森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2019.09.05
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森田先生の言葉に、「練習より実際に当たれ」という言葉がある。
スポーツや楽器をされている方は、違和感を感じる方がおられるのではなかろうか。
この言葉は練習の効果を軽視しているように感じるからである。

私は老人ホームの慰問活動で、アルトサックスを吹いている。
曲目は早いときで半月前には決まる。大体定番曲意外に5~6曲ぐらいある。
私は曲目が決まると、本番前に50回は練習するように心がけている。
手が勝手に動き、暗譜でもほぼ90%くらいは問題なく吹けるのだが、機械的に50回は必ず練習するようにしている。するとどんなことが起きるのか。
本番になると、「うまく吹けるだろうか」という不安、プレッシャは必ず出てくる。
これは精神拮抗作用といわれているものだ。防ぎようがない。
その時、この反復練習が活きてくる。
徹底的に練習を繰り返していると、「あれだけ徹底的に練習したんだ。大丈夫だよ」という根拠のない自信のようなものが出てくるのだ。
それに支えられているだけで、精神的には随分楽になるものだ。
一流のプロ野球の選手が言っていた「練習は嘘をつかない。一流選手は見えないところで猛練習をしている」という言葉を信じている。

それでは森田先生の言われていることは意味のないことなのか。
そうではない。これを説明してみたい。
森田先生のところに入院してくる人は、経済的にも恵まれ、日本を背負って立つ気概にあふれていた人たちだった。一般庶民はほとんどいなかったということだ。
大体1日4万円という入院費を払える一般庶民がそんなにいたとは思えない。
それは形外先生言行録に原稿を寄せてくれた人の、職業を見てみると容易に想像がつく。
論説委員、医者、大会社の社長、取締や役員、官僚、士業、成功した自営業者、大学などの教育関係者、弁護士、外交官、軍人などそれぞれの道で日本の牽引車となっていった人たちであった。

その人たちの特徴は、一言でいうと「東京で成功したい。大都会で一旗揚げて、故郷に錦を飾りたい」という気持ちが強かった。いわゆる立身出世を夢見ている人が多かったのである。
そういう人が、森田先生のところで、下肥の汲み取りをやらされる。
猿やニワトリ、兎の世話をさせられる。
あるいは、掃除をさせられる。飯炊きをさせられる。
野菜市場に行って、その辺に落ちている野菜くずを拾えといわれる。
高い入院費をとってなぜお手伝いさんがやるような雑用をさせるのだと反発する人もいたのである。
また入院生の中には、「自分はここまで落ちぶれてしまったかと、涙が出てきた」という人もいた。

つまり、こんな仕事や日常茶飯事のつまらない、価値のないことは自分の取り組むべき課題ではない。
私は、もっと価値のある、クリエイティブで多くの人から賞賛されるような仕事に取り組むようなステータスの高い人間なのだという自負というか変なプライドが強かったのである。
「かくあるべし」が強くて、鼻持ちならない人が多かった。
それが神経症の原因となっていたということです。

森田先生の指導は、そのような価値観を粉々に砕いていったということです。
森田先生は、「風呂焚きをするときは風呂焚きになりきれ、飯を炊くときは飯炊きになりきれ」と徹底指導されたのは、自分のやることなすことに是非善悪の価値判断を持ち込むなということを言いたかったのです。目の前の課題や問題点、日常茶飯事に精魂を込めて取り組みなさい。
練習の時のような逃げ道のある気持ちを捨てて、一心不乱にものそのものになりきって取り組みなさい。
是非善悪の価値判断は、「かくあるべし」を強固にして、現実との乖離に苦しむようになるのですよと伝えたかったのだと思います。
入院中にそのことに気づいた人は、その後の人生が大きく花開いています。





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Last updated  2019.09.05 06:30:08
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