ふつうの生活 ふつうのパラダイス

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2008年06月04日
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カテゴリ: 外国映画 さ行

というわけで。懲りずに、映画レビューです。

シルク

私はフランスが大好きなんです。けれど、遠くて遠くて簡単にはいかれない、映画や人からの話や、とにかく情報でしか手に入らない憧れの外国。夢のように美しい国。(もっとも一度だけ実際に行ったことはあるのですが。)

西洋にとって日本があこがれの美しい神秘の国だったように、わたしにとっても、フランスは、憧れの国だ。その私の憧れの国、フランスが物語のメインの舞台。ヒロインのエレーヌは、キーナ・ナイトレイが演じていてすごくきれい。彼女があこがれるのは、森の中に大好きな白い百合で、庭園を作ること。好きな人にであって、好きな人と結婚する。彼は、彼女のために危ない異国に出かけて、そして帰ってくる。成功した彼はお金持ちになって、彼女のために森の中の家を買ってくれる。そして、彼女一人では無理そうだった庭園作りを、村中の人々を雇って、作ってくれちゃうのだ。完成した庭園の美しいこと。

私の憧れのフランスの田舎町の町並みも、花だらけの森の中も、二人が暮らす森の中の家も、ヒロインの着ているドレスもどれもこれも夢のように美しい。そして、二人が暮らす町の産業は、兵器でも、鉄鋼でも、なくて、美しい絹織物なのだ。

絹もまた、美しい憧れのもの。

はじからはじまで、女性の夢と憧れで出来ているような映画。

映画の中では、憧れの国は『日本』。主人公のエルヴェは、世界中のどこよりも強くて美しい絹ができるマボロシの蚕の卵をもとめて、とおいとおい憧れの日本へと旅立つ。そこは雪に閉ざされた不思議な山の中の村。
偽もののタマゴをつかまされて帰ろうとした彼を引き止めてほんものの蚕の卵を分けてくれたのは、ハラ・ジュウベイという、その村の権力者だった。

そして、彼らが話している席で、お茶をいれ、彼に出されたはずのお茶を飲んだり、お客様の前で、ハラの膝に頭を乗せてしどけなく寝てしまう少女。この少女は、ハラの妻と解釈されているが、この行動を見ると、もしかすると、この少女は、ハラの娘なのではないかと思う。この時まだ、少女は本当に子供だったのだと思う。だとすれば、この行動も不思議ではないだろう。

「his woman」と、書かれていたとして、外国では、あるいは現代の日本で、「彼の女」といえば、彼の妻または、恋人であるが、昔の日本の書物などで、「○○の女」と書いてあると、それは、○○の娘、子供(女子)のことなのである。
原作では、ハラの娘であり、最初の登場シーンでは、10歳前の童女だったのではないでしょうか。監督、解釈おかしいよ。

数年後に、もう一度エルヴェが村を訪れた時、あどけなく父の膝で寝ていた少女は、一人前の大人の女性になっていた。妻という設定なら姦通罪だが、ハラの娘と思えば、問題はないでしょう。ハラの屋敷に泊まっているエルヴェのところに夜そっとしのんでくる少女。少女もまた、彼の再訪を待ち望んでいたのかもしれない。二人の関係は結局その一度きり。遠い異国に住むもの同士の二人の恋は決してかなうものではなかった。

三度目にエルヴェが日本を訪れた時、日本はすでに明治維新が始まっていた。彼の訪れた村は、幕府側であったため、新政府との激戦のさなかにあった。

村は焼き討ちにされ、村びとは他の場所にそっと逃げ延びている。少女に会いたいエルヴェは、村で出会った少年に村びとたちの隠れているところまで、つれていって欲しいと頼む。けれど、彼らの後を新政府軍につけられてしまい、隠れていた村人は捕まってしまう。その罪を問われて少年は、処刑されてしまう。

映画に出てくる籠の混ざった列。あれは、籠がちがう。実際には、罪人を運ぶ竹製の籠だったのではないだろうか。一列にならんで歩いているのは、政府軍につかまって、連行されているからだ。

二人の恋心は、結局村びとまで危険にしてしまったのだ。

そして、結局彼は、二度と少女に会うことはできなかったのだ。


さて、エレーヌには、決して子供が出来なかった。彼女がもっていないもの。それが子供つまり、卵であるのなら、彼は彼女のために遠い世界の果てまで、タマゴを求めて旅しなければならなかった。

最初に手にいれたのは、偽ものの卵。次にもらったタマゴは、フランスの彼の村に富をもたらすけれど、やっぱりエレーヌには、子供は生まれない。タマゴを求めて、あるいは子供を生める異世界の別のエレーヌを求めて、彼は、さらにもう一度旅に出る。けれど、三度目の旅で、彼が得た卵は旅の途中で孵化して死んでしまう。彼らの子供は生まれたとしても育たないのかもしれない。彼は、三度の旅でも、エレーヌのためのタマゴを手に入れることは出来ない。


異国の少女を思う夫。そんな夫をそれでも愛する妻。彼が少女のためにもう一度日本へ行こうとすれば、こんどこそ、命をおとしてしまうだろう。あの手紙は浮気をする夫をあきらめさせるために書いたものではなくて、日本へ行こうとする夫の命を思って、エレーヌが書いた手紙だ。あんな手紙を日本人には書けない。

あんな素敵なラブレターは、フランス人でなければ書けない。だから、フランスって素敵な国で、私は未だにあこがれちゃうんだよ。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』では、あんなに活発で元気なお姫様を演じていたキーナ・ナイトレイが、この映画では、一転して正反対の静かで清楚で純日本的でさえあるような妻を演じていました。

夫の出張にも、浮気にも、一切文句をいわず、夫の命を案じて、夫にはきずかれないように、そっと、日本女性の手紙を偽装する妻。自分の死後の夫のことを心配して、少年にそっとたのんでいく妻。

なんとも日本的な妻(外国人男性の憧れの妻像)と、その妻のために、妻の望むものを与えるものすごく優しい夫(日本人女性にとっての憧れの夫像)。

けれど、二人が本当にほしいもの、子供だけは、決して手にいれることのできなかった二人。

憧れの夫婦は夢であって、現実ではない。だから、現実である子供は決して二人にはできない。憧れと夢の物語は、最初から最後までほわわわわわーんと、静かに優しく進んでいく。そして、しずかに終る。夢から覚めたくないかも。いや、見てると、ほんとにねちゃうんですよね。この映画。

フランスの田舎の村に富をもたらす「養蚕」は、けれど、日本では「女工哀史」のように、暗く悲しいイメージのほうが強い。美しい絹のために、国家の経済発展のために、どれだけの少女が泣いたのでしょう。

そしてまた、フランスで待つ妻のエレーヌもまた、村の発展のため、お金のため、夫が遠い異国に行くのを案じ、その命を案じ、その異国の地でであった少女焦がれるようになってしまった夫に泣かされる日々だったのでしょう。

富をもたらしてくれるはずの美しい絹が、世界のどれほどの女性を喜ばせ、そして泣かせたのでしょう。

憧れはあこがれまま、本当にほしいものは、決して手に入らない。タマゴも子供も少女も。


彼の心の中で、日本の少女と、フランスの妻が一人の憧れの永遠の恋人として、沈みこもれていく。





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最終更新日  2008年06月04日 11時43分53秒
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