この劇のなかの不思議な配役は、認知障碍に足を半分突っ込んだボケ役のジャスパー・トリング卿。
耳が遠いので、小さなラッパを首から下げて、ひとの話を聞くときはラッパの吹き口を耳に当てる。
「レベッカ」 に出てくるベンは、一見 智能障碍者だけど、事件の真実にいちばん近く、黙り込むことを知った智者だった。
「コンタクト」 のレストランの場面にも、マリオネットのように動く、まったく存在意味不明の配役がある。
人々のスタンダードからちょっと外れたところにいる人が、じつは真実にいちばん近いところにいる ―― そんな真理を舞台ににじみださせているのに違いない。
ボケ役に徹しつづけるのだろうと思われたジャスパー卿 (花房 徹さん演)
が、やおら普通の優しいおじいちゃんになる瞬間がある。
サリー・スミス (笹本玲奈さん演)
が、愛するビル (井上芳雄さん演)
から身を引こうと、ひそかに悲しい決意をするとき、彼女の寂しさを敏感に察知するのがジャスパー卿。
サリーに、慈しみのことばをかける。
ここでジャスパー卿がいなかったら、せつなすぎる。
サリーが、強がり半分で自らを鼓舞する 「スマイル!スマイル!」 の歌が始まると、ジャスパー卿はまたボケ役に戻って、補聴ラッパを耳に当ててサリーの歌の合いの手のように 「えェッ?」 と聞き返す。
*
6月27日の夜の部。
笹本玲奈さんの 「スマイル! スマイル!」 は、「泣きそうになるところを押し隠して微笑もうとするサリー」 という役作りがはっきりと前面に出ていた。
歌が終わる5秒前に、一瞬 「しくっ」 と すすり上げた。
「スマイル! スマイル!」 が分かりやすくなった。
6月13日の昼の部に見たときは、案外すぅっと流す歌い方で、最後の10秒間の「スマイル! スマァイル! スマァイル!!」 と歌い上げるところに感情を一気に押し込めた。
いろんな演出ができる、奥の深いナンバーだ。
*
6月27日には、武岡淳一バチェスターが第1幕後半の書斎の場面で
「水の嫌いなアヒル」
のアドリブをやって、リピーターの多い観客席から拍手をとっていた。
この弁護士の役も、奥が深いです。
井上芳雄ビルは、さかさ言葉を言うはずのところを台詞を間違えてしまい、涼風真世マリアとアドリブの掛け合いになった。
正 「ロンコオーデ (オーデコロン の逆さ言葉)
の風呂に入って、 ロイス・ロールスに乗って、……ロイス・ロールス、、と言っても、ロールス・ロイスとあんまり変わんねぇな
」
6月27日 「ロンコオーデの風呂に入って、 ロールス・ロイスに乗って、あ、さかさになってねぇぞ、ロールス・ロイスのままじゃねぇかぁ、ああぁぁぁ~~~
」
と高らかに歌ってマリアに近づく。
涼風マリアが冷徹モードで
「お上手な歌だこと」
と受けた。
そのあと、涼風マリアが一瞬アドリブで台詞を歌い流すと、井上ビルが
「歌、うめぇな。やっぱり親族だな」
と受けてみせた。
1番目のアドリブはふつうだけど、2番目のアドリブの息の合ったところが、すごい。
*
今年9月に、帝劇公演のハイライト版のCDが出る。
ほんとはDVDもほしいですねぇ。
2年か、3年後、また笹本・井上ペアで 「ミー・マイ」 が見たい。
Me and My Girl の英語原作のシナリオかスコアブックを、Amazon でお取り寄せしようと思っております。
==追記==
Amazon.com で Me and My Girl の台本のペーパーバックを発見。平成8年 (1996) に出たもの。
US$12.25 だったので、さっそく注文しました。
いっぽう、Barnes & Noble では Me and My Girl: Vocal Selections という楽譜集が昭和61年 (1986) に出ていたことを発見したのですが、残念ながら品切れ。
Wikipedia ドイツ語版で Me and My Girl の項を読むと、平成4年 (1992) に 「ミー・マイ」 のドイツ語版が Landestheater Coburg で上演されていたことを知りました。
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