[Stockholm syndrome]...be no-w-here

2022.10.24
XML
カテゴリ: 宝塚
よく「歴史に『もしも』は無い」と言うが、今回の【蒼穹の昴】では「もしも、この時◯◯だったら文秀達の運命は違ったかも知れない…」と思わせる場面が幾つもあり、そうした歴史的視点からも楽しむ事ができた。
個人的には、第二幕・第五場Aで「もしも光緒帝と西太后が話し合えていれば…」という場面が最も印象的だが、だからと言ってそれで全ての問題が解決する訳ではない。

人生は選択の連続だ。
仮に1つ難局を乗り越えても、また次の『もしも』が待っている。
間違いだと思った事が功を奏し、良かれと思ってした事が裏目に出る事もある。
まことに「生は難く死は易し」である。

それでも、劇中で伊藤博文が文秀を諭したように、生き残ったからこそできる事もある。
孔子も『論語』の中でこう言っている。
「五十にして天命を知る」
これは「50歳頃になってようやく、人は自分の人生が何のためにあるかを理解できるようになる」という意味合いである。

科挙の試験に首席で合格した文秀なら、伊藤の言葉の意味が解らぬはずはないだろう。
だから、若い頃の挫折や困難で簡単に人生を諦めてはいけないのだ。
その苦しかった経験が、いつしか誰かの何かの役に立つ時が来るからである。
僕も40歳を過ぎてから宝塚と出逢い、まさか自分の知識や経験がタカラジェンヌ達の役に立つとは思ってもみなかった(笑)。

そう言えば、大人気ドラマ【逃げるは恥だが役に立つ】のタイトルも元々はハンガリーの諺で、「自分が今いる場所や状況にしがみついて自滅するよりは、逃げる(=自分を活かせる場所へ行く)方が、長い目で見た時に有益である」という意味だった。
と、そんな事を書いていたら専科の感想がどんどん後回しになってしまうので、この辺りで止めておこう(笑)。



一樹千尋が演じる西太后は、とにかく威圧感が凄かった。
月組【桜嵐記】で演じた後醍醐天皇も怖かったが、今回もさすが専科という存在感で紫禁城に君臨していた。
(余計な心配かも知れないが、本作では出番も多い上に、あれだけの気迫で舞台に立ち続けるのは体力的にも大変だと思うので、どうか体調には気を付けて欲しい)

一方で、春児に思い出話を語る時の表情はとても穏やかで、強権ではあっても暴君ではない人物として描かれている。
楊喜楨とのやり取りからは、寧ろ道理を心得た度量のある人物に見える。
史実はともかく、本作において西太后が強権を振るったのは、飽くまでも清朝と甥の光緒帝を守るためだった。
(だからこそ、光緒帝も2人を頼りにしたのだろう)

西太后というと悪女のイメージしか無いが、それはもしかするとマリー・アントワネットがパリ市民に「贅沢三昧で国家財政を圧迫する悪女」と思われていた史実と似ているのかも知れない。
(フランスの財政赤字を生んだ主因は軍事費であり、王室が使える金額は国家予算の5~6%程度しかなかった)
世間のイメージと本人の実像は乖離している場合が多く、順桂の私怨もこうした誤解から生まれたものではないかと感じた。
政敵はもとより、鎮国公載沢やマスコミのように面白半分で有らぬ噂を広めた人達もいただろう。
(これに関しては、本人から聞いた訳でもないのに、タカラジェンヌについて好き勝手な事をネットに書いている僕達ファンも似たようなものだ)


(マリー・アントワネットをギリシャ神話の貪欲な怪物ハーピーになぞらえた当時の風刺画)

西太后と共に、歴史的な『もしも』を感じさせるのが凪七瑠海が演じる李鴻章だろう。
「文秀が相談したのが、袁世凱ではなく李鴻章だったら…」と思わずにはいられないが、だからと言って彼がどんな判断を下すかは未知数で、どんな結果になったかは分からない。
(西太后が栄禄を復帰させた時も、李鴻章は反対せず理解を示している)

凪七瑠海は本作ではポスターにも写り、来年には星組を率いて全国ツアーを行うなど、専科における若手筆頭として三面六臂の活躍を見せている。
劇団としては、「常に主演」だった轟悠とは一線を画し、どちらでも出演できる立場として凪七には専科にいてもらいたいのかなと思う。
本作でも、遠目から見ると市村正親のような貫禄で若手を牽引していた。

楊喜楨を演じる夏美ようも堂々とした演技で、西太后と渡り合っている。
この2人が語り合う場面は、若手では決して出せない人生の黄昏を感じさせた。
悠真倫は、ずる賢くあざといだけで天命を背負う程の器のない栄禄の小物感を上手く出している。
(李蓮英と並ぶと、余計に小物感が増すのが面白い…笑)
汝鳥伶が演じる伊藤博文は、妙に似ていて旧千円札の肖像を思い出した(笑)。
白太太を演じる京三紗も、熱のこもった芝居で存在感を見せた。

こうしたベテラン勢の役を新人公演で若手達がどう演じたのか、気になる所だ。
『カフェブレイク』で主演の華世京がどんな話を聞かせてくれるかも楽しみだ。

ありがとう!!



さて、これから暫くは観劇予定も無いので、何について書こうか…。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2022.10.24 21:34:30


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

love_hate no.9

love_hate no.9

Calendar

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: