鍋町の子供竹蔵(8)を世話する(母親に10両)。+伊兵衛から3両。-1分を捕まえた子供(竹蔵)の母親に。北見に酒。※嫂里尾から墓参帰りに深川で早苗を見たと告げられる。☆監物配下の御小人目付樫村喜左衛門に三河町の田島耕作の家に案内される。10日ほど後,田島の女房を鳥居の配下から救い,三島町の医者杉野宅に送る。黒羽織の男と睨み合う。逃げる浪人◎?月。松坂町の裏店に住む仇持ちの西国浪人戸田勘十郎(42,天心独名流の遣い手)の依頼で,古沢武左衛門と談合(戸田を死んだことにする)に持ち込もうとするが失敗。古沢は返り討ちにされ,戸田は逐電。+戸田からの1分。-金を預っていたおふじ(30)に1分を返す。※早苗探しを道場仲間で御家人の次男坊伊部金之助に依頼。☆三河町(田島宅)の見張り二人が奥田(黒羽織の男,鳥居の配下の御小人目付)殺されているのを発見。亡霊◎?月,晩秋。佐久間町の糸問屋臼杵屋の徳兵衛(喜平)への25年前の泥棒仲間からの脅し(千両かみな殺し,本所御竹蔵北に住む枡六が代弁)を交渉と夜襲を北見,明石とともに撃退したことで200両で手打ちに。+臼杵屋から10両(北見と明石は5両ずつ)。☆樫村から渡辺崋山の自裁を知らされる。女難◎?月。市毛屋のおこう(「浮気妻」)が連れてきた同じ町(南本所石原町)の油屋のおかみおたかの頼みで,30両で旦那長兵衛(45)と妾おきぬ(20)を別れさせる。+おたかから仲裁料2分,礼1両。☆田島の女房の実家(小網町の菅笠問屋辰巳屋)の見張りで六兵衛が田島を見つけたが逃げられる。子攫い◎12月。紺屋町の両替商小原屋郷右衛門の息子石太郎(5,北見の寺子屋に通う)が攫われ200両要求される。監物の見張りの一人仙吉に事情を調べさせ,小原屋に恨みを持つ真綿屋美濃屋の友次郎に50両渡してけりをつける。+吝嗇なのと50両毟り取ったので,小原屋からの報酬は0かもしれない。-仙吉への駄賃?※伊部(泣き上戸)から,早苗が御書物同心で金貸しをする菱沼惣兵衛(42)の妻になっていることを知らされる。☆樫村から田島が鳥居の配下に攫われたことを知らされる。娘心◎12月。瀬戸物町の長崎屋の若旦那に夫婦約束を反故にされ,首をくくろうとしかけた表通りの煮豆屋の娘おとし(19)に同情し,頼まれもしないのに「丼に煮豆一杯」を手間賃として相手の親を説得しようとする。千田屋の娘おけいと借金の事情明かされた長崎屋はおとしを嫁に迎えようとするが,おとしは断って桶屋の奉公人の参吉を選ぶ。☆矢部定謙にかわり鳥居が南町奉行となる。樫村たちは鳥居が田島を隠した場所を捜す。亀井戸の商人の寮で見つけ,田島を取り戻す。離縁のぞみ◎天保13年2月(以降)。亭主角左衛門(43)との離縁を望む高砂町の皮問屋粟野屋おとわ(37)の頼みで,御旅所裏の娼婦おてる(20)に5両で芝居をさせて去り状を取るが,おとわは子持ちの草履職人松蔵(34)と一緒になってしまう。+おとわから2両。※早苗の住む御家人組屋敷の前の甘酒屋で早苗が外出するのを見つけるが,しばらく跡をつけ,声をかけずに終わる。☆水野の改革がすすみ,鳥居の取り締まり強化。伝授の剣●?月。明石は麹町の筒井三斎の道場(直心流)の手伝いをして羽振りがよい。◎明石の紹介で,越後村松藩士日田孫之丞(27)が「風切り之太刀」の秘伝の伝授に1千石の旗本の跡とり埴生康之介が横槍を入れるのに20両で話をつけるが,埴生は日田を襲い見事な居合で剣を宙にとばされる。+村松藩の助川六兵衛から5両,明石に1両(手当をもらう前,不時の備えの一分銀のほか83文しかなく,羽織は質入りのまま)道楽息子◎?月。北見の紹介で,本銀町の竹皮問屋橘屋甚兵衛(50)の勘当したことにしている息子庄次郎と黒江町で所帯を持った裾継女郎上がりおもん(19)を30~50両で別れさせようとするが,甚兵衛におもんと会わせ,甚兵衛はおもんに息子と一緒にいるように頼む。庄次郎の愚痴から始まった橘屋襲撃を北見とともに撃退。+3両の約束だが,無頼の襲撃撃退で平四郎と北見に+αがあったと思われる。-北見からの手紙の駄賃に5文。一匹狼◎?月,夏。東両国の料理屋あづま屋のおかみおこま(27)の依頼で,金貸しの取立てをしている吉次(32)をあづま屋で働くようにさせる。姉娘のおはる(8)の力によるところが大きい。+吉次のあとをつける日当1日500文と報酬5両。「下」の日記は→こちらからどうぞ。藤沢周平の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (藤沢周平)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックスよろずや平四郎活人剣(上) 藤沢周平
2007/05/04
江戸時代の芝居小屋を舞台にした中編集である,松井今朝子の「似せ者」(2002)を読んだ。それぞれがストーリーとしておもしろいだけでなく,時代を変え,京都,江戸,大坂各地の芝居小屋について扱われているので,その事情を知ることができるという意味でも興味深い。似せ者宝永年間(元禄の次)の京都が舞台。初代坂田藤十郎の死の1年後,彼に30年仕えていた与一は,藤十郎似で彼のものまねををして伏見や奈良の小芝居に出ていた旅回りの役者桑名屋長五郎を京に連れて行き,二代目藤十郎を名乗らせる。正月興業は大当たりするが,4月に年号が正徳と改まる頃から客足が落ちだし,同時に与一と長五郎の思惑がずれていく。与一が長五郎をあきらめ,明日からの算段を考えようとする潔さが気持ちよかった。狛犬吉宗の死の前後あたりの江戸が舞台。若手の有望格である芸達者な市村助五郎と不器用な大瀧広治と助五郎の踊りの師匠お和佐,菊弥母娘を中心とした話。助五郎の自意識過剰とも思える気持ちの揺れと,彼らを巡る運命の流れがおもしろかった。鶴亀天明から寛政に変わった頃の大坂が舞台。役者の道をあきらめ,お仕打ち(江戸の座元にあたる興行師)になった嵐亀八が,元の師匠の嵐鶴介に振り回される話。顔見世興業を「一世一代」(引退の舞台)としたいという鶴介の願いを聞いて,涙で終わる興行をした亀八だが,鶴介は他の小屋で一世一代をやったり,小芝居や大坂の舞台に出続けたりと……亀八の鶴介への想いを考えると,このタイトルは秀逸。心残して幕末から維新にかけての江戸が舞台。のちに三味線の名人となる若い杵屋巳三次と旗本の次男神尾左京の話。「御前様」の声に惚れ込んだ巳三次が3度目の出会いのあと神尾が世話をしている吉乃に三味線を教えることになるが,黒船の来航以来大きく変わった江戸で,上野で彰義隊が錦裂に敗れ……興津は絶対生きていると思っていたのだが,意外な登場の仕方に心が動いた。松井今朝子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (松井今朝子)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス似せ者 松井今朝子記事関連のオススメ日記猛読醉書(かつきねえさん)
2007/04/21
短編集である,乙川優三郎の「武家用心集」(2003)を読んだ。落ち着いた語り口でいて起伏もあり,「安心して」読むことができる。以下はメモです。田蔵田半右衛門事情を知らずに道場の同門の友人を助けたために減石と郡奉行から植木奉行へと役替えになった倉田半右衛門が,家老の大須賀十郎を討てという兄の依頼に疑問をもち,調べるうちに,刺客に襲われた半右衛門の助太刀をすることになる。しずれの音二戸家から内藤家に嫁いだ寿々が,二戸家から母の吉江を引き取って世話をするようになる話。吉江は二戸家の後妻で寿々はその連れ子。二戸家当主と母子であっても血のつながりはない。現代なら,寿々が母の世話をすることに「あまり」不自然はないが,「家」を中心とした江戸時代においてはかなり型破りなことである。その他の作品でも「家と個人」の問題は大きなテーマとして扱われている。九月の瓜勘定奉行にまで上がって引退間近の多左衛門がかつて自分が蹴落としたライバルだった捨蔵の生き方に共感を覚える。邯鄲家老から藩の忍びの頭の暗殺を命じられ,実行した津島輔四郎が,相手から真相を聞かされ,逃げずに家老との対決を選ぶ。うつしみ不正の嫌疑をかけられた子安平次郎の妻松枝が,自分を育ててくれた祖母津南(離縁→仲居→後妻)のことを思う。向椿山江戸留学を終えた医師の岩佐庄次郎が,五年の長さを待てずに活け花の師匠の子を宿して流した美沙生を最初の患者としてみて,やり直そうとする。磯波妹の結婚とともに家を出て女塾をはじめた道場主の長女奈津が,十年後に妹が持ち込んだ後妻の話を受けようかと思うまで。梅雨のなごり藩の改革にあたり勘定方で難しい仕事を押し付けられた父と,その家族を守ろうとして,家に寄っては酒を飲む母の兄の姿を見る利枝。乙川優三郎の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (乙川優三郎)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス武家用心集 乙川優三郎
2007/03/29
「北斎殺人事件」,「広重殺人事件」へと続く三部作の1作目である高橋克彦の「写楽殺人事件」(1983)を読んだ。浮世絵の版画を重視する「江戸美術協会」のボス西島俊作教授の助手として4年目の津田良平を中心とする話。対立組織である「浮世絵愛好会」の嵯峨厚の自殺をきっかけに,津田や彼の先輩で西島から破門された国府が事件に巻き込まれていく。連続殺人事件のアリバイトリックや動機の齟齬(執念と金銭)などミステリとして読み応えはじゅうぶんだったが,それ以上に,「写楽」の正体を追い求める津田と,彼をサポートする国府にワクワクした。結論を出した彼らも浮世絵の「名探偵」である。以下「雑感&まとめ」ですがネタバレ不可避なのでご注意ください。☆「現在」の事件については,「こんな刑事いるの?」という気もするが,尾行を気づかれてからやたらと情報を伝えてくれる岩手県警の小野寺刑事がとても魅力的なキャラクターだった(笑)☆秋田蘭画ってなじみのない言葉だったが,佐竹藩となじみの深い平賀源内が伝えたということで雰囲気だけはなんとなくわかった。これは同じ作者の「京伝怪異帖」(→日記はこちらから)などを読んでいたためで,さらには,「写楽=源内」などという妄想もしてしまった(笑)☆写楽が近松昌栄であるという仮説は,800円の「清親序文入り,肉筆画集」が,嵯峨による贋作だったことで結局否定されるのだが,写楽が秋田蘭画家の1人であれば,写楽の活動期間や蔦屋との関係などクリアできる点も多く,とても魅力的だ。ここは特にネタバレ!!☆シリーズを通して贋作がモチーフになっている。「作っても儲からない贋作→贋作ではない」から「目的をもった贋作」への転換は見事としか言いようがない。画集の序文を地理辞典の序文から作り,「怨念」を晴らそうとした嵯峨の怒りは,怖いけれどとてもきれいだった。高橋克彦の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (高橋克彦)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → ミステリ・サスペンス・推理小説全般 (↑関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス写楽殺人事件 高橋克彦記事関連のオススメ日記みみままの読書部屋(たあちゃん2さん) つまずく石も縁の端くれ(一村雨さん)
2007/03/22
高橋克彦の「おこう紅絵暦」(2003)を読んだ。「だましゑ歌麿」(→日記はこちらから)の最後で仙波一之進の妻となったおこうを中心とした連作短編集。おこうと一之進の父左門を軸に,おこうの元同輩や絵師の春朗などが活躍するが,花や辻占を売り母を探していたお光が仙波家に使われるようになったり,おこうの幼馴染みの由利がおこうの妹分となったりして,今後の広がりにも期待させられる。特に,元「熊娘」のお由利に槍の指南をする左門の姿が楽しい。以下は各話のメモ。願い鈴北町の吟味方筆頭与力仙波一之進の妻になったおこうが殺人の嫌疑がかかったお鈴の疑いを晴らし,一之進のすすめでお鈴が仙波家の下働きになる。神懸かり2年前に家を飛び出した鏡平が,記憶を失って臨終の母のもとに戻ってくるが,神懸かって呉服問屋の押し込みをいい当てる。この鏡平は「春朗合わせ鏡」(→日記はこちらから)にも要所で出てくる。猫清春朗の知人であり猫清と呼ばれる彫師が人を殺して自殺。残した猫の名から,彼が若手人気役者滝太郎の実の父であることがわかる。春朗の気づかなかった黒子を猫清が描き入れたという伏線がけっこう効いていた。ばくれんおこうは元芸者だけでなく元「ばくれん」だったらしい(笑)当時の仲間が巻き込まれた事件の裏に,7,8年前に張り合っていた浅草のおようの姿が見え,その仕掛けを知ると,最後には自分も仲間に入れてくれという。その結果かどうかは別として,「春朗合わせ鏡」の「がたろ」では,「はったり芝居」におようも力を貸していた。迷い道八王子に出かけた左門が旧知の八王子千人同心似内が仇討ちで討たれる場に立ち会う。人喰い同心時代の仙波家の通いの手伝いだったお光の長屋での人喰い騒ぎから,おこうと春朗が殺された男の正体を突き止める。退屈連春朗が席画をかいた退屈連の話から,おこうが盗賊による町方おびき出しの二重のからくりを見破る。熊娘浅草の見世物小屋に出ていた熊娘が両親を殺した名主から逃げていた赤城出身のおこうの幼馴染みお由利とわかり,おこうの妹分として仙波家の世話になることに。片腕両国橋下に投げ捨てられていた,左腕を切り落とされた男の正体をおこうが突きとめる。耳打ち河原崎座の若手ばかりの狂言の趣向が途中で変わったことから,作者殺しの犯人がわかる。一人心中お鈴の母親が品川にいる小間物屋のおもとだとわかったが,おもとは盗賊仲間から足抜けしようとして殺される。古傷三月の短さで人足寄場から出てきた鏡平が牢で知り合った秋太郎についていい合いをするが,秋太郎の女房が実は妹で,おこうのばくれん仲間だったことがわかる。時代,場所,登場人物などをフリーページの高橋克彦メモ(仙波一之進シリーズ)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。高橋克彦の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (高橋克彦)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックスおこう紅絵暦 高橋克彦
2007/03/18
高橋克彦の「だましゑ歌麿」(1999)を読んだ。寛政2~3(1790~91)年。松平定信の改革が江戸市中に重くのしかかっていた時期である。「京伝怪異帖」(→日記はこちらから)の最終話で,蔦屋が身代半減,伝蔵が手鎖五十日の処罰を受けるが,このときの南町奉行所側の取締りの担当が本書の主人公の仙波一之進ということになる。寛政2年8月に江戸を大嵐による高波が襲い,そのときに歌麿の妻が殺される。その事件に関わった,南町の市中取締掛同心が,その裏に隠された秘密と対決していくという話であるが,これ以上はネタバレになるので書けない(笑)一之進自身はスーパーヒーロー的役割を与えられていて,「ありか!?」の感が否めなくもないが,その他の登場人物は魅力たっぷりで,特に一之進の父親の左門,柳橋の芸者,勝川派を破門になった絵師の春朗などはよい。歌麿の身内という徳成なんかも,秘密めいたキャラで好きだ。蔦屋を中心とする絵師や戯作者たちの姿も,作者お得意の分野であることもあって,実にうまく描かれている。北町奉行の初鹿野の「ひょうきんさ」にも大笑いしてしまった。時代,場所,登場人物などをフリーページの高橋克彦メモ(仙波一之進シリーズ)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。高橋克彦の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (高橋克彦)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックスだましゑ歌麿 高橋克彦
2007/03/14
高橋克彦の「京伝怪異帖」(2000)を読んだ。中篇5作からなり,時代は安永8(1779)年から寛政3(1791)年まで,後半は仙波一之進を扱った作品の時代ともダブってくる。「剣客商売」にはまって以来田沼意次はかなり好きな歴史上の人物である。松平定信も,ここではけっこう「青臭く」書かれているが,他の作者(誰だかは忘れた,笑)が老中罷免後の定信の洒脱な姿を描いていて「ほう,ほぅ」などと思ったもので,けっして嫌いではない。覚えのためにあらすじ的なものを書いておきたいが,そうすると初読の人に迷惑!!ということにして手抜きしよう(フリーページは作った,笑)。質屋の息子の伝蔵と安兵衛(出自は書かれていなかったが,伝蔵ほど楽な暮らしではなかったようだ)の冒険物語&友情物語&出世物語でもある。時がたつにつれて,2人の仕事が入れ替わってしまうところもとてもおもしろい。本来田沼の配下なのだろうが,イメージとしては「出羽の老人」のお小姓といった感じの蘭陽のキャラクターもよい。彼は,「春朗合わせ鏡」(日記は→こちらから)でも活躍することになる。「怪異帖」というタイトルだけあって,不思議なことの仕掛けが次々に明らかにされていく中で,本当に不思議なことが残るという話の進め方もよかった。時代,場所,登場人物などをフリーページの高橋克彦メモ(京伝怪異帖)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。高橋克彦の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (高橋克彦)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス 京伝怪異帖(巻の上) 京伝怪異帖(巻の下)高橋克彦記事関連のオススメ日記背表紙ふぇちの独白(ayafkさん) ちょっといっぷく(ハレバレさん)いろんなことを忘れないために(dai583さん)
2007/02/27
連作短編集である,高橋克彦の「春朗合わせ鏡」(2006)を読んだ。時代は直接書いてはいないが,田沼意次の死後で,倹約令が厳しいということから,寛政の改革の頃だろう。登場人物の出方が,やや唐突なところがあり,「○○シリーズ」とは銘打っていないが,きっと関連作品があるのだろうと調べたところ,どうやら「だましゑ歌麿」→「おこう紅絵暦」に続く作品だったようだ(笑)主人公が仙波一之進ではなく絵師の春朗なので,いわゆるスピンオフ作品かもしれない。主人公の絵師は腕が良く,相棒は美貌(男)で腕が立ち,与力は正義感が強く,居候は心がおおらかで……と登場人物が「できすぎ」の感もあるが,その分安心して読むことができた。以下は,半分は自分用の(笑),各話のメモです。「女地獄」絵師でありながら,北町奉行所吟味方筆頭与力仙波一之進の手先(専業ではなく,特に今回は春朗のほうから持ち込む事件が多かった)も務める春朗が,火盗改めが仕切る寄場で陰間が殺された事件を通じて蘭陽と知り合う。「父子道」お庭番である父清七が自分を嫌っている春朗に唐突に助けを求め,春朗と蘭陽が桐生に行き,三井の倉に火付けをして松山藩の窮地を救うことに。清七は脚の骨を砕いてしまい,以降葛飾で暮らすようになった。「がたろ」大川端のぼろ小屋がに住んでいて,大雨で流されそうになったがたろが,春朗の居候に。北町奉行所から大黒屋への反物横流し事件の途中で,春朗が勝川派の兄弟子と仲直りをする。「夏芝居」春朗と蘭陽とがたろが新宿に行き,田舎武士にだまされた娘の無念を晴らす。春朗は絵の腕は見せたものの,事件全体から見ると道化まわしでけっこう笑えた。いのち毛がたろが筆と硯の問屋の旦那に戻ることになる途中で,春朗は筆作りの名人銀蔵と昵懇になる。「虫の日」蘭陽を連れて葛飾に帰った春朗は,近くの農家に小屋を借りている父から,妻おふみの従妹の嫁いだ骨董屋壺半が蘭人との禁制の商いに関わっているらしいと聞かされる。江戸湾の様子や江戸城内の見取り図を異人に売りつける企みで仙波一之進も出馬。壺半も出入りの長崎屋も禁制の商いとは関係なかったことがわかる。「姿かがみ」新しい子どもが生まれることになった春朗は,中島伊勢の養子になることをほぼ決意する。一之進,おこう,左門,お由利,春朗の父,がたろを迎えた月見の宴の前に、春朗と蘭陽は,中島伊勢が30年前恋仲だったおゆきに与えた鏡で脅されている事件を解決する。「だましゑ歌麿」,「おこう紅絵暦」も読まずにはいられない雰囲気なので,登場人物をフリーページにまとめてしまった(笑)時代,場所,登場人物などをフリーページの高橋克彦メモ(春朗合わせ鏡)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。高橋克彦の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (高橋克彦)からごらんください。━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ → 時代小説(←関連トラバの集積場所)こちらもクリックをよろしく! → このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス春朗合わせ鏡 高橋克彦記事関連のオススメ日記いろんなことを忘れないために(dai583さん)
2007/02/10
順序が逆になるが「銀座開化事件帖」(日記は→こちらから)の前話にあたる,松井今朝子の「幕末あどれさん」(2004)を読んだ。銀座開化事件帖が明治7年からの話であったのに対し,こちらは明治維新前夜から明治維新直後まで。なんとなく,「開花事件帖」の主人公だった幕臣の次男坊久保田宗八郎が「痛快な活躍」をする話のように思っていたのだが,全く違った(笑)宗八郎は剣道の達人である。講武所に通い,講武所の剣道師範である男谷精一郎の道場にも通って免許皆伝目前にまでなっている。嫂のいる屋敷に息苦しくなって本所亀沢町で一人暮らしをし,講武所の同輩との口争いから講武所も道場も辞めてしまった宗八郎は浅草猿若町の芝居街に入り浸り,ついに河竹新七(後の→黙阿弥,Wik,引退発表後の改名だから「黙」としたのかなあ?)の弟子となって作家への道を目指すことになる。とこうまで書くといかにも宗八郎が主人公のような感じがするのだが,実は違う。タイトルにある「あどれさん」とはフランス語で「若者」のこと。ということで,宗八郎だけではなく,片瀬源之助も,フランス人のインゲレク軍曹も,いや年齢に関係なくその当時を生きたすべての人々が主人公といえる。幕末,明治維新を扱った作品はいくつもあるが,この作者の持ち場ともいえる芝居の世界を1つの場にしたため,江戸の町民からその時代を見るという視点がおもしろかった。長州征伐や鳥羽伏見の戦いは「遠い世界の出来事」でしかなく,勝海舟すら「上の人」としてしか出てこない(情報を知らされないという点では太平洋戦争時の「普通の人」に似ている,笑)。「実は違う」と書いたのは,剣道の達人である宗八郎があまり活躍しなかったことからもくるのだが,最後のほうで官軍の士官を峰打ちしそのため,江戸にいられなくなって蝦夷地入植者の一員として花紫(年季あけの品川の女郎で,元御家人の娘)と船に乗るのだが,ここらへんが「銀座開化事件帖」とつながってくる。ところで,宗八郎のお兄ちゃんである久保田主馬もなかなか魅力的なキャラクターだった。父の早世によって14歳くらいから小納戸役として江戸城に勤めるのだが,将軍の代替わりを気に禄を返上してしまい,横浜で商人の道に進む。なりわいを芝居の世界の求めても武士であることにこだわる宗八郎との対比がよかった。ちなみに,宗八郎に危機を知らせる元同心で市政局の役人笹岡が出てくるが,これは「 家、家にあらず」などに出てきた同心笹岡の子孫(途中で養子が入ってるかもしれないが)なのだろうなぁ。松井今朝子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (松井今朝子)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス幕末あどれさん 松井今朝子
2006/12/22
米村圭吾の「影法師夢幻」(2001)を読んだ。大阪夏の陣(1615)の後,真田の忍び「佐助」と「お才」の「秀頼が鹿児島に落ち延びる」という言葉にたぶらかされて,兵庫湊に向かう勇魚大五郎の話から始まる。2章で時は飛び,天明8年(1788)。七代目勇魚大五郎が仙台藩領内に,秀頼の隠し砦を探し当て,七代目秀頼とともに江戸に向かうって話。以上大雑把であり,タイトルの「影法師夢幻」でわかるように,いろいろなところで,ダマシがあるけれど,軽く楽しく読んでいける。七代目秀頼が江戸に向かうのは,浮世絵で見た「笠森お仙」に会いたいがためなのだが,その浮世絵が20年前のものであることを大五郎はなぜか明かさない……この「笠森お仙」って,「退屈姫君海を渡る」(日記は→こちらから)に出てきた「お仙」ではないか!!「倉地政之助」の名前に聞き覚えがあったのだが,すぐには気づかなかった(笑)米村圭吾の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (米村圭吾)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス影法師夢幻 米村圭吾
2006/11/21
時代小説は久しぶりなのだが,米村圭吾の「紅無威おとめ組」(2005)を読んだ。時代小説といっていいのか? というくらい,荒唐無稽というか「テキトー」なお話ではあるのだが,「裏づけ」はそれなりにしっかりしていて,楽しくって大好きだ。時は寛政元年(1789)。松平定信が老中首座となっていわゆる「寛政の改革」が行われていた頃のこと。改革の余波で大川に投げ入れられた座長の仇として松平定信の命を狙う軽業師の胡蝶が,定信の下屋敷にある田沼家からとり上げた6万両を狙う「義賊」に巻き込まれていき……という話ではあるのだが,胡蝶以外の登場人物はみな隠し事があり,実は,実はと話が五転六転していく(ということで,ストーリーについては,ここでおしまい,笑)。気にいってしまったのは,萩乃さんだな。よっ,発明王!! という感じで,色々なものを作るのだが,あだっぼい外見や悋気な性格と才能のギャップがとんでもなくおもしろい。ところで,胡蝶,萩乃とともに「紅無威力おとめ組」の一員である桔梗が道場破りをした冬山道場って(笑)!!若いころ娘武芸者姿でのし歩いていた田沼妾腹の娘と結婚した冬山大次郎って季節違いのあの人に似ている(笑)米村圭吾の他作品はについての日記は,フリーページ 読了本(日本) (米村圭吾)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス紅無威おとめ組 米村圭吾
2006/10/20
長くなりましたが,森谷明子の「七姫幻想」(2006)について,その1,その2の続きです。梶葉襲(「朝顔」と同時期)梶葉姫…七夕祭りのとき,七枚の梶の葉に詩歌などを書いて供え,芸能の向上や恋の思いが遂げられることなどを祈る風習があったことから織女の異称となった。「朝顔」の娟子が年下の又従弟と人の禁じる恋に走った(「朝顔」(1052)の5年ほど後と思われる)翌年の話。先帝は後朱雀天皇,新帝は後冷泉天皇で,「朝顔」と同じ。生子(せいし,梅壺女御)…「朝顔」の娟子の父である後朱雀天皇の女御であり,娟子の母より1歳年下。彼女の立后をどうしても許さなかった意地悪な関白は頼通で,その弟で彼女の父は藤原教通。瀧瀬…梅壺の女房。ミステリ部分に大きく関係するが,ここでは,もとの名が「稚葉(みづは)」であることがポイント。「里」から出て外で暮らしたいとの願望は「ささがに」の大后に通じるものがあるし,本人も「古き皇女の血筋」といっている。里に伝わる「上流から流れてきた白絹」は,「秋去衣」も連想させる。上総が親しくしている少納言(「朝顔」と同一人物)が稚葉を見て「同じ一族の血をひく者か」という場面も出てきた。止利彦(とりひこ)…稚葉と同じ里から出てきた少年。生子は彼が殺したと考えているが……衣,雨のモチーフもあるが,「里」が都に干渉することがメインか?百子淵百子姫…なぜこれが織女の異称なのかはわからなかった。時代の特定はできなかった。流れからいって,平安時代以降,江戸時代より前のいつか,ということになる。場所は吉野地方の葛城川周辺。「不二原(ふじはら)」は「ささがに」の「藤原の地」に通じる。これまで出てきた「里」の風習が語られるが,すでに伝説となっている鳥比古命(とりひこのみこと)は「梶葉」の止利彦から,祭の名である「水都刃(みづは)」は,彼が守れなかった稚葉にちなんで自分の娘につけた名前からきている。ここでは「里」の滅びと,それにもかかわらず,「里が永続していくこと」が書かれていると思うのだが……。隼太は里から出て行く人間の初めての「男」パターン。糸織草子(江戸時代,天明・寛政期)糸織姫…文字通り織女。志乃…京都奉行所妻。内職が機織。百池…蕪村の実在の弟子であることまでしかわからなかったので,俳句でごまかすことにする(笑) 花守は野守に劣る今日の月 蕪村 西と見て日は入りにけり春の海 百池「幻想」では,名前を「先祖のおりました土地にちなんだもの」といっているのと,その場所が吉野の奥ということから,「里」の出身である。「百子渕」の隼太の子孫であるとしたら読みすぎだろうか?勢多在直・和泉姫…三代前の帝(桃園天皇,1741~62)のご落胤。和泉姫は「里の血」をひいていそうな雰囲気だが,百池自身はそれに確信をもつことはなかったようだ。吉野の地で,姫に安住いただけるゆかりの地を見つけることができなかったのも,白紙の束から姫の心の片鱗さえ窺うことができなかったのも,百池がすでに「里の人間」でなくなってしまったことを示しているような気がする。機織,白糸による結界,糸織草子,兄と妹の悲恋などのモチーフが盛りだくさんだったが,「物語を綴る」というのが最も大きなモチーフのようだ。ところで,ここで物語を綴っている女は,和泉姫なのか? それとも森谷明子なのか? そして,「一人はいる」物語を読む者とは,それを綴っている女なのか? それとも本を手にして今読んでいる,この自分なのか?気になるところであるが,こういう終わり方って好きだなあ。章末の歌和歌,催馬楽,俳句が各章末に配されているが,順に待つ女のもとに男がくる予感 → 女が男をあきらめる → 男が女を待つ → 女が男を呼ぶ → 天の川に祈る → ない道をつくる → 織姫が悲恋の行方を見守るとうまく配置されていて,余韻を残している。森谷明子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (森谷明子)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス七姫(ななひめ)幻想 森谷明子
2006/06/14
歴史ファンタジーとしてすっかり気にいってしまった森谷明子の「七姫幻想」(2006)について,その1の続きです。秋去衣(内側)(「ささがにの泉」直後)秋去姫…秋去衣(牽牛、織女二星が七夕の夜着る衣)を織る女から織女の異称となる。「秋去」は「秋が去って冬になる」のではなく,「秋になる」こと。軽皇子…大化の改新(645)の主役が中大兄皇子ではなく,黒幕としての軽皇子(孝徳天皇)だったということがしばらく前から話題になっている(大化改新(遠山美都男))が,ここの人物は木梨軽皇子(きなしかるのみこ)。穴穂皇子…倭の五王興にあたる安康天皇。なおこの話で穴穂皇子の舎人である大前宿禰(すくね)・小前宿禰は,古事記によると,軽皇子側である。物部大前宿禰とあるので,聖徳太子のときに蘇我氏に滅ぼされる物部氏の源流か?軽大娘女…古事記では,彼女が衣通姫とされる。「里」は彼女から始まるのだろう。なお,以上の3人については衣通姫伝説(Wik)に詳しい。美都波(みづは)…軽大娘女の身代わりをした機織女。「幻想」では,この名前も縦糸の1つになっている。泉が川に,機織道具だけしかない館が機屋なったと考えると,軽大娘女は蜘蛛であるということもできる。ただし,軽大娘女は,「ささがに」の衣通姫のように「待ち」一方で消極的ではなく,積極的に軽皇子をからめとった。ともあれ,ここでのメインモチーフは兄,妹の悲恋だ。上の話は,佐保少納言大伴家持(やかもち)に「里」からきた老女が語るという外殻に包まれている。秋去衣(外側)(奈良時代後期)この「里」もやはり縦糸の1つになっていて,「ささがにの泉」で衣通姫が住んでいた「藤原の地」であり,軽大娘女が身を隠した場所でもあると考えられる。「里」はときに位置が多少変わったとしても,「ふじわら」という名前を保ち,水が豊かな所だろう。「私の里の者は,物語を作るのも,とても上手いのです」と老女がいっているが,これは本全体の最後の一文(俳句の前)につながる。佐保少納言(大伴家持,Wik)…平城京遷都(710)に際し,家持の祖父安麻呂が都の東北佐保に宅地を与えられ,佐保大納言といわれたところからくる。話の中で「今の官職どまり」と自嘲していた家持だが,中納言にはなる。家持は万葉集の編纂で有名だが,大伴氏はもともと「武」の一族。家持は奈良時代末のいろいろな乱に表,裏でかかわって,藤原氏に対抗しようとしたと個人的に邪推している。処女帝…孝謙天皇(→Wik)。奈良の大仏で有名な聖武天皇の子で,女性として初めて皇太子となった。758年に退位し「唐国かぶれ」の藤原仲麻呂(恵美押勝)のおす天皇に譲位するが,道鏡を寵愛するに及んで,764年押勝(仲麻呂)を破り称徳天皇として再び帝位についた。「秋去衣」は孝謙時代の話。老女が家持に語るのが乞巧奠の日であるとともに、隠里の存在がここで初めて読者に明示される。薫物合(平安,道長(←摂関政治の頂点)より前)薫物姫…乞巧奠の際,終夜薫物をたいたところから織女の異称となる。「里のおばばさま」が前話の老婆と同一人物ではありえないが,そこらへんでつながってはいる。清原元輔(→Wik)…本文中にもあるが,梨壺の五人の一人で,後撰集(古今集の次の勅撰和歌集)を編んだ。「幻想」では本人の口から「もう一度書き直したい」といわせているが,「新古今」もふくめた勅撰和歌集に元輔の歌が約100首載せられているにもかかわらず,後撰集には彼の歌が一首もない。というところに,「さては……」と思わせるものもありそうだ(単なる邪推,笑)。「幻想」では,ちょっと頼りなげな,よい味をもつキャラクターになっているが,なんだかんだいいながら結構もてているところも笑える。夏野…殺された「里」出身の女性の名だが,清原家唯一の誉れで,右大臣まで昇った人物と同名。その清原夏野は清原家の祖で,日本書紀の編集で知られる舎人親王の曾孫。清原家は「文」の家系であり,その意味では「里」に近いと考えられる。今上帝…村上天皇。実権は藤原氏が握っていたものの,在位後半は関白をおかず親政を行った。藤原師輔(もろすけ,右大臣)…朝廷の位階では兄を抜けなかったが,その実験を握り,子の代で摂関家嫡流となる。道長の祖父。伊尹(これただ)…師輔の長男。のちに源高明を失脚させ摂関家の支配力を強めるが,その死後,実権は弟の兼通,兼家(道長の父)に移っていく。安子(あんし)…師輔の長女,冷泉天皇・円融天皇の母。「幻想」で生まれた皇子はのちの冷泉天皇である。芳子(ほうし,宣耀殿女御)…小一条大臣師尹(師輔の弟)の娘。「幻想」では「里」で「仕立て上げ」たことに。母方の血筋が里につながりがあった。瑞葉(みづは)…夏野の姪。「里に伝わる幼名」の軽女(かるめ)は「軽大娘女」からか? 元輔のもとに届けられた五歳の女の子も「軽女」と名のった。この女の子はもちろんのちの清少納言。悲恋は出てこなかったが,夏野が縫殿寮に勤め,元輔が瑞葉の「蜘蛛の糸に絡められそう」と感じたあたりにモチーフが。「里」の存在が前面に出た一編だった。朝顔斎王(平安,道長後,頼通のとき)朝顔姫…「牽牛花」を「あさがお」と読む(大事な牛を牽いて薬草の朝顔にかえたという故事から)ところから織女の異称となる。中宮定子の死後(1000)宮仕えをやめた清少納言(Wik)にこんな形で再会できてうれしかったりして(笑)娟子(→Wik)…父である帝は,「薫物」の村上天皇の孫の後朱雀天皇で,母は「薫物」で生まれた冷泉天皇の孫(道長の孫でもある),その母が気にかけている「弟の東宮」はのちの後三条天皇。また,この話のときの天皇は,娟子の異母兄である後冷泉天皇,養女を父の中宮にして圧迫している関白は藤原頼通である。源俊房(→Wik)…「薫物」の今上帝村上天皇の曾孫。母は藤原道長の娘(頼通の妹)。三輪様…娟子の異母妹の?子(ばいし)内親王(名前はどうでもよいが)で,「幻想」にもあるように,彼女の母はいったん頼通の養女となってから後朱雀天皇の中宮になるのだが,その父敦康(あつやす)親王が一条天皇の中宮定子の第一皇子である。少納言は,「華やかな中宮(定子)」の「いまわの際」の遺言によって三輪様とその姉を守り続けるのだ。ちなみに,少納言が源氏物語について「至らぬところもたくさんありますけれど」,「中途半端」,「物語に陰影をつける度胸がなかった」などといって,まわりの女房たちからあきれられる場面もおもしろかった。また,娟子が自らの容姿に自信をもてないでいるのは,源氏の「朝顔」を多少意識しているのか?この時代,斎王がじきじきに機を織ることはない。そのきっかけとして語られたのが「秋去衣」の事件かどうかははっきりとはしないが,雨乞いに成功するなど「水とのつながり」はまだもっていたようだ。ここに出てきた恋は,直接の血がつながっているわけではないが,「姉・弟」,「兄・妹」の恋のせめぎあいであり,やはり「悲恋」でもある。また,この「朝顔」では少納言の「ささやかなお礼」として恋が実る形のハッピーエンドとなっているが,次話の「梶葉」では「禁じられた恋」として都がその恋の噂でもちきりだったとある。実際にも(どの程度の実際かは別として),俊房のもとに走るという軽率な行動により娟子は「狂斎院」と呼ばれるようになった。文字数の関係で,その3に続きます。森谷明子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (森谷明子)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス
2006/06/14
「れんげ野原のまんなかで」(日記は→こちらから)に続いて,森谷明子の「七姫幻想」(2006)を読んだ。やはりこの作家はただ者ではないようだ。「れんげ」では,感想として「どうにも「きれいにまとまっている」を越えないのだ」などと書いてしまったが,今回は「越えた!!」 それも超えすぎてたっぷりはまってしまった(笑)「きれいごと」ばかりではない。悪いたくらみも,愛のどろどろも,怨念めいたものもたっぷり出てきて,しかも全体がやはり「きれい」にまとまっている。たなばたの織姫の七つの異称を軸にした,歴史連作ミステリといったところか。前後の話が鎖のようにつながりながら,古代から江戸時代までの話が書かれているが,全体としては,隠里の秘密と「たなばた」の悲恋がモチーフとして貫かれている。連作ミステリと歴史ファンタジーの二面があり,もちろん両者が融合して魅力的な物語になっているのだが,今回は後者「歴史ファンタジー」の部分にどっぶりはまってしまった(笑)感があるので,2つに分けて書いてみようと思う。連作ミステリささがにの泉蜘蛛の糸による標(しめ)に守られ誰も入ることのできない建物の中で衣通姫(そとおりひめ)と2人だけでいた大王(おおきみ)の死の真相は?秋去衣(あきさりごろも)軽皇子(かるのみこ)が気づかぬうちにそのまわりで渦巻く様々な思惑。彼に身を任せた機織女(はたおりめ)の目的は?薫物合(たきものあわせ)右大臣の娘安子(あんし)の皇子出産にあたり,方違え先の館で殺された縫女(ぬいめ)夏野の死の真相は?朝顔斎王もと斎王の娟子(けんし)のもとにさまざまな嫌がらせがあり,屋敷に火がかけられ,その身も危険に。その相手の正体は?梶葉襲(かじのはがさね)梅壺の女御生子(せいし)の乳母上総(かずさ)に届けられた梶葉襲の衣と七夕の願い事を書いた梶の葉が水に濡れた真相は?百子淵(ももこのふち)不二原(ふじはら)の村に伝わる「明けの元服」である「水都刃(みづは)の儀式」の本当の姿は?糸織草子(いとおりぞうし)京都町奉行所同心の妻がたまたま見つけた,両手首を切り落とされた死体が語るものは?どれもミステリとしてじゅうぶんに読みごたえがあるが,謎解きとしては「梶葉襲」が,地味な結末ながら,逆に「驚かされた」という点では「ささがにの泉」が印象に残った。歴史ファンタジーこれ以降は,調べて知ったことを中心に書いていくので,「ネタバレ」になります。ご注意ください。また,「七姫幻想」を読むにあたって,以下に書かれているうちの日本史の知識はとくに必要ありません。あまり気にしないで,さらさら読んでいくほうが,読書としては正解でしょう。ここに書いてあることも,大部分は読後に調べたことですし……(笑)七夕(たなばた)中国の乞巧奠(きこうでん)が平安時代に宮中行事としてとり入れられ,それが民間に普及していったものだが,それ以前からの豊作を祈る祭と棚機津女(たなばたつめ,災厄を除いてもらうために,水辺の機屋(はたや)で神の衣を織り,一夜妻として降臨を待つ巫女)の伝説が融合したものと思われる。七夕のキーワードとして,次のようなものがあげられる。悲恋の恋人たち…年に一度の逢瀬。蜘蛛…運命を紡ぐ者とされ,供え物の瓜の上に網をかければ吉とされた。巫女…棚機女は巫女だった。水…機屋は多くの場合、水の上に板を掛け渡して作られていた。供え物の瓜も「水」の象徴とされる。これが,各話の中で様々な形のモチーフとして使われているのだが,「幻想(←「七姫幻想」のこと)」での「悲恋」は「兄妹愛」に尖鋭に象徴されている。以上の大部分のネタモトは七夕の話,七夕 - Wikipediaですので,詳細はそちらを参照してください。七姫秋去姫(あきさりひめ)・朝顔姫(あさがおひめ)・薫姫(たきものひめ)・糸織姫(いとおりひめ)・蜘蛛姫(ささがにひめ)・梶葉姫(かじのはひめ)・百子姫(ももこひめ)。「秋去姫・薫姫・百子姫」のかわりに,「秋天姫(あきそらひめ)・琴寄姫(ことよりひめ)・灯姫(ともしびひめ)」とする説もある。本を手にしてタイトルトビラ裏の「たなばたの七姫」を眺めながら,「いとおりひめ」って「そとおりひめ」と語感が似てるなぁなどと思っていた。で,本文に入ったとたん「衣通姫(そとおりひめ)」の話になったので,びっくり!! 「糸織姫」ではなく「ささがに姫」だったけれど(笑)ささがにの泉(5C半ば)ささがに姫…蜘蛛が糸をかけることから織女の異称となる。「ささがに」は「ささがね(笹が根)」が変化したらしいが,蜘蛛が笹の根もとに多くいたということなのだろうか?衣通姫(→Wik)…美しさが衣装を通してその外側に表れ出ることからつけられた名だが,日本書紀と古事記とで指す人物が異なる。この話の衣通姫は大后(おおきさき)の妹で,日本書紀の衣通姫。大王…漢王朝と隋・唐王朝の間の時期の中国の史書に現れる倭の五王済にあたるとされる(以下,「とされる」とか「らしい」とか「とのこと」とかは書かない,笑)允恭(いんぎょう)天皇。探湯(くがたち)を行ったことで知られる(→探湯の儀)。大后…忍坂大中姫(おしさかのおおなかつのひめ)という名前より,「幻想」では,泉の里から出ようとした最初の人物であることが重要と思われる。次の話の中心人物である軽皇子(かるのみこ),穴穂皇子(あなほのみこ),軽大娘女(かるのおおいらつめ)の母でもある(彼らは異母兄弟ではない)。波鎮(はちむ)…姓は金,名は武という新羅の王族。波鎮は新羅の爵位。泉から出た糸が獲物を引きずり込む,糸が結界を張る,貴重な薬草(ささがに草)があるなどが,縦糸としてその後の話につながっていく。衣通姫の部屋には機織道具しかないこと,大后が自分の織った帯と衣通姫が織った帯を比べてくやしがることから,2人とも,「機を織る巫女」であると考えられる。その2に続きます。森谷明子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (森谷明子)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス七姫(ななひめ)幻想 森谷明子記事関連のオススメ日記読書飛行(しゃんテンさん) きまぐれうさぎ(ぶるんつさん)毎日が読書日和(くりむーぶ389さん) 猛読醉書(かつきねえさん)本を読んだら・・・by ゆうき(ゆうきさん) 本のある生活さん積んどく? 読んどく?(shiba_motoさん)
2006/06/12
明治初期の銀座を舞台にした,松井今朝子の「銀座開化事件帖」を読んだのだが,「非道,行ずべからず」(日記は→こちらから)など,これまで読んだものに比べて,よい意味で「肩の力が抜けた」楽しい作品だった。明治7年。髪結いの比呂とともに本所に暮らす旧幕臣の次男坊久保田宗八郎は兄の指図で,銀座の裏店に住みつくことになった。家主は唐物商九星堂主人で旧大垣藩主の息子,戸田三郎。九星堂をはさむ形で,耶蘇教の書店十字屋(店主は原胤昭)と民選議院の設立をもくろむ結社である幸福安全社(矢田部大作)がある。同じ裏店には薩摩出身の市来巡査もいて,彼らが起こすあるいは巻き込まれる騒動に明治初期の熱気も加わって(なにしろ,久保田が銀座に住むことになったそもそものきっかけは,ガス灯の工事妨害を見張るため)なかなかおもしろい。ちょっとサービスしすぎ(というか,いろいろ盛り込みすぎ)の感はあったが,読み始めるとついつい先を読んでしまう。ではあるのだが,連作短編といった感じなので,続いていくのかなあと思っていたところ,最後の最後になって話の雰囲気がガラッと変わり大団円。残念,これの続編はなさそうだ。と思ったら,主人公久保田宗八郎は,「幕末あどれっさん」(未読)から引き続いての登場らしい。続編に期待しよう(笑)!!松井今朝子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (松井今朝子)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス銀座開化事件帖 松井今朝子
2006/04/07
989年の11月,道長が東三条邸に招かれる場面から始まる谷恒生の「安倍清明 陰陽宮2」だが,「1(日記は→こちら)」は988年で終わったような気がする。読み損じかもしれないが,不思議だ!!この巻では,道長が必然的に巻き込まれていく権力争いとともに,京の武士の間で,源義仲・頼光を頭領とする清和源氏と平信盛が属する伊勢平氏との対立の構図がはっきりしてくる(→鎌倉幕府を開いた源頼朝は義仲の子孫であり,平清盛は伊勢平氏の裔)。時代「2」の時代は989~995年。道長周辺の人物風の法師,橘逸人,平信盛,倫子,明子(源高明の娘,サキが憑依),紫式部(小子姫)。道長(土御門)の敵対勢力道隆(道長の長兄,中関白家),伊周(道隆の長男),定子(道隆の娘),清少納言(定子つき女官)道兼(道長の次兄,粟田)京の群盗の首領八坂の不死人(宮田延麻呂,陰陽寮の陰陽師),袴垂(藤原保輔),紀の羅刹女(禿鷲の妻)蘆屋道満の配下玄嵬,蛍火,陽炎,不知火989道長,東三条邸の明子の婿になる。蛍火が伊周にとり憑く。信盛侍所の別当となり,伊勢守平維衡(これひら)の許しを得て武者50人を集めるが,帰りに紀の羅刹女から狙われる。990兼家の死にともない,道隆が関白,伊周が権大納言(のち内大臣),定子(14)は一条帝(10)の女御に。道兼の依頼で狸穴の長者(不死人の右腕)が関白の座に少女の生首を。小子姫,式部省に勤めるにあたり,安倍清明から紫式部の名を勧められる。源頼光,大江山に酒呑童子を討ちに行った留守邸を袴垂に襲われる。994道長,征東大将軍として安房の平常時の反乱を治め,信盛は正七位下の官位を賜る。995信盛,小一条房門に屋敷を構え,橘由香里(逸人の妹)と結婚,京都の伊勢平氏の頭領に(平惟宗(惟衡の3男),二見三郎,和気保盛,和盛も近くに屋敷)。道長,玄嵬に呪われるが,清明が呪いを破り,信盛が玄嵬を殺す。道隆が赤痢で死に,道兼が関白になるが,すぐに赤痢で死ぬ。3以降道長が力を得るにつれ,まわりの人物がどんどんつまらなくなっていく。安倍晴明にしても,蘆屋道満を撃退する力があれば道長を守るだけでなく,京全体を守れよ!! という感じのアホな陰陽師に思えるほどだ。ということで半ば思っていた通りつまらなくなり,4まで読んで中断。この本に関する日記も,今回をもって中止となります。谷恒生の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (谷恒生)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━
2006/03/17
二十歳の青年の肉体に,豊かに年齢を重ねて円熟した教養人の精神が宿っている。これは,谷恒生の「安倍晴明 陰陽宮1」で,藤原道長の目を通して描かれた安倍晴明の姿である。安倍晴明というとまず村上帝の時代が思い浮かぶが,この作品はそれより30年程あと,道長がまだ21歳で従五位下右兵衛権介であった時から始まる(→安倍晴明 - Wikipedia)。巻数が多いのでどうなっていくのかは不明だが,しばらくは道長が,安倍清明の助力を受け,宮廷内外で力をつけていく話になりそうだ。道長というと「……もちづきの……」の人で,摂関政治の頂点を極めた「驕りと昂ぶり」の人物というイメージだが,この本では,「出世欲がなく,正義を愛する人」として描かれている(→藤原道長 - Wikipedia)。生まれも育ちもよく,力もあるのに,まわりの状況(親戚からの圧力,仇敵の存在など)に阻まれている人間が,逆境をはねのけつつ力を発揮していくという物語のパターンは,何かしらワクワクさせるものがある。そこに安倍晴明が加わり,しかも結果的に頂点に達することがわかっているのだから,「うさんくさい」という気持ちもどこかにあるのだが,それなりにすいすい読めてしまう。読まないでいても損をした気はしないが,読み始めると次が気になるといったたぐいの本である(笑)歴史書として読まないように(笑)!! あくまでもフィクションである。また,オススメの本でもない。素材の扱い方によってつまらなくなりそうな雰囲気もいっぱいある(笑)楽天ブックスで探しても見つからなかったので,何か問題があって絶版になった可能性もある(??,深くは追求しませんでした)!!以下は内容のまとめ。「1」の時代は986~988年。道長周辺に配置される人物は,風の法師(道長が子供のころから出入りしている隠遁者),橘逸人(勧学院時代からの友人,橘逸勢の縁者),平信盛(道長の警護の任につく,伊勢平氏の一族),サキ(道長に助けられた娘,銀狐の化身)など。青年道長(21)は,泉州信田の森で安倍晴明に会い,「時代魂(じだいこん)」の担い手であるといわれる。これが道長と晴明の交わりの始まり。京のには群盗が跋扈し,今後いろいろな形で絡んでくるが,その首領は,多襄丸(たじょうまる),茨木童子,鬼童丸,禿鷲(道長の婚約者の土御門姫(23,倫子,父は左大臣源雅信)をさらった事件で道長と平信盛に倒される),八坂の不死人,袴垂。986年,道長の父兼家は,玄嵬(蘆屋道満の配下),源満仲・頼光の力を借りて,花山帝(19)を退位させ一条帝(7)の摂政となるが,翌年の東三条邸新築後に,蛍火,不知火(蘆屋道満の配下)にたぶらかされ狂う。宮廷の実権は長男道隆(左大臣)と詮子(一条母,兼家妹,道長姉)が握り,次男道兼は内大臣,三男道長は権大納言に。ここに,3兄弟による権力争いの構図ができる(道長は興味をもっていないことになっているが……)。婚姻後に妻倫子の父から譲られた土御門邸の移った道長だが,毒で死にかけるたところを晴明に助けられ,近くに陰陽宮の建設を始める。988年には正四角推の陰陽宮が完成。途中,藤原為時の娘小子(ちいさこ)姫(蘇芳,民族魂のもち主)が不死人の配下猫又にさらわれ,安倍晴明に助けられ,しばらくともに暮らすという挿話が入るが,これは,紫式部の少女時代。谷恒生の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (谷恒生)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━
2006/03/10
「高瀬川女船歌」の4作目(?)になる澤田ふじ子の「篠山早春譜」だが,今回は最後まで作品の中に入っていけなかった。京都の高瀬川を舞台に角倉会所を中心に生活する,船人足,女船頭,宿屋,居酒屋の親父(元侍で主人公),会所の頭取や手代たちの生活の中に,腕の立つ武家の夫婦が町人になりすまして紛れ込んでくるといった話。この著者の作品には,す~と入れるときと,入れないまま終わるときがあるのだが,今回は,登場人物の「よい人々」過ぎる点が鼻についたまま終わってしまった。「分を守らなくては」,「角倉に感謝しなくては」,「天皇(みかど)がおわす京域で刀を抜くのは藩にとっておおごと」とまあ,こんなのばかりで,船人足の子供までが,やたら分別くさいことを友だちにのたまう。冤罪で藩を追われた元尾張藩士が居酒屋の親父におさまる。そこまでは,おもしろかったのだが,すでに以前の巻でおさまってしまい,気になるのは,彼を慕う女船頭と一緒になるのか程度。今回の場合は,加えて,一見敵役と思える人物が「よい人」である場合もあり,道徳の本を読まされたような読後感だった。それでも読んでしまうし,続刊が出たら多分読むであろうところは,このシリーズがまあまあ気に入っている弱みである(笑)次の日記も読ませていただきました。九郎判官義経を追え(ちゃめ8899さん)澤田ふじ子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (澤田ふじ子)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス篠山早春譜 澤田ふじ子
2006/02/18
鎌倉河岸捕物控の5作目佐伯泰英の「古町殺し」を読んだ。前作の日記(→こちらから)で「1つの大きな事件があり,その合間に小さな事件が解決されるというパターン」に慣れたと書いたばかりだったが,今回は小さな事件が2話だけの「長編」仕立てになっていた(笑)寛政11年春,将軍家斉主催の御能拝見の日を前に,古町町人でもある宗五郎が腕の立つ浪人に襲われたのを皮切りに,古町町人が続けて殺害されていく。江戸の古町町人が江戸城に招かれることが習慣になっている御能拝見に的を絞ったたくらみであり,取り潰しにあった古町町人やお役を返上した名主など古町町人に恨みをもつ者を中心に探索を進めていくのだが……前々作の日記(→こちらから)で「強い敵役が出てこないかなあ!!!」などといっていたのが聞こえたのかどうか(って本が書かれたほうがずっと早いのでそんなはずはない!),今回の敵はけっこう手ごわかった(例によって最後はあっけなかったけれど)。政次,亮吉,彦四郎,しほがそれぞれに似合った活躍をするのだが,今回おもしろかったのは船上での亮吉の活躍。酔っ払って,爆弾を振り回してそんなことで解決しちゃっていいのか? という気がしないでもないが,いいんでしょう(笑)先輩たちを差し置いて手先たちの指揮をとらされたり,腕利きの浪人と対決する宗五郎から「十手を受け継ぐのはおめえだからな」といわれたり,政次の後継ぎとしてのお披露目も間近という感じになってきたが,手先の中では,もともと亮吉とそりが合わなかった下駄貫が反発を強めていく。そうこなくてはね!! 亮吉がなんとなく納得したあと,誰もがものわかりがよくてはおもしろくない。さて,今後の展開は? といったところですね。各話の事件1 身をもちくずした京都の彫師の息子が江戸の師匠の娘との婚姻を前に「精算」のつもりで連続殺人。2 六阿弥陀めぐりの人々から金を奪う兄弟たち。なお,前回のコメントでのたばさ6992さんからの課題「次のお話でもおかしいところがあるので、探してみてください」に,関しては降参するしかないようだ(笑)広吉のキャラクターが大きく変わっていたことには気づいたが,多分,それとは違いそうだし……シリーズ前作の「暴れ彦四郎」についての日記は,→こちらからお読みください。時代・場所,登場人物をフリーページの佐伯泰英メモ(御金座破り/暴れ彦四郎/古町殺し)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。佐伯泰英の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (佐伯泰英)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックス古町殺し 佐伯泰英
2006/02/12
1つの大きな事件があり,その合間に小さな事件が解決されるというパターンに慣れてきたのだろうか? 鎌倉河岸捕物控の4作目佐伯泰英の「暴れ彦四郎」(2001)は,これまででもっともおもしろく感じられた。寛政9年春の場面から始まったこのシリーズだが,今回は寛政10年末から翌正月にかけての話。しほが従姉佐々木春菜の結婚式に参列するために川越に行き,鎌倉河岸界隈は一様にさみしい思いをする。川越行きを送る彦四郎が船に乗り合わせた宗匠風情の老人に見られたことが大きな事件のきっかけ。その後彦四郎は理由もわからず命を狙われ,政次と組んで探索をすることになるのだが,ここらへんがおもしろさの根っこかな?年が明けて結婚式も終わり,しほが帰ってきて,案の定彼女のかいた絵で事件は解決に向かった。ところで,魔女の隠れ家(たばさ6992さん)も書いていらっしゃるように,この巻で静谷理一郎と佐々木春菜の仲人をし,城代家老に抜擢されたとされる光村金太郎が,元江戸屋敷の留守居役というのはゼッタイにおかしい。1巻では「江戸藩邸留守居役来嶋正右衛門の用人」となっていて,そこから,留守居役→城代家老 はちょっとないでしょう!! といった感じ。おまけに悪役だったし(笑)各話の事件1 辻斬りを装った御家人の3男で男芸者の元福井藩留守居役への意趣ばらし。2 出開帳をでっち上げ,阿弥陀手形や聖画を売った偽坊主たち。3 小倉藩主側室の恋情から逃げるため紅屋の次女が神隠しにあったことに。4 囲われて幸せになりかけた女が自分を内藤新宿に売った男を殺す。5 餅つきの合間の泥棒。欲をかきすぎてお縄に。シリーズ前作の「御金座破り」についての日記は,→こちらからお読みください。時代・場所,登場人物をフリーページの佐伯泰英メモ(御金座破り/暴れ彦四郎)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。佐伯泰英の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (佐伯泰英)からごらんください。楽天ブックス暴れ彦四郎 佐伯泰英
2006/01/31
鎌倉河岸捕物控の3作目佐伯泰英の「御金座破り」は,タイトルにある通り,金座裏の親分の「本家本元」の御金座を狙うたくらみがこの巻全体を流れる大きな話になっている。しかし,関心の中心はどうしても,松坂屋から金座裏にトレードされた政次がうまくやっていけるかどうか?あとから入ってきた政次と亮吉の関係がどうなるのか?という点にとなってしまう。まあ,やむをえないだろう(笑)若くして大店松坂屋の手代になった政次が,後継者のいない金座裏の親分の手先になる。しかも,松坂屋の隠居松六が角樽を下げて介添えをするとあっては,どうみても金座裏の後継ぎ含み。ただ,幼なじみで手先としては先輩にあたる亮吉だけがそれに気づかない。内心に割り切れないものを感じながらそのまま日々を過ごし,そのうち大きな悪巧みに巻き込まれて……なんて展開も予想していたのだが,全然違った(笑)このシリーズに,暗い背景は似合わない!!ということで,すぱぁーっと,気持ちよく(読めばわかるが,かなり臭かったかもしれないが)決着がついた。金座裏を飛び出して2か月,最後には政次から命を助けられもし,これなら亮吉も気持ちよく手先を続けることができるだろう。詳しくは,本をお読みください。捕物帳のほうは,ハラハラどきどきすることもなく,決着がついていく。宗五郎も寺坂同心も強いうえに油断がない。そのうえ政次まで神谷道場で剣術の稽古を始めてしまった。強い敵役が出てこないかなあ!!!各話の事件1 屋台を禁じられた若いてんぷら屋が殺される。ご法度の遊び場を作ろうとしていた屋台店の元締めが髪結い新三の言葉からヒントを得たことがきっかけ。2 お店の経営指南塾の塾頭の妾の娘が行方不明。若い教授に手伝わせた本妻が殺害。この事件の最中に亮吉が飛び出す。3 紀伊家納戸役を始めとした一見試し切り。気の弱い相撲取りの犯行。4 細面柳腰の美人に誘われて金を奪われる事件に便乗し,宮大工頭領を嵌めようとした住職たちのたくらみ。5 加賀からきて偽の金を売り歩くたくらみ。シリーズ前作の「政治,奔る」についての日記は,→こちらからお読みください。時代・場所,登場人物をフリーページの佐伯泰英メモ(御金座破り)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。佐伯泰英の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (佐伯泰英)からごらんください。楽天ブックス御金座破り 佐伯泰英
2006/01/26
1冊だけ読んで下手な予想をするものではないなぁ,と思わされたのが,佐伯泰英の「政次,奔る」だった。というのも前回,鎌倉河岸捕物控の1作目「橘花の仇」(日記は→こちらから)で,「どうやら1巻1年のペースで話が進んでいくようだ」などと書いたが,2巻を終わったところで,寛政10年の春。1巻1季節にペースダウンしてしまった(笑)話は例によって,いくつかの事件と,その間全体を流れる大きな事件が並行して起こっていく。そのうちの1つの事件をきっかけに庄太という少年が豊島屋の小僧となり,これからの話に加わってきそうだ。また,松坂屋の隠居松六がかかわる大きな事件の中で,政次が宗五郎の後継ぎ含みで松坂屋から金座裏にトレードされる経緯も語られる。しかし,今後気になるのは仲よし3人組としほの関係。これまではしほが好意を寄せる政次が商家の手代ということで時間的にも距離的にも離れていてバランスが取れていたが,これから先どうなるのだろう?そのことも含め,亮吉と政次の人間関係にも微妙なすれ違いが出てきそうな気がする。まあ,続きを読めばわかるんだけれど……。2巻まで読んで感じたのは,各話で起こる事件がばらばらなこと。全体を流れる事件とも関係がなく,1巻の「火付泥棒」のように,親分が川越に行っている留守に手先たちだけで解決してしまうこともある。また,悪人側の頭が悪すぎ,もうちょっとなんとかすれば逃げられるのに!! と感じられる場面も多々。その点で,「重厚な時代小説」とはちょっと違うようだ。けれど,おもしろいからよしとしよう。各話の事件1 十軒店で上方からきた噺家が殺される。殺したのは女房を寝取られた兄貴分の噺家。2 亀井戸の名主の娘(養女)が実の父にかどわかされる。3 数奇屋町の茶問屋で主人家族と隠密廻同心が殺される。髪結い新三の聞き込みから盗賊一味と浪人が判明。4 直訴にきた駿河の役人と名主が庄太から訴状を掏られる。相手が公事宿を襲ってきたところをお縄。5 亮吉が母と住むむじな長屋で按摩が殺される。偽勾当が金を探しにきて捕まる。シリーズ前作の「橘花の仇」についての日記は,→こちらから,次作の「御金座破り」についての日記は,→こちらからお読みください。次の日記も読ませていただきました。ミステリの部屋(samiadoさん)時代・場所,登場人物をフリーページの佐伯泰英メモ(鎌倉河岸捕物控)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。佐伯泰英の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (佐伯泰英)からごらんください。楽天ブックス政次、奔る 佐伯泰英
2006/01/13
鎌倉河岸捕物控の1作目佐伯泰英の「橘花の仇」(2001)を読んだ。江戸城に一番近い岡っ引きとして知られる金座裏の宗五郎親分と手下たちが,鎌倉河岸あたりで起きた事件を解決していく6つの話から構成されるのだが,全体を通して,中心的登場人物のひとりである「しほ」の両親が川越藩から出奔した事情と,その原因となった悪家老(の息子)退治の話が流れていく。この巻の時代は寛政9年(1797)だが,どうやら1巻1年のペースで話が進んでいくようだ。中心となるのは,同じ長屋で育った呉服商の手代政次,宗五郎の手下亮吉,舟宿の船頭彦四郎の19歳トリオと16歳のしほで,この点から見ると,「捕物帳」というよりはミステリの部屋(samiadoさん)の言葉を借りると「青春物」という感じもする。ただ,彼らを活躍させたいためか,「おとり捜査」のパターンが「逢引き(2話)」,「神隠し(3話)」と続いてしまったのはちょっと残念。宗五郎親分が解決する事件も「謎」の要素がやや少ない気がした(まあ,ふつうの事件はそうであるのがほんとうだろうが)。とはいえ,2巻以降を続けて読ませるおもしろさはじゅうぶん(というか,実はもう読み始めている)。中心となる4人だけでなく,酒問屋の主人,舟宿の女将,宗五郎の手下たちなどなど,おもしろそうな(あるいはおもしろくなりそうな)キャラクターがそろっているので,今後どのような展開になるか楽しみである。読む順番は魔女の隠れ家(たばさ6992さん)を参考にさせていただく予定である。次の「政次,奔る」についての日記は,→こちらからお読みください。時代・場所,登場人物をフリーページの佐伯泰英メモ(鎌倉河岸捕物控)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。佐伯泰英の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (佐伯泰英)からごらんください。楽天ブックス橘花の仇 佐伯泰英
2006/01/10
鎌倉河岸捕物控の1作目佐伯泰英の「橘花の仇」(2001)を読んだ。江戸城に一番近い岡っ引きとして知られる金座裏の宗五郎親分と手下たちが,鎌倉河岸あたりで起きた事件を解決していく6つの話から構成されるのだが,全体を通して,中心的登場人物のひとりである「しほ」の両親が川越藩から出奔した事情と,その原因となった悪家老(の息子)退治の話が流れていく。この巻の時代は寛政9年(1797)だが,どうやら1巻1年のペースで話が進んでいくようだ。中心となるのは,同じ長屋で育った呉服商の手代政次,宗五郎の手下亮吉,舟宿の船頭彦四郎の19歳トリオと16歳のしほで,この点から見ると,「捕物帳」というよりはミステリの部屋(samiadoさん)の言葉を借りると「青春物」という感じもする。ただ,彼らを活躍させたいためか,「おとり捜査」のパターンが「逢引き(2話)」,「神隠し(3話)」と続いてしまったのはちょっと残念。宗五郎親分が解決する事件も「謎」の要素がやや少ない気がした(まあ,ふつうの事件はそうであるのがほんとうだろうが)。とはいえ,2巻以降を続けて読ませるおもしろさはじゅうぶん(というか,実はもう読み始めている)。中心となる4人だけでなく,酒問屋の主人,舟宿の女将,宗五郎の手下たちなどなど,おもしろそうな(あるいはおもしろくなりそうな)キャラクターがそろっているので,今後どのような展開になるか楽しみである。読む順番は魔女の隠れ家(たばさ6992さん)を参考にさせていただく予定である。次の「政次,奔る」についての日記は,→こちらからお読みください。時代・場所,登場人物をフリーページの佐伯泰英メモ(鎌倉河岸捕物控)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。佐伯泰英の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (佐伯泰英)からごらんください。楽天ブックス橘花の仇 佐伯泰英
2005/12/29
上記タイトルのホームページを見つけました。昨日畠中恵の「おまけのこ」の日記(→記事はこちら)を書き,同時にいくつかの日記にコメントしたのだが,はやくかえってねむりたい(しーたろう1072さん)へのコメントの返事に「しゃばけHPオープン」「鳴家てぬぐいプレゼント」と、楽しみな企画が目白押しです!とあった。「おおっ」と思い,調べたら,ありました!!しゃばけ倶楽部~バーチャル長崎屋~(ご挨拶がうるさいと思ったら,次回からはしゃばけ_目次)新潮社のホームページなので,いちおう「公式」と考えていいようだが,それにしては,というかそれだからというべきか,プレゼントに応募するためには本を買う必要があったりと「セコイ」。←スポンサーはしゃばけの「長崎屋」じゃねえ!!予告編があったり,本を買えるようになっていたりと妙に宣伝臭い部分もあり(ってそれが当然か!!),本人のページではないので畠中恵色は出ていないが,シリーズの装画・挿画をかいている柴田ゆうのイラストがたっぷりあるので楽しめます。ここまで書いて,文庫化にともない宣伝しているだろうからみんな知ってるのかなあなどとも思いましたがいちおうアップしておきます。畠中恵の作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (畠中恵)からごらんください。
2005/12/04
待望の畠中恵の「おまけのこ」を読んだ。それにしても,図書館にリクエストしてから手元に届くまで時間がかかったなあ!!なにしろ,08/25に魔女の隠れ家(たばさ6992さん)の記事を読んで図書館の予約検索をしたが,本そのものがひっかからず,「そのうちに…」と思っていたところ,09/07のお気楽雑記帳(duriduryさん)の記事を読んで,またまた気になってその時点で予約し,11月下旬に入手できた。若だんなシリーズの4作目(1~3作目の簡単な日記はこちら)。5つの短編で構成されているが,装画・挿画,内容ともあいかわらずよいですね。こわい関わると不幸になるといわれ,他の妖たちや仏までも厭うという狐者異(こわい)。仁吉や佐助や屏風のぞきたちにダメといわれても,「しばらく長崎屋で過ごしたらいい」といってしまう若だんなが何ともいえない。しかし,栄吉の腕はまだまだなんだね。ちなみに,狐者異は京極夏彦の「続巷説百物語」(日記は→こちら)の第2話のタイトルにもなっている。自分のフリーページのメモによると,「この世に未練たっぷりの死人。」となっていた。畳紙(たとうがみ)「塗り壁」の孫ともいわれるほど厚化粧のお雛が再登場。この話では,屏風のぞきが思わぬ一面を披露。最後は若だんなに知恵をつけてもらったみたいだけれど,大活躍。於りんは鳴家と追いかけっこで遊べる年齢なのだが,表紙絵の於りんは「(鳴家のお尻を覗くなんて,)何やっとんのじゃい!」(笑) 単に脱がしたいだけかしら,於りんの目と口がとてもカワイイ(笑,笑)動く影18歳の若だんな一太郎が5歳のときの話。この事件をきっかけに,栄吉と仲よくなり,この事件のあとに,祖父の伊三郎が仁吉と佐助を長崎屋につれてくる。このころから,影女と雲外鏡(照魔鏡)と栄吉をみつけるという,大人顔負けの推理力と突発的な行動力(終わったら寝込む)をみせていたのだな。ちなみに,雲外鏡は京極夏彦の「百器徒然袋(風)」(日記は→こちら)の第2話のタイトルにもなっている。また,「出たのではないか」と大人たちが騒いでいた飛縁魔は,狐者異と同じく「続巷説百物語」(日記は→こちら)の第3話のタイトルで,自分のフリーページのメモによると,「飛んでくる魔縁。人を惑わして障りをなす悪女。」となっていた。ありんすこく若だんなが旦那の藤兵衛を助け,吉原の禿を足抜けさせようとする。猫又のおしろも登場するが,最後は兄や2人が「力技」を発揮。さすが!!おまけのこ決して「おまけ」ではないよ! という意味の表題。本のタイトルにもなっているし,表紙絵にも大きく扱われているし,なにしろ鳴家がかわいい!!泣いている声で自分の家の鳴家だとわかる若だんながすごいが,大妖皮衣の孫だからというより「やさしさ」からなのだろう。出番が少ない兄の松之助(好きなキャラ)が,ここでは11個の大真珠をつけた櫛がどうしても派手になることを教えて活躍。というか,若だんなも2人の手代も世間並みの常識が……!?どれもよかった5つの中で,これがいちばん好き。仁吉の本体である白沢については,白沢(「百鬼解読」から)で記事にしていますのでごらんください(犬神のイラストへのリンクもあります)。時代,場所,登場人物などをフリーページの畠中恵メモ(若だんなシリーズ)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。畠中恵の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (畠中恵)からごらんください。━Your Click Cheers Me Lot━━━━ このブログのRSSのURL → RSS ━━━━━━━━━━━━━━━━楽天ブックスおまけのこ 畠中恵記事関連のオススメ日記yutukiの世界(潮崎柚月さん) mogo☆mogo☆子っこ(ヒロツ0522さん)かえる通信(Pecky みどりさん) はやくかえってねむりたい(しーたろう1072さん)のらり。(青07さん) +RAINY+(あずま384さん)気まぐれノート(流水Aさん) はざくらの気ままな暮らし(はざくら2005さん)遊ぼう!食べよう!楽しもう!(だやん♪さん) 九郎判官義経を追え(ちゃめ8899さん)毎日が読書日和(くりむーぶ389さん) 日々のあぶく(kiyu25さん)食べたり読んだり笑ったり(とおり・ゆうさん) いがぐりの読んだ本。(いがぐり602さん)ちょっといっぷく(ハレバレさん) いろんなことを忘れないために(dai583さん)ミステリの部屋(samiadoさん) カラスの我楽多(瀧飛 烏さん)猛読醉書(かつきねえさん)
2005/12/03
「非道,行ずべからず」に続き,またまた,fukusukeloverの日記(fukusukeloverさん)をきっかけに,松井今朝子の「家,家にあらず」を読んだ。今回は,大名家の奥御殿をおもな舞台としている。時代設定は,「非道,行ずべからず(日記は→こちらから)」の20年程前か? というのも,「非道」で還暦を過ぎていた3代目荻野沢之丞がまだ自分の跡を継がせる子どもに恵まれず,襲名してから数か月後の話だからだ。瑞江は北町奉行所の同心の娘でありながら,母の死後「おば様」のすすめにより,志摩の大名砥部和泉守の上屋敷に御殿勤めをすることになる。「おば様」は奥で最大の権力をもつ御年寄なのだが,瑞江は「うめ」と名づけられたうえで,三之間勤め(下働きではないが低い席次)に。同じ頃,人気役者の心中死体が見つかり,相手が砥部家下屋敷の御殿女中だったこともあり,瑞江の父笹岡伊織は,表面上「相対死に」で決着がついたこの事件を追い,荻野沢之丞も巻き込んでいく。おもしろそうでしょ。あとは,本を読んでね(笑)おもしろかったのだけれど,不満が残った。いちばんの不満は本の構成。これは,ゼッタイに許したくない!!!!!感覚が古いといわれたらそれまでだけれど,人物紹介とか図とかは巻頭に出すのがふつうでしょ!巻頭にあるからといって,すぐに見るわけではない。それを,いつ見るかは,こちらの楽しみ。ところが,この本では本文が終わったあとに「主な登場人物」と「長局図」が置かれていた。つい昨日も「家の略図がほしかったなあ」と書いたように,また,ずっと以前に登場人物紹介を話題にしたように,この2つは大好きなのですよ。この2つを本文読了後に見つけたショック!!著者が「文章だけでわかってほしいから図はいらない」といった可能性はある。もしそうならそれでいい!! ただし,それなら全くのせないでくれよ!!閑話(ではないが)休題兼質問。「非道,行ずべからず」に登場する先輩格の同心の名前が知りたいなあ。年齢的には瑞江の弟の平左衛門が笹岡伊織を名のってたりするとちょうどいいような気もするのだが,前作を書庫(要するに図書館)に戻してしまったため,確認ができないでいる。次の日記も読ませていただきました。のんたの日々綴れ織(nove113さん) Gotaku*Log(眠り猫さん)松井今朝子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (松井今朝子)からごらんください。楽天ブックス家、家にあらず松井今朝子
2005/11/26
落語がらみの小説(現代ミステリ)については何冊か書いてきたが,松井今朝子の「非道,行ずべからず」は,江戸時代の歌舞伎の世界を扱った小説である。海からの贈り物(fukusukeloverさん)の日記を見て,読んでみようと思ったのだが,歌舞伎の世界を堪能できるという意味で,おもしろかった。文化6年(1809)元旦の夜の火事から話が始まる。ということは,文化の中心が上方から江戸(将軍は家斎)に移る頃か? 座頭(立役の筆頭)に上方の人気役者3代目中村歌右衛門を招いているところに,そんな事情が垣間見られる。この火事の焼け跡から,身元不明の首をしめられた老人の死体が見つかる。裏に出入りしていた小間物屋であることが,売れない女形の口から判明するが,奉行所の同心が調べを進めてもその正体はわからない。小間物屋はなぜ,そこで殺されていたのか?また,還暦をすぎても立女形を続け「亀の太夫」と陰口をきかれていた3代目荻野沢之丞が,座の改築を機にその名跡を譲るといい出す。長男,次男のどちらに譲るのか?これらを中心に話が進んでいくのだが,座の太夫元と役者のあるいは役者と役者の間に立つ狂言作者の苦労,初日が始まる前の稽古の様子,無理な仕掛けを文句をいいながらも何とかこなしていく大道具の意気込みなどを楽しく読むことができた。表の芝居者(呼び込みや桟敷番など)の飲む店,役者の世話をする人たちが飲む店,女形たちの飲む店(芳町の陰間茶屋),旦那方の行く店(楽屋新道の料理茶屋)がそれぞれ厳然と区別されているらしい点も興味深かった。ただ,ミステリ仕立てにはなっているのだが,ミステリ好きにお勧めかというと,ちょっと苦しい。ミステリを途中で中断する,あるいは次作からは読まないようになってしまう自分なりの判断基準として,「この人物が犯人ならやめる」というのがある(これは,「途中で犯人がわかる」などとはまったく別)のだが,今回の作品がそれにあたった。ただ,「四君子」とは誰か? という謎解きがあり,若い同心が「下手人をあらかじめ思い定めた上で,解かれたに相違ありますまい」と先輩にいうように,謎解きから下手人にいたるようにはなっていないにせよ,なかなかおもしろかった。松井今朝子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (松井今朝子)からごらんください。楽天ブックス非道、行ずべからず 松井今朝子
2005/09/27
「関八州」というと,以前テレビドラマにもなったし,馬を乗り回し,悪いやつらをバサバサと,とかなり「かっこいい」イメージだった。いや,今のイメージもあいかわらず同じか!?火盗改めにしても,実体は別として「鬼平」がらみで「かっこよく」なってしまうのだから,それはそれでよいのだが……。佐藤雅美の「花輪茂十郎の特技」は,八州廻り桑山十兵衛シリーズの5作目にあたるが,それによると,「関八州」の身分は異様に低いようだ。もちろん,それだからといってこの本の主人公の「かっこよさ」,「強さ」が損なわれるわけではないが……。「関八州」は,江戸時代のおおらかさが許した不思議な役職だったようだ(以下実際の歴史ではなく小説ネタですので間違えないように)。通称「八州廻り」,職名「関東取締出役」の正式な地位は「代官手付・手代」である。要するに,関東に4人いる代官(幕府直轄地の長官)の配下。しかも手付は御家人,手代は百姓のことで,当時の武士にとって,百姓と同列にされるある意味で「屈辱的」地位。しかし,羽振りはいい。1年に百両近く正式にもらえて,それ以外にも,同じくらいはふところに入ってくるらしいのだから。御庭番が「庭掃除」だけをするわけではないのと同じように,この特別な「代官手付たち」には,特殊な任務がある。それは,犯罪人を江戸まで送ることだ(ただそれだけで,裁判権もないのに羽振りがいいのは,「関係者」として江戸に呼ばれたくない村の人々がせっせと袖の下を使うから)。勘定奉行の中でも代官の支配下だから本来「勘定方」に属するはずだが,「公事方」に出向の形をとる。人選も代官の配下からではなく,「腕または頭に覚えのある」御家人から新しく選ばれた(8人後に10人)。しかも,この時点では町奉行所の与力・同心と違い「世襲」などという意識はない(創設時<当面2年の予定が30年近くになっている>からの古参がいるという時代設定から当然なのだけれど……)。身分の保証もなく,いつやめてもいいと思うから,けっこうやり放題。いやあ,「だからどうしたっ」ていわれると少し困るけれども,主人公があっさり人を捕まえたり,殺したり,啖呵を切ったりするさまも,敵役が大物(?)に近づき,画策して自滅していくさまもけっこうおもしろかったのですよ。これ以上は(できればシリーズの最初から)本を読んでくださいね。時代・場所,登場人物をフリーページの佐藤雅美メモ(花輪茂十郎の特技)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。佐藤雅美の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (佐藤雅美)からごらんください。楽天ブックス花輪茂十郎の特技 佐藤雅美
2005/05/27
今日,「読書・コミック」ジャンルのテーマ一覧に「時代小説ダイスキ」が載りました。うれしい!!!3月末に,「問答無用」の昇竜子さんと「時代小説のテーマがないねえ」「つくりましょうか?」などと話をし,4月初め(実は3日です)に「イマドキの和暮らし」の猫並の和暮らしさんが「時代小説ダイスキ」というテーマをすでに作っていることを偶然に知り,「乗らせていただきます」ということになった。新着テーマや日記の記事からテーマを知った方々の投稿もあり,合計136件となったところで「一覧」に載った。楽天のシステムに「テーマ検索」がないので,「一覧」に載らない限り(新着テーマは別として),どんなテーマがあるかわからないのですよ!!ということで,「時代小説」の記事を見つけたら,その方たちに声をかけるなど失礼なこともしてしまいました。まあ,声をかけるのは自由,あとは先方の判断次第ということで,ここではお詫びもお礼もいわないのが筋ですが,ほんとうに失礼しましたとありがとうございました。とりあえず,けっこうすなおに喜んでいます。「明日(投稿と日付を1日ずらしました)はこのテーマで記事を書こうっ」。ここまで読んだら, カチッと クリックお願いします別のウィンドウ(orタブ)でランキングサイトが開きます。
2005/05/26
宇江佐真理の「君を乗せる舟」を読んだ。けっこう好きなシリーズ「髪結い伊三次捕物余話」の5作目。で,「ゲゲッ」ひょっとして途中が飛んでいるかもしれない??ということはともかく,今回は「若返り」に深く心を動かされた。「八丁堀純情派(作品タイトルではなく6人組のほう)」がいい。彼らの今後の活躍に期待。同時にやっと「髪結い修行」ができるようになり,「小者」志願までしてしまう九兵衛もいい。彼らの今後の活躍に期待しよう。「何でも彼でも訳のわからねェもののせいにするのはいい加減にしなせェ」と越前屋に啖呵を切った伊三次が次々と「不思議」に巻き込まれていくのもよかった。江戸時代だし,深川だし……時代・場所,登場人物をフリーページの宇江佐真理メモ(髪結い伊三次捕物余話シリーズ)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。宇江佐真理の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (宇江佐真理)からごらんください。楽天ブックス君を乗せる舟 宇江佐真理
2005/05/23
坂の下にある自身番を出た平四郎と杢太郎。「杢太郎,このへんに甘いもの屋はないか」と,平四郎は訊いた。「へ?」「甘い菓子を作って売っておって,ついでに店先で茶など飲めたらもっといい。ないか」 あっちの角に○○○○がありますけれど……と,杢太郎は訝りながら指をさす。その方角に,平四郎はとっとと歩き出した。(○以外原文引用)○○○○には「アマンド」を入れたくなる(原文は饅頭屋)。そうすると,看板の絵は饅頭ではなくて「ナポレオンパイ」,お茶のかわりにコーヒーか!?以上で,宮部みゆきの「日暮らし(下)」の舞台である六本木芋洗坂のロケーションはおわかりいただけるだろうか(もちろん当時はかなり田舎)?上巻の最後に起きた殺人事件が片付き,上巻でもやもやしていたものがはっきりとする。って「下巻」ならあたりまえか。そして,下巻ともなると筋立てた感想を書けば即ネタバラシになりそうなので,ここでは,雑感の羅列といこう。「ぼんくら」についての記事はこちらです。「日暮らし(上)」についての記事はこちらです。いちばん驚いたのが料理人彦一の年齢。30ちょうどか。もっと年寄りだと思っていたのでびっくり。上巻で読みそこなったみたいだ。定町廻りの佐伯錠之助もおもしろいキャラだった。「安」一文字の手紙に,平四郎は「安心?」か「安い?」かといって笑うが,こちらも笑えた。お徳の商売も,おさん,おもんもうまくいきそうだし,後ろ盾の葵を失ったお六もおさまりそうだし,総右衛門の長男が意外としっかりした面を見せたし,佐々木先生はやや大人になったみたいだし……まあ,よかったよかった。弓太郎の「測量ぐせ」だけはやめてほしくなかったが。そして,最後を締めたのが幻術一座の正体。ぎっくり腰になってまで,2年間,がらにもなくがんばった「ぼんくら」同心平四郎に対する思いもかけないご褒美だよね,これは。次の日記も読ませていただきました。日々のあぶく(kiyu25さん)時代,場所,登場人物などをフリーページの宮部みゆきメモ(ぼんくら・ひぐらし)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。宮部みゆきの他作品はについての日記は,フリーページ 読了本(日本) (宮部みゆき)からごらんください。楽天ブックス日暮らし(下) 宮部みゆき
2005/05/12
読み返しになるが,宮部みゆきの「ぼんくら」を読み終わった。読み返しだったのと「日暮らし(上)」を読んだあとなので,いまさら全体についての感想を書く気にもなれず,今回は弓之助,おでこの2人の天才について。登場人物や場所については,フリーページの宮部みゆきメモのぼんくら・ひぐらしにまとめてありますので,ごらんください。弓之助は容姿だけでなく頭の構造も常人離れしている子どもとして設定されている。何でもすぐに測量するくせがあるという場面から登場するのがいかにも「頭よさそう」という感じ。そこらへんは森博嗣のキャラクター萠絵や四季博士(犀川先生も多分)は「計算」がくせだったし,シャーロット・マクラウドのシャンディ教授も「数えること」がくせであることに似ている。で,そのままだと,どうにも鼻持ちならない「マセガキ」ということになるのを,「おねしょ」と「顔のあざ」と「なきむし」が完全に救っている。やっぱり,人のかき方がうまいなあ。一方,おでこ(三太)は常人にはない記憶力を持つ少年。彼の場合,途中で話をはさむとわけがわからなくなったり,長くなると疲労するあたりが弱点だが,やや「機械」の趣きが強かった。そこらへんは,「日暮らし」の最初でしっかりフォローしている。そのフォローがなくても,「黒目」の動きがなんともかわいいから許してしまうのだけれど……。最後になるが,「ぼんくら」と「日暮らし(上)」を比べ,前者のほうが「濃い」気がしたのは気のせいだろうか……。「日暮らし(上)」についての記事はこちらです。時代,場所,登場人物などをフリーページの宮部みゆきメモ(ぼんくら・ひぐらし)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。宮部みゆきの他作品はについての日記は,フリーページ 読了本(日本) (宮部みゆき)からごらんください。楽天ブックス ぼんくら(上) ぼんくら(下)宮部みゆき次の日記も読ませていただきました。BLUE&RED FLOWER HOUSE(セロリ1997さん) Daily Life with my son(のんたーさん) ちょっといっぷく(ハレバレさん) 赤いライオンを探して(村雨十郎太さん)ながら日記(danke3さん) ヨカッタ探し(anna2号さん)背表紙ふぇちの独白(ayafkさん)
2005/05/10
この話,宮部みゆきの「日暮らし(上)」は,同じ著者の「ぼんくら」の続きである。読んでいなくても,前作をほとんど忘れていても(って自分のことだ!),それなりにおもしろい。さすがに宮部みゆきといったところか!?しかし,やはり,「ぼんくら」から読んだほうが楽しめるだろう。話は,「ぼんくら」の1年後。北町の臨時廻り同心井筒平四郎が中心にはいるが,語られるのはそのまわりの人々の生活模様である。「おまんま」は,13歳の通称おでこが物を食べなくなってしまう話。冷たくはなく,かといって熱すぎないまわりの気のつかい方が好ましい。扇子に似顔絵を書くことで人気の絵師殺害をきっかけに,二代目の強盗団が捕らえられるという挿話がついて,おでこの記憶書庫の面目躍如といったところ。「嫌いの虫」は,鉄瓶長屋のつなぎの差配から植木職に戻った佐吉の悩みと結婚して半年のお恵の心配。佐吉は湊屋のおふじから母が死んでいることを知らされていた。のちに,主人の総右衛門から別の話を聞かされることになり,事態は急展開していくのだが,同心平四郎は「本当のことってのは,どの本当のことだ」と久兵衛を通じて総右衛門に憤りの言葉を投げかけることになる。この時点で「佐吉」がキーパーソンであることにちっとも気づいて(思い出して)いなかった自分を笑う。でも読んだのが5年前だからしかたないか……。「子盗り鬼」では,六本木の屋敷での葵の様子と,お六が葵の家に落ち着くまでが語られ,ここまできてやっと,「そういえば……」と前作のことがいろいろと頭に浮かんできた次第。お六とその子どもたちを守ろうとする葵と,その裏にある葵本人の隠された姿と,ここらへんの表に出ない構図には,ぞっとさせられる。「なけなし三昧」では,煮売屋お徳の長屋に競争相手のおみねが現れる。そういえば,お徳は鉄瓶長屋から移ってきたのだった。そして,そのあっけらかんとしたたくましい生き方は,金持ちの商人総右衛門とそのまわりの,うそをうそで固めたような生き方との明らかな対比をなす。鉄瓶長屋の一件以来,平四郎は総右衛門周辺のことに関心を失ってしまうが,お徳の煮売屋にはしょっちゅう顔を出す。その気持ち,わかるなあ。「日暮らし」では,お徳がおみねの店の引き継いで仕出し屋を始めそうな勢いである。新登場の料理人彦一も好ましい。最後に事態が急展開。佐吉が葵殺しの疑いで捕まり,湊屋の手配で家に返され,平四郎の所に事情を話しにくる。ここで終わってしまった。しかも,リクエストしている図書館の「日暮らし(下)」がいつ届くかわからない。続きが読みたい!! その前に,「ぼんくら」をもう一度読んでみようかな。「ぼんくら」についての記事は→こちらです。「日暮らし(下)」についての記事は→こちらです。時代,場所,登場人物などをフリーページの宮部みゆきメモ(ぼんくら・ひぐらし)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。宮部みゆきの他作品はについての日記は,フリーページ 読了本(日本) (宮部みゆき)からごらんください。楽天ブックス日暮らし (上) 宮部みゆき次の日記も読ませていただきました。ゆるゆるな日常(かなくさん) 文章で飯を食う・しあわせ応援団(tuitelさん)ヨカッタ探し(anna2号さん) 赤いライオンを探して(村雨十郎太さん)日々のあぶく(kiyu25さん) いろんなことを忘れないために(dai583さん)がちゃのダンジョン 映画&本(gacha-danjhonさん)
2005/05/04
中国で生まれた陰陽五行の秘術が日本に入って仏教から離れた陰陽道となり,安倍晴明という大陰陽師が生まれるまでの隠された伝承を集めた(という)話が荒俣宏の「夢々- 陰陽師鬼談-」である。夢枕獏版(cascadeさん,AISHANGHAIさん,ayafkさんたちがコメントしていらっしゃいます)とはかなり違った味の安倍晴明を楽しむことができる。前書きを除き,全12話。以下は各話の独断的まとめ。1 夜叉と呼ばれる韓国(からくに)の鬼神を日本に招来したのは聖徳太子であり,彼の子孫25人が蘇我に殺されたのは,自分が天寿国に行くのと引き換えにした太子の意志からだった。2 吉備真備は唐から牛頭天王の信仰と阿倍仲麻呂に託された陰陽の秘書をやまとに持ち帰った。阿部仲麻呂の子は満月丸と名づけられ,母である竜王の娘によってやまとに届けられた。3 勢多の竜神の頼みでマゴラガ(百足)を倒した藤原秀郷は,俵藤太と呼ばれ,平将門を討った。4 阿部満月丸の子孫である童子丸が住吉の江で亀に姿を変えた竜宮の姫を助け,息長姫として妻に迎えた。5 安倍晴明と名前を変えた童子丸は京に上り,吉備真備の子孫で陰陽寮の博士である賀茂保憲から陰陽の秘書を返してもらう。陰陽寮の博士の座をかけた方術競べでは,式神を使って芦屋道満破る(だましうち)。6 夜叉の子孫で徳の低いキンナラという鬼が,人になりたいと思うがあと一歩でなりそこなう話。左大臣源高明に頼まれた安倍晴明が最初に封じ込めた。7 夫に捨てられ乾闥婆(けんだつば)となった鬼が安倍晴明の守る夫の命をまさに吸い殺そうとするとき,その夫が腐っていく天女に魅こまれたのだとわかる。8 安倍晴明が奥方の頼みで式神を戻橋に封じ込める。源頼光の四天王の1人渡辺綱が茨木と名のり,自分の母だという鬼女の腕を切り取る。9 安倍晴明のすすめにより斎(ものいみ)をしていた渡辺綱のもとに茨木が現れるが,綱は切らずに腕を取り返される。10 源頼光は,父の命で丑御前と呼ばれる兄(実の父は牛頭大王)を安倍晴明の助けを受けて討とうとするが,橋姫(晴明に封じられた式神の1人)の裏切りでとり逃がす。11 丑御前は東国に落ち,平将門を護り神として反乱をおこす。橋姫をてなづけようとした安倍晴明は芦屋宗源のはかりごとにかかり,橋姫を抱き,妻の息長姫は荒くれ行者に抱かれる。12 舞台は関東。丑御前には茨木童子も味方につき,将門の怨霊たちも立ち上がる。負けて退いた源頼光の軍は,4天王の1人坂田金時が招いた安倍晴明のすすめで,吉備真備が招来した牛頭天王用の護符をつけて戦う。茨木は渡辺綱が倒し,丑御前は隅田川の水中に没する。著者の荒俣宏はテレビなどの露出度も高いのですが,興味ある方はファンサイト アラマタゲノム も覗いてみてください。次の日記も読ませていただきました。ながら日記(danke3さん)楽天ブックス夢々 荒俣宏
2005/04/12
大野靖子の「松島市兵衛風流帖」の「八丈綺譚」について。小名浜から1人で江戸にきた少年野々宮数馬を鉄砲州の旅籠まで案内する市兵衛は,途中で八丈島から出てきた娘お京を救う。数馬は,代官手付元締として不正を行い遠島になる父の付き添いで島に渡ることになっていた。一方お京は赦免で江戸に戻ったまま連絡のない父と,その父を探しに江戸に出たまま消息を絶った姉を探しにきていた。お京をねらうならず者を追い,姉の着ていたと思われる丹後紬の着物の行方を追ううちに,数馬とお京の運命がある人物の悪事によって結び付けられていることがわかってくる。4話目ともなると内容紹介はここまでという感じ。その4は→こちらから,その1は→こちらからお読みください。時代,場所,登場人物などをフリーページの大野靖子メモ(松島市兵衛風流帖)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。大野靖子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (大野靖子)からごらんください。楽天ブックス松島市兵衛風流帖 大野靖子
2005/04/09
大野靖子の「松島市兵衛風流帖」の「父と子」について。ある日,松島市兵衛の前に平吉という老人が現れ,「用心しろ」という。平吉はもと深川の目明しで,仙造と虎次が島から帰ってきたことを伝える。同じ頃,息子の市蔵はすりから足を洗い手品つかいになった娘から,兄弟同然に育った友三郎が会いたがっていることを伝えられる。友三郎に会おうと船に乗った市蔵の目の前で,友三郎は切られ橋から落ちる。かつて,母の形見だと渡されたものを手本に友三郎が簪を作り,それを娘がさしていたことが原因らしい。簪は弥之助という腕のいい職人が作ったものだが,彼はその昔,市兵衛と兄弟同然に育てられた人でもあった。しかも,島帰りの2人は,弥之助を殺したことで,罪を得て……。ということで,今回も紹介になってしまいました。続きは本を読んでください。その3は→こちらから,その5は→こちらからお読みください。時代,場所,登場人物などをフリーページの大野靖子メモ(松島市兵衛風流帖)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。大野靖子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (大野靖子)からごらんください。楽天ブックス松島市兵衛風流帖 大野靖子
2005/04/05
大野靖子の「松島市兵衛風流帖」の「勇魚と呼ばれた男」について。隣りの船宿の娘お千代が巳之吉のために用意した弁当を,右足が義足の大男が盗む。彼は銚子の船頭「勇魚の源太」で,江戸まで荷を運んできた押送り舟を博打の借金20両のかたに取られたという。巳之吉が再び源太にあったとき,彼は押送り舟で,隅田川の猪牙舟に10両を賭けたはや漕ぎ競争を挑んでいた。競争はついに,巳之吉が大川の船頭を代表し,お艶の船宿「たつみ」をかけた勝負に。舟には,客として市兵衛が乗ることになった。源太の船に乗るのは,薄気味の悪い浪人。のちに,元首切りを請け負っていた浪人であったことがわかる。競争の賭けは,江戸の旦那衆を巻き込み,隠れ賭博の胴元は賭け証文を出して千両,二千両の規模に……。銚子からは源太の親方の娘お咲が源太を迎えにきて,浪人と源太の意外な関係も明らかになる。また,この話で,市兵衛の「しょうことなしの我流」剣法も披露されるのだが,あとは読んでくださいね。その2は→こちらから,その4は→こちらからお読みください。時代,場所,登場人物などをフリーページの大野靖子メモ(松島市兵衛風流帖)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。大野靖子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (大野靖子)からごらんください。楽天ブックス松島市兵衛風流帖 大野靖子
2005/04/04
大野靖子の「松島市兵衛風流帖」の第1話「多喜の笛」について。小網町の船宿「たつみ」に松島市兵衛が顔を出した。市兵衛の友河内屋重右衛門が死んで1年,町廻り同心の職を息子の市蔵に譲って年よりも若く「隠居」してから2年たったある日のことである。船頭巳之吉の舟で重右衛門の墓がある正覚寺まで行き,そこから重右衛門が隠居した市兵衛のために用意した小梅の家に行く。重右衛門が死んだ経緯,市兵衛が奉行所を辞めた理由はその間に語られる。小梅の家では,市兵衛が思っていた年寄り夫婦ではなく,若い女多喜が待っていた。「たつみ」の女将お艶,船頭巳之吉,息子の市蔵(彼らは皆,小さいとき市兵衛に拾われ育てられた孤児だった)の心配をよそに,市兵衛は小梅の家で日々を過ごす。市蔵が小梅の家に顔を出したのは,柳島妙見堂の近くで,旗本の次男2人が殺されていたためだ。この2人は重右衛門の死,市兵衛の隠居に関係深い人物で,この殺しに父親が関係していないことを確認するためだった。これ以上は書かないことにしますが,おもしろかったですよ。その1は→こちらから,その3は→こちらからお読みください。時代,場所,登場人物などをフリーページの大野靖子メモ(松島市兵衛風流帖)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。大野靖子の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (大野靖子)からごらんください。楽天ブックス松島市兵衛風流帖 大野靖子
2005/04/03
時代小説についての記事も書いているが,「読書・コミック」のジャンルで,「時代小説」のテーマが見つからない。しかたがないので,何人かに声をかけ,「時代小説」というテーマを新たに作ろうかなどと考えていた。ところが,最近できるようになった「楽天広場・ブログサーチ」を使い,時代小説の記事を探していたところ,ありました。テーマ名: 時代小説がダイスキ(クリックで,このテーマの一覧に行くことができます)コメント:時代小説が好きなんですさっそく,このテーマに乗っからせてもらい,これまで時代小説について書いてきたものをこのテーマに変更して再登録することに。また,これから時代小説についてこれから書く記事では,このテーマを選択することにした。これを読んでいる人で,時代小説の記事を書く,または書いた方々にお願い。上記のテーマを積極的に選択して,「読書・コミック」のテーマ一覧に表示されるようにしてください。1人が10個の記事をこのテーマにして,そんな人が12人いると,表示されるようになるのですが……
2005/04/03
ペローソフさん御得意のあああわわわみたいなのをやってみたいのだ。今回はそんな感じ(でも,忘れてたから次回,というか簡単に書体の色や大きさを変える方法を伝授してほしい)。しかも,この本は全体が4話構成なので,それぞれにつにては改めて語るという自分自身の周到さ!!??びっくりしましたが,この著者に関しては楽天を検索しても記述なし。ほかのブログでもほとんど同様。でも,すごい。経歴を見れば,知っている人は知っているように,時代劇の有名な脚本家で,受勲までされている。それでも,インチキだ!! という感じがする。書いていて,表に出ているものが少なすぎる。もっと書いて。続きをお願い。読んで,「すごい」と思った。「きれてる」し「うざくない」。やや先走りになるが,市兵衛の刀使いは秋山の隠居かつ若妻めとりさんの刀使いに通じるところがある。←大次郎ではない!!その2は→こちらからお読みください。楽天ブックス松島市兵衛風流帖 大野靖子
2005/04/02
幕末,それもペリーが10年前に黒船で現れたとなると,明治維新まで残り5年もない。畠中恵の「ゆめつげ」は,そんな時代の若くて,ちょっと頼りない神官を主人公にした話だ。上野の端にある貧乏な清鏡神社の宮司の長男川辺弓月には「夢告(むこく,ゆめつげ)」つまり,夢占いの能力<他人の夢を占うのではなく,知りたいことを念じつつ鏡の中に自分が夢を見てそこに現れたことから占う>がある。とはいえ,なじみのおきえ婆の「その占いが役に立つかというと,一寸別の話になるんでねぇ」という言葉からわかるように,きわめて非実用的,「壺」にはまらない占いなのだ。そこに,白加巳神社の権宮司である佐伯彰彦という神官が訪れ,弓月に「ゆめつげ」の依頼をすることから,弓月と(その世話役と自他ともに認める)弟信行の「受難」が始まるのだ。佐伯彰彦は由緒正しき家の出の神官で,神社の規模も全く違う。これは,表紙の表と裏の挿絵によってもよくわかるようになっている。依頼内容はというと,5年前の安政の大火で行方不明になった札差青戸屋の息子新太郎が,3人名乗り出た。その中からほんとうの新太郎をゆめつげで決めてほしいとのこと。神社の雨漏りを修繕したいなどの色気もあって,兄弟2人で白加巳神社まで行くが,途中で辻斬りに出会ったりと前途多難。しかも,3人の子供のうち,2人の親が殺されてしまう。こわもての岡引,友造親分がでてきてビビッたり,その親分を助けたり,この親分が「丑の刻参り」をしている姿も,けっこう笑える。幕末の浪士たちの思惑,名門神官佐伯彰彦の思惑といろいろ絡んで話は進んでいく。多少不満はあるが,けっこうおもしろいので,詳しい内容は本でお読みください。次の日記も読ませていただきました。本が好き? 好き! だ~い好き!(mitsumame0182さん) 日々のあぶく(kiyu25さん)遊ぼう!食べよう!楽しもう!(だやん♪さん) PRIVATE LIBRARY(PV館長さん)いろんなことを忘れないために(dai583さん)畠中恵の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (畠中恵)からごらんください。楽天ブックスゆめつげ 畠中恵
2005/03/31
米村圭吾の「退屈姫君海を渡る」を読んだ。時は明和(江戸時代),田沼意次がまだ御側衆筆頭の頃。小大名の下に輿入れして7か月の大大名のお姫様が,いまだに「姫」と呼ばれ,閑居して不善ならぬ冒険をなすお話し。今回は大名の奥方のくせに,何と四国まで行ってしまう。「暗い」ところがなく,すらすら読めるのがうれしい。「退屈姫君伝」,「風流冷飯伝」の続きになるのだが,これから読んでも特にこまらない。この話というかシリーズは時間的にちっとも進まない。ということは,まだまだ続きがありそう(ちなみに田沼意次が若年寄→老中と出世して失脚するまであと20年ほどあるし)。ということで,時,登場人物をフリーページの米村圭吾メモ(退屈姫君海を渡る)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。米村圭吾の他作品はについての日記は,フリーページ 読了本(日本) (米村圭吾)からごらんください。楽天ブックス退屈姫君海を渡る 米村圭吾
2005/03/04
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