森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2021.08.05
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森田先生の言葉です。

さて、書痙なり・そのほかの 神経質の症状が治るには、背水の陣という事が最も必要なこと です。
背水の陣というのは、兵法で敵前に、川を後ろにして陣をしいて、逃げることのできないようにする事です。退却することができないと確定すると、突進して血路を開くよりほかに方法が尽きてしまう。鼠一匹でも、正面からパッと飛びかかって来ると、たいていの人が身をかわすものです。必死の勢いで突進して行けば、必ず血路は開ける。
これを必死必勝といいます。「窮すれば通ず」といって、神経質の症状は、みなこの心境になりさえすれば、必ず全治することができます。
(森田正馬全集第5巻 687ページ)

神経症は不安にとらわれて、不安を取り除こう、不安から逃げようと「はからう」ことで、どんどん増悪して、最後には日常生活に支障を起こすようになるまで悪化するのです。
森田理論学習によって、神経症の成り立ちが分かれば、その逆のことをすれば、神経症で苦しむことは無くなります。不安を取り除こうとするのを止める。不安から逃げない。

しかしこれは、たとえ森田理論学習で理解しても、実行となると大変難しい。
苦しくて気が狂いそうなときは、どうしても神経症の原因である不安を取り除きたい、取り除くことができなければ逃げて身の安全を確保したい。これが人情です。

私の場合を振り返ってみるとそのパターンにはまっていました。
対人恐怖症という強迫神経症でしたので、背水の陣を敷くことができなかったのです。
その点不安神経症の人は、集談会にやってきたときは、生きるか死ぬかのような大変な苦しみを抱えておられるのですが、それが結果として背水の陣を敷くきっかけになっていたようです。
森田にすべてを託してしまうと、1年足らずで症状から解放される人も数多く見かけました。

胃腸神経症で苦しまれた公益財団法人メンタルヘルス岡本記念財団の元理事長の岡本常男さんもそうでした。大手企業の営業本部長や副社長を歴任された方でした。
岡本さんは胃腸神経症で体重が30キロ台にまで落ちました。
そのころの写真を見せてもらいましたが、骸骨のようなみすぼらしさでした。
自宅への坂道も、一人では登り切れず、奥さんに背中を押してもらってやっと家にたどり着くという有様だったと聞きました。そういう最悪の状態を経験されていたのです。
岡本さんは、縁あって取引先の方から、森田療法を紹介してもらわれたのです。
するとなんと1年足らずで、完全に胃腸神経症を克服されました。
体重はすぐに50キロ台にまで回復したそうです。
背水の陣を敷かざるを得ない状況が、幸いしたのだと思います。
関心のある方は「自分に克つ生き方」(ごま書房)を参照してください。

私が対人恐怖症を克服したと感じたのは、森田理論学習に15年くらい取り組んでいた時です。
「不安はそのままにしてなすべきをなす」という実践を続けて、日常生活や仕事面では、大きな成果を上げていました。ところが他人の思惑が気になるという対人恐怖症の葛藤や苦しみは、全く改善の目途が立たなかったのです。

そんな時玉野井幹雄さんの自費出版の本を読んでいた時、次のような言葉に出会いました。
「森田先生は神経症が治るとは一言も言っていない。治そうとすればするほど治らない。治そうとしてはならない。治すべきではない。むしろ症状と一体になって生きるところに本当の生き方があるのだ」

玉野井幹雄さんは、30数年間対人恐怖症で苦しみ、最後にたどり着いた先は、対人恐怖症という地獄に住家を構えて、生きづまったまま生きていくしかないと覚悟を固められたのです。
つまり対人恐怖症を治すことを断念するという決意を固められたのです。
まさに、死地に入ってかすかな光明を見つけられたのです。
そこから自分らしい生き方ができるようになったのです。

私は玉野井幹雄さんの壮絶な人生に接して、対人恐怖症を治すのは、これなんだなと認識を新たにしました。今までなんとエネルギーの浪費をしていたことかと思いました。
そうだ、これからはそのエネルギーを興味のあること、やってみたいことに投入したらよいのではないかと思いました。
残りの人生は神経症を治すことよりも、日常生活に基盤を置いて、人生を悔いのないように思い切り楽しんでいこうと決めました。
しだいに、対人恐怖症は気にはなりますが、関わることが少なくなっていったのです。
私が対人恐怖症に関わらないものですから、対人恐怖症の方は張り合いをなくしたのでしょう。
そのうち趣味の数も増え、利害関係のない付き合いも格段に増えてきました。

それから10年くらいたってみると、そういえば昔は対人恐怖症で、生きていても仕方ないなと思っていた時があったなと思うくらいです。
今も依然として他人の思惑は気になりますが、楽しい事を追いかけるほうに時間を取られて、振り回されることはほとんどありません。
たとえ振り回されても、すぐに断ち切ることができるようになりました。

これは対人恐怖症を克服したという事ではないのでしょうか。
対人恐怖症は、不安神経症の人のように短期間に克服することは難しいと思います。
強迫神経症はタマネギの薄皮を取り去るように治っていくといわれますが、実際には私のような経過たどって、あとで振り返ってみると、そんなに気にならなくなっていた。
むしろ広く浅い人間関係は、自分の人生を豊かに彩ってくれていると、しみじみと感じる今日この頃です。





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Last updated  2021.08.05 06:20:04
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