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こんなに気持ち悪くて怖くておもしろい本、初めて読みました。ていうか、この種の気持ち悪さや怖さって、ちょっと他にないでしょう。とにかく読み心地がすごい本でした。別に残酷なことが起こるわけでもないし、犯罪もない。未来の普通の人々が、たぶん普通の生き方をしているだけ。それが何とも気持ち悪いんです。一部ネタバレしますから、ご注意ください。でも、ネタバレしても、この本はおもしろいと思いますよ。未来のお話です。人間は感染すると不老不死になるというウイルスを発見します。そのおかげで、ほとんどの人々が不老不死の処置を受けて、人が死なない世の中を作りました。当然みんな、体力も外見も最高である20代のうちにその処置を受けますから、世の中の人がみんな20代の外見を持つようになってしまいます。これだけでも相当気持ち悪いと思いませんか。不老不死が現実になると、いいことみたいな気がしますが、よく考えてみると、いろんな矛盾が出てきます。80歳になっても90歳になっても生殖能力がありますから、何度でも子どもを作ることができます。子どもも成長したら処置を受けて不老不死となるわけですから、家族制度というものは壊れます。ある程度の年になれば、親がどうなったか知らない。自分の子供がどこで何をしているかも知らない。それからおもしろいことに、外見がみんな若くて平等だと、精神が成熟しにくい。成熟しないのに、老化はしていく。20代の外見でも、年を経るとなんらかの変化がでてくる。でも、不老不死だからといってみんなが永久に生きていたら困りますから、処置を受けてから100年たったら死ぬようにしよう。というのが百年法の趣旨です。ところが、不思議ですね。それに同意して処置を受け、それから100何十年生きてきたのに、やっぱり死ぬときになると、怖くてじたばたするんです。科学がこんなに進んでいても、ここらへんは変わらないです。それからもう一つ変わらないといえば、百年法を施行しなければならない政治家たちが、国のことより自分のことが大事。目先のことが大事。結局それが大変な事態を招くんですが、こういうのも今と変わりませんね。ほんとに生々しくて、嫌な感じと思いながら読みました。それで結論までひとっ飛びすると、不老不死は破たんするんです。その経緯は書きません。でも、やっぱり自然が一番、人間はそれぞれの寿命を生きるのが一番。そんな結論に至って、ほっとしました。なかなかおもしろい小説です。好き嫌いはあると思いますが。ところで、著者の山田宗樹さんは、あの「嫌われ松子の一生」の著者だったんですね。わたし、「嫌われ松子」を読んだとき、あまりおもしろくなくて、このブログに悪く書いたような記憶がありますが、「嫌われ松子」と「百年法」の共通点のなさに驚きました。作家ってすごいですね。ちょっと見直してしまいました。(なんて、上から目線ですみません。)
2014.08.29
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益田ミリさんのイラストは、おとなしくて不器用で、その割には心の核心をついてきますねえ。この人の絵と初めて出会ったのがいつかってことが、よくわからない。いつのまにかよく知っていて、なんか久しぶりね、元気~?って言いたくなる友達気分であったりします。この本も、偶然図書館で手に取って、なんか旧友に会ったみたいなうれしい気持ちになりました。「怒り」についての経験を書いた小さいエッセイ集です。その「怒り」も、だれでもちらっと経験したことあるような身近なものばかりです。ところで、「怒る」ってことを、この頃全然やってないような気がします。子育てもとっくに終わった50代主婦の私は、うちでも職場でもあまり怒らない。職場の若い同僚たちには、ぱぐらさんは優しい人だって誤解されているみたい。それはもちろん、大きな誤解です。学生の頃や結婚前の会社員だったころは、腹の立つことがたくさんあったし、同級生とか上司とか先輩とか、怒る対象に事欠かなかったような気がします。子育て中だってそう。子どもや姑に対しても、そんなに腹を立てなくても・・・と今なら思えることもたくさんありました。つまり年を取って、怒るだけの体力がなくなったんですね。年を取って人間が丸くなるっていうのは、こういうことなのかもしれません。とはいえ、今の私は腹の立つことが皆無かというと、そんなことはありません。今の職場にも感じの悪い同僚ってのもちゃんといて、彼女には不快な思いを、たくさんさせられました。彼女の失敗がいつのまにか私のせいにされていたり、私の工夫したことがいつのまにか彼女の手柄になっていたり・・・彼女は要するに、ものすごく口がうまいんです。そして、そのちょっと可愛い容姿とよく回る口に、周囲の人はすっかりだまされるんです。そんなとき怒ったかというと、私は怒らなかったんですよね。腹は立つけれど、怒るのはめんどくさい。それよりも、私は彼女と距離をおいて、仕事上必要最小限の接触だけすることにしました。毎日、挨拶だけは普通に交わしますが、それ以外はよほどの用事がない限り声をかけません。話がそれてしまいましたね。益田ミリさんの「怒り」のエッセイは、本気で怒るというほどの大きいものでもなく、でも素通りできるほど小さいものでもない。あーそうそう、そんなときあるよねえ、腹が立つよねえ と同感しながら読めるエッセイでした。そして、益田さんは若いなあ~と、怒れる彼女に一抹のうらやましさも感じたりしたのでした。
2014.08.23
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「三丁目の夕日」をご存知の方なら、戦後から立ち直りつつあった日本の熱気を覚えていらっしゃるでしょう。その熱気は、東京タワーを象徴として、国民一丸となった明るい希望そのものでした。そしてこの「オリンピックの身代金」は、三丁目から約5年後。復興を遂げた日本が、東京オリンピックを象徴に、今度は先進国として世界に打って出ようとした、さらに強い野望の時代の物語です。実際東京オリンピックは大成功で、日本は先進国として、また東京は世界第一の大都会として、周知されていくのですが…この小説は、しかし、オリンピックの成功の陰に隠された闇の部分。日本の貧しい人々 出稼ぎ労働者たちが、どんな悲惨な状況でオリンピックを支えたかという物語です。もちろん内容はフィクションですが、さもありなん。こんなこともたくさんあったのだろうと思わせられます。国家の繁栄のために、出稼ぎの労働者たちがどのような過酷な労働をしていたのか。その矛盾に気づいた、やはり貧しい東北の村出身の東大生が、オリンピックを人質に取り、政府から身代金を取ろうとダイナマイト爆破を繰り返します。彼の犯行は凶悪ともいえるのでしょうが、この本の読者はきっと一人残らず、彼に同情し彼の成功を(逆に言えばオリンピックの不成功を)心のどこかで願うことでしょう。そして何とかして彼を満足のいく方法でどこかに逃がしてやりたいと思うと思います。あの東京オリンピックから早50年。貧しい出稼ぎ労働者たちは、今はどうなっているのか。また、6年後の東京オリンピックのための土木工事は、誰の手によってされるのか。華々しく決定した次回のオリンピックにも、闇のようなものがあるのでしょうか。奥田英朗さんが、またびっくりするような小説を書いてくれないものかと、思いました。この小説は、おもしろくせつなく、きっと皆さん犯人を好きになるかも。とびきりの超おススメです。
2014.08.16
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中学生時代のクラスメイトが、クラス会で再会。アラサー女性3人の、仕事や悩みや家族や・・・といった身辺のあれこれが綴られた小説です。結婚して子育て中。友達がほしい孤独なお母さん。設計士として働いているが、母や兄とのつきあいに悩む人。仕事をやめて実家暮らし。仕事を探そうと思いつつも動けないでいる。こんな3人の話がつかず離れずで進んでいくんだけど・・・主人公3人の悩みは、誰もが経験したり聞いたりしていて、今さら・・・その今さら感を、覆してくれるような面白さがあるわけじゃなく、特に小説にしてまで読まなくても、現実のほうがよほどいろいろあって興味深いのに。どの人の悩みも底が浅く、陳腐。人に読ませようという気があるなら、もうちょっとちゃんと料理してよ。素材が新鮮じゃないうえに、凝った料理方法もなく、特にスパイスを効かすでもない、まあまあ食べられるけど、わざわざレストランでお金を払う料理じゃありません。それと、タイトルの「小さいおじさん」って、そんなに有名な人なんですか?ネットで検索したら、神社なんかにいる妖精(?)のようなものらしい。わたしはそんなの聞いたこともなかったし、もちろん見たこともない。でも、タイトルにするぐらいなら、もっと活躍させてほしかったな。不思議な力があるそうだし。でも、そうしたら小説の趣旨が全然違ってきますね。この本の中では、特に小さいおじさんは出てきません。
2014.08.09
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林真理子の本で、タイトルに「綺麗」という言葉がついていたら、ご自分の美容のお話?誰かから綺麗だと言われたか?メスを使う整形手術はしていない、やったのはプチ整形だというお話か?持ち物に、どれだけお金と意識を使っているかというお話?どこへ行った、何を食べたのセレブの生活か?それとも若々しくて愛らしい、人から好かれるその性格?一瞬のうちにあれこれ想像がふくらんでしまった私は、ほんとうに意地悪な読者ですね。嫌いなのに好き。読めば苦々しいのに、つい読んでしまう彼女のエッセイ。などと思いつつ読み始めたら、これはエッセイじゃなくて長編小説でした。小説ではあるけれど、前半は林真理子の世界全開のセレブっぷりです。主人公のアラサー女性は、有名整形外科クリニックで働いていて、彼女をとりまくのは女優、デザイナー、アイドル、モデル、という「綺麗」のためなら何だってする、いくらだってお金をかける人たち。彼女自身も、複雑な家庭だけどお金だけはたっぷりとかけられて育った人です。作られた「綺麗」な生活を、若い貧しい恋人とセレブな中年不倫相手との間で、ひらひらと生きていく主人公の世界を、これでもかと描いていく。なるほど、林真理子じゃないと書けない世界だなあと感心しつつも、セレブの世界にはたいして興味もないので、だらだら読み飛ばしていたら、半分終わるころからやっと話が動きました。(ネタバレします。ご注意を。)二人の恋人とうまくいかなくなった彼女の新しい恋人は、大学院の若き研究者であり、かつ完璧な美貌を持った人気モデルだった!しかも彼は、売り出し中のアイドルの恋人がいたのに、さっさとアラサーの主人公に乗り換えてきた!この辺に、林真理子の好みや妄想(?)が現れていて笑ってしまいましたが、とにかくそういうあり得ない展開になるのです。そしてそののち、彼の完璧な美貌は、交通事故のためにふた目と見られぬほど醜くなってしまいます。彼との恋に浮かれていた「綺麗」大好きな主人公の、あわてぶりがとてもおもしろい。やっと小説らしくなってきたぞ。さあて、本腰据えて向き合おうと思ったら、この小説は切り捨てたように終わってしまいました。林真理子さん、ここからが大事なところじゃないの?もっと読みたかったよ。主人公は、このまま虚構の「綺麗」の世界に戻って、またひらひらと生きるんだろうか。「中身を支えてくれるのは外見なんです。だから外見が変われば、中身も変わるんですよ。」美容クリニックの患者たちにいつも言っていたこのことばは、逆の意味で、醜くなった恋人にもあてはまった。この言葉にわたしは少々懐疑的だけど、(まったく否定はしないけど)事故によって、彼の心は劣等感やひがみといった、かつては微塵もなかった黒いものに覆われている・・・というところで、二人のその後を知りたいと、強く思いました。ネタバレついでに彼のその後にちょっと触れますが、その後のかれについては、イタリアに留学し、イタリア語に不自由がなくなった。ただそれだけしか触れていません。うーん、興味深い内容になってきたところでスパッと終わってしまうなんて、ほんとに残念な小説でしたよ。
2014.08.02
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