Teardorops for me 打ち込むと、画面が開いた。あなたのパスワード。開いた画面にはホルダが一つだけ。シャワーの音が派手に聞こえている。一目で極秘の資料だと分かった。国の名前、公人らしき名前を見、あってはならない送金を見、口座名義を見た・・・。自分の携帯にメモを取り、電源を切った。浴室のドアを開けると、望月さんが驚いた顔をした。彼はいつもやさしい微笑を浮かべ、私に逃避し、そのうちに私からも逃避し、どんどん追い詰められていく小動物。贈賄の差配なんてできるわけがない。 深夜に彼をアパートの戸口で送り、すぐに自分のパソコンを立ち上げた。簡単に贈賄を告発する文書をつくる。朝になるのを待ち、降りたことのない駅に降り、コンビニからファクスを送った。その店で男物の下着と靴下、食べ物などを買い、現金を下ろし封筒に入れた。 会社近くの駅で望月さんが来るのを待った。 「望月さん、逃げて。お願い、逃げ切って」 ややあって「分かった」望月さんは、ありがとう。声を出さずに言い、一瞬笑顔になった。次の瞬間、背を向け、足早に去っていった。