[Stockholm syndrome]...be no-w-here

2024.05.20
XML
これも何かの縁だろうか。
​​前回の記事『 動物を「人間」たらしめているものは何か… 』に載せた、藤井聡やむすび大学の動画を通して浜崎洋介という人物を知り、彼が出演している動画を幾つか観ている内に西部邁に辿り着いた。
先日も書いたように今は「やる気ゼロ」なので(笑)、別に何かを書くつもりは無かったのだが、とある動画で西部が小津安二郎監督の【東京物語】について語るのを聞いて、思わず「そう、そう、あの映画の本質はそこなんです!」と嬉しくなり、今回は社会派とも映画評論ともつかない記事を少し書いてみる事にした。

映画【東京物語】の感想はこちら →『 完璧なものは美しい…



西部邁が「あたかも季節が移り変わるように、人間の命が生まれ、生き、やがて死んで行く事に対する情感は、世界中の誰もが少なからず持っているものであり、日本人に限った話ではない」と言うように、僕も【東京物語】で描かれている主題は「人間の普遍性」だと思っている。
特に鳥肌が立ったのは、周吉(笠智衆)が旧友の沼田(東野英治郎)と居酒屋で交わす台詞だ。

「今時の若い者の中には、平気で親を殺す奴もおる」

これは今から70年以上も前、1953年(昭和28年)の台詞である。
それを僕は今、年配の客達が口を揃えて言うのを、喫茶店で毎日のように聞いている(笑)。
(子供に対する愚痴や、外の音が気になって眠れないといった小言まで同じだ)
当時「今時の若い者は…」と呼ばれていた者達が、70年経って当時の老人達と同じ事を口にする。
そして、そんな彼らを下の世代は煙たがり、相手にしたがらない。

つまり【東京物語】の登場人物達は、古今東西、其々の年齢層になれば誰しもが経験し体感するであろう想いを、其々に代弁しているのだ。
その心象風景が、普遍的で何気ない日常生活の中にくっきりと浮かび上がって来るからこそ、この映画は不朽の名作として、世界中の人達から高い共感と評価を得ているのだと思う。
なので、藤井聡には申し訳ないが、「そんな所で日本人らしさを論じて欲しくない」という西部の指摘は正しい。

その一方、「国家の戦争のために死んで行った者達を記憶に留め、時々は語ってやろうという人間が、敗戦から10年も経たずして日本から消えてしまった」「日本人は直ぐに自分達を美化するが、関東大震災の時にはあらぬ疑いから在日朝鮮人を何千人も虐殺したではないか」という西部の憤りには、身の引き締まる思いがした。
ただ、小津安二郎を擁護する訳ではないが、【東京物語】で戦前がほとんど語られないのは、戦争に反対していた小津なりの優しさなのではないかと感じている。

それが端的に現れているのが、「私ずるいんです」と告白する紀子(原節子)に対し、周吉がかける「ええんじゃよ、それで」という台詞だ。
ここには、過ぎ行く時間の無情さ、薄情さと共に、次の世代が戦後を生きる事を肯定する、小津の「君達は君達の時代を生きなさい」という想いが込められているように感じた。
それを象徴するアイテムが、あの形見の時計なのだ。

また、その後の場面で周吉が隣人と交わす「独りになると、急に日が長ごうなりますわい」という台詞では、時間が完全に止まってしまった周吉(=死)と、時間を進める紀子達(=生)との永遠の別離が表現されている。
だからこそ、あの独りのラストシーンは、何とも言えない悲哀と郷愁を誘うのだ。
そして、良くも悪くも「生」の象徴として描かれた「東京」は、70年が過ぎた現在も時間を刻みながら変わり続ける。



という事で、記事を書くために途中で止めていた動画の続きを観たいので、今回はここまで。
西部の「戦争で亡くなった者達を忘れてはいけない」という想いも、小津の「子供達に過去を背負わせるべきではない」という想いも、僕はどちらも正論だと思う。
では、過去と未来の狭間に生きる僕達は、どういう形で先人達から過去を受け取り、子供達に未来を託して行くべきなのか…。
西部邁の話を聞きながら、その「繋げ方」「バランスの取り方」を問う事にこそ、「日本人とは何者か?」というアイデンティティの問題に答えを出す糸口があるような気がした。

せっかくなので、浜崎洋介が出演している他の動画も幾つか挙げておく。
僕は彼ほど知識も教養も無いが、見ている景色は同じだと感じた。
彼なら、僕の立てた問いに答えを出してくれるかも知れない。

と、そんな事を書いている間にも、イラン大統領の墜落事故死のニュースが入って来て、世界はどんどん混沌の渦に巻き込まれて行く。
いつまでも呑気に「やる気ゼロ」とは言ってられなさそうだ…。














お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2024.05.21 20:47:05


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Profile

love_hate no.9

love_hate no.9

Calendar

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: