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2007/06/03
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カテゴリ: 京極夏彦
「嗤う伊右衛門」(日記は →こちらから )の中公文庫版解説にあった,

高田衛編・訳の「四谷雑談集」(1992)

(「日本怪談集 江戸編」(河出文庫)に収録)を読んだ。

内容をごく簡単にまとめると,

疱瘡にかかって醜悪な容姿となり性質も悪い田宮岩が御先手組同心であった父又左衛門の死後,小股潜りの又市の口利きに騙された摂州浪人伊右衛門を婿にする。

自分の子を孕んだ花(梅は伊東のもう一人の妾として名前だけ出てくる)を他人に縁付けたい与力伊東喜兵衛と花に気がある伊右衛門が組んで岩を騙し,岩は田宮家を出て紙屋又兵衛を請け人にして旗本屋敷に奉公する。

同心秋山長兵衛が仲人となって,伊右衛門とお花が婚姻。煙草の行商から事情を聞いたお岩は,3人を呪い旗本屋敷で暴れて姿を消す。

お岩の祟りで,田宮,伊東,秋山3家が断絶する。

以上

「雑談集」では,「岩の祟りで……」の部分にいろいろな話があり,最後に秋山家が断絶するまで30年かかるのだが,その間生身(幽霊の形も含めて)の岩が登場することはない。

伊右衛門と花の婚姻の夜に蛇の姿で現れ,15年後,4人の子どもを持つ伊右衛門の前に「白い物」と声で現れて末娘が死ぬきっかけを作り,その秋,お花のもとに通う「男」の姿で現れ,3年後に死んだ末娘の姿を見た長男が死ぬことになり……山伏を使って霊媒の少女にお岩の霊を呼び伊右衛門と対話する場面もあるのだが,結局,お岩の「お化け」は出てこない。

伊東家の場合,養子にした二代目喜兵衛の不始末でお家断絶となるのだが,それがお岩の「祟り」とされ,秋山家では,息子が女乞食を見てお岩に似ていると考えたことから,息子も長兵衛も死んでいく。

「お化け」を出したのは鶴屋南北のすぐれた想像力であり,あえて「お化け」を消したのは京極夏彦のすぐれた創造力だといえるだろう。

登場人物については「その3」でまとめるが,
佐藤余茂七,直助,袖,宅悦,小平・孫平,利倉屋茂介,堰口官蔵,西田尾扇などは「雑」には出てこない。
これらは,「忠臣蔵」との関連などのために鶴屋南北が作ったキャラクターであり,それをまた「嗤」で京極夏彦が別のキャラクターに作り変えている。

「雑」ではお岩の性格が悪く,伊右衛門の後妻となったお花の性格(容姿も)がよい点が印象に残った。

その他,「嗤う伊右衛門」との共通点,相違点がいろいろあっておもしろく,それほど長くもないし,現代語だし,興味のある人には一度読んでみることがオススメです。


PS
全体として最も印象に残ったのは,「家」とのかかわりでの「婚姻」や「養子」に対する考え方。

因縁話としての「雑談集」の主眼は,岩の怨念によって田宮家,伊東家,秋山家が絶えることにあるのだが,「家を守ること」と「血筋を守ること」は直接的にはつながっていない点が興味深かった。

与力の伊東喜兵衛は妾は持つが妻は持たず,持参金つきの養子を迎え,その二代目喜兵衛もまた持参金つきの養子をもらうが,そこに「親戚から」という条件はついていないし,問題にもなっていない。
「家名」が続くということが守られさえすれば(儒教的考え方で,先祖を祀ることが続きさえすれば),「血」はどうでもよいという考え方だったのかもしれない。

伊右衛門と花の婚姻についても岩を追い出したうしろめたさは出てくるが,伊東の子を宿した妾との婚姻という点に関してのうしろめたさも非難もまったくない。
生まれた女の子が伊東の子供であること認めつつ,夫婦の子としてふつうに育てているし,最後に残ったのが子供が彼女だったため,婿をとって「家を継がせる」ことを当然と考え,そこでも「血」は重要視されていない。

これが江戸時代の一般的考え方であったのかは不明だが,少なくとも「雑談集」の世界ではそうであり,将軍家や有力大名から送り込まれる小大名家の「養子」と同じような匂いが感じられる。

最も,御三家や御三卿などは「血を絶やさない」ための方策であるので,江戸時代の「家」に「血」はどうでもよかったと一概に言うことはできないのだが……


その1(「嗤う伊右衛門」の日記)
その3(「東海道四谷怪談」の日記)


京極夏彦メモ(嗤う伊右衛門) に簡単にまとめてありますので,ごらんください。
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Last updated  2007/06/03 12:49:30 PM
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