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ジョン・ロールズ
斎藤 純一、田中将人著
正義を探求した政治哲学者
一橋大学教授 田中拓道評
正義にかなった社会とは何だろうか。交際的に暴力が支配する世界に逆戻りしているかのように見える今日、正義を問うことにどのような意味があるのだろうか。
本書は、生涯にわたって正義を探求した政治哲学者ジョン・ロールズの思想と人生をコンパクトにたどった一冊である。ロールズが 1971 年に公刊した。『正義論』は、だれもが自分で選んだ人生の目標を自由に探究できるために、「リベラルな平等」を保障すべきだと説いた。その精緻な議論は世界に衝撃を与えた。ただし、彼の著作はどれも大部で、議論は細部にわたり、全体像を見通すことは難しかった。
本書は、 2010 年代にハーバード大学で公開されたアーカイブスなどに基づいて、ロールズの思想的発展と全体像を分かりやすく読者に与えてくれる。特に重要なのは、彼の思想につきまとってきた誤解を丁寧に修正している点である。
『正義論』は普遍的な正義を探求していたが、 1993 年に公刊された『政治的リベラリズム』は、リベラル政治文化を持つ(欧米的な)社会を前提とし、そこで成り立つ正義を探求しているように見える。ロールズは普遍的な正義の探求を断念したのではないか、と言われてきた。
しかし本紙によれば、ロールズの一貫した関心は「現実主義的ユートピア」の構築にあった。実際に人びとに受け入れられ、安定した秩序をもたらせる原理を、思想実験を重ねて導こうとしていた。『正義論』から『政治的リベラリズム』への変化は、一貫した問題関心に基づく思想の発展として読めるという。
さらに、ロールズが象牙の塔に閉じこもった思想家でもなかった。本書には、若い頃の戦争体験、ヒロシマ体験、公民権運動、新自由主義政権の批判など、折々の体験が思想に与えた影響も描かれる。晩年には、リベラルな政治文化を持たない国と共存し、国際主義を実現する方途についても思索が深められた。現代における正義の可能性を考えるうえで、本書は有益な出発点となるだろう。
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さいとう・じゅんいち 1958 年生まれ。早稲田大学教授。元・日本政治学会理事長。
たなか・まさと 1982 年生まれ。博士(政治学)
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