うきよの月 0
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いや一人で食うにはなかなか日にちが必要だけど。先日職場にお別れのご挨拶にもってくのにちょうどよかったんだよな。この条件だもの。4500円→クーポンで1949円56%OFF さらにポイント10倍!スーパージャンボクーヘン5種の味から選べる3種セット!!。1個500gの超ド級バームクーヘンが3つ入っています!※沖縄、離島へのお届けは追加送料1000円が発生致します!だからつまり2500円くらいで3つ買えるんだわ。1つ1500円のやつが。またやりますバウムクーヘンちなみに今注文すると3月半ば~後半。ちょうど小中学校の卒業式あたり、会社でも年度が変わるあたりだな。このでかさはなかなか皆さんで集まって食べるにもよろしいのよ。ワシの場合は、1つは自分の、実務してたとこに1つ、フロントに1つ。それと実務してたとこにえびせん大量に持ってったというわけさー。ただしパッケージは自分でしろってことで、100均で可愛いふくろ買って入れてったwww切り分け用にはプラスチックナイフがなかったからフォークだったけど。あ、ちなみにえびせんはこれを2セット購入した。大判 割れせん 5袋セット 老舗 えびせんべい せんべい えびせん 煎餅 おせんべい われせん 訳あり わけあり 1000円 ポッキリ ぽっきり 福袋 いかせんべい たこせんべい お試し 和菓子 お菓子 スイーツ ギフト 川仁 おつまみ3袋くらい自分にとっておいて、残りをそれぞれに分けたかな。こっちでもいいかもな。えびせんべい 福袋 3袋 セット 【宅配便】送料無料 北海道・沖縄は送料追加 2セットで1袋、3セットで2袋のおまけがもらえます♪個人的にはこれが好きなんだけど、まとめ買いすると食べ過ぎるの目に見えてるのでなあ……いかちびまあ綺麗であるより数勝負味勝負でいけるとこなら結構コストカットできるぜ、というはなし。
2018.03.01
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しつこくww三度目ww【楽天総合ランキング一位獲得11月5日23時35分】バウムクーヘン メガ盛り1kg★工場長のおまかせ1kg※今回はバニラが入るとは限りません。 バウムクーヘン 沖縄、離島へのお届けは追加送料800円が発生致します!で今回来たのは「チョコバナナ」と「プリン」でしたwww確かにチョコバナナは縦割れしてて、プリンはカットしたやつ。だがしかし味に変わりは無し!今後も買うぜ。
2017.12.10
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ということで今回はちゃんと証拠写真をwwwどーん。開けるまで一ヶ月大丈夫。ばらばらのほうが今回はバニラ。500グラムのほうははちみつ!楽しみwしかも穴の中まで埋め込んでありますwサービスいいわ~やっぱりリピーター決定。……辞め菓子もこれで行こうかな。切るもんつけて。【楽天総合ランキング一位獲得11月5日23時35分】バウムクーヘン メガ盛り1kg★工場長のおまかせ1kg※今回はバニラが入るとは限りません。沖縄、離島へのお届けは追加送料800円が発生致します!
2017.11.29
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下町バームクーヘン注文したやつが来たので食してみました。バームクーヘン切り落としメガ盛り(1kg)がっつり美味かったどす。昔はよく切り落としを地方スーパーで売ってたんだけどなあ……今じゃそういうのが店にならばない。しっとりやわらか、つい一枚一枚むいてしまいそうなんだよなあ……ふっ【楽天総合ランキング1位】【送料無料】バウムクーヘン メガ盛り2kg★バニラ500gと工場長のおまかせ1500g※バニラ500g×4の場合もございます! バウムクーヘン 沖縄、離島へのお届けは追加送料800円が発生致します! ホワイトデーにも
2017.11.17
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バウムクーヘン メガ盛り1kg★バニラ500gと工場長のおまかせ500g※沖縄、離島へのお届けは追加送料800円が発生致します!ですって!バームクーヘン バウムクーヘン メガ盛り1kgうううううこういうのって、職場に持ってって、仕事のあとで「食べて食べて」って類よね。ついでに言うとバウムクーヘンって端っこが美味いんだよね。更にいうと、おうちで食べるのには見栄えは必要ないんだよね!あと同じお店で、 4500円→1999円!11月11日~【送料無料】スーパージャンボクーヘン超ド級ビックサイズバームクーヘン!!7種の味から選べる3種セット!!訳アリではありません。1個500gの超ド級バームクーヘンが3つ入っています!※沖縄、離島へのお届けは追加送料800円が発生致します!クーポンを入手するのがポイントか……そう、ここで注意したいのは、ポイントを入手することなのだ……リンク先行くと、まず「2901円のクーポン」を入手することになってる。それを使うと、4500円のバームクーヘンが1999円!で買えるという次第だ!送料無料。これは……買って冷凍しておくことができるから、……1キロの端っこと……迷うな……まじで欲しいぞ……結構人気のあるスイーツってあなどれない。いや、先日↓買ったのよ。アップルパイ りんご リンゴ 【楽天ランキング1位★アップルパイセット】菓子 スイーツ デザー…アップルパイ りんご リンゴ 【楽天ランキング1位★アップルパイセット】菓子 スイーツ デザート ぽっきり モバすぐ来たのよ。直径15センチ、ちょっと薄型。……とりあへず半分(!)美味しくいただき。しばらくして更に半分……やや薄いから、思ったより量が少なかったというのはあるんだけど。それでもちゃんと上のパイ地はしっかりしているし、土台にはちゃんとりんごの美味しさが染みてるし。りんご自体は美味しかったし。それにおまけの抹茶パウンドとゆずケーキ、思ったよりは大きかったのよね。それで送料無し1000円なら……なあ。自分で紅茶入れれば元取れまくりじゃん!となってだな。このバウムクーヘンにも何となく指が動きつつあるワシであった。喰いすぎに注意、とは……言いたいけど……≪送料無料≫人が入れるびっくり箱☆誕生日会や結婚式の二次会を盛り上げるパーティーグッズ♪ サプライズボックス (SBX)Byサプライズファクトリー
2017.11.13
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こんにちは。さて今日はチーズケーキなんですが。チーズケーキは…… むずかしい。そして、多い!(Wiki)>チーズケーキ (cheese cake) は、チーズを使ったケーキ。温製のベイクドと湯煎焼きのスフレ、冷製のレアに大別されるあと、https://ameblo.jp/torkuchen/entry-11599019324.htmlに「ニューヨークチーズケーキ」の説明もありました。ワタシ的にはスフレとベイクドの中間的かな、という感じなんですが。とりあへず、クリスマスケーキ→雪→白の連想からですか、やっぱりレアが多いですね。フロマージュという名をつけたものも多いのは、フロマージュ・ブラン/白いチーズを使っているからではないかと。でまあここでは、スフレ→ニューヨーク→ベイクド→レア、形としてのタルト、最後に低糖質・アレルギー対応の順に探してみました。☆スフレスフレ チーズケーキスイーツ バースデーケーキ 誕生日ケーキ神戸スイーツ 記念日ランキング ポイント10倍 お返し 初盆 人気 2017 ^k 10P10Nov17 生ケーキ お返し【あす楽_土曜営業】【あす楽_日曜営業】 クリスマスケーキ ギフト お返し 冬スイーツ お歳暮【お取り寄せスイーツ】牧場スフレギフト『ウシンデレラすふれ(ビター)』【ホールケーキ4号・クリームチーズケーキ・クリスマス・バースデーケーキ・誕生日プレゼント】【楽ギフ_包装・楽ギフ_のし・楽ギフ_のし宛書・楽ギフ_メッセ・楽ギフ_メッセ入力】【P27Mar15】ウシンデレラすふれ(いちご)【送料無料】黄金たまごのチーズケーキ 4号×2個/お取り寄せ/通販/お土産/ギフト/クリスマスケーキ/お歳暮/御歳暮/☆ニューヨークチーズケーキ プレミアム濃厚NYチーズケーキ4号 スイーツ ギフト プレゼント クリスマスケーキ(5400円以上まとめ買いで送料無料対象商品)(lf)アウトレットミニ ニューヨーク クリスマスチーズケーキ 12cm豆腐チーズケーキ・ニューヨーク風 5号【クリスマスケーキ 2017】ベイクドチーズケーキ ニューヨークチーズケーキ ヘルシープレシャス・チーズ 5号 【清川屋のクリスマスケーキ チーズケーキ】【特製 クリスマスケーキ】濃厚チーズケーキ 直径15.5cm【クリスマス ケーキ チーズケーキ 冷凍ケーキ 大陸/cake tairiku お取り寄せ 通販】【RCP】☆ベイクドルタオ ヴェネチア ランデヴークリスマスケーキ ギフト ケーキ 贈り物 プレゼント 2017 クリスマス ベイクドチーズブリュレ タルト チーズタルト チーズケーキ ベイクドチーズケーキ スイーツ お菓子 北海道 お取り寄せ送料無料 奇跡のお試しセット♪黄金のチーズケーキ&濃厚ミルクシュー5(2個) スイーツセット ギフト プレゼント クリスマスケーキ(5400円以上まとめ買いで送料無料対象商品)(lf)ギフト 超濃厚プレミアム・チーズケーキ ポイント10倍 早割 送料無料 ランキング 神戸スイーツ【楽ギフ_メッセ入力】 ^k 2017 10P10Nov17 お返し クリスマスケーキ ギフト 冬スイーツ お歳暮★忘れられないチーズケーキ★【送料無料】 トロイカ ベークド チーズケーキ 5号(6人分)冷凍/ロシア料理店/チーズから手作り/お取り寄せ/通販/お土産/ギフト/クリスマスケーキ/誕生日ケーキ/ZIP!/す・またん/お歳暮/御歳暮/【クリスマスケーキ】ベイクドチーズケーキ ポイント10倍 5〜6人分 クリスマス2017(チーズケーキ)神戸スイーツ 2017 ^k 10P10Nov17 送料無料 生ケーキ 早期予約 ギフトxmas デコレーションケーキ ホールケーキ お歳暮バウムクーヘン チーズインザバウム ムッシュフロマージュ チーズケーキ ギフト プレゼント クリスマスケーキ(5400円以上まとめ買いで送料無料対象商品)(lf)【送料無料】神戸エビアン 港ベイクドチーズケーキ10個入り(約600g)【代引き不可】濃厚なクリーム/お取り寄せ/通販/お土産/ギフト/クリスマスケーキ/お歳暮/御歳暮/レアチーズケーキ チーズケーキチーズ4号サイズ ベイクドチーズケーキ お取り寄せ ギフト プレゼント クリスマスケーキ(5400円以上まとめ買いで送料無料対象商品)(lf)☆レア【クリスマスケーキ予約・2017】青山『ランス・ヤナギダテ』半熟チーズケーキ[送料無料]ルタオ 奇跡の口どけセット クリスマスケーキ お歳暮 ケーキ チーズケーキ レアチーズケーキ ベイクドチーズケーキ スイーツ お菓子 2017 クリスマス お歳暮ギフト にも 人気 お取り寄せ 北海道 お土産クリスマスケーキ 2017 素敵な夜をご提案 クリスマス限定バージョン 牧場のおじさんがとりこになった手作りレアチーズケーキ ワインにもピッタリ!【楽ギフ_包装】【楽ギフ_のし】【楽ギフ_のし宛書】【楽ギフ_メッセ入力】【あす楽対応】【送料無料】楽天ランキング1位☆2017年クリスマスデコレーションケーキ『レアチーズケーキ・5号15cm月夜のサンタ(ムーンライダー)』【クリスマスケーキ2016】【送料無料】 「クリスマスケーキ」【ネット限定】 「お祝い プレゼント」「ケーキ 冬」エッグノッグチーズケーキ【お歳暮にも】[11/30迄早割]フロム蔵王 ★★Xmas★★桃のレアチーズケーキ4号【送料込み】【クリスマスケーキ 2017 送料無料 予約】ノエルフロマージュ『デコ』(12cm・2〜3名様用)*チーズケーキ/ギフト/通販/クリーム/グレゴリーコレ【RCP】[予約受付中]クリスマス 2017 ケーキ お取り寄せ☆【送料無料】大納言レアチーズケーキ ホールサイズ18cmクリスマスケーキ チーズケーキ 生クリーム 洋菓子 ホール パーティ 楽ギフ_包装 楽ギフ_のし【御菓子司こぎく楽天市場店】送料無料 ハートの可愛すぎる 萌え断ケーキ フルーツケーキ 西内花月堂 萌えるほどに可愛い断面のケーキ クリスマスケーキ かわいい 〔 クリスマス 誕生日 バースデーケーキ 誕生日ケーキ お祝い お礼 お返し 贈り物 スイーツ お菓子 ケーキ 〕ケーゼザーネトルテ レアチーズケーキ(冷凍) 12cm プレート付 お誕生日ケーキ デザート お取り寄せスイーツ バースデーケーキ イベント用ケーキホールケーキクリスマスケーキパーティ 洋菓子 CasaMingo(カサミンゴー)*ドゥーブルフロマージュ(二層のチーズ)【クリスマスケーキ】ドゥーブルフロマージュ ポイント10倍 3〜4人分 クリスマス2017(チーズケーキ)神戸スイーツ 2017 ^k 10P10Nov17 送料無料 生ケーキ 早期予約 ギフトird-xmas お歳暮クリスマスケーキ【早割12月8日09:59迄】【送料込】楽天1位天使のドゥーブルフロマージュ【smtb-T】【お歳暮】【あす楽13時迄】【クリスマス】【クリスマスケーキ】【お祝】【内祝】【誕生日】【婚礼】クリスマスケーキ【送料込み】【あす楽】楽天1位クリスマス限定天使のドゥーブルフロマージュ5号【smtb-T】【クリスマス】【クリスマスケーキ】【プレゼント】2種類のチーズ【ドゥーブルフロマージュ】(Wチーズ)バースデーケーキ 誕生日ケーキ 内祝い ポイント10倍 2017 送料無料 ^k 10P10Nov17 神戸スイーツ お返し クリスマスケーキ ギフト 冬スイーツ お歳暮【クリスマスケーキ】【送料無料】【予約】【人気】チーズケーキ『ハートのドゥーブルフロマージュ』・14cm/ジョリーフィス・広島/送料込/早割/クリスマス/2017/数量限定/メリーベリーレア 5号 【清川屋のクリスマスケーキ フランボワーズ×クリームチーズのムース【送料無料】クリスマスケーキ・3層のチーズケーキデコレーション【数量限定】【冷凍】但し沖縄北海道+600円*二段デコレーションクリスマスケーキ 2017 デコレーションケーキ パーティー用2段デコレーション 6号サイズ+4号サイズ2段 チーズケーキ ギフト プレゼント 予約 早割 早期割引(11月27日14時まで早割)*果物系かご盛レアチーズベリークリスマス 北海道 わらく堂 スイートオーケストラ【送料無料】チーズケーキ 5種のベリー贅沢レアチーズ (約280g)×2/お取り寄せ/通販/お土産/ギフト/クリスマスケーキ/お歳暮/御歳暮/《送料無料》シュス木苺レアチーズケーキ(冷凍) 20cm プレート付 お誕生日ケーキ デザート お取り寄せスイーツ バースデーケーキ イベント用ケーキホールケーキクリスマスケーキパーティ 洋菓子 CasaMingo(カサミンゴー)《送料無料》ハート型シュス木苺レアチーズケーキ(冷凍) 36cm お誕生日ケーキ デザート お取り寄せスイーツ バースデーケーキ イベント用ケーキホールケーキクリスマスケーキパーティ 洋菓子 CasaMingo(カサミンゴー)結婚式パーティウェディングケーキ美味しいおいしい☆タルト[11/30迄早割]★Xmas★ずっしり!タルト・フロマージュ【送料込み】クリスマス チーズケーキ クリスマスケーキ◆でぶのもとチーズタルト(14cm)◆ サクとろ禁断のタルト ちーず チーズタルト【2017クリスマス】【チーズタルト】【チーズケーキ】【お取り寄せチーズケーキ】【クール便/冷凍配送】チーズケーキ 濃厚チーズタルトプレミアム 巨大7号サイズ ベイクド フロマージュ ギフト プレゼント クリスマスケーキ(5400円以上まとめ買いで送料無料対象商品)(lf)レアチーズ 濃厚レアチーズタルトプレミアム 巨大7号サイズ フロマージュ ギフト プレゼント クリスマスケーキ(5400円以上まとめ買いで送料無料対象商品)(lf)☆ローフード系クリスマスケーキ【早割12月8日09:59迄】クーポン利用で300円OFF【ポイント2倍】【送料込】低糖質レアチーズケーキ【smtb-T】【お祝】【内祝】【クリスマスケーキ】【誕生日】【婚礼】【糖質制限ケーキ】【送料無料】【予約注文受付中】2017年度限定クリスマスケーキならローホワイトタルト♪これぞ究極のアイスケーキ♪チーズケーキみたいだけど白砂糖・乳製品は使っていません。無添加でアレルギー対応!《お買物合計税別10,000円(税込10,800円)以上で送料無料!》☆ローケーキ ラズベリー レアチーズケーキ 【Mサイズ】【冷凍便】|ローフード ヴィーガン グルテンフリーケーキ(スイーツ)クリスマスケーキやバレンタインデー等のプレゼントにも!ローケーキ オレンジ&カルダモン チーズケーキ 【Mサイズ】【冷凍便】|ローフード ヴィーガン グルテンフリーケーキ(スイーツ)クリスマスケーキやバレンタインデーやお誕生日プレゼントにも!チーズケーキは上に何か飾るということが少なそうですけど、お皿やテーブルによってお洒落にも可愛くもできますねvスフレのふわふわの上に乗せたら潰れそうでかわいそう……だからこそ大人のデザートってことになるのかな?
2017.11.10
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こんにちは。さて、チョコレートケーキです。多いよ! 何が多いって、種類ですわ!チョコレートケーキと言えば単純だけど、ザッハトルテもキルシュもオペラもチョコムースもフォンダンショコラもガトーショコラも全部チョコレートケーキですがな。ということで、「何処の」由来なのか上げて並べてみましょ。ワタシもちゃんと知りたい。なお健康に留意した低糖系は最後にまとめたので飛ばしてGo。そしてサイズに注意。基本5号ホールが多いのですが、違うものもあります。☆ザッハトルテ>(Wiki)こってりとした濃厚な味わいを特徴とする、ウィーンのホテル・ザッハーの名物菓子であり、チョコレートケーキの王様と称される。・「こってり」「オーストリア/ウィーン」がキーワードなんですね!【Xmas早割】8万個完売!半熟ザッハトルテ 濃厚チョコレートケーキ(おのし・包装・ラッピング不可)【クリスマスケーキ】【チョコレートケーキ】【送料無料】【クリスマス】【ケーキ】【ザッハトルテ】【ザッハトルテ】甘さ控えめオレンジ風味のチョコレートケーキ バースデーケーキ 誕生日ケーキ・内祝いに人気 神戸スイーツ ポイント 倍 2017 ^k 10P04Nov17 お返し【あす楽_土曜営業】【あす楽_日曜営業】 クリスマスケーキ ギフト お歳暮【クリスマスケーキ】ザッハトルテ ポイント 倍 送料無料 8〜10人分 クリスマス2017(チョコレートケーキ)神戸スイーツ 2017 ^k 10P04Nov17 生ケーキ 早期予約 ギフト xmas お歳暮【Xmas早割】6号・クリスマス半熟ザッハトルテ【おのし・包装・ラッピング不可】【クリスマスケーキ】【クリスマス】【ケーキ】【2017】【送料無料】【チョコレートケーキ】【トナカイ】ザッハトルテ【送料無料】バースデーケーキ クリスマスケーキ 誕生日ケーキ バースデー ケーキ 誕生日 [凍]ホールケーキ チョコギフト《送料無料》ウィーンの銘菓ザッハートルテ(冷凍) 26cm プレート付 誕生日ケーキ デザート お取り寄せスイーツ バースデーケーキ イベント用ケーキ ホールケーキ ザッハトルテ クリスマスケーキ パーティ バレンタイン 洋菓子 CasaMingo(カサミンゴー)【クリスマスケーキ】【送料無料】抹茶のザッハトルテ・15cm/ジョリーフィス・広島/チョコレートケーキ/送料込/早割/クリスマス/2017/数量限定/送料無料★濃厚チョコたっぷり♪無添加生チョコケーキ・ザッハフレンズ5号(ホール)チョコレートケーキ・クリスマス☆オペラ(Wiki)>オペラ(フランス語: Opéra)は、フランス発祥のケーキである。グラン・マルニエまたはコアントローのシロップをしみ込ませたビスキュイ・ジョコンド(fr:biscuit Joconde)という生地に、ガナッシュ、コーヒーのバタークリーム( fr:crème au beurre)、もしくはモカシロップで層を作り、チョコレートで覆った物を言う。・洋酒を染み込ませた生地とクリームが七層に重なりチョコレートで覆ったケーキなんですね。クリスマスケーキ 予約 送料無料 ランキング1位★黄金のオペラ チョコレートケーキ●送料無料 お試しセット チョコレートケーキ&ロールケーキ【ハーフ】オペラ&マスカルポーネ巻 誕生日ケーキ神戸スイーツ 訳あり ポイント 倍 2017 ^k 10P04Nov17 お返し【あす楽_土曜営業】【あす楽_日曜営業】 クリスマスケーキ ギフト お返し お歳暮濃厚チョコレートケーキ【オペラ】バースデーケーキ 誕生日ケーキ 内祝い 送料無料 神戸スイーツ ランキング ポイント 倍 2017 ^k 10P04Nov17 お返し【あす楽_土曜営業】【あす楽_日曜営業】 クリスマスケーキ ギフト お返し 冬スイーツ お歳暮☆シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ(Wiki)>シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ(ドイツ語: Schwarzwälder Kirschtorte)は、ドイツの菓子。「黒い森のサクランボ酒ケーキ」を意味する。オーストリアやスイスでも作られる。フランス語でガトー・ド・フォレノワール (gâteau de forêt noire)(訳意は同じ)とも言い、日本では単にキルシュとも呼ばれる。・キルシュってそういうフルネームだったんですか!シュヴァルツベルダー キルシュトルテ(冷凍) 15cm プレート付 お誕生日ケーキ デザート お取り寄せスイーツ バースデーケーキ イベント用ケーキ 洋菓子ホールケーキクリスマスケーキパーティ CasaMingo(カサミンゴー)☆フォンダンショコラ(Wiki)>フォンダン・オ・ショコラ(フランス語: fondant au chocolat)は、フランスのチョコレートケーキである。(中略)中心にガナッシュを入れるため内部がチョコレートソース状になっている。・中身がとろっと溶けるタイプ……だから小型で食べる前に温めることが多いのか!チョコレートケーキ【フォンダンショコラ】4個入り バースデーケーキ・誕生日ケーキ・ ・内祝いに人気 神戸スイーツ ポイント 倍 2017 ^k 10P04Nov17 お返し クリスマスケーキ ギフト 冬スイーツ お歳暮☆パリブレスト(Wiki)>パリ・ブレストは、1891年に自転車レースパリ・ブレスト・パリの開催を記念して考案された自転車の車輪の形をした菓子として知られている。(中略)1909年にパリとブレストを結ぶ鉄道の開通を記念して考案された菓子を起源とする異説もあり、2つの都市の間を走る列車の中でパリ・ブレストが売られていたという。(中略)パリ・ブレストで決まっているのは、リング状のパイ・シュー菓子というだけで、細かい制作方法は決まっていない。クリスマスケーキ 2017 チョコレートケーキ イチゴとダブルショコラのパリブレスト5号サイズ ギフト プレゼント 予約 早割 早期割引(11月27日14時まで早割)クリスマスケーキ 2017 チョコレートケーキ イチゴと宇治抹茶ショコラのパリ・ブレスト5号サイズ ギフト プレゼント 予約 早割 早期割引(11月27日14時まで早割)【Xmas早割】11層・魅惑のパリブレスト クリスマスケーキ チョコ 2017 予約 5号サイズ チョコレートケーキ ギフト プレゼント お取り寄せ ショコラケーキ 送料無料 お菓子 おかし スイーツ デザートクリスマスケーキ 2017 チョコレートケーキ ショコラ・デ・パリブレスト・プディング5号サイズ ギフト プレゼント 早割 早期割引 予約 (11月26日まで早割)以下は格別名がついているわけではないですが、形や製法で分けてみました。☆チーズケーキ系ルタオ 奇跡の口どけセット ショコラスペシャル クリスマスケーキ お歳暮 ギフト チョコレートケーキ チーズケーキ ケーキ スイーツ お菓子 お取り寄せ ギフト プレゼント 2017 クリスマス 北海道誕生日ケーキ クリスマスケーキ チョコレートケーキ 送料無料★フロマージュ・ショコラ・リッチェ★【ローソク・プレート・手紙付】チョコレート お取り寄せ バースデーケーキ スイーツギフト☆ティラミス系【クリスマスケーキ】ティラミス・ショコラ ポイント 倍 3〜4人分 クリスマス2017(チョコレートケーキ)神戸スイーツ 2017 ^k 10P04Nov17 生ケーキ 送料無料 早期予約 rd-xmas お歳暮クリスマスケーキ 2017 チョコレートケーキ スイーツデコ・ショコラティラミス5号サイズ ギフト プレゼント 早割 早期割引 予約 (11月26日まで早割)☆ムース系【クリスマスケーキ】マロン&カシスムース ポイント 倍 送料無料 5〜6人分 5号 クリスマス2017(チョコレートケーキ)神戸スイーツ 2017 ^k 10P04Nov17 送料無料 生ケーキ 早期予約 rd-xmas デコレーションケーキ ホールケーキ お歳暮クリスマスケーキ 2017 チョコレートケーキ くまのマカロン ショコラムースケーキ5号サイズ ギフト プレゼント 予約 早割 早期割引(11月27日14時まで早割)ダブルショコラ チョコムースケーキ 5号【クリスマスケーキ 2017】【送料300円】※四国・中国・九州は送料800円、沖縄は配送不可【予約】【限定】【人気】チョコレートケーキ☆形が可愛い系クリスマスケーキ 2017 チョコレートケーキ 立体ケーキ トナカイのショコラケーキ 3Dケーキ ギフト プレゼント 早割 早期割引 予約 (11月26日まで早割)【クリスマスケーキ】【送料無料】【予約】【人気】チョコレートケーキ『クリスマスツリーのチョコケーキ』・20cm/プーテゥジュール・広島/チョコレートケーキ/送料込/早割/クリスマス/2017/数量限定/☆二段デコレーションクリスマスケーキ 2017 チョコレートケーキ パーティー用2段デコレーションショコラケーキ 6号サイズ+4号サイズ2段 ギフト プレゼント 早割 早期割引 予約 (11月26日まで早割)☆果物たっぷり系【クリスマスケーキ予約・2017】「銀座千疋屋(せんびきや)」ベリーのチョコレートケーキ【送料無料】《送料無料》ヴァルトベーレ 木苺チョコレートケーキ 季節限定品(冷凍) 26cm プレート付 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2017.11.09
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こんにちは。連日ケーキ検索していると、……種類も店も多いなー、と思います。……ので今日はもう典型的な「おうちで家族で囲む生クリームデコレーション」系を!そう、あの食卓の真ん中において、ロウソク立てて、切り分けに苦労したりする……でも生クリームが! いちごが! ふんわりスポンジが……そんな日本のクリスマスではオーソドックスなタイプを!【送料無料】楽天ランキング1位☆2017年クリスマスデコレーションケーキ『フルール・ベリー5号15cm』「クリスマスケーキ」【苺の生デコレーションケーキ】 「ケーキ 冬」「クリスマス フルーツケーキ」「クリスマス ショートケーキ」いちごに苺!中に挟まるクリームもいちご入り!そして何と言ってもそのクリームが……5号(直径15センチ)4380円/6号(18センチ)4980円。送料無料 生クリームフルーツケーキ 6号 誕生日 フルーツたっぷり バースデー 誕生日 スイーツ ギフト クリスマス2017フルーツデコレーションのケーキに、チョコレートのメッセージプレートがつけられます。【クリスマスケーキ予約・2017】生クリーム苺デコレーションケーキ5号【パティスリー『TakaYanai』】[送料無料]【送料無料】楽天ランキング1位☆2017年クリスマスデコレーションケーキ『雲の上のサンタ・ベリー5号15cm』【クリスマスケーキ2017】【苺の生デコレーションケーキ】 「ケーキ 冬」「クリスマス フルーツケーキ」「クリスマス ショートケーキ」雲の上のサンタ、という名の通り、雪の上にサンタがやってきたような。チョコレートもプレゼントやおつまみにいかが?【クリスマスケーキ】jamデコ生クリームケーキ5号人気クリスマスケーキ2016/15cm【送料無料】北海道・沖縄別途600円創業37年。何処か昭和の香りも感じさせるデコレーション!にぎやかなオーナメントの中の苺人形も可愛いv生クリームデコレーションケーキ 5号 送料無料 バースデーケーキ クリスマスケーキ [凍]直径15cm 誕生日ケーキ 誕生日 バースデー ケーキ ホールケーキ 子供 かわいいいちごサンドスポンジと生クリームを8層にした土台の上にはむくむくのデコレーションと選べる飾りが嬉しい一品です。【7号サイズ】クリスマスジュエリー(クリスマスケーキ)(クリスマス ケーキ フランボワーズ ラズベリー スイーツ お菓子 ギフト 予約 2017 吉祥庵 京都 お取り寄せ 生クリーム いちご かわいい 冷凍 配送)【kka-gp】x177号サイズ、直径20センチに注意!珍しいフランボワーズ中心のベリーと生クリームのケーキ。お洒落で、甘すぎない大人の味かも。クリスマスケーキ 2017 送料無料 ※一部地域を除くひつじのショーンのクリスマスケーキキャラクターケーキ ギフト 生クリーム Xmasロールケーキ お取り寄せ 手土産 誕生日 お祝 スイーツ 限定見たまんま!ひつじのショーンがお好きな方はいかがですか?【クリスマスケーキ】【 本州送料無料】 「ホワイトベリー 」15cm 5号サイズ ショートケーキ 生クリーム 苺ホールケーキ Xmas ギフト3種のベリーと、甘さ控えめの滑らかなクリームが人気のケーキ! 感動の声も数々。送料無料 メリーゴーランド クリスマスケーキ 6号 サンタ マカロン / 2017 早割 予約 キャラクター 飾り クリスマス ケーキ クリスマスケーキ2017 ショートケーキいちご クリスマスショートケーキ可愛らしいころころマカロンと、家族の写真やメッセージが入れられるチョコプレート……みんなで飾りつけのできるケーキです。2017生クリームをたっぷり使用したイチゴ生クリームクリスマスケーキ!6号::145(Xmasケーキ あす楽)シンプル! 材料にはこだわりあり! ここでは6号ですが、2~3人用の4号もあります。マカロンエンゼル 【クリスマスケーキ2017】 生クリームケーキ5号 苺クリーム入り【送料300円】※四国・中国・九州は送料800円、沖縄は配送不可【予約】【限定】【人気】エンゼル型シフォンケーキにたっぷりのクリーム。真ん中に苺クリームとサンタ。そして可愛いマカロンを飾って。ちょっと懐かしい味かも……【クリスマスケーキ2017 先行予約】クリスマスバージョン!生クリーム苺デコレーション 3号サイズ(1名様)【バースディ】【バースデーケーキ 誕生日ケーキ デコ】【クリスマス限定】::145(あす楽)これはおひとり様用の3号ケーキ。自分のためだけのクリスマスケーキもいいよね!クリスマス限定・仮面ライダービルド2017・ピンク色の生クリーム苺・キャラデコクリスマスケーキ・サンタクロースフルボトル付き(おたんじょうび用に変更できます)クリスマス限定・妖怪ウォッチ2017・ピンク色の生クリーム苺・キャラデコクリスマスケーキ・妖怪メデタイメダル2017クリスマスver.付き(おたんじょうび用に変更できます)クリスマス限定・キラキラ☆プリキュアアラモード2017・チョコ生クリーム苺・キャラデコクリスマスケーキ・アニマルスイーツしろくまノエル付き(おたんじょうび用に変更できます)クリスマス限定・宇宙戦隊キュウレンジャー2017・ピンク色の生クリーム苺・キャラデコクリスマスケーキ・クリスマスキュータマ付き(おたんじょうび用に変更できます)キャラデコケーキ。お子さんの好きなキャラのケーキなんていかがですか?卵不使用ケーキ【イチゴシーズン限定】キャラデコクリスマス 妖怪ウォッチ2017 5号 15cm 生クリームショートケーキ卵不使用ケーキ キャラデコクリスマス 仮面ライダービルド 5号 15cm 生クリームショートケーキ卵不使用ケーキ キャラデコクリスマス キラキラ☆プリキュアアラモード 5号 15cm 生クリームショートケーキ卵不使用ケーキ【イチゴシーズン限定】キャラデコクリスマス 宇宙戦隊キュウレンジャー 5号 15cm 生クリームショートケーキ同じキャラデコでもこちらは卵アレルギー対策仕様です。皆楽しいクリスマスが送れるといいな。苺やベリーと生クリームのケーキっていうのは、同じように見えやすいんですよね。だからこそ、生クリームやスポンジの美味しさが問われるんですが。ワタシの子供の頃は見かけこそそれでしたが、まだ重く甘いバタークリーム満載にゼリーでできた苺や、苺ならぬチェリーのものでした。(今のバタークリームと比べ物にならない……)生クリームを初めて食べたのはシュークリーム。今はふわふわこだわり生クリームと大きないちご、できれば楽しい飾りつけがあるのはいいですね。でもちょっと昭和のホイップの仕方も懐かしいかも。
2017.11.08
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こんばんは。さて今日は目にも鮮やかなタルト!本日のクリスマスケーキ予約/タルト!タルトはいいですね~何がいいかって、果物のしっとり感と、クッキー台のさくさく感のこのバランス! 豪華で大量に見えたとしても、案外さっぱりしていて「……も、もう一個」と言いたくなるような。ということで、今日のクリスマスケーキ予約はタルトです。モンブランは除外しました。これはこれで結構あるので……なお、サイズにはご注意を。パティスリー 銀座千疋屋 銀座タルト(フルーツ) PGS-144 【送料無料】 【クリスマスケーキ】 【フルーツ】 【タルト】 【お中元】 【お歳暮】 【内祝】 【ホワイトデー】 【御祝】 【母の日】まずはこれ! 千疋屋といえば高級果物の老舗!果物をふんだんに使ったタルトにはうっとり…… パティスリー 銀座千疋屋 銀座タルト(洋梨) PGS-023 【送料無料】 【クリスマスケーキ】 【フルーツ】 【タルト】 【お中元】 【お歳暮】 【内祝】 【誕生日】 【母の日】 【御祝】同じ店でも、こっちは洋梨のタルト。みっしり敷き詰められた洋梨がたまんない。パティスリー 銀座千疋屋 銀座タルト(マンゴー) PGS-053 【送料無料】 【クリスマスケーキ】 【マンゴー】 【タルト】 【お中元】 【お歳暮】 【内祝】 【誕生日】 【母の日】 【御祝】更にマンゴー。マンゴーのカット、でかっ! マンゴー好きにはたまんないです。クリスマスケーキ 3種のベリータルト イチゴのタルト 直径15cm甘みと酸味と華やかさ……買わないとしてもこのページのベリーの積み方見て欲しい! 凄くおいしそう……クリスマスケーキ 2017 フルーツタルト イチゴごろごろタルトケーキ5号サイズ ギフト プレゼント 予約 早割 早期割引(11月27日14時まで早割)ともかくいちご! しっかりとした生のいちご、上にはいちごのジュレ、下で支えるのはふわふわスポンジ、更にこだわりのカスタード…… 口に入ったときの感触も想像できそうな……【早期予約割引・送料無料】☆2017年限定プレミアムクリスマスデコレーションタルト『たっぷりフルーツタルト・6号18cm』 「クリスマスケーキ」【ネット限定】 「お祝い プレゼント」「ケーキ 秋」「ケーキ 冬」「クリスマス フルーツケーキ」少なくとも8種類のフルーツをふんだんに使っての豪華なタルト。お店ではチョコレート中心のスイーツギフトもおすすめしてます。プレゼントにいいかも。PCエントリーでP10倍 クリスマスケーキ 2017 予約 送料無料 フロ プレステージュ パリ 6種のフルーツタルト のし・包装不可 PCエントリーで ポイント10倍 (12月1日9時59分迄)桃、三種のベリー、オレンジ、マンゴーのスペースが分かれてるから、お好みによって切り分けることができそう。六つのタルトを楽しむことができます。カリーノCHIZZA〜フルーツカスタードタルト〜【240_X】何ってことでしょう。この溢れそうなフルーツは。苺はあまおう。ベリーがはみ出そうにごろごろと。このお店自体には、ペットと一緒に食べられるケーキやキャラケーキもあります。【Xmas早割】ピスタチオと苺のツリータルト(おのし・包装・ラッピング不可)【クリスマスケーキ】【クリスマス】【ケーキ】【送料無料】【ツリー】【2017】【新作】【ピスタチオ】【苺】これは苺とピスタチオのムースのタルト。淡い緑のクリームはツリーをイメージして、見るからに華やか! このタルトの上には可愛いロウソクとオーナメントがよく似合います。【Xmas早割】焼りんごのプリンタルト(おのし・包装・ラッピング不可)【クリスマスケーキ】【送料無料】【クリスマス】【ケーキ】【タルト】【シブスト】【りんご】【シブースト】ムースの次はプリン。ふわふわ焼きプリンの下にはカスタードクリームとりんごのソテー、それにアーモンド生地。シブーストをクリスマスケーキのタルトにしてみたとのこと。ベイクドアルル メリーベリー レアチーズ タルト セット 【12/16より順次発送-12/4AM締切】【期間限定 ・ 数量限定 ・ わけあり】【送料無料】【産地直送】【ご当地グルメ】クリスマス クリスマスケーキ 予約 2017ベイクドアルル クリスマス 5種のベリー レアチーズ タルト セット 【12/16より順次発送-12/4AM締切】【期間限定 ・ 数量限定 ・ わけあり】【送料無料】【産地直送】【ご当地グルメ】クリスマス クリスマスケーキ 予約 2017北海道のベイクドアルルの二種類のレアチーズタルト。ふわふわだけど濃厚なチーズクリームを選ぶか……たっぷりベリーを選ぶか……それが問題ですね。[11/30迄早割]★Xmas★ずっしり!タルト・フロマージュ【送料込み】いやもう一度飛んで、本当に説明見てほしい……断面のこの濃い、濃ゆいチーズケーキ!ほんの少しだけでも口もアタマも満足できそうな濃厚さが想像できてしまいます……チーズケーキ以外にもカスタードシュー等もありますのでそちらもおすすめ。【送料無料】【早得11/30までポイント10倍】小岩井農場クリスマスケーキ5号【ドゥーブルフロマージュタルト スイーツ ギフト 】はちみつを使ったベイクドチーズケーキに小岩井農場のチーズクリームをふんわり。お店ではチーズやアイスクリームも取り扱ってます。そしてカレーもw送料無料 クリスマスケーキ 予約 安納芋使用 チーズケーキタルト スイーツ お取り寄せ 人気 お祝い ケーキ●チーズケーキタルトなんですが、その上に濃厚だけど優しい甘みの安納芋のクリーム。モンブランとチーズケーキのどっちの美味しい部分もいただけるかも。クリスマスケーキ 2017 送料無料 フルーツタルト いちごショコラタルト 6号サイズ ギフト プレゼント 早割 早期割引 予約(11月26日まで早割中)さてこれはいちごとチョコレートのタルト。ぽこぽこした飾りに見えるのは、チョコがけしたプチシュー。その下に甘酸っぱいいちごを敷き詰め、更にその下にはふんわりじんわりチョコムース。更にその下には濃厚ガトーショコラ。どうだ!と言わんがばかりの勢いです。【送料無料】北海道 「ミックスベリータルト&木苺プリン」 /お取り寄せ/通販/お土産/ギフト/クリスマスケーキ父の日/これはミックスベリーのタルトとプリンのセット。お店の方ではパーティのご馳走に入れられそうなものも見つかるかも?【送料無料】【予約注文受付中】2017年度限定クリスマスケーキならローホワイトタルト♪これぞ究極のアイスケーキ♪チーズケーキみたいだけど白砂糖・乳製品は使っていません。無添加でアレルギー対応!《お買物合計税別10,000円(税込10,800円)以上で送料無料!》☆ローチョコレートタルト!乳製品不使用、アレルギー対応のタルトが幾つも紹介されています。内容説明ご確認のうえ、一度お試しを……【クリスマスケーキ予約・2017】ジェラート専門店「キャナレット(Canaletto)」キャッスルショコラ・ジェラートタルト(ジェラートケーキ・アイスケーキ)【送料無料】最後のタルトはジェラート。外は木枯らし、中はあたたかーい部屋で。そこで冷たいアイス。わいわいと溶けないうちに食べるジェラートも乙なもの。ああ、いいなあ……(うっとり)
2017.11.07
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こんにちは。アソートの次はブッシュ・ド・ノエルを探してみました。と言っても、何か幅広いですね……ロールケーキのくくりに入ってる場合もあるし、如何にもおフランス!もあるし。ともかくこういう感じです。↓本日のクリスマスケーキ予約/ブッシュ・ド・ノエル! どうやらチョコレートケーキ系が基本のようですね。あ、最後に例外も少し。【クリスマスケーキ】ブッシュ・ド・ノエル ポイント10倍 5人分 クリスマス2017(チョコレートケーキ)神戸スイーツ 2017 ^k 10P04Nov17 送料無料 生ケーキ 早期予約 ギフト rd-xmas デコレーションケーキ お歳暮その意味ではこれは正統派かな。可愛いオーナメントつき。クリスマスの気分を盛り上げてくれそう。【クリスマスケーキ】ブッシュドノエル ポイント10倍 5人分 クリスマス2017(チョコレートケーキ)神戸スイーツ 2017 ^k 10P04Nov17 送料無料 生ケーキ 早期予約 ギフト ird-xmas お歳暮甘さ控えめ。アイスクリームやフルーツを添えて、大人っぽい盛り付けがいいかも。クリスマスケーキ 2017 予約 生チョコ ブッシュドノエル ☆12/20日(水)〜12/22(金)お届け限定☆行列の出来る大人気洋菓子店のケーキ!〇クリスマスケーキ ブッシュ・ド・ノエル♪お子様も一緒に楽しめます!ロールケーキ☆注:代金引換ご利用不可「お子様とも一緒に楽しめる味わい」。優しい味のようですね。送料は別なので注意が必要。クリスマス・ブッシュドノエル【ファミリークリスマスケーキ ブッシュ・ド・ノエル 5〜6名様 】クリスマスケーキ 栗 ココア 生クリームここでは6~8名のファミリータイプが出てますが、このお店では一回り小ぶりなミディアムサイズ、またミディアムとシュトーレンとのセットも注文可能です。栗が入っているのがポイントかと。ブッシュ・ド・ノエル 1本 / 新杵堂 [ クリスマスケーキ ]和菓子やさんのブッシュ・ド・ノエル。ふんだんに使われたふわふわ和栗クリームがポイントですね。送料別ですが、早割があるようです。【クリスマスケーキ予約・2017】ブッシュ・ド・ノエル ミニ(ブッシュドノエル)【パティスリー『TakaYanai』】[送料無料]【クリスマスケーキ予約・2017】ブッシュ・ド・ノエル(ブッシュドノエル)【パティスリー『TakaYanai』】[送料無料]上のは「ミニ」。二人用サイズのブッシュドノエルです。下のはファミリー。つやつやしたチョコレートに、何層にも重なった生地といちご入りクリーム。上に乗ったフランボワーズの酸味も暖かい部屋できゅっと効いてくれるかも。【クリスマスケーキ】【送料無料】【予約】【人気】ブッシュドノエル・ショコラ・19cm/カトルフィユ・広島/チョコレートケーキ/送料込/早割/クリスマス/2017/数量限定/どっしりショコラスポンジの中にはチョコレートクリーム。ナッツをちりばめて、可愛いオーナメント。家族でもいいし、仲間内パーティにもいいかも。【クリスマスケーキ】【送料無料】【予約】【人気】ロールケーキ専門店のクリスマスロール・ショコラ・16cm/クルル・広島/チョコレートケーキ/送料込/早割/ブッシュドノエル/クリスマス/2017/数量限定/チョコレート三層のロールケーキ! がっつりとチョコレートを楽しみたい方にはお勧め。飾りつけのかわいらしさもポイント。クリスマスケーキ 送料無料 ※一部地域を除く 2017 予約クリスマスプランタンヌーボー楽天ランキング8年連続第1位フルーツロールのクリスマス限定ロールケーキブッシュドノエル デコレーションケーキ 苺 フルーツ 生クリーム サンタ ヒイラギ ケーキさてここでフルーツ系が!チョコレートのはちょっと……という方には形はブッシュドノエル、中身はさっぱりフルーツロール、というものはどうでしょう。ロースイーツ専門店【Raw&Raw】ローケーキ ローブッシュドノエル(ロールタイプ) グルテンフリーでヘルシーに♪ 50個限定&送料無料!さてこれは見出しにもあるように、グルテンフリーのブッシュドノエル。非加熱、小麦、米粉も不使用。生のまま食べられる食材中心とあります。美味しいものはどんな時でも欲しいと思ってしまいますよね…… 特にイベント時は。【送料無料】ブッシュドノエル♪クリスマス限定アレンジ! 花 プリザーブドフラワー 誕生日 結婚祝い お見舞い 記念日 あす楽 ギフト 枯れないお花 話題 プリザ ケース入り プレゼント ランキング クリスマス最後は本物のケーキではなく、プリザーブフラワーのブッシュドノエルタイプ。可愛いから贈り物の一つのアイデアとしていいかも。**個人的にはよしながふみの「西洋骨董洋菓子店」に出てきた・「何ってことない普通のショートケーキを巻いた」もの・「バタークリームのお一人様用」が凄く美味しそうだったので、特に後者みたいのがあればなあと思ってました……ふっ。
2017.11.06
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こんにちは。そういえばハロウィン終わってました。ぎゃー。……ときたら、クリスマスケーキの予約最前線シーズンですね。自分の目の保養兼ねて、しばらく毎日特集をば。で最初はこれ。今まであんまり見たことがなかった「アソートケーキ」。クリスマスケーキと言えば無論あれですよ。大きなケーキを皆で切り分けて~「ちょっと待ってこっちが大きいわ」「いちごのとこ~」「チョコプレートは僕がっ」とかなるサザエさん的世界を想像してしまうんですが。こういうの、あったんですね。―――というワタシの驚きとともに。クリスマスケーキ 2017 アソートケーキ 禁断のパーティーアソート(6種類)6号サイズ ギフト プレゼント 予約 早割 早期割引(11月27日14時まで早割)本日のクリスマスケーキ予約/アソートケーキ!こういう感じに、幾つものケーキをとりまとめて1ホールにするタイプをご紹介。銀座コージーコーナー クリスマスアソート(6号)おなじみコージーコーナー。あそこのショウウインドウの「みっしり」感は凄いですわ。どれ選ぼうか凄く迷う。PCエントリーでP10倍 クリスマスケーキ 2017 予約 送料無料 五島軒 ショコラケーキアソート のし・包装不可 PCエントリーで ポイント10倍 (12月1日9時59分迄)五島軒といえば函館~おみやげのお菓子~とカレーの店のWEB本店もあるんですが。チョコレートケーキ!で有名なとこですからですね。チョコレートケーキのアソートどす。濃厚……あ、普通のお菓子とかカレーが欲しい方はぜひ本店へ~ほっかいどういきたい。 クリスマスケーキ予約 2017年新作!4種のアソートケーキ チョコレートケーキ ラズベリー モンブラン スフレチーズケーキ●ここのケーキはふわふわ系。スフレチーズやチョコケーキ。どれにもお芋のクリームが入っているのがこのお店の特色みたい。クリスマスケーキ 送料無料 2017 予約 人気 チーズケーキ カットサイズ6個セット クリスマス スイーツ ギフト バラエティ アソート 訳あり sweets gift おためし cheesecakeここは色んな種類のチーズタルト6種。セット内容が選べるということなんで、好きなもの二つ三つ重ねてもいいってことで。クリスマスケーキ 2017 アソートケーキ 禁断のパーティーアソート(6種類)6号サイズ ギフト プレゼント 予約 早割 早期割引(11月27日14時まで早割)最初の例の。禁断の!チーズケーキ×4、チョコレートケーキ×2のアソート。禁断……そそる言葉だ。 クリスマスケーキ 2017 アソートケーキ 4種類のパーティーケーキアソート6号サイズ ギフト プレゼント 予約 早割 早期割引(11月27日14時まで早割)ここはムースケーキが中心!ふわふわのムース、チョコ、カシス、マンゴーのムースと、レアチーズケーキ。ごめんこれちょっとクリスマスでなくて普通で欲しいです……や、でも結構全部違うタイプのアソートで楽しいな。家族友人で分けてよし、ワタシのようなお一人様の場合には冷凍効くんでお正月まで楽しめるかもしれまへんわ~
2017.11.05
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ジャスティスはバーディを担いだまま、スペイドの後に付いて行く。すると次第に、それまでは山とも谷とも知れない、ただ岩ばかりがごつごつとそびえ立っている場所が、その姿を明かにして行った。 淡い色の土と、岩が次第にその色を変えて行く。 それと比例する様に、道はどんどん細くなって行く。「…これじゃどっちにしても車は入れねえな…」「そうでしょ。車なんかまるで意味ナシ」「お前は、ずっと、ここに住んでいるのか?」「俺?」 お前以外の誰が居る、と言いたかったが、彼はうなづくだけにとどめた。「そう。俺はずーっとここに居るんだよ」「一人でか?」「一人でさ」 当たり前でしょ、とやや投げやりな口調でスペイドは返す。ふーん、とジャスティスもまた、適当にあいづちを打った。 そう言えば、と彼は思う。考えてみれば、自分も「エイピイ」に入って以来、ずっと一人だった様な気がする。 最初の研修からそうだった。そもそも新人研修の時点で、放り出されるかな、とも思っていたのだ。 体力しか無いろくでなし。教育担当は確実にそう思い、そして報告したはずだ。 そりゃあそうだ、と彼は思った。何せ、「無礼講」な歓迎会からそうだった。 当時教育担当の、そのまた上役らしい男が、何故かその歓迎会に参加していたのだが、同期の女子社員に向かって、露骨に性的な嫌がらせ発言をしていた。 女子社員は、顔を赤くして、泣きそうな顔をしていた。 その内容が彼女にとって、本当にどういう意味だったのかは彼にも判らなかったが、急に恐ろしく腹が立った。それは違うだろう、と。 そしてその上役に向かって、殴りかかった―――もちろん手加減をして。彼にしてみれば、ほとんど、煙程度の軽さで。 普通なら、そんなことはありがちなことさ、と女子社員を慰める所なのに、彼はそうではなかった。 ああやっちまったな、と彼は思った。コネも何も無い自分が、弟のようにプロでベースボールをすることはやめて、それでも何とか入ることができた、堅実な会社だというのに。 しかしその反面、仕方ねえな、という気もした。 言っていいことと、悪いことがある、と彼は思っていた。フランフランは建前上、女性は同等に扱う、ということになっている。法の上でも、仕事の上でも。 法が全てではないことも、判っている。 だから、彼が怒ったのは、あくまで純粋に、彼の中の「正義」だったのだ。 自分がもしも同じことをされた時に嫌だと思うことは、するな。 そのレベルの、ことなのだ。 そしてそれが、大切なことなのだ。 彼は弁解はしなかった。暴力に訴えたことは謝罪した。だが女子社員に対するその発言に対し自分が怒ったことに関しては、決して取り下げない、と言い放った。 周囲の同期の社員達の顔色は一気に青ざめたが、彼一人がひょうひょうとしていた。切れかかった煙草の補給先が近くにないか、と考えていたくらいである。 その時は、たぶんもうそのまま、解雇に持って行かれると思った。 泣いていた当の女子社員も、自分のせい、と言われるのをおそれてか、すぐにこそこそと別の噂を流していた。 まあそれも仕方ないだろう、とその時の彼は妙に達観していた。まだ二十歳にもなっていない頃だ。 それでも彼は思っていた。それは、それなのだ。皆自分が可愛い。それもまた、当然のことなのだ。 ところが、だ。 いつまで経っても自分に対する処分が来ない。 逆にじれてしまった彼が問い合わせてみると、今度はいきなり辺境の営業所への転勤命令が出た。 当時の人事部長直々の、命令だった。彼は出る前に一度、顔を見せる様に言われた。 扉を開けた途端、そこには着ぐるみの犬が居た。 数秒彼は黙ったが、まあそこに居るのなら、きっとそれが人事部長なのだろう、と単純に考えることにして、顔色も変えずに一礼すると、彼はこう言った。「転勤の挨拶に参りました」 顔を上げた彼に、よぉ、と着ぐるみは手を挙げた。「何だ、驚かないのか」「は」 そして着ぐるみは頭のかぶり物を取った。確かにそれは人事部長だった。取ってもやはり、ジャスティスの表情が変わることはなかった。「変わり者とは聞いていたが、さすがだな」「ありがとうございます」「解雇される、と覚悟してたようだな」 取った犬の着ぐるみの頭部をまだ犬の手で撫でながら、人事部長は、気楽な声で言った。「はい」「辺境行きは、不満足か?」「いえ」「本当か?」「自分には、合っていると思います」「なるほど」 そしてぽん、と犬の頭部を彼の頭に乗せた。「だがこれは似合わないな」 そう言って、人事部長はにやりと笑った。 そこから彼の辺境営業所回りの生活は始まったのである。 実際それは、彼に大はまりの仕事であったのだから、人事部長の目は確かだったと言えよう。 転々と、彼は十数年間、故郷の「ランプ」星系にもほとんど帰らない生活を送ってきた。前の場所には三年居たが、大概の場所には、一年か、長くて二年と言うところだった。 それは彼が問題を起こしたからではなく、彼によって、問題が解決したから、その時間で済んでいるのである。 毎日が忙しく、めまぐるしいが、自分には合っているし、だいたい退屈しなかった。もし本社勤めにそのままされていたなら、きっと自分は柄にもないノイローゼになるか、自分から飛び出していただろう。 ちなみにその人事部長は、現在も人事部長をしている。何でも、もっと上の役職に、と勧められているのに、どうもその役職が楽しいらしく、でん、と居座って動かないのだそうだ。噂では、本社に「間違って」入ってきた役立たずを楽しく使う方法を考えているとかどうとか。 ちょっと待てよ。 そこまで記憶を掘り起こした彼は、一つのことに思い当たる。 すると、こいつをここに寄越したのも、あの人事部長だってことだよな? 肩の上の重みに関して、彼はふと考える。「おいおい、黙っちゃってどうしたの」 スペイドはふい、と振り返る。「俺が『客』なんて認めることはめーったに無いんだからさー。もちょっと楽しい顔してくれてもいいんじゃない?」「『客』か?」「そ。客。俺は客を選ぶの」「なるほど、俺達は選ばれた客なのか」「その女の子はどうか判らないけどねー」 ひょい、と背中の筋肉が動くのが判る。右の腕が、横の岩壁を指した。
2006.08.20
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「わあああああっ」 歩き出してしばらく。急にバーディが声を立てた。飛び跳ねる様にして、後ろに下がる。「どうしたバーディ!? 蛇でも出たか?」「な、何言ってるんですか、所長!」 彼女は何も無い空間を大きく指さしていた。「何だ?」 ジャスティスは眉を寄せる。「何も、無いじゃないか」「何も無いって、…きゃっ!」 今度はぱらぱら、と目の前で何かを追い払う様な格好になる。 …? 彼は辺りを見渡す。しかし幾ら見ても、彼女が怖がったり、避けたりしなくてはならないものなど、何も無い。「おいバーディ、からかうのはやめろ」 むんず、と彼女の肩を掴む。「所長こそ、そんな落ち着いてないで、とにかくここから逃げなくては…」「逃げるだと?」 やはり首を傾げ――― 彼ははっとして、彼女の鳩尾を突いた。途端、バーディは気を失って彼の腕の中に倒れ込む。 やや力が強かったかもしれない。後で何するんですか一体、と非難轟々になるのも仕方ない。 この際、そんなことは言っていられないだろう。 経験が彼に告げている。何かが「見えている」時には、どうしようもないのだ。彼女を軽々と肩に担ぎあげる。 そして、彼は大声を張り上げた。「…何をこいつに見せてたが知らねえがな」 辺りをぐるりと見渡しながら。「幻覚だったら、俺には効かねえぞ!」 既に彼等は谷に足を踏み入れていた。低く、よく響く彼の声は、辺りに思い切り反響する。「何が目的か知らないがな、いい加減、姿を見せやがれ!」 やがれやがれやがれ… あちらこちらから、何度も繰り返し、言葉は辺りを取り巻いた。 こういうことは、度々経験してきたのだ。 彼女に喋った事も確かに経験の一つだが、他にも様々な経験はある。幻覚を見せる能力がある種族も、辺境には隠れていたこともあるのだ。あれは確か… そう思い出していた時だった。 ふっ、とそれは目の前に降りて来た。「なるほど、あんた、効かないんだ」 若い男だった。 文字通り、舞い降りて来たのだ。ふわり、と重力を感じさせない動きだった。 しかも、だ。もうそろそろ時間も遅くなる。気温も低くなって来るというのに、その男は上半身裸だった。胸に重そうなじゃらじゃらと銀細工のペンダントをつけているだけで、鍛え上げられた筋肉が綺麗についた身体が、そのまま風にさらされている。 青年は腰に両手を当てると、にやり、と笑った。だが彼はそれにつられる訳にはいかなかった。「あいにくだったな。俺にはそういうのは、効かねえんだ」「ふうん。何、あんた能力者か何かなの」 何処かしら、青年のその口調は楽しげだった。「違う」 ジャスティスは即座に否定する。「そんな訳ねえだろ。俺の炎の幻覚が見えなかったのって、あんたが初めてだぜ」 なるほど、バーディは炎を見ていたのか。彼女の慌てた態度がようやく彼にも納得できた。あれは火の粉を払っていたのだろう。「…車を壊したのも、お前か」「ああそうさ」 あっけらかん、と青年は言う。歳の頃は、二十くらいに、見える。「何故だ」 ジャスティスは短く問う。対する相手の答えもまだ、短かった。「邪魔だから」「なるほど」 相手はその答えにはひょい、と片眉を上げた。「判りやすいな」 すると今度は、目を丸くした。「あんた、変わってるねえ」「あいにく、生まれて三十年少し経ってるが、平凡だと言われた試しがねえ」 ふうん、と青年はうなづく。確かにねえ、と言われてしまうあたりが少々彼にはしゃくに触るが。「…それで、その子担いで、あんたはどうするの。車は壊れて、しかも、俺がまだまだ妨害するかもよ」「俺には幻覚は効かねえ」「でも、幻覚でなくてもさ」 ぽっ、と青年の手のひらから、炎が浮き上がった。今度はジャスティスが眉を上げる番だった。「…ちょうど葉巻の火が切れてたんでな」 ひゅう、と青年は口笛を吹き、一度は3メートルは立ち上げた炎を、ほんの小さなものに変えた。「火、要るの?」 そして目の前に突き出す。ジャスティスは彼女を背負っていない方の手で、ポケットの葉巻を取り出すと、一本くわえた。「ありがたい」 煙をふう、と吐く。「ふん。俺がまた一気に炎を大きくするとか考えない訳?」「その時は俺の眉毛に少し強烈なウエーブがかかるだけさ」 はあ、と青年は両手を広げた。「それで?」「何だ」「あんた、聞かないのか?」「何を」「俺が何だ、とか、どうしてそんなことするんだ、とかさ」「聞いて欲しいのか?」 そしてまたふう、と煙を吐く。「んー。暇だし。ちょっとばかり身の上話を聞いてくれてもいいんじゃないかなあって、思うんだけど。俺ちょっと、退屈だし、寂しいのよね」 身の上話、かよ。 ジャスティスはその言葉に呆れる。 何となくこの状況にそぐわない様な気もしていたが、立ち往生しているだけでも仕方がない。「それで? 俺達がお前の身の上話を聞いてやれば、ちゃんと街まで帰れるという保証があるのか?」「だってあんた等、聞かなくたって、帰れる保証なんてないだろ。だったら聞いても罰は当たらないと思うぜ」 何となく話がかみ合っていない様な気もする。「いいじゃん。肉と酒くらいは、出すぜ」 そう言われてしまうと、水すら切らしている自分達の状況を、彼は思いだした。「肉と酒か」「いーいサボテン酒があるんだぜ」 へへへ、と青年は笑った。「お前、名は何って言うんだ?」「スペイド」「スペイド?」「お袋も、スペイドだった。スペイド・クイン」 スペードの女王? 頭の中で、相手の言う「母親」の名がそう変換された。「俺は母親の輝かしいお名前を拝借したどら息子なの」 あはははは、と青年は笑うと、付いて来いよ、と手招きをした。
2006.08.19
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あーあ、と彼はかつん、と靴の裏をかち合わせながら、後頭部をひっかく。「せっかく警告してやったのに、まだあいつら、進むのかよ…」 見下ろす視界には、二人の男女がとうとう入ってきていた。 いつもだったら、もっと前でエレカを破壊したり、竜巻やかまいたちを起こしてやれば、大概の奴は、それで震え上がって帰ってしまうというのに。「何だよあいつらは…」 初顔の連中だった。 それでもまあ、今までよりは、ずいぶん退屈しのぎにはなる、と彼は思った。 レッドリバー・バレーは彼の住処だった。 荒らされてはたまらない、と思う。 でもその一方で、荒らして欲しい、とも彼は何となく思ってる。 そんな自分の矛盾した欲望が、年を追うごとに、何となく、胸の中でむずむずした気分で膨れ上がってきているのを彼は感じ取っていた。 むずむずむず。胸の中で、くすぐったい。 さて俺は、一体どっちが本心なのかなあ。彼は時々思う。でも答えなんて、出ない。 自分の考えてることなんて、さっぱり判らない。 やっぱり荒らされたいのかなあ。 そう思う自分が不思議に思える一方、そう思えなかったりもする。 ただ、荒らされるにしても、なまじな奴に荒らされたくなんか、ない。自分にとって、荒らされてもいい、と思える奴じゃなくてはやだ。 それが彼の偽らざる気持ちだった。 レッドリバー・バレーは彼にとって、守りたい場所だ。守るべき場所なのだ。綺麗な綺麗な、真っ赤な谷。 河は無いけれど、レッドリバー・バレー。 …彼がまだ子供だった頃には、河があった、谷。赤くなかった、谷。 だから。だけど。 片足を抱え込んで、足元の二人に目をやる。 それにしても、何ってえでこぼこなコンビだ。 片方は、銀に近いブロンドの、ガタイのでかい男。煙草を吸ってる。葉巻らしい。武器は持ってるだろうか。着ているジャンパーの形が何となく怪しいが、さすがにそこからでは彼の目が幾ら良くても、上手く判らない。 女の方は…細っこく、まだ若い。男の方と一回りくらい差があるんじゃないか、と彼は見る。やっぱり男と似た系統のジャンパーを着て、ついつい早足になってしまう相方の後を、一生懸命付いて行っている。 確か。記憶をたどる。女の方は、以前彼も何度か見たことがあった。街の方で、だ。 彼とて、全く街に出ない訳ではない。肉だけでは栄養が偏るのだ。 一生懸命、たまには、街のとある店で食事をしていたら、窓の外で長いこと話し込んでいた女。 何処かの会社の女の子ときゃらきゃら笑っていたから、事務でもやってるのかと思ったら、こんな処に来る奴とは。 女の子には、優しくするんだよ、とあのひとは言った。さてどうするべきか。 言った当人がかつて女の子、だったことがあったのか、やや彼には疑問だったので。 でも性別は確かに女だった。自分を産んだのだから。 だけど「女の子」という言葉とは無縁に感じた。 何故なら彼女は――― さて。 彼は立ち上がる。 もう少し連中を脅かしてやるか。 ふっ、と片手を上げる。すると、そこに炎がさっ、と生まれた。透明な、流れる様な炎。 それをさっと振りまいて。 さて連中はどうするだろう?
2006.08.19
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「捕まる…って?」「だから、判るだろう?」 まさか、と彼女はぶる、と肩を震わせた。「やっぱり、それも」 現在の正規軍なのか、という言葉は彼女の口からは出なかった。「まあ、俺も現地のじじいあたりからの股聞きだからな。そのじじいも、そのまたじじいから聞いてるくらいのことだ。本当のことは、結局判らん」 言いながら、彼は岩場に背をもたれさせた。「ただそれは、あくまで例だが、そういうことは、俺が行った辺境で結構聞かれたことだ」「あちこちで、ですか」「奴等は戦争の頃、難癖をつけて、あちこちを焼き払った。そして辺境になった惑星、という奴が結構あるってことだ」「所長は…あの方々に対しては、敬語は使われないんですね」「俺は基本的には、敬語って奴は嫌いだ」 葉巻を取った手を、高くかざす。「俺だって、連中が素晴らしい存在だ、と思ったこともあったさ。一応、それなりに文化の整った惑星系で普通の教育を受ければ、そういうことにはなる。だがどうだ?」 喋りすぎているな、と彼はふと思う。だが止まらない。 止まらないのだ。「俺は逆に、シニア・ハイでろくすっぽ勉強しなかった自分に感謝したぜ」「ベースボールばかりなさってたのでしょう?」「おお、そうだ」 覚えたじゃねえか、と彼は言う。「そういう意味では、私はずっと、その教育の中にどっぶり浸かっていたってことになりますよね」「まあそうだな」 彼はあっさりとそれを肯定する。「ただ帝大は、違うんです」「違う?」「はい。その私が好きな…レーゲンボーゲンに居るらしいという地学者の方もそうなんですが、どんな星系のどんな学校出身だったとしても、まず帝大では、がつんと一発、カルチュア・ショックを味わうんです」「カルチュアショック?」「はい」 彼女の目が真剣になる。「これは私も、学校関係の人には誰にも言ったことは無いんですが」 おう、とジャスティスはうなづく。やはり彼女の表情にも他言無用、の文字が浮かんでいた。「帝大ではまず、それまでの『常識』を捨てさせられるんです。皇族や血族の方々をまず、『人間』として認識させられるんです」「…」「所長はどう思われます?」「…意識したことが、無かったぜ」 そもそも、帝都も皇室も遠い存在すぎた。「だけどまず、帝立大学に入ることができる教育を受けることができる場所の学生、というのは、皇族、天使種が『人間より素晴らしいもの』『神の領域のもの』というすり込みがされていることが多いんです」 彼女はそして一息つくと、こう付け加えた。「私も、そうでした」「おい…」「でも私はスキップしていて、まだ周囲より若かったから、すり込みも早く抜けたんです。帝大の平均卒業時期に幅があるのは、結構それと関係があります。そのすり込みが抜けない限り、学問的には、前に進めないんです」 ううむ、とジャスティスはうめいた。「そんなに、そのすり込みって奴はきついモノなのか?」「…学問を追究する上には、かなりの障害になります」 表情がやや歪む。「…だが、何かいまいち解せんな…」 ジャスティスはつぶやく。え、と彼女は顔を上げた。「ってことは、基本的には帝大卒の奴ってのは、帝都政府にとって、危険思想の人間達ってことだろう? 何だってそれを散らばせておいて平気なんだ?」「…あ、そう言えば、そうですね…」「お前は何とも思わなかったのか?」 呆れた様に、彼は声を張り上げた。「…私、自分の勉強や研究テーマで精一杯でしたから…」 なるほどな、と彼は苦笑した。「確かに、そんな学問バカばかりだったら、危険もへったくれもないかもな…」 それに、考えてみれば、自分の様に大してロクに勉強もしなかった奴とか、辺境で、勉強もへったくれもなかったような者には、果たしてどの程度、帝都に居る「皇族」だの「血族」だのに対する認識があるのだか。「あ、でも学科によっては、何か色んなポリシーの人々が居たようですよ。音楽科とか、結構、反帝国組織のひとが入り込んでる、って噂もありましたし…立て看板もありましたし…」 何となく、彼はそれ以上聞く気を無くした。やっぱり別次元の話だ。 ジャスティスは基本的にノンポリだった。 と言うより、自分自身の中にある「正義」の基準に忠実であろうとした。 モラルも常識も、所変われば物変わる、のだ。あちこちの場所を飛び回っていると、そう思わざるを得ない。だから、それはそれとして客観的に見るために、自分自身の「正義」の基準が必要だったのだ。 もっとも、その基準そのものは、誰にも口にしたことはない。口にしたところで仕方が無い、と思っている。自分一人が知っていればいいことなのだ。 大切なことは、自分の中で決めなくてはならない。人に指示されるのでもなく、状況に流されるのでもなく、ただ現在の状況を見て、最善の方法を。もしくは自分が納得行く方法を。「…まあ当面の問題は、この先どう進むか、だな」 はい、とバーディはうなづく。「装備をもっとしてくれば良かった、などと言っても始まらん。どうせして来ていたとしても、あのザマじゃ、持ってきた装備も全部イカレたな」「そうですね。…せめて、水タンクだけでも生きていれば良かったんですが」「おまけに磁石も時間もきかん…地図はあっても、戻るにも戻れない、か」「所長は、どうなさいますか?」「お前はどうしたいんだ?」「私は、もちろん進みたいです」 この女は、そう言うだろう。彼の思った通りだった。「ここまで来てしまったし、妨害ももう受けてしまってるんです。まだ生きてるだけ上等でしょう? だったら毒食わば皿までです!」「無謀な奴だな」「生まれつきです」「じゃあ、意見は合った様だな」 彼はにやり、と笑うと立ち上がった。
2006.08.17
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「俺が『エイピイ』に入ったのは、シニア・ハイを卒業してすぐだから、十八の頃だ」 爆発したランドカーから、少し離れた所に座り込む。水を詰め込んであったはずなのに、取り出せなかったのが残念だった。「私とそう変わらない頃だったんですね」 バーディはそう言って、まじまじとジャイティスを見た。まるでそんな時期があったとは信じられない、と言いたそうな顔だった。「俺にだって、若い頃くらいある」「今だって、お若いですよ」 謙遜という言葉を知らんのか、と彼はバーディの頭をこん、と上から軽くげんこつで殴る。 頭を押さえて、痛いじゃないですか、と言われても、それはあえて無視する。「最初、フランフランで研修を受けた時、もう言われたな。当時の新人担当に『お前みたいな体力しか無い馬鹿は、一生辺境回りだな』と」「あ、私も言われましたよ。『君は何で頭はいいのに、そうとろいんだ、一生辺境回りだぞ』って。泣かれちゃいました」 やっぱりな、と彼は思う。「で、お前はそれで奮起した、とでも言うのか?」「いいえ、あ、ラッキー♪と思いました」 お前もか、と彼は頭を抱えた。「だって、元々その『辺境』を回りたいからこそ、一つの会社でこんなにたくさんの星系に営業所のある『エイピイ』を選んだんです。一応うちの大学って、求人票沢山来るんです。で、幾つか私にも声がかかったんですが」 それはそうだろう、と彼は思う。何せ帝大で、スキップしまくりの秀才だ。その専門関係だったら、引きも数多だろう。「でもだいたいそういう所って、帝都本星とか、本星付近とか、そんな所の研究所勤めばかりで、私のしたいことじゃないなー、と思ったんです」「ふーん」「だから、『エイピイ』には、私、自分で試験受けに行ったんです。うちの学校に求人票なかったから」「何だと?」「何ででしょうね? 変ですよねー」 …しかしその理由は簡単だ、と彼は思う。だいたいそこまで高学歴の奴を引いてくる場合、下手すると帝大に寄付金が必要な場合もあるのだ。「…やっぱりケチったな、上の連中…」「何ですか?」「何でもねえ。ともかく、だ。それでお前はあっさり入った、ということだな」「はい。何か履歴書だけで、一発OKとなりまして。ラッキーでした」 それはそうだろう、と彼は思う。 喉から手が出る程欲しい帝大の、しかも院まで行ってる奴が、わさわざ自分からやって来たのだ。 本当にそこの学生だったか、ということは、学校側に照会を取ればすぐ済むことだ。「…だがお前の場合は、面接もしておくべきだった、と言われたろ?」 ジャスティスはにやり、と笑った。「そうです! 何で判りましたか?」 判らいでか、と彼は初めて彼女に向かって苦笑した。「所長は、それで最初から辺境に行かれたんですか?」「そうだな。まずはコルデバラン星系だった」「コルデバラン、というと、本当に辺境ですね。確かあの座標は、星系そのものが少なかったんではありませんか?」「ああ。だがまあ街そのものは、割とあったな。あそこは確かに、星系は少ねえが、ハイジャンプしやすい星域でもあるんでな、結構辺境と言っても都会な方だ」「へえ…」 彼女は感心したように上司を見た。「だがなバーディ、俺の行く前、それこそ昔はもっと栄えていた、と俺はその地の当時の所長から聞いたんだぜ」「もっと栄えていた?」「このアリゾナもそうだろう? 主要都市なんぞ、本当に指で数えられる程しかない。それが『辺境』の特徴だ。だがコルデバラン星系のミラと言う惑星…俺が行ったのは、そこなんだが、以前は、そこは住むための惑星じゃなかったんだ」「住むための惑星じゃ…?」 彼女は眉を寄せた。「お前が行きたがっているレーゲンボーゲンもそうだがよ、時々惑星が連星になってるとこや、一つの星系内に居住可能惑星が複数存在する所もある。まあでも、そういう場合、大概、住み難い方を農業惑星や鉱物の算出惑星にして、もう片方を居住惑星にするものだがな、コルデバランも、そういう星系だったらしい」「…と、言いますと?」「片方の惑星が、吹っ飛ばれた、と俺は聞いた。戦争の際に」 え、と彼女は声を立てた。「ミラとリアルという惑星があった。リアルの方に戦争の頃までは、人間が沢山住んでいた。それこそ辺境で、物資はもう一つの惑星に沢山あるから、まあ結構落ち着いて栄えていたらしい。…だけど、ただ一つ問題があったらしいな」「問題、ですか」「リアルに住んでる連中が、希少民族だったんだよ」「希少民族? …と言いますと、戦争中に絶滅した、って言われてる…あの種族のことですよね」「ああ。お前と違って俺はいちいち暗記しやしねえから、それをいちいち列挙できねえが、そこだけは覚えている。VV種、っていう簡単な名だったからな」「VV種は…確か、何でも身体免疫作用がもの凄く強い種族だった、って聞いてます」「詳しそうだな」「一応、そういうのが好きな友人も、大学には結構居ましたから」 なるほど、と彼は思う。そう言えば、帝大というのは、お膝元にありながら、反帝国組織のシンパも結構入り込んでいると彼は聞いていた。 一般臣民に知らされない知識をも知り得てしまっているからだろうか。その可能性は高かった。「なるほどな。身体免疫作用、か。…だったら惑星ごと破壊された、という理由も予想がつく。ミラの連中は、リアル自体が汚れているから浄化されてしまった、とか言ってやがった」「…つまり、リアルには『普通の人間には』危険な細菌やウイルスが蔓延していて、…VV種だから生きていられる、ということですか? だから、惑星があっては、いけないと?」「…らしいな」 そんな、とバーディは口を押さえた。「でも、…ミラの方にもVV種の人たちは居たんじゃないですか?」「居たな。それも、当時ミラで鉱山の開発とかに出稼ぎに来ていた連中の監督としてな。連中はミラでは特権階級にあったと言ってもいい」「でも」「だから、そこで反乱が起きてしまった。労働者が特権階級を襲った。ま、革命と言ってもいいな。古い言葉を使えば」「反乱…革命ですか」「どういう訳か、それは上手く行った。いや、単純に多勢に無勢だからな。武器さえあれば、そんなことは簡単だろう」 そうですね、と彼女は厳しい目でうなづいた。「それでVV種の連中は、殺されるか、捕まるか、とにかくミラから―――コルデバラン星系からは一掃された」
2006.08.14
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「ん?」 急にがががが、と音を立ててランドカーが止まった。「エンストか?」 ジャスティスは降りて、車の後ろを開けてみる。だが格別変わった様子もない。燃料切れでもないし、内部が焼き付いている様子もない。「…何だ?」 バーディ、と彼女を呼ぶ。「何ですか?」「今現在は、何処の位置に居ることになるんだ? 俺達は」「はい、今はですねえ」 がさがさ、と地図を開きながら彼女は出てくる。「所長、今何時ですか?」「あん? お前時計持っているんじゃないのか?」「いえ、車の方に時計はついているからと普段は…」「俺のはまだ共通時仕様だ。…まさか」「まさか…」 はっ、と気付くと、二人して慌てて車の中へ戻る。そして同時にがっくりと肩を落とした。「…何ってこったい」「すみません、不注意でした…」「や、これは俺の手違いもある。いくらお前が不注意だらけの女だって、これはな」 それはまるでフォローになっていないかもしれない。「まあいい。共通時とここの差を計算すればいいだろう。今は…」 時計を見た時だった。「な、何だ?」 デジタルの数字が全て8に変わっていた。「ど、どうしたんですか所長…」「…お前が時計持っていても、何にもならなかったかもしれねえ、ってことさ。…まあいい。とにかくここを把握しねえことには、まるで動きは取れねえな」「そうですね。でももうレッドリバー・バレーは目の前なんですが」 彼女は地図を見ながらつぶやく。「そうなのか?」「私がさっきまで時計を確認できた時点で、ここだったんですが」 ばっさりと、ランドカーの上に彼女は地図を拡げた。「この赤い辺りがレッドリバー・バレーだと言われているんです」「…ずいぶんと広範囲だな」 確かにそこは、地図上でも赤く塗られていた。バーディが記したルートは、その手前で止まっている。「と言うことは、地図上では、俺達は既にそこに入っている、と考えられるな」「そう…ですね。あ、そうなんだ!」 急に彼女は嬉しそうな声になった。「そうですね! 私達、レッドリバー・バレーに来てるんだ」 今にもわーい♪とばかりに踊りだしそうな彼女を見て、呑気なもんだ、とジャスティスは眉を寄せた。「おいお前、俺達遭難しかけているんだぞ」「そうですね。じゃあなるべく早く、この中を調べて、それから脱出する方法を考えましょう」 …全然判っていない、と彼は更に頭を抱えた。 だがその時だった。「危ない!」「え」 ジャスティスは彼女の手を掴むと、思い切り引っ張った。「な」 そのまま、地面に押し倒す。ばたばたと彼女が暴れるが、知ったことではない。 数秒後、背後で爆発音が起こった。「え゛」 くぐもった声が、彼の下で聞こえる。「ろ、ろいてくらはい」 彼は言われる通りにどいてやる。そして新しく葉巻に火をつけると、ふう、と大きく煙を吐き出した。彼女を押し倒した時に、それまでくわえていたものを飛ばしてしまったらしい。「…しょ、所長…これって一体」「さーあ、何だろうなあ」 さすがにこうなってくると、ジャスティスの口調もやけになってくる。葉巻をぐっと噛むと、どっかりと地面にあぐらをかいた。「とにかく言えるのはな、バーディ、何かがここより奥に行こうとするのを、邪魔してる奴が居るってことだ」「邪魔」「だいたいお前、今までの『事故』を何だと思ってるんだ」「だから、ちゃんと、調べはしました!」「同業他社は違う、か? だけどな、それ以外についてはどうだ?」「それも一応、調べました! …と言うか、レッドリバー・バレーを開発することに関して、アリゲータの人々は皆賛成してるんです」 バーディは身を乗り出して主張する。真っ直ぐにジャスティスを見据える目には、嘘は無い。「本当か?」「本当です!」 言ってみろ、とジャスティスはうながした。 彼女の言うことを統合すると、こういうことだった。 アリゾナはこう見えても結構植民の歴史は古いらしい。ただ、長く続いた統合戦争の際に、一度かなりの地を焼かれてしまったのだ、という。 何処が焼いたのか、ということは、現在住んでいる彼等はあまり口にしたがらないのだ、という。「となると、現在の正規軍…当時のアンジェラス軍だな」「…そういうことになるんですか?」「お前は、辺境はここが初めてだろう?」 はい、とバーディはうなづく。「俺は結構色んな辺境を回ってきた。そうするとな、元から辺境だった地と、辺境にさせられた地、というのがあるんだよ」「させられた、地? ですか?」 ああ、と彼はうなづく。「それじゃあ、現在は『辺境』とされていても、植民そのものは元々はスムーズに行った所、というのは結構あるんですか?」「あるな。少なくとも、俺にはそういう印象があった」「私は…聞いたことがありません」「そりゃあ、普通学校では、教えないさ」 ふう、と彼はまた煙を吐いた。知らなくて済むなら知らない方が幸せじゃないか、という歴史はあちこちに残っている。それが「辺境」と呼ばれる地であればあるほど、顕著だったのだ。「…私は、知りたいです」「本当に、知りたいか?」「はい。所長がご存じのことでしたら、私も聞きたいです。教えて下さい! お願いします!」 彼女はそう言って、ジャスティスのジャンパーを掴んだ。 彼は少しばかり迷う。知的好奇心が旺盛というのは良いことだとは思う。 だが度を越すと、時には身を滅ぼしかねない。 だが。「おいバーディ、聞いたら、忘れろよ」「…」「判ったな?」「は、はい!」 他言は無用だ。彼はそう言葉に含めたのだ。
2006.08.13
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「ああ、レインさんじゃないですか」「あ、マチネックさん、どうしました?」 止めて下さい、とバーディは不意にジャスティスに言った。七つ股サボテンの所に、やや旧式のランドカーが止まっていた。その前で、一人の男が、汗を拭き拭き、どうしたものか、と立ち往生していた。「誰だ?」「…イリエ製作所の方です。コント・マチネックさん。マチネックさん、こちらはウチの今度の所長です」「あ、どうも。イリエ製作所のマチネックと申します。どうぞよろしく」 妙に腰が低い野郎だな、とジャスティスは思ったが、彼も一応営業ではあるので、それなりに笑顔を作って、左手を出した。「パンクでもなさったんですか?」 バーディは止まったままのランドカーを見て、首をかしげる。「…いや、ウチの若いのが昨日、この先に行ってしまってねえ、まだ帰って来ないんだ」「若いのって、イリエさんですか?」「そうなんですよ。ちとそれは困ったなあ、ということで、とりあえずここまで来たんですが、…私もちょっと、この先に入り込むのは怖いなあ、と思いまして。ええ、正直」「そんなに怖いことなんですかね」 ジャスティスも口をはさむ。ええ、とマチネックは今度は眼鏡もとって汗を拭いた。「でもイリエさんの若いほうの方、って、製作所長の息子さんでしょう?」「ええ、だから困ってるんですよねえ…」 なるほどな、とジャスティスは理解する。「…あ、すみません、所長、イリエ製作所さんは、ここで一番長くやってらっしゃる所なんですが」「おう、何となくそう思った。…地元企業ですな」「は、はい。一応、開拓時代からここに作業所を開いている、ということです。私はつい十年前に入った人間なので、それくらいしか判らないのですが」「ふうん」 ジャスティスは前で腕を組む。「で、その若主人、が今この向こうに行ってしまってると、そういうことですか」「…はい。でも…ご存じでしょう?」「大けがと、火傷ですか」「は、…はい」 なるほどなあ、と彼はまた思う。確かに次期所長も大切だが、自分の命も大切だ。それは非常に判る。判りやすい程、判る。「…ま、仕方ないでしょうなあ」「仕方…ないですかね、やはり」 マチネックはやはり汗を拭きながら、苦笑する。「ああ。仕方が無いだろうな。あんたはとっとと帰った方がいい」 言いながら、ジャスティスはランドカーに乗り込んだ。「…って、あなたは」「おいバーディ、来い」「は、はい!」 慌ててバーディは助手席に乗り込んだ。「ちょ、ちょっと待って下さいよ、『エイピイ』さん」 マチネックはランドカーのウインドウに取りすがる様にして近づく。何だ、と丁寧さもかき消した様な口調で、ジャスティスは返した。「あんたは帰ればいい。うちはうちで、調査したいことがある。それだけだ」「…う、うちの若いのが居たら…」「ああ無論、無事だったら、連れてくるさ」 鬱陶しいので、彼は離れろ、と一言告げると、アクセルをぐん、と踏んだ。「お前も残っても良かったんだぞ、バーディ」「冗談は止して下さい! 私はずっと行きたかったんですから!」「そうだったな」「あ」 二十分程、そのまま走らせた時に、不意にバーディが声を立てた。「と、止めて下さい!」 慌てて彼は急ブレーキを踏んだ。勢い余って、彼女は前の窓枠に額をぶつける。 …何ってドジな女なんだ。 彼はその日運転を始めてから口にしてなかった葉巻に火をつけた。「…たたたたた。あ、眼鏡眼鏡」「これか?」 足元のそれを拾い上げる。「あ、はい」 照れくさそうに笑いながら、彼女は受け取る。「お前視力、ひどく悪そうだな」「判ります?」 判らいでか。「勉強のしすぎじゃねえのか?」 そんな、スキップばかりしているくらいなら。「そうかもしれません。でも、だったら仕方ないですね」「コンタクトはしないのか?」「こんな砂だらけの惑星でコンタクトはできませんよ」 確かにそうだ。「なら、仕方ねえな。…で、一体何で俺はお前に止められてるんだ?」 あ、と彼女は忘れてたかの様に声を立てた。「す、すみません。これを見て下さい」 ん? と彼はバーディの差し出すものを見る。磁石である。「あん?」 針が、くるくると回っている。「…磁石が、効かねえ、ってことか?」「そ、そのようです…」 彼は車を降りてみる。さすがにもう、アリゲータの街からは結構離れている。 既に目的のレッドリバー・バレーも含まれているらしい山間に彼等は入っていたのだ。「…あ、所長は目はいいですか?」「俺か? 俺はいいぞ。何せ視力表の一番下より下のゴミまで見えたことがある」「だったら、夜でも大丈夫です」 あん? と再び彼は問い返した。「惑星時と現在の日付と太陽や星の位置から、方角は割り出すことができますから…」 なるほど、と彼は思う。そういう「知識」があるなら、何とかなるかもしれない。「…ちょっと待て、お前、それでも一人で行こうとしていたのか?」「え?」「前所長の頃だよ」「え? あ、はい」 当たり前のことのように、バーディは答える。 やっぱりこの女は無謀だ、と彼は思う。自分に星が見えるならいい、と言ってはいるが、見えなくても飛び出したのだろう、彼女は。「…まあいい。ともかく明るいうちに、もう少し進んでおくか。お前は現在地点が何処なのか、地図にその都度つけておけ」 はい、とバーディは元気に返事をする。
2006.08.12
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「いやあ、私、こんな惑星に居るんでまず生で見ることはできないんですが、ASLの試合が中継されると、つい…」「こっちでは、TV放送は夜しか無いんですけれど、結構その限られた時間の中で、ASLのベースボール・ゲームとか、ニュースは流すんですよ」「ほー…」 なるほど。矛先がだんだん判って来る。「それでロクオン、お前何処のファンなんだ?」「ナンバー1では、ファイティングスピリッツなんですが、ナンバー2ではロッキーズ、ナンバー3はやっぱりサンライズですねえ、今は」 ふむふむ、とジャスティスはうなづいてみせる。「そのサンライズの投手に、ノブル・ストンウェルっていうひとが居て、それがまたいい投手なんですよ。所長が同じ名前なんで、私は奇遇だなあ、と思ってました」「ほう? どういい投手なんだ?」 少しばかり、意地悪をしたくなってみる。「それは」「あのですね、何と言っても、あの投げる時の目なんです」 いきなりバーディがロクオンの言葉を遮った。どうやら言いたくてうずうずしていたらしい。「何って言うか、あれって、人殺しそうな目ですよね」 眼鏡の下の目が、本当にうきうきしている。…少なくとも、そういう目で言う言葉ではないよな、とジャスティスは思う。「…なるほど、そんなにそいつのことがいいか?」 はい、と彼女はうなづく。「…じゃあ今度、本人に言っておこう」 え、と彼女の動きが止まった。「弟だ」 二人の動きが数分凍ったことは言うまでも、ない。「…で、もう少し東に…右寄りにお願いします」 バーディの身体の硬直が解けてから十分後、二人はレッドリバー・バレーに向かうランドカーの中に居た。 途中までは道を進んでいたが、ある地点から道は存在しなくなる。それまであった「道」にした所で、舗装がされている訳ではない。あくまで草や岩が取りのけられている、というだけだ。「…本当にこっちでいいのか?」「大丈夫です! 私方向感覚悪いから、地図と磁石は読めるようにしたんです!」 だとしたら、それは努力家と言えよう。自分が運転するからナビゲーターをしろ、と言ったら、彼女はひどく元気の良い声で返事をした。「私、行ってもいいんですね」「お前、社員だろう?」「はい!」 そして地図と磁石と、水も大急ぎで積み込むと、二人はランドカーに乗った。「…でしばらくは、このまま真っ直ぐ、お願いします。やがて一本の七つ股サボテンがあるはずですので、そこまでは」 太陽と時間と磁石の関係をきっちり把握しているなら大丈夫だろう。彼はそう思った。大学にも院にもフィールドワークの科目がなかった訳ではないだろう。「…で、考古学だったはずが、何で鉱物なんだ?」「え?」「お前がさっき話してたことだ」「…あ、はい。実は、シニア・ハイの時に、当時の究理学教授から借りた本が、すごく面白くて」「本?」「ゼフ・フアルトって言う地学者の方なんですが、教授が、帝大に進むなら、このひともその出身だし、私の好きそうな本かもしれない、って渡して下さったんです。そうしたら」「ツボにはまった、か?」「そうなんです!」 ぱっ、と彼女はジャスティスの方を向いた。「そしたら、考古学より、もっと鉱物の方に関心が向いてきてしまって。だって、鉱物は、その惑星の歴史なんですよ!」「歴史?」「その地の、どの場所にあった、ということと、その鉱物の状態から、その頃の惑星の様子が分かったりするんですよ! ひれって、ものすごいことじゃないですか!」「確かに…ものすごいとは思うがな」「でしょう!」 だがそこまでの剣幕で言われるとは、さすがの彼も思わなかった。「…ただ、そのフアルト助教授、って方、レーゲンボーゲンの方に行かれてから、行方不明だって言うんです。もしも何か機会があったら、何としても一度お会いしてみたいと思うんですけど…」「レーゲンボーゲン? …っていや」「あ、そーいえば、サンライズの本拠地じゃないですかあ! すごい偶然ですね! 私が大好きな本の著者先生が居るかもしれない所と、所長の弟さんで私達が大好きな投手の居るのが同じところなんて。何か運命を感じます」「…運命って、お前なあ…」 さすがに彼は、ハンドルに額をつきたくなってきた。 自分に対してここまでべらべらべらべらべら喋る女は初めてだった。「いつか絶対、レーゲンボーゲンにも行きます! あそこの鉱物も調べられたら、調べてみたいですし」 そう言えば。先日弟が何かの鉱石の名前を口にしていたことを彼は思いだした。 だがどんな名前だったか、すぐには思い出せなかった。ずいぶんと跳ねるような名前だったような気はするのだが。「…それで、全部の鉱石を見たらどうするんだ?」「そんな! まだまだどんな鉱石があるのかすらはっきりしていないんですから、そういうことは、夢のまた夢です」 彼女はきっぱりと言った。「ですから、まず私はここで、レッドリバー・バレーの鉱石をこの目で見て、どんなものか確かめたいんです!」 わかったよ、とジャスティスは大きくうなづいた。 確かに、こいつは企業にとっては自分以上のトラブル・メイカーになる可能性があるな、と思いながら。「ふうん」 耳を澄ませていたら、ランドカーの音が聞こえた。 彼はよっこらしょ、とあえて口に出して立ち上がってみる。じゃら、と胸のシルバーのペンダントが揺れた。「また、来やがったかな」 言葉は時々口に出さないと忘れるよ、とあのひとは言っていた。 帽子の角度を変えると、彼はつぶやく。「少しは、退屈しのぎになるかなあ」 へへへ、と笑みが浮かぶ。昼メシの前の一遊びだ、と彼はふい、と赤く透き通る岩の上から大きく飛び上がった。 腕を広げたその様は、何処か鳥のようで。 谷底へと、彼はゆっくりと下降して行った。
2006.08.10
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「そう遠くはないな」「ええ、直線距離的には」 なるほど、等高線が結構狭くなっている。「だからこのルートは実際的には使えない、と前所長はおっしゃってました」「実際的には使えない?」「と言うか、この地図が古いんです」「何で新しいものにしないんだ」「古いものしか、無いんです。これでもこの地では一番新しいんです」 よく見ると、その地図の発行年月日は、四十年も昔のものだった。「…何でこれで間に合うんだ」「だって別に、変わらないでも、何とかなるじゃないですか」「何とかなってないじゃねえか。前所長はそれでケガをしたんじゃないのか?」 ジャスティスは大きく腕を広げた。すると彼女の声が急に小さくなる。「…判りません」 そしてぐ、と唇を噛みしめる。「同業者の方々も、とにかく、ある地点まで行くことはできたそうなんです。それが、ここなんですが」 彼女はぐい、と太いペンで×印をつけた。「ここまで行くと、ケガだの火傷だのをするんです」「するのか」「はい。必ず」「必ず、なのか」「はい」 彼女はきっぱりと言う。「だから私も一度、行ってみたいんですが、そのたびに前所長に止められて」 ふう、とジャスティスは煙を吐き出した。そりゃ止めるはずだ。 何となく彼は、自分がここに派遣されてきた訳が判った様な気がした。 彼は自分が企業において、一種困った存在であることは知っていた。 よほど上手く使うことができる上司が居ない限り、勝手にやらせておくことしかできない。だが飼っておけば、手を汚したくない領域で使えるだろう、と思われていることを。 こいつもたぶんその類だろう。 帝大をスキップしているならエリート。 単純に考えればそうなるが、それが女で、この性格だったら、確かに扱いづらいだろう。 だから体のいい厄介払いをしているのだ。辺境で揉まれれば、こんな仕事は嫌だと自分で見切りをつけてくれるのではないか、と期待しているのではないか、と。 吹き溜まりだな、と彼は天井を見上げた。さすがに新しくもないビルだけあって、天井は汚い。だが吊されている照明のかさ笠にはほこりはそう積もっていなかった。「…お前、何でここの営業所に来たんだ?」「え? あ、はい、新人研修の後、ここに行くようにと指示を受けましたので、それから一年ほど、ずっとここです」「つまらなくはないか?」「何でですか?」 如何にも不思議そうな声がしたので、彼はバーディの方に向き直った。「辺境だ、って聞いて喜びましたが」「…珍しい奴だな」「だって、辺境の方が、珍しい鉱物が多いですから」 それはそうだが。「だけどお前、帝大をスキップしてるんだろ?」「ええはい、正確に言えば、シニア・ハイを一年と、大学を二年です。院にも一年行きましたし…」 大学院まで行ってやがるのか、と再び彼は天井を見上げた。どうしましたか? と彼女は不思議そうな顔で彼を見た。「…だからそんなエリート組が、何でこんなとこに来て嬉しいのかね」「所長はこういうとこ、はお嫌いですか?」「や、俺は好きだが」「私も好きです。私達気が合いますね」「そういうことを言ってるんじゃ…」 怒鳴りかけて、止めた。先ほどからテンポを崩されてばかりいる。「私、全星系の鉱物をこの目で把握するのが夢なんです」「全星系の?」「はい」 事も無げに彼女はうなづいた。その顔には笑みすら浮かんでいる。「小さな頃から、母の宝石も好きでしたが、父が飾り棚に置いていた化石とかも見るのが好きだったんです」 前者は判るが、後者はなかなか彼の予想外だった。「で、ジュニア・ハイ卒業した後に、考古学に進もうと思ったんですが」「ちょっと待て、ジュニア・ハイの後にもう専門か?」「フランフランではそうでした。…所長の所は違ってましたか?」「…俺は勉強なんかより、ベースボールばっかりやってたから、知らん」 あ! とその途端、彼女は手を叩いた。「ロクオンさん! 思い出しました!」 な、何だ、といきなり声を張り上げた彼女にジャスティスは驚く。「でしょう!」「そうですよそうですよ」 思わず立ち上がり、ぽん、と二人は両手を叩き合う。「何のことだ?」とジャスティスは睨みをきかす。だがそれがどうもこの女には効きそうにはないことに、彼は次第に気付き始めていた。 妙に嬉しそうなバーディに変わって、今度は雑巾を手にしたロクオンが頭をかく。「…いや、新所長のお名前をお聞きした時に、何処かで耳にしたことがあるなあ、と思ったんですよ」「…そんなに俺の名は有名か?」「いえ、ベースボールの選手に、そんな名前のひとが居たな、と思いまして。所長はベースボールはお好きですか?」「だからロクオンさん、所長はシニア・ハイの時ベースボールやってらしたんですから、お好きなのは当然じゃないですか!」「ああそうでしたね」 あははははは、とまた二人は笑い合う。何となく彼は疎外感のようなものを覚えた。
2006.08.09
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帝都本星を中心としてどれだけの実質距離が離れているか、が「辺境」と言う場合の基本ではある。 ただ、超空間飛行がたやすくできる星域とそうでない星域があり、できない星域は自然、帝都本星の文化からは乗り遅れて行くことになる。 また、距離的には「辺境」ではなくとも、その気候や地形と言った事情から、人が寄りつかなくて「辺境」となってしまった地も存在する。 彼の弟が居るレーゲンボーゲン星系もかなりの「辺境」だが、割合、帝都本星とは交通の面では悪くないので、生活レベルが極端に落ちるということではない。 そしてこの「アリゾナ」の場合は、紛れもない「辺境」だった。 ジャスティスはここ数年、こんなタイプの星系ばかりを回ってきた。 まあ理由は判らなくもない。 一応本社営業部に居たこともあったのだが、見通しを立てると、あまりにも上司を無視した独断で行動してしまうことが多すぎた。 結果として仕事の成果が上がったとしても、それは出世につながらない。 だいたい彼自身、そんなものには全く興味は無かった。出世すればそれだけ収入が増えて、楽な暮らしができてどうの、と同期の者達は口々に言うが、収入など、生活ができればいいのだ。彼は仕事そのものを楽しんでいた。 だから端から見れば、彼が飛ばされる地というのは、「左遷」の場所であるのだが、本人にしてみれば、うってつけの場所だったと言える。 何せ、飛ばされるのはまず極小規模の営業所である。しかも辺境である。外見をあれこれ問われることもない。どちらかと言うと、そんな細かいことをがたがた言っていれば、馬鹿にされる類の地方である。 そんな場所の営業所長というのは、地元の作業員をとりまとめる、現場監督の様な使われ方もする。 …彼には合いすぎていた。 シニア・ハイの頃まではベースボールの四番バッターとして鳴らした運動神経、タフな身体、それに加えて、彼には、現場の人間とウマの合う何か、が存在していた。 例えば仕事の後の食事。例えば雨がひどすぎる日に、真っ先に飛んできて、状況の判断と指示を行い、時には身を張って作業に加わる意気。 そんなものが、彼にはあったのだ。「…フロンティア社、ホライゾン社、青光社、ラオコーン・カンパニー、イリエ製作所の五社です」「…そいつらは、そのレッドリバー・バレーにはもう手を出したのか?」「いえ」 彼女は首を横に振る。「彼等も同様です。…と言うか」「変に気を引くな、どんどん言え」「わ、私気なんて…」 いきなり彼女の頬が染まる。何だ何だ、とジャスティスは目をむいた。「…す、すみません。実は所長の前任の所長…コゼ所長、という方だったんですが、行こうとなされたのです。単身」「単身、か。お前はどうした」「…だから女だから危険だから、と…」 なるほどな、と彼は思った。「それでも私が行こうと準備してしまったものだから、前所長、来られる前に、と一台しかないランドカーに乗ってってしまわれたんです。悔しかったんですが…」「ほぉ」「…だけど戻られた時、さすがに私もぞっとしました」 ジャスティスはず、とコーヒーをすすった。「…傷だらけだったんです」「傷だらけ?」「それに加えて、少し、気持ちが動転してらして…」「平たく言えば、おかしくなっていた、ということか」「ひ、ひらたすぎです」「どう言っても同じだろう。なるほどお前は行かなくて正解だったな」「でも!」 彼女は食いついてくる。「その傷は、明らかにおかしかったんです」「おかしい?」「全身を、細かい刃物で傷つけられた様な跡と、同時に火傷したような跡がついてました」「…誰かが、前の奴を狙った、ということか?」「としか考えられません」「バーディ、お前には心当たりがあるのか?」 彼女はいいえ、と言いながら首を横に振った。「同業者が俺達の会社の邪魔をして、専門の奴を雇った、ということは考えられないか?」「それは考えてみました」 彼女は両手を握りしめる。「で、まず探りを入れてみたんです。通信を取って、最近レッドリバー・バレーの方で竜巻やかまいたちが起きるような気象条件のことは無かったか、とか…」「おいおい、そういうことを同業者が喋るのか?」「所長クラスの方はともかく、事務員の女の子とかは、結構喋ってくれますよ。それに、同業者って言ったからって、全て敵って訳ではないですし」 そう言えば、こいつも見た目は「事務員の女の子」と大して変わらないな、と彼は思う。「こんな小さい街ですから、ちょっとお茶でも飲みに行こうと思ったら、そういう同業の子を誘うことだってありますし」「おい」「だって」 だってじゃねえよ、と彼は内心毒づく。「大きなマーケットもそんなにないし。だからどうしても顔見知りになってしまうんですよ。特産物の情報とか交換したり、お野菜や果物をたくさん買いすぎたら分けっこしたり。結構楽しいですよ」「…お前が人当たりのいい性格ってことはよーく判ったから、早く続きを言え。何で前の奴はケガと火傷をしたんだ?」「何故、が判らないんです。結局竜巻もかまいたちも雷もなかったです。雨も滅多に降らない場所なんですから」「それじゃあ何の解決にもならねえだろう」「それに、同じことが、同業者達にもある、ということは判りました。だから同業他社の妨害、もなしです」「何?」 えーと、と言いながらバーディは大きな地図冊子を持ち出す。それはもう何度も何十度も開かれ閉じられしたようで、折られてかすれている所もある。「これがアリゲータです。緑の色の範囲」 彼女はジャスティスの座っている横にその地図を広げた。そしてペンでつ、と一つの道をたどって行く。「…で、ここが、レッドリバー・バレーです」
2006.08.08
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「おお」 受け取ったコーヒーは、確かに自分で淹れる、と宣言するだけあって、いい香りを立てていた。「お前はお茶くみは平気な類か? 時々、女だからと言ってそういうことを言ってもらっては困る、という奴が居るが…」「女だからするんじゃないですよ、私だからするんです」 それは心外、という表情が即座に返ってくる。「でも、他の仕事に関しては、女扱いはしないで下さい。私もちゃんと、鉱物関係に関しては、学校で学んできましたし…」「現場は学校の様にはいかねえぜ」「がんばります! 私はがんばるんです!」 だからそういうことを両手握りしめて言うものではないと思う。「ロクオンさんも、一区切りついたらどうぞ。ポットの中に入れておきましたからね」「ありがとうバーディさん。あんたはいつも優しいねえ」 へへ、と彼女は笑った。 彼女に関しては、一応ジャスティスもここにたどり着く前に資料には目を通してきた。 そもそも彼女に待たされ続けた時間、暇で暇で仕方なかったのだ。資料くらい読む時間は山程あった。 バードウィル・レイン。21歳。出身星系はフランフラン。 つまりは本社採用らしい。 …しかし何よりまず彼を驚かせたのは、彼女の学歴だった。 て、帝立大学? さすがにそれは間違いか、と思った。何故なら、帝大の一般的卒業時期は、順調に行って22歳から28歳という所だ。 彼女は21歳だ。しかも既にここに居た。一年近く居るらしい。 と、なればスキップしている。 おいおい、とんでもねえ秀才ってことかい? はああ、とジャスティスは宙港の椅子の上でため息をついた。 ところが出会ってみればこの様だ。時間は間違える、運転は下手、頭でっかちの典型だな、と彼は思った。 …だけどコーヒーを淹れるのは上手らしい。ずず、と砂糖もミルクも入れないそれを口にして、彼は思った。「…それでバーディ、現在の状況について、お前の知ってることを言ってみろ」 抽象的な問いかけだとは、彼も思っていた。 ただその抽象性に、彼女がどれだけ答えられるかを知りたかったのだ。「ええと、どの方向から言えばいいでしょうか」「お前の好きな方向でいい。自分の頭が考えて言ってみろ」「はあ」 少しだけ気のない返事をしてから、彼女はジャスティスの座ったデスクの前に立つ。そして腕を組んで、数秒、首を傾げた。 …数秒なのに、何でまあ、こんな長く感じるんだ。彼はやや苛立つ自分を感じる。「…ええと、じゃあ、この二つの方向から言っても、いいですか?」「二つの方向?」「まず私達の営業所が、何を目的としているか、というのと、その目的を同じにしている他社がどれだけ居るか、ということです」「…いいだろう、言ってみろ」 確かに、彼が聞きたいのは基本的にはそれだけだった。「まず目的ですが、…所長、『赤い河の谷』をご存じですか?」「例の鉱物がある、という場所だろう?」「はい。ただ実際には河がある訳ではないのです。昔は河があったのだろう、ということでそう呼ばれているだけで」「ふうん。それじゃ今ではその赤だけが残っている、ということか」「はい」 彼女は明快に答えた。なるほど確かに、専門の仕事に関しては、頭の血の巡りはいいらしいな、と彼は思う。「場所は判っていないのか?」「いえ無論判っています」「ならお前は行ったことがあるんだな」 いいえ、と彼女はややうつむいて首を横に振った。「何だ、行ったことがねえのか」「行きたいとは思っています! ただ…」「何だ。お前の運転が下手だから行けない、とかそういうことじゃねえだろな」「運転できなかったら、私、歩いてだって行けます! 見たいんですから!」 食い下がる。おや、と彼は思う。「ただ、途中に危険が」「…危険?」「あるんです」 彼女は再び断言した。「…で、この周辺の同業者ですが」「おい待て、お前まだ、その『危険』について全部喋ってねえぞ」「いえ、それにも関わってくるので、少し聞いていただけますか?」 聞こう、と彼は膝の上に腕を置いた。「お前も立っていずに、椅子にでも座れ」 彼はデスクの横にあった椅子を引きずり出して彼女の前に置いた。 はい、と彼女は座る。掃除が一段落ついたらしく、簡易キッチンからは、作り置きのコーヒーを手にしているらしい香りが漂ってくる。「この『アリゲータ』には、全部で五社、同業者が居るんです。ただ、うち程の大企業の営業所、ということはなくて、だいたいこのアリゾナに昔からあった所か、そうでなければ、近隣の星系から派遣されてきた企業の営業所です」 だろうな、とコーヒーをすすりながらジャスティスは思う。まずこんな辺境に好きこのんで来る者は居ないだろう。 「アリゾナ」はそのくらい辺境だった。
2006.08.07
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「す、すみません。…いえ、あの、ちゃんとフォートで確認はしていたのですが、一応ちゃんと本人に確認を取る、という決まりになっていますので」「それで聞いたのか?」 はい、と女はうなづいた。手にはハンドルが握られている。「営業所」のあるアリゾナ第一の―――唯一の都市「アリゲータ」行きの道を、車は走っていた。 道は一応舗装されているらしいが、そのやり方は雑だった。珍しい、と彼は思う。 慣らした土の上に砂利を敷き、その上にアスファルトを敷き詰める、という昔ながらの舗装方法が今でも取られている所など、彼は見たことがなかった。 いや、舗装すらしていない所だったら、彼はあちこちで見たことがある。ただこんな中途半端な舗装を見るのが初めてだったのだ。「それでもこの道が一番いいんですよ」と女は言った。「他の道じゃあ、私こんな上手く運転できません」 これでかあ? とジャスティスは思ったが口には出さなかった。 代わりに言ったのは。「…お前なあ…そういうこと言う前に、俺に何か、言うことは無いか?」「へ?」 よそ見をするな、よそ見を。「お前の名だ! 自己紹介してないだろ!」「あ、そ、そうですね」 あはははは、と彼女は笑った。だからよそ見をするな、と彼は思う。 そしていきなりランドカーは止まった。がたん、と彼は勢い余って窓に額をぶつける。「何だ何だ何だ何だ」「申し遅れました! 私はこのアリゾナ営業所の所員のバードウィル・レインです。バーディでもレインでもお好きにお呼び下さい!」 そう言って彼女はわざわざ彼の方に向き直ってぺこん、と頭を下げた。 そのために車を止めたのかい。彼は呆れる。 呆れはするが。 律儀な奴だ、という言葉も、葉巻の下に噛みつぶされる。「…OK、バーディだな。いいからとっとと営業所に案内しろ」「はいっ!」 元気に返事をする彼女はアクセルとブレーキを踏み間違って、なかなか発進できなかったりするのだが。「あ、バーディさんお帰りなさい。あ」「ただいまロクオンさん。こちらが、今度の所長さんですよ」 帽子をかぶり、モップを持った男はああ、と手を止めた。 自分より二十くらい上だな、とジャスティスは人の良さそうな男を見てとる。 にこやかに笑うやや赤みの強い肌の男は、きっちりとした性格らしく、話をする時にはモップの手を止め、新所長に正面から向き直る。「よろしくお願いします。ロクオンです」「ロクオン…姓か、名か?」「名です。と言いますか、我々は名しか無いのです」「ああ…」 そういう所もあったな、とジャスティスは思う。辺境へ行けば行くほど、人口が少なくなればなるほど、姓はさほどに意味を持たなくなる。「俺はジャスティス・ストンウェルだ。よろしく頼む」 彼は左手を差し出した。ありがとうございます、とロクオンはやはり左手を迷わずに差し出した。「私はこの営業所の下働きをしております。何でもおっしゃって下さい」「お前さんが下働きか。…じゃあお前は何だ? バーディ」「わ、私ですか? 私は…あの、社員です」「それは判っとる!」 いきなりの大声に、彼女はまたひっ、と肩をすくめた。「と、とりあえずコーヒーを淹れます」「あ、バーディさんそれは私が」「いえ、所長のは私がすることになってたんです。お掃除の途中だったのでしょう? そちらの方をお願いします」 ふん、と簡易キッチンの方へと身を翻す彼女と、掃除の続きを始めるロクオンを見ながら、ジャスティスは部屋の真ん中に置かれた机の上に、どすん、と腰掛けた。 営業所、と呼ぶには、そこはあまりにも小さな部屋だった。もっとも常備されているのが三人だったら、それは仕方がないことかもしれない。 もっと小さな「営業所」のこともあった。 「営業所」の建物が無い場合もあった。「…まあそれに比べりゃマシか」 ジャスティスはつぶやく。彼等の会社は本社を帝都本星に近い星系「フランフラン」に持つ製鋼会社「エイピイ」だった。 製鋼会社と一口に言っても、用途は様々である。 まずその「製鋼」における「鋼材」の種類にしても様々であるし、するとその「鋼材」の原料である鉱物も様々となってくる。 ただ、これだけ広い全星系となると、鉱物の数も、かつて地球にあった種類や量とは比べものにならない。 そしてその鉱物と鉱物との組成比率の違う鋼材となると…もう分ければきりが無い。 だから、実際の所は、この産業に関しては、大企業と中小企業の規模の差がひどくはっきりしていた。中小企業は、各星系独自の鉱物のみを把握し、大企業がそれをとりまとめる。 ただ、彼の属する企業は「大企業」の部類に入るのだが、子会社や中小企業を配下に置くのではなく、あくまで自社で、全星系の鉱物全てを網羅しようとする動きがあった。 それ故、各地に「営業所」が置かれ、ジャスティスのような、フットワークが軽い人材がその役割を負うのである。 実際、この仕事についてから、実家のある星系「ランプ」に戻ったことなどほとんどない。 ストンウェル家の血筋だろうなあ、と彼は時々思わずにはいられない。 双子の弟のノブルはASLに属するプロ・ベースボールプレーヤーで遠征遠征の毎日だし、上の兄は確か、民間キープサーヴィスの様なことをやっている、と聞いていた。ただ彼も詳しいことは聞いたことはない。 腕一本で自分達を育て上げた母親は、それも父親の血かねえ、とげらげら笑っているくらいで、星系から出ることはそうそう無いが、自分たちの仕送りなどまるであてにせず、一人で楽しくばりばりと楽しく働いているらしい。「…どうぞ、コーヒーです」 バーディの声に、はっと彼は我に戻った。
2006.08.05
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「アリゾナ砂漠に吹く風は~♪」 古い曲を口ずさんでみたりする。 口笛なんか絡めちゃったりする。 退屈。ホントに退屈。 どう転んだって、退屈。 何かなくちゃつまらないから、時々やってくるうるさいうるさい虫どもをちょっとした手品で追っ払ったりしてみてけど、退屈。 その理由も判ってるんだけどね。彼は思う。 けれど、ここに居ることしかできない。 苦笑。 本気で笑ったのなんて、もういつのことだろう? 彼は口笛も飽きて、ふう、と息をつく。 そろそろ今日のメシのタネが来る頃だ。 よ、と声を立てて立ち上がる。よく焼けた筋肉質の胸に、じゃら、と重い銀細工のペンダントが揺れた。 帽子の位置をちょっと直して。今日も日差しは強い。 ここはアリゾナ。砂漠は無いけれどアリゾナ。 惑星「アリゾナ」。 みーつけた、と彼は良く見える目で今日の獲物を捉える。 狩りは彼のお手のもの。肉食人種、なんて言葉があるとすれば、それは彼そのもの。 案の定、たった一撃で倒してしまったりして。 火をおこして、何代目かの使い込んだナイフで器用に獲物をさばいて、丸焼きにして、思い切り食いついて。 味付けなんて塩だけでいい。上等だ。 食事が終わったら昼寝。ぽつんぽつんと生えている木の下で。風が汗を乾かしていく。 そしてまた彼は思う。ああ退屈。 ここ数年は特に、退屈。 さすがに脅かしすぎたかな、と彼は思う。 かと言って、何もしなかったら、それはそれで困ったことだし。 彼は考えるのが苦手だ。 考えるのが苦手でなければ、こんな場所で、こんな長い時間、同じ日々を送ることなんてできない。 朝陽が昇ったら起きて、川で顔を洗い、腹が減ったら獲物を狩り、ほんの時たま街を降りて獲物と何かを交換して。 雨が降ったら、寝て過ごそう。 そんな日々も悪くは無いのだけど。 さすがにこのしばらくの退屈は、単純な彼を突き動かしたと見えて。 真っ赤な崖の上で、空を見ながら、こんなことを思ってしまうのだ。 誰か。 誰という訳でもないけれど、彼は空に向かってつぶやく。 誰か、ここを思いっきりぶち壊してくれよ。「アリゾナ砂漠に吹く風は~♪」 彼はまた口ずさむ。 アリゾナ砂漠なんて、一体何処のことなんだろう。彼は思う。砂漠なんて、ここにはない。 だけど歌のその先が、思い出せない。 いや違う。 あのひとは、そこまでしか、いつも、歌わなかったからだ。逞しい、優しい腕で、彼を抱いた、そのひとは。 遠い昔の、記憶。 「アリゾナ」が焼かれる前の、記憶だ。 こんな風に、乾いた土と岩だらけの惑星になってしまう前の。 *「遅ーいっ!!!!!」 朝の宙港ロビー中に、その声は響き渡った。 ただでさえ閑散とした、「ど」辺境の惑星の宙港である。大した広さではない。中堅の都会を持つ惑星だったら「駅」程度に過ぎない。 だから昼間でもそうそう人気が無いというのに、よりによって「朝」なのだ。 さわやかな空気が頬を通り抜ける…はずだが。彼の周囲は煙草の煙で充満していた。 既にこの日、彼は十本目の葉巻を消費していた。辺境に来ると切らした時の補給が大変だというのに。ああ全く。 暇がいけねえんだ、と彼は内心つぶやく。 そこへ、若い女がぱたぱたとやってきたりしたから、思わず。「一体何時だと思ってるんだ、お前!」 ひっ、と怒鳴られた方は、肩をすくめた。 肩くらいの短い黒髪がしゃん、と跳ねる。眼鏡の縁を合わせながら、彼女はロビーの天井から吊された時計を見た。「…ろ、六時十五分です」「それは共通時じゃないだろう! あっちが共通時だ!」「ああ」 ぽん、と女は当を得たり、とばかりに手を叩いた。意外に呑気だ。「…何をお前、昨日の通信で聞いてた!」 確かに、ロビーの天井から釣られている時計は、六時十五分を指している。天窓からは赤に近いオレンジの、綺麗な朝日が射し込んでいる。 だがその背中合わせになっている共通時時計では、十五時五分を指しているはずだ。 つまり、それだけの時間、彼は待たされたという訳で。「あ、あの~申し訳、ございません」 ぺこん。黒髪の女は頭を下げた。その拍子に、眼鏡がずれる。女は慌ててそれを直した。 何かいちいちタイミングのずれる奴だな、と彼は思う。そして呆れた様に、明るい色の髪をかき回した。「…判ったならいい。ただ次からは気を付けろ」「は、はい。…あ、あの…」「何だ」「私、確認し忘れてましたけれど…ジャスティス・ストンウェルさんですよね。今度アリゾナ営業所の所長として赴任されました…」 彼は一呼吸置いて、叫んだ。「…今更何を聞いてるーっ!!」 その声に、宙港のカウンター嬢が思わず身体まで乗り出してきたことは、彼等の知ることではない。
2006.08.05
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「…それでおにーちゃんとはちゃんとお別れできた訳かい?」と浴室から声が飛んだので、ノブルははっと顔を上げた。考えに沈みそうになっていたらしい。「ああまあ。奴は奴で忙しい上に、結局予定よりずいぶん遅れる羽目になったからなあ。慌ててたぜ」 ふうん、と呑気な声が飛ぶ。「そう言えば、あんたのスタジャン、クリーニング出しておかないといけないんじゃないか?」「あ! そうだった。…あーでも、明日もう出るだろ。…間に合うかなあ」 言いながら、マーティは腰にタオルだけを巻いて、まだ髪からぽたぽたと水滴を垂らしながら出てくる。絨毯に染みが所々できるが、この男はそのあたりにはあまり構わないらしい。「…うーんやっぱりこれはひどいかな」 広げてみる青のスタジアムジャンパーは、胸と言わず肩と言わず、べっとりと黒ずんだ染みができていた。「…どう見たってひどいぜ。捨てちまったほうが良くないか? 血の染みってそう簡単には取れないぜ?」 ストンウェルはベッドにうつ伏せに寝そべりながら、彼の敬愛する男を見る。本当にまあ、いい身体をしているものだ。背中についた筋肉といい、腰のあたりといい、足といい。 ただやはり、彼が昔知っている男とは、やや筋肉の付き方に違いがある。 一年少しのこのチーム生活で、野球選手的な筋肉を取り戻しつつはあったが、やはりライでの労働生活のうちについたものというものがマーティの身体を構成している大半のものなのだ。 俺は生まれ変わったんだよ、と「再会」したばかりの頃、マーティは言っていた。それを良い意味で取っていいのか、そうではないのか、ストンウェルには判らない。ただの事実を言っているだけなのかもしれない。 …ただそれに伴って、少しばかり貧乏性の習性もついてきたようだった。「んーでもなあ、着られる服を捨てるってのは」「…あんた年収幾らもらってるんだよ」「それとこれとは別。物は大事に使おう」 ストンウェルはぱっと起きあがると、水に浸けて置けばいいかなあ、なんて呑気に口走る男から服をもぎとった。「何するんだよお前」 ストンウェルは何も言わず、備え付けの大きなビニル袋に押し込むと、ぎゅっ、とその口を縛った。「…見てる方が心臓に悪いんだよ、ああいうものは」「そう…かな? ああ、そうかもな」 マーティは自分のそんな感覚が鈍磨していることは知っていた。慣れとは恐ろしいものなのだ。苦笑する。ああやはり、あれは素人には、衝撃が強すぎたかな、と。「判った。あれは捨てる。その代わり、ストンウェルお前、新しいの、頼んでおいてくれない? 今のうちに」「俺がかよ?」「俺まだ風呂の続き。このままじゃ風邪引いてしまうじゃない」「それは、そうだねえ」 ストンウェルは言いながら扉を開けた。 別室のチーフ・マネージャの部屋は何処だったか。そう思いながら廊下を行くと、本日の勝利投手とすれ違った。「あ、ストンウェルさん、マーティさんは?」「部屋だよ。ああでも今風呂入ってるから行っても無駄だぜ」「そうですか」「何、奴に何か用事?」「…いえ、用事って程ではないですが」 ふうん、とストンウェルは頬を人差し指の爪でひっかく。「あのひとは、平気なんですね」「何が」「…俺は、びっくりしました」「俺だって、びっくりしたさ」 ルーキー君は、弾かれた様に顔を上げた。「何お前、俺がびっくりしていない、って思ってる訳?」「…い、いえ…」「まあいいけどさ。だから生半可な気持ちで奴に近づくなよ」「え」 ぽん、とストンウェルはダイスの肩に手をおき、にやり、と笑った。何のことを言われているのか判らない、という表情のダイスに彼は付け加える。「と言う訳で、お前に一つ使命を与えよう。チーフマネージャのとこに、マーティの新しいスタジャンを頼んできてくれねえ? あれもう着られねえからさ」「は? …はい」 首を傾げながら、ダイスは言われるままにチーフ・マネージャの部屋の扉を叩いた。「そう。サンキュ。わざわざすまなかったな」 構わないさ相棒、と向こう側の相手は言った。それでもまだ、端末越しにしか、自分に会う気は無いらしい。そして、レーゲンボーゲンに帰る気も。「…じゃあ。また頼み事するかもしれないけれど」 たまには俺の頼み事も聞いてよね、と向こう側の声が届く。聞ける頼み事だったらな、とマーティは返すが、そう言うと、あの相棒は、今は無いよ、と笑うのだ。 通信を切ったら、いいタイミングでストンウェルが戻ってきた。「…あれ、何、どっかと通信してたの?」「まあな。俺も結構忙しいものでね」「ふうん」 既に髪が結構乾いている。風呂から出て時間は経っているようだ、とストンウェルはにらむ。「それにしてもさ」「何だよ」「今日のあんたは、結構怖かったぜ」「そうか?」 そうだよ、と言いながらストンウェルは対面のベッドに座り、そのまま靴を飛ばすように脱ぐと、手枕にして寝ころんだ。「…あんたああいう生活、してたんだな」「ああいう生活ばかり、じゃないけどな」 それでも、日常的に血を見慣れている女と違い、男がそれに鈍感になるには、それなりの状況が必要だ。実際、ストンウェル自身、マーティが浴びているのが返り血であって、彼自身から出ているのではないと判っていても、くらりとしたものだ。「…その頃のこと、聞いても構わないかい?」「聞いたって、面白くないさ」「俺には、興味深いよ」 危険信号が、マーティの中に走る。次に来る言葉が、彼には多少なりとも予想ができたのだ。 だから、彼はこう返した。「…話してもいいさ、おいおいにな」 言われた方が驚いたようで、ぴょん、と身体を起こす。「ただし」 マーティはぴしりと言った。「お前の空白も、俺に教えろ」 しばらくの間、二人の間に沈黙が流れた。 そしてやはり、負けたのはストンウェルの方だった。くしゃ、と笑顔を作ってみせる。「…判った判った。お互いに、おいおいに、ということだよな」 ああ、とマーティも笑った。だが目は笑っていない。 彼が釘を刺しているのだ、ということはストンウェルにもよく判る。 きっとその「おいおい」の間は、マーティは絶対にある一定以上の距離を自分に取らせないだろう、とも。「俺は、できるだけ平和に、ベースボールをやっていたいだけなんだがな」 マーティはつぶやく。「それは無理だよ」「青い空の下、毎日毎日球の追っかけっこだけするのが俺の楽園なんだがなあ」 独り言のように、マーティはつぶやいた。
2006.08.03
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宙港で別れたジャスティスは言った。「…この分だと、昔以上にお前も物騒なことになるだろうな。彼と一緒に居るっていうことは」 そうだな、と再び葉巻を口にしながらゲートの向こうに行こうとする兄に向かって、ノブルは答えていた。「だけどトラブルなんて、何処に居たってあるもんだ。それはお前も一緒だろ、兄貴」「ああそうだ」 にやり、とジャスティスは笑っていた。それは性分だ。同じ血が通っている者達の。「ただ彼は、マーティ・ラビイはそれだけじゃないんじゃねえか?」 ちら、と警官を説得しているマーティをジャスティスは見る。先ほどの散弾銃が暴発した女の返り血が、明るい色の髪や、青いスタジアムジャンパーに所々ついている。 顔だけは水で濡らしたタオルで拭いたが、それでにこやかに「お願い」されているのだから、警察もいい加減怖いだろう。おそらく「お願い」はすぐに通るに違いない。「修羅場、結構くぐってきているな、彼は」「…ああ」 それが自分の全く知らない時間であることが、少しばかりノブルにははがゆいのだが。 「これは俺のただの勘だが」 言いながら彼は葉巻に火を点ける。「何かあるだろう? 彼には。ただ単に、昔の名投手だった、ということと、それを隠している、ということ以外に」 ノブルは軽く目を細めた。この兄には嘘はつけない。つくことが、できないのだ。 だったら、隠しても無駄だ。「ああ」「やはりな」「俺はそれを知ってる。知ってるからこそ、もうすっぱり辞めてしまおうと思ったベースボールを、もう一度始める気になったんだ。そして彼を捜した。何年も探した。そしてやっと見つけた。…その時ちょうど、俺をスカウトしてきたサンライズに彼の存在を売り込んだ。この惑星にいい人材が眠ってますよ、と」 実際「DD」の記憶は全くもって眠っていた。泡立て器がかき回すまで。「…なるほどそこまでしてたか。逆じゃあ、なかったんだな」「って言うと?」「マーティさんの方が先か、と思うじゃねえか。サンライズが目をつけたのは。彼は現在、アルクに籍があるんだろ? 居なくなってからずっと、結局あそこに居たってことだろう?」「…や、アルクには、居なかったんだ。レーゲンボーゲンには居たけれど。…見つけたのは、偶然さ」 そう。捜していた中で、たまたま目にした報道が。「レーゲンボーゲンには…?」「パンコンガン鉱石、っていうのは、ライで採れる、帝都政府向きの出荷物だったんだ」 ちょっと待て、とジャスティスは顔色を変えた。アルクの連星ライ。冬の惑星。つまりそれは。「それは」「兄貴、お前ならその意味が判るだろ?」 ジャスティスはうなづいた。弟の姿をあのTV中継の中で見つけた後、慌ててアルク・サンライズと、そのホームグラウンドであるレーゲンボーゲン星系に関するデータを収集したのだ。 レーゲンボーゲン星系には生活に適した主星アルクと、政治犯を送り込んでいた、「冬の惑星」―――流刑惑星だったライがあるのだ、ということも。「だけど、どう考えたって、いくら確かに当時の政治体制がとんでもないものであったとして、そんな、一応顔の知られたベースボール選手を、周囲に何の確認もなく、向こうへ送り出すと思うか? 彼が自分のことを絶対に言わなかったとして、だよ?」 ジャスティスは腕を組んで押し黙る。「それでも、取り調べる中に、誰一人として、ベースボールのファンが全く居なかった、とは考えにくいよな。俺達が当時アルクに来た時には、結構大々的にニュースペイパーとかで宣伝はかけた訳だし、だいたい兄貴も好きなPHOTO&SPORTSとかだって、一応あの惑星にも入ってはいたんだぜ?」「…当時のあの雑誌ときたら、DDの姿はオンパレードだったからな」 人気のある選手はよく表紙にも写真が使われたものだ。彼等兄弟は取り合うようにして、買ってきた雑誌を見合ったものだった。「それに加えて、コモドの当時の対応がおかしかった」「…のか?」「ああ。…と、当時の俺は思った。だってそうだろ。花形プレーヤーの彼が失踪なり行方不明になったというのに、『政情不安』だから、って逃げる様に引き返した。俺は一人でも残って、彼の居場所を突き止めたかったけれど、無駄だった」「…なるほど、じゃあお前がしばらくDDも居ない球団に残っていた、というのは」「ちょっとね」 彼はポケットを探る。「インビンシブル・アルマダ」の箱を取り出したが、中身は既に空だった。「ち、もう無いか」「葉巻で良けりゃ一本やるぞ。それともポリシーに反するか?」「…たまにはいいかもな」 点いている火をそのままもらうと、ふう、と彼は煙を吸い込む。「何かが、あの時おかしかった。PHOTO&SPORTSの、彼の失踪/特集号がいきなり発売停止になってたりするし」「そう言えば…てっきりすぐ売り切れてしまったと俺は思っていたが、停止だったのか」「ああ。だから俺はしばらく球団に止まって、そのあたりを調べてみようと思ったんだけど」「…で、結局首尾良く調べられたのか?」「ある程度まではな。だけど何故か、途中で行き詰まる。何か、が隠されている。ASLがそもそも彼をどうしてああも疎んじたのかも気になったし。当時だって、彼くらいの『態度の悪い』プレーヤーなんてごろごろしていた。スケープゴートにするにしても、変だった」 それに最近また、嫌がらせが復活しているのだ。 あの女。シィズンとか言った。本気なのかどうなのか判らないから嫌がらせというのか。「まあ今回のは、それとは全く関係ないとは思うけどさ」「…なるほどな」 こう弟に熱を持って語られては、ジャスティスとしてはもう何も反論はできなかった。「…ま、いいさ。お前の人生だし好きにすればいいさ。ただお前が近いとこであんまりショックを受けると、俺にも響くんだからな」「判ったよ」 にやり、とノブルは葉巻を口の端に寄せて片目をつぶった。全くこの体質は。「はいよ、さっきはボールをサンキュ。おかげで助かった。相変わらずコントロールいいな、兄貴」 ノブルはサインボールを手渡した。ひっくり返すと、赤黒いものが点々とついている。「返り血がこっちにまで飛んでやがる。すまんな」「ま、記念がまた一つ増えたってことよ」「これからだってどんどん記念は増えてくさ」 へへ、と二人は笑い合った。
2006.08.02
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「…と言う訳で、まあ、幹線道路じゃあ間に合わないよなあ、と思ったから、特別道路を思い切り飛ばさせてもらったって訳で」「はあ」とその場に居た選手達は思わず目を丸くした。「…ああそう言えば、パトロール・カーとか救急車は『車が』動きますからねえ」 ミュリエルは感心したようにうなづいた。「だからすみません、監督、試合が終わったらちょっと、警察の方に行かなくちゃならないんですが!」「ご飯ちゃんと取っておいて下さいよ、実は俺達お昼食ってなくて…」「あ、そう言えば俺も腹減ってきた。何かつまむものでも無い?」 口々に言うマーティとノブルに、監督は大きくため息をつき、胃の辺りを押さえた。「…いいかお前等絶対明日から携帯端末は持ってろよ!」「…ってあれ、俺良く落とすから」とマーティが言う。「端末の携帯の意味が無い! だったらストンウェル、お前が持ってろ! どーせお前等、だいたい一緒に行動しているだろう!」 あーあ監督怒っちゃった~とテディベァルは打席に向かいながら歌う様に言った。「…そんなに俺とお前って一緒に居たっけ?」「さあ?」 顔を見合わせる二人に、居ますよ、とダイスは言いたい衝動にかられていたが、あえて口には出さず、ぱんぱんとボールをグラブでお手玉していた。 かーん。 おお、と皆でその場で伸びをする。普段長打はしないテディベァルが、レフトスタンドに一発叩き込んだのだ。滅多に打たないものが珍しいのか楽しいのか、彼は跳ね回ってベンチに戻ってきた。「たまにはいいね~」 ぱんぱん、と手をはたかれ迎えられながら、テディベァルはへらへら笑いながらそう言った。「んじゃ、俺もがんばってきますか~」 トマソンものっそりと、立ち上がった。 その後は、もう記録的な点数を打ち込んで、相手を惨敗させたと言ってもいい。 この負け方に、あまりにも馬鹿にされた、と思った「エディット・トマシーナ」がこのシーズンが終わった後いきなり奮起したりするのだが、それはまた別の話である。さしあたり、彼等には特に関係は無い。「あ、そーだ、ダイちゃん、オミヤゲ」 ホテルの回転扉を開けながら、マーティはポケットから「スカーレット社の赤い箱」のガムを出し、本日の勝利投手に一つ手渡した。「あ、あれ?」 そんな余裕何処にあったんだ、とダイスはもらって嬉しいやら、少し混乱する。「テディにも、ほい」「さんきゅ。へー、これがダイスの言ってた奴なんだあ」 テディベァルは箱の表を見、裏に返し、うんうんとうなづいた。「結構膨らむのは、確かだぜ。顔より膨らむ」「嘘ぉ」「や、ホントだ。俺が保証する。ただし、全部一気に口に突っ込まないと無理だぞ」「げげげ」「あごが疲れるぞ~」 あはははは、とマーティは笑った。 全くだ、とその会話を聞きながらストンウェルは片方の眉を上げた。あんな一気に甘いガムを噛むなんて、そんな状態でなければしたくはない。 ガムも幾つも一気に含めば、結構な大きさの固まりになり、なおかつ詰め込めばすき間ができない。それを銃口にぐい、と突っ込んだから、結局暴発したのだ。 あの状態でよくまあそんなこと咄嗟に考えついたものだ、とストンウェルは思う。しかも相手は女で、暴発すれば持ち手がどうなるか判っていても、…容赦が無かった。 だがそれが、自分の知らないマーティの部分だった、と思うと、それを知ったことでノブルは少々楽しい気分になる自分に気付いていた。
2006.07.31
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「それにマーティ、あなたにしては確かにデリカシイがありますね」「何」「髪に血がまだついてますよ」「ああ~。見えるとこは帽子に押し込んだと思ったのになあ」「察するところ、スタジャンにもついてますね。ストンウェルは着てるのにあなたが着てないってことは」 げげ、とベンチのメンバー達は、一気にその発言に引いた。「…先生…そういうことを真顔で言わないで下さいよ~」 ダイスが大きくため息をついた。「でも事実でしょう?」 手を組みながら、ミュリエルが何処か嬉しそうに見えるのは、マーティの気のせいだったか。彼はそれには答えずに、意地の悪い笑みを返しただけだった。 饒舌な「先生」は続ける。「まあだから、結構私としては不思議だったんですが。さすがに九回表で私代打で出て、ファウル打ちまくって時間稼ごうかな、と思っていたんですがねえ」「ふうん?」「経過説明、いただけますか?」 さすがにその言葉には、皆が身体を乗り出してきた。監督すら、しかめ面をしながらも耳を側立てている。 仕方ねえなあ、とマーティは肩をすくめる。「ああそれはなあ…」 マーティは半ば呆れながら、話し出した。 あの時。 ノブル・ストンウェルは吠えながら、ジャスティスから受け取ったサインボールを投げた。 はっと気付いた二人組も、さすがにその硬球を避けることはできなかった。機関銃を持っていた男の顔面を、ボールは思い切り直撃した。 伏せろ、とマーティが叫んでいたのは無駄ではない。男の手を離れた機関銃が、しばらくの間、空を向いて連射を続けていたのだ。 壁のモザイクや、天井からぶら下がっているシャンデリア、窓ガラスと言ったものが、所々で弾けた。 その間に、ジャスティスは背後から銃を持つ男を羽交い締めにした。うお、という声が響くと、銃はぽろ、と男の手から落ちた。腰がぎしぎし、と鳴っていた。あれは痛いだろう、と周囲の目がそっと見ていたかもしれない。 鉱山惑星を長く歩いて来た男の強い力だ。きっとそんな惑星の荒くれ者達を相手に、何かとやってきたに違いないと想像させるには充分だった。 マーティはマーティで、その隙をついて、姿勢を低くしたまま、散弾銃の女の方へと突進した。フットボールのタックルの要領だ。 偉丈夫の男の体当たりを受けそうになって、女は慌てて避けた。マーティは勢い余って、時計のある壁の方まで走り込む。「近づくんじゃないわよ!」 女は硬球が当たって失神している男を横目で見ながら、それでも気丈にも散弾銃をマーティに向けた。 ただ、その目が何処か怯えていた。それがマーティには判る。 だから彼は、笑ってみせた。「打つなら、打ってみろよ」 そう言いながら、手の中の物を、つ、と銃に押し込んだ。 素早い動きだった。女は何をされたのか、すぐには判らなかった。 マーティの目はひたすら落ち着いていた。 いやそうではない、相手をなめてかかっている目だった。少なくとも、女にはそう見えたのかもしれない。 その様子が女の神経を逆撫でした。ただでさえ、白い紙巻きの中のドラッグで、気分は高揚している状態だったのだ。突っつかれれば、反応は速い。 その代わり、別の部分は鈍感になっていたのかもしれない。 何処かから妙に甘い匂いがしていたのに、気付かなかったのかもしれない。 いずれにせよ。 打ってみろよ、とばかりの青いスタジアムジャンパーが、女を苛立たせたのだろう。 女もまた、「エディット」の住民だった。もしかしたら昨日大負けしたアルク・サンライズのユニフォームを知っていたのかもしれない。郷土愛というものは、本人も知らぬ間に、唐突にあふれてくるのかもしれない。「ほらこっちだぜ」 マーティは後ずさりする。なるべく壁側へ。人だかりが少ない方へ。「ほら」 止めろ! と叫んだのは、誰だったろうか。 ストンウェル兄弟のどちらかだったか、それとも、既にジャスティスが床面に押しつけていたもう一人の男だったのか。その辺りは判らない。 ただ女にはその言葉は聞こえなかったに違いない。 引き金を――― 銃が暴発した。「…あんたがそうさせるとは、思わなかったがね」 衝撃で破壊された壁の、モザイクの破片を払うマーティに向かって、ノブルは言った。「うわひでえ。びちゃびちゃについてやがる」 目の前では、腕と頭を吹っ飛ばされた女が横たわっている。その女の血のかなりの量が、床と壁と、一番近くに居たマーティに飛んだのは言うまでもない。 だが飛ばされた本人ときたら、結構涼しい顔をしている。「あーあ、こっちも汚れちまったな」 ポケットに片手を突っ込んだまま、先ほど投げたボールを拾い上げる。その間に、警官隊がざわざわと入ってくる。「…何って危ないことをしてくれたんだ!」 ネゴシエイターらしい警察の一人が、額に青筋を立てて彼等に掴みかかった。「いいじゃないですか。ちゃんと皆さんは無事だし」 ほら、と彼は座り込んだり伏せたままになっている客達を目で示す。「…大惨事になるかもしれなかったんだぞ!」「だからちゃんと、距離は取りましたよ」 にっ、とマーティは笑った。その笑いに、警官は思わず手を離した。 だが今度はマーティの方がぐい、とその警官に迫った。「それより、とにかく後はよろしくお願いします。俺達、実は時間が無いんですが」 ノブルもまた、その笑顔を見て少しばかり肩を震わせた。 怖い。 それは彼と「再会」してから、初めての感情だった。 彼が知らない、DDでもマーティ・ラビイでもない、もう一つの呼び名の時の彼の姿の名残。こんな事態に、何度も何度も遭遇し、切り抜けてきた男の姿だった。「おい大丈夫か、ノブル」 ゲートを飛び越えて、ジャスティスが近づいてきた。「そっちの犯人は」「あっちの警官に任せた。あんた、さっき何やったんだ、マーティさん。わ、ひでえ格好じゃないか」「…や、別に。ただこのガムって、結構効きますねえ」 くくく、とマーティは笑い、ポケットの中の一箱をひょい、と掲げた。 陽動だけではなく、散弾銃の詰め物にするために、あれだけ一気に口に放り込んだのか、とノブルは改めて気付いた。「…時間が無い?」 報告を受けた警官隊の隊長はマーティとノブルの姿を見て、ああ、とうなづいた。「そうあんた等、何処かで見たと思ったら、アルク・サンライズの」「そうなんですよ。選手です。今日の登録されてるんです」「…って」「だから!」 マーティはぐい、と隊長に血塗れの笑顔のまま、迫った。「すいませんが、パトロール・カーで球場まで送ってもらえませんか? 事情聴取だったら、その後幾らでもさせていただきますから!」 …やっぱり怖い、とノブル・ストンウェルは本気で思った。
2006.07.29
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マウンドの上で、ダイス・スロウプは非常に困っていた。 何せ、勝ってはいけないのだ。 かと言って、負けてもいけない。 つまりは、時間稼ぎをしろ、というのが監督からの至上命令だった訳だが。 …そういう時に限って、この実業学校リーグで「怪物」と呼ばれたルーキー君は絶好調だったりするのだ。「おいダイス、頼むからもう少し、球数増やせよ」「そうそう、しかも打たせてもちゃんと取れるフライにしちまうし…」 そう言われても困るというものだ。 相手チームの「エディット・トマシーナ」は絶不調なのだ。そんなチームに「打たせてやる」なんてのは、本当に難しい。 それに、投手として、…何か間違っている様な気がする。 顔に出るタイプのダイスは、顔だけでなく、行動にも出る。調子がいい時には調子がいい様にしかできない。 それがルーキー君なのだ、と言われてしまえばおしまいなのだが! 共通時十五時十分。 既に試合は、八回の裏に差し掛かっていた。十三時に始まった試合だから、まあスムーズに進んで…しまったと言えよう。 スコアボードには両軍とも0が並んでいる。監督命令だった。「奴らが戻って来るまで塁に出ても点を取るな!」と言う。「そんな殺生な~」とテディベァルは目に涙を浮かべたが、監督はがんとして譲らなかった。しかしホームグラウンドを持っているチームが後攻である関係上、九回の表には、さすがに点を入れなくてはならない。 そして現在は八回の裏。 頼むから多少は打ってくれよ。ダイスは思う。 だが「エディット・トマシーナ」の選手達はまぐれにも打ってくれないし、自分は自分で、このいい調子を下手に崩すと、後々のピッチングに響きそうで怖い。 頼むから、早く帰って来てほしい。彼はため息をつきながらセットポジションにつく。ホイのサインは…どうやら微妙な所をつくように、ということだった。 ホイにしてみれば、つい本気になってしまうこのルーキー君に、上手く四球を出させたい、というところだった。球数も増えるし、なおかつ向こうのランナーを出すこともできる。 無論普段だったら、この真面目な正捕手も、そんなこと絶ーっ対に考えたくもないのだ。しかし彼は堅実だった。監督の命令があるならば、ちゃんとその方向に上手く試合が進む様に考えるのが、彼の仕事なのだ。 走ることができないテディベァルは何やらうずうずしているようで、守っているポジションで実に落ち着きが無い。「…監督!」 本日はベンチ待機のミュリエルははっとして、顔を上げ、両耳からイアホンをもぎとった。「OKです。連中、球場前までやってきました」「来たか!」 監督は勢い良く立ち上がった。「ホイ!」 タイム、とヒュ・ホイは主審に告げる。とことこ、と彼はベンチの方へ近づいて行った。二言三言告げると、マスクの下の目が急に輝く。勢い良く監督はホイの背中を叩くと、行って来い、と送り出した。 ホイはそのまま自分の守備位置に付くと、タイムを解き、彼のルーキー君にサインを送る。え、という顔をするダイスに正捕手は大きくうなづいて笑った。 そうか、とダイスもそれに応えてうなづく。 もう思いっきり投げていいんだ。何の気兼ねなく。 あっさりと三者凡退させた八回の裏。選手達がベンチに戻ってくると、はあはあ、と息を乱して座っている彼等の投手リーダー達が居た。 あれ、とダイスは思う。マーティが帽子をかぶっていた。彼はグラウンドに出るまでは、その明るい髪を出しておくのが好きなはずなのだが。「…ったく心配させおって」「ご苦労様でした、お二人とも」 ミュリエルはにっこりと隣に座る二人に笑い掛ける。「ほんっとうにご苦労だったよ…」 タオルで汗を拭きながらストンウェルはつぶやく。「マーティさん、無事で良かった~」 ダイスはばたばたとベンチに戻ってくると叫んだ。「何お前ら、俺達が何やってたのか、知ってたの?」 やはり汗を拭きながら、マーティは割合と涼しい顔で皆に問いかけた。「…知ってるも知らないも、…なあ…」 トマソンは両手を広げて肩をすくめる。「監督、俺の薄型TV返してもらっていいですか?」「おお、ちょっとダイヤルずれたがいいか?」「どうせまた合わせますよ」「薄型TV? 何のことだ?」 ストンウェルはマーティと顔を見合わせて首を傾げる。「…まあいい。よし皆、もう点を取ってもいいぞ。これでもかとばかりに思い切り打て! 打って打って打ちまくれ!!」 監督は立ち上がり、拳を天に向かって突き出した。 それに呼応して、他のメンバーもおおっ、と一斉に声を張り上げる。 もう皆我慢に我慢を重ねていたのだ。あんな投手の球をどうして打ってはいけないんだ、とトマソンは腕がむずむずしていたし、テディベァルは盗塁したくてたまらなかったし、ホイもダイスですら、あれなら自分もホームラン打てそうだ、なんて内心思っていたりしたのである。 そんなことまるで知らない遅刻組の二人は、隣にちゃっかり座ったルーキー君に向かって笑いかける。「いい調子じゃないか、今日は白星つくな」 さすがに言ったのがマーティだったので、ダイスもそれ以上のことは口にしなかった。笑うしかない。 ちょうどサンライズも上位打線からだった。打て打て打て打てーっ、の命令を彼等は忠実に守り、それまでの0が美しく並ぶスコアボードには、瞬く間に10の数字が入った。 ははははは、と脱力したメンバーの笑いがその場にはしばらく響き渡っていた。「…それにしても、マーティ、向こうの事件が解決したのが、十四時二十分、って所でしょう? よくこの時間にたどり着けましたね。幹線道路使うと、二時間は掛かるでしょうに」「…先生何であんたそんな詳しいんだ?」「や、ニュースはトマソンの薄型TVがありましたからね」 ふうん、と言いながら、マーティはミュリエルの笑いに両眉を上げる。「…あんた回収してなかったな」「後で回収、お願いできますか?」 ふふふ、と笑うこの「先生」はやはり油断のできない存在だ、とマーティは思う。判ったよ、と彼もまたにやり、と笑う。 おそらくストンウェルは、自分に盗聴器が仕掛けられていたなどと、考えてもいないだろうから。
2006.07.28
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「おいもう十三時半だぜ…」 腕組みをし売店の壁にもたれかかるマーティに、ノブルはつぶやく。 彼も彼とて、どうすることもできないことは重々承知していた。ただ、言わずにはいられないのだ。時間が見る見る間に過ぎていく。 壁の時計がデジタルではなくアナログの形をしているだけに、余計にその事実を彼等に突き付けてくる。「落ち着けよ、ストンウェル」「俺は落ち着いてるさ」 それでもこの同僚が落ち着いていないことくらい、マーティは判っていた。それだけに、自分は余計に落ち着かなくてはならないことも。 ただこの同僚の良い点は、危機に面すると、肝が座るということだ。さっきから時間を気にしてはいるが、だからと言って、慌てている訳ではない。どちらかというと、この事態をどう打破するべきなのか、といった闘争心の様なものが次第にふつふつと沸き上がってきているようにも―――見える。 本当に、手頃に投げるものでもあれば。マーティは思う。自分達が試合で投げる球速は相当のものだった。硬球だったら、まともに頭に当たれば、下手すると命に関わるかもしれないくらいの威力はある。 ただそれは、硬球があった場合だ。 硬球でなくてもいい。何か、手頃な――― こんな時、周囲の大半がこの「エディット」の人々であることが悔やまれた。自分達のこの格好が、本日の敵手「アルク・サンライズ」のメンバーであることを物語っている。たとえベースボール好きの少年がたまたまボールを持っていたとしても、果たしてそこで思い付いてそれを貸してくれるかどうか。 …その前にコミュニケーションが、取れるかどうかだったが。 旅行者達は、一時間以上、その場から動けないでいた。下手に動くと、撃たれる。その恐怖が彼等の尻を地面に縫いつけていた。 …しかしそろそろ向こうも、銃を構えていること自体に疲れているだろう。マーティは思う。特に、二人組の男女が抱えているのは、散弾銃や機関銃だ。それなりの重さがある。戦場では専用の台を使って固定して撃つことも多いタイプだ。「…ん?」 ぴく、とその時ノブルの眉が動いた。「どうした?」 マーティは囁く。「兄貴、まだ居るぜ」「判るのか?」「ああ」 その程度には、通じるのだ、とノブルはうなづく。確かに、騒ぎが始まってから、宇宙船の出航も停止していた。彼も足止めを食らっていた訳だ。「何処に居る?」「エスカレーターを上ったから…上の…」 つ、とノブルは上目遣いにウインドウを見上げる。ああ居た、と彼はつぶやいた。 気付いたことを察知したのか、ジャスティスは片手の親指を上げた。そしてそのまま、ウインドウからすっと背を向けた。「降りてくる」「降りて?」「…そのまま、横目で見てくれ」 言われる通り、マーティは壁に背を付けたまま、横目でゲートの方を見た。エスカレーターは停止している。 …だがその後ろの柱に人影が映った。 占拠犯はゲートに背を向けている。死角だった。 するする、とジャスティスはその身体にに似合わず、器用に柱を伝って降りてきた。「やる気だな」「そのようだ」 何を思ったのか、その時マーティは手に持っていたガムの一箱を開けると、中身を一気に口に含んだ。「…あんた何を」 くちゃくちゃ、と彼は勢い良く噛み出す。結構な量だろうに、とノブルの目が呆れた様に大きく開く。甘すぎだ、とマーティも噛みしめつつも顔をしかめる。「な」 ノブルは目をむいた。 いきなり、マーティがそれを膨らませたのだ。 ぷう、と風船ガムは大きく、広がる、広がる。顔一杯…顔を越えて広がる。「ママ、あのTVで見たガムだよ!」 子供が一人、立ち上がる。やめなさい! と母親が子供を押さえる。 だがそこに居た子供達は、既にこの状況に倦んでいた。だいたい、一時間以上もじっとしているなど、恐怖でもなければ子供がじっとしていられる訳がない。しかも、その恐怖も、これだけ変わらない状態が続くと、多少か薄れる。 そこへ、ガムの風船だ。 ぱちん! と彼はそれを一度割る。わっ、と子供が手を叩いた。「なんだおまえは!」 女が平たい声で叫んだ。くちゃくちゃ、とその女の方を見ながら、マーティは再びガムを噛む。そしてもう一度、ぷう、とそれを膨らませる。「ふざけやがって!」 ああっ、と警察側の声が上がった。三人の視線が、マーティに集中した――― その時だった。 ノブルはぱっ、と手を挙げた。それは何の予告も無い動きだった。 だが次の瞬間、彼の手の中には、ボールが収まっていた。黒いマジックで、マーティ・ラビイのサインが入った、まだ新しいボールが。「行くぜ!」「おうっ!」 ノブルは思い切り振りかぶった。ペアの男の方が銃を構えた。「皆、伏せろーっ!!」 ノブル・ストンウェルは吠えた。そして投げた。
2006.07.27
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「…お客様の中に、ジャスティス・ストンウェル様はいらっしゃいませんか?」 搭乗ロビーのカウンターから、通信端末を手にした係員の女性が声を張り上げる。のっそり、と彼は立ち上がった。「俺だが」「…すみません、トマス・トマシーナ球場から通信が入っています」「トマス・トマシーナ球場?」 何だろう、とジャスティスは女性の手から通信端末を取った。指無し手袋をつけた大きな彼の手には、通信端末の子機はすっぽりとはまってしまう。「…ストンウェルだが」『ジャスティスさんですか?』 聞き覚えがあるような無いような声に、彼は軽く眉を寄せた。「如何にもジャスティス・ストンウェルだが、あんたは誰だ?」 こんな事態の時に、と彼はやや不機嫌そうな低い声で答える。『こちらはアルク・サンライズのミュリエルと申します』「…ああ、すまん、ノブルのとこのだな、何だい」『あの二人、今ここに居ますよね?』 断言する口調。やや神経に触るものがあったが、ああ、と彼は答えた。『状況を、教えていただけませんか?』「状況も何もなあ」 ふうっ、と彼は葉巻の煙を吐き出した。『…あなたは上のロビーにいらっしゃるんですよね』「そうやって把握されきっているのはなかなか気に食わねえが、そうだ。下の様子なら、よく見える。ノブルもマーティ・ラビイさんも下の人混みの中だ」『…どの辺りに居ますか?』「売店の前だな」『売店と言うと』「…まあ、みやげ物とか、ランチボックスとか飲み物とか、そんなものだな…」 はあ、と向こう側からため息のようなものが聞こえて来る。『なるほどそれでは、彼等も動きが取れない訳だ…』 売っているものの中に、ある程度の重量のものがあったなら、それは確実にあの速球・剛球投手にとっては武器となりうるだろう。だがそんな軽いものでは。「…下手に動くと、危険だからな。何せ相手はジャンキーだ。それもどうやら、興奮剤系統だ。だからネゴシエイターの方もなかなか手間取っていそうだぞ」『ネゴシエイターも、ですか』「確かにある程度までは正気にも感じられるんだが、説得に対して論理が破綻してる。目的以外の部分で。こっちに入ってくる声ではそんな感じだ」 そうですか、と向こう側の相手は言った。「つまり、危険だ」 ジャスティスは断言する。『それは、判っています』 ミュリエルもまた、断言する。「判っている訳か。それでも、言いたいことがあるんだな。言ってみろ」 向こう側の呼吸が一瞬止まる。ふう、と彼はもう一度煙を飛ばす。『監督からの伝言です。何としても、時間までに、球場に、来い、と』「危険だぞ」『ASLに加盟しているということは、我々のチームは、サンライズはただのベースボール・チームではない。惑星の代表なんです』 ふうん、とジャスティスは気の無さそうな返事をする。『少なくとも、今日の対戦相手に、没収試合なんていう真似はできないんです』「弱いチームだから、か」『そうです』 間髪入れずにミュリエルは答えた。『我々は、今年も勝たなくてはならない。もっと上に目指さなくてはならない。そのためには、少なくともこのチームなどに黒星をつけるような真似は絶対できないんです』 ジャスティスは三度、煙を吐いた。向こう側はそれきり、言葉を止めた。かと言って、こちらの言葉をうながす様な真似もしない。「…ここの警察も、それなりにやってるようだがな…まあいいさ」『彼等に、伝えてくれますか』「伝えるだけで、いいんだろう?」『結構です』 短い言葉が、返ってくる。「…あんた、怖い男だな」『そちらこそ。…期待してもいいですか?』「さて、なあ」 そう言うと、ジャスティスは子機のスイッチを切った。そして再びウインドウの側に近寄ると、弟とその同僚が居る位置を確認する。何だってまあ、ああ目立つ格好なんだ。だが好都合ではある。 時計は既に、十三時に近づいていた。
2006.07.26
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『…ただいま犯人からの要求が当局に伝えられました。…逃走用の宇宙船を一機、用意するように、ということです』「宇宙船かよ!」 テディベァルは思わず声を上げた。『当局によりますと、現在空港ロビーを占拠している犯人のうち、身元が判明しているのは、グロウス・コナビー、ナフリル・マンダミン、ドロシイ・トロイアムの三人です。彼等は今朝がた、サンダル・シティバンクを襲い、現金三百万ボールを入手したまま逃走したと見られています』「銀行強盗の続きかよ!」 再びテディベァルが声を上げた。うるさい黙れ、と監督は彼の頭にげんこつを食らわす。「痛え!」「どっちにしてもちょっとテディ、黙ってて下さい。向こうの様子も良く聞こえなくなります」 ちぇ、と言いつつテディベァルはトマソンの手の中の画面をのぞき込むことを再開した。「…けど、銀行強盗が逃走用の船を要求している、ってことは…結構捨て鉢ですね」 ダイスはぼそっと口にする。「そこが問題なんですよ」 ミュリエルは眼鏡の奥の目を細めた。「ここまで来ると確信犯だ。銃の一発二発、人の一人二人殺すことも構わない可能性は高いですね」「犯人がとんでもないばか、ってことはねえの?」「残念ながらテディ、結構計画的に思えますよ」 何で、と皆が「先生」の方を向く。「マーティ達の会話を聞いてると、犯人はどうも、ジャンキーの可能性が高いです」「じゃ、ばかじゃないかー」「そうでなくて、テディ」 「先生」は苦笑する。「クスリにだって色々あるでしょう。思考能力をマヒさせるものもあれば、一時的にアップさせるものもある。白い紙巻き、を口にしているらしいですから、…ある程度決まった作戦を、それで示威高揚させている、という可能性もありますね…」「…ややこしいなあ。とにかく、二人はやばい訳?」「簡単に言えば、そういうことです」 うー、とテディベァルはただでさえ落ち着かない髪を思い切りかき回した。「サンライズの皆さん、練習時間です!」 球場の係員が、彼等のベンチへやってきた。「本日の登録メンバーは全て揃っていますか?」「…ああ、二人ほど少し遅れますが」 監督はなるべく平静を保って答えた。「必ずやって来ますので、そのまま予定通り、試合は始めて下さい」 判りました、と球場係員は一礼すると彼等のベンチから離れて行った。「…ともかく、試合は始めなくてはならないんだ。トマソン、お前のその薄型TVを貸せ。お前は練習に出ろ。連中の観察は私と…」 監督は周囲を見渡す。「ミュリエル、お前は今日は残れ」「判りました。じゃあ」「フライトーンを回す。お前は今日はベンチだ。あの馬鹿どもの様子をきっちり押さえてろ」「了解」 「先生」は明快に答える。フライトーンと呼ばれた控えの外野手は、突然の出番に目をむいた。「ダイス、お前は感情が結構出るからな。気をつけろ」「はい」 ダイスは大きく返事をすると、投球練習のためにグラウンドに出る。 そうは言っても、敬愛なる先輩二人があんな場に居る、ということはこのルーキーにはなかなか辛いことだった。たとえマーティが「そういうこと」に慣れている、と言ったとしても。「せんせー、ちゃんと経過教えてよっ」「おー、了解」 ミュリエルはそれでも元気良く出て行くテディベァルに手を振りながら、笑顔を向ける。 この笑顔は結構くせ者だった。何せ「帝大出」の肩書きのくせに、タフな神経でないとできない実業学校の講師をやってきた男だ。授業で常に、「勉強より手に職」の連中にそれなりの学問を、知識を、叩き込んで来た笑顔である。「…で、どうだ」「膠着状態ってとこですかねえ」 そうだな、と監督も渋い顔をする。画面の中もまるで進展が無かった。「画面の中で、あの二人は見つかりますか?」「いや、このカメラの位置からじゃわからん」「連中、売店のすぐそばに居るようですがね。何かそんな会話ですよ」 売店か、と監督はうなった。手にしている薄型TVの中に映っているのは、右斜め向こうのゲートとその向こうのエスカレーター、そしてその上のウインドウ。つまりカメラは、ロビーに入り口側ウインドウに付けている、と思われた。「ちょうど死角になりやがる」「ですね」 ミュリエルは自分達がやってきた時のロビーの様子を思い描き、彼等の位置をおおよそ判断していた。どう考えても、逃げるには分が悪い場所だ。 もし逃げるとしたら、カウンターの裏の出口くらいだが…「あの二人が、自分達だけ逃げようと思うとは…」「思えないよ…なあ…」 ふう、と二人は大きくため息をついた。「ミュリエル、お前が持ってるその、何だ」「盗聴器ですか?」「何でそんなもの持ってるんだ、という疑問はとりあえず後で聞こう。それは双方向性は無いのか?」「残念ながら。…やっぱり端末持つ様に指導して下さいよ、監督」「…奴等が私の言うことを素直に聞くと思うか?」 ミュリエルは肩をすくめた。聞いたところであの二人は忘れるだろう。「…この試合、捨てますか? 我々の大事な投手陣ですよ」「馬鹿野郎、いくら何でも、このチームに負けたなんて言ったら、本星に申し訳が立たん!」 確かにそうである。いくら何でも、ナンバー3リーグから滑り落ちる直前の「エディット・トマシーナ」に、いくら没収試合だとは言え、「負ける」のはさすがにアルクの恥だ。「…何が何でも抜けて来い、とあの二人には言いたいが…」 おそらくあの二人もそうしたいのは山々だろう、とミュリエルも考察する。彼はもう少し状況が知りたい、と思った。そう、何故反撃に出られないのだろう。何せ彼等は投手なのだ。マーティはともかく、ストンウェルならコントロールも大丈夫だ。プロの投手の投げる球の威力はすさまじいものがある。「…おい、そう言えば、あいつら、ストンウェルの兄貴を送っていったと言ったな」「はい」「奴の兄貴の携帯端末のナンバーは判らないか? そうでなければ、呼び出しでもいい!」 携帯端末のナンバーなど、判るはずがない。了解、とミュリエルは自分の携帯端末を取り出した。無論宛先は、宙港である。 盗聴器の様子から、既にジャスティス・ストンウェルが彼等と別れていることは判る。だったら―――
2006.07.25
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「…」 搭乗手続きが妙に止まってしまっている。 ジャスティスはおかしいな、と手元の時計を見た。既に搭乗予定時間が過ぎているではないか。「おい、何かあったんで?」 ぐい、と手続きをしている係員の方へと身体を乗り出し、彼は問いかける。「…あ、あの…」 どう答えていいものか、係員もまた、困っている様な顔だった。だいたい、普通だったら、二人三人で手分けして行われる手続きが、一人になっている。「おいおい、いきなり人手不足かよ」「すみません、ちょっと今立て込んでまして…」と言ったところで、搭乗時間が過ぎている訳だ。さすがにこれはただごとではない、と誰でも判る。「遅れるんだ、な?!」 強く、念を押すようにジャスティスは手続きカウンターの係員に問いただす。「は、はい」「…ったく、だったら最初からそう言え」 言いながら、彼は列を外れて、吹き抜けのウインドウの側のカウチに掛ける。やれやれ、と葉巻を取り出し、火を点けた時――― 音が、響いた。 彼は慌てて振り向く。カウチを飛び越えて、ウインドウに手をついた。 人だかりの中に、二つの半円が出来ている。そしてその中心に、銃を持った男女が居た。 なるほど、それで搭乗手続きが止まってやがるのか。 ちっ、と彼は舌打ちをする。 そのまま視線を下に巡らす。「…あの馬鹿ども…」 彼の視線の下には、見事に目立つ、青のスタジアムジャンパーがあった。「…おいマーティ、ガムなんざ買ってるからだぜえ…」「…大した時間じゃないだろ。それより、今、何時だ?」「真正面」 ノブルは小さく正面を指さす。壁に大きく取り付けられた時計は共通時の十一時四十五分を指していた。「…だいたいここから、球場までどのくらいかかる?」「二時間弱、ってとこかな。だからさっきさっさと出ていれば、ちょっと遅れるくらいで済んだけどよ…」 ちょっとどころでは、どうやら済みそうも無かった。 あの白い紙巻き煙草のカップルを見た時、嫌な予感はしたのだ。 案の定、彼等の反対側―――ゲート近くでいきなり発砲音が響いた。 反射的にマーティの身体は動く。「活動」中のくせだ。 さっと周囲を見渡した彼の視界の中に入ったのは、先ほどの白い紙巻き煙草の男女が、銃を手にしている図だった。 男の手には機関銃、女の手には散弾銃があった。彼等を中心にして、ざざっ、と半径5メートルばかりの空間ができる。 ちら、と先ほどの音の方面にも視線を動かすと、そちらには短銃を持った男が一人。そちらにもある程度の空き場所ができていた。 全部で、三人か? マーティはとりあえず判断する。 だが見える敵が三人だからと言って、全部で三人、とは限らない。 ちら、と周囲を見渡すと、チケットカウンターの扉が微かに動いたようだった。なるほど、あそこから出た者が居るな。「…大丈夫かね」 誰が、とはノブルは付け加えなかった。さあね、とマーティは答える。 今しがた出て行ったカウンター嬢が果たしてすぐに救助を呼んでくれるのか、がミソだ。 いやそれだけではない。上から見下ろしている連中は。 ゲートを上がって、搭乗を待つ彼等がどう反応してくれるのか。 何にしろ、困ったことに巻き込まれたなあ、とマーティは思った。ひどくのんびりと、そう感じていた。「…あんた落ち着いてるなあ、マーティ」「…まあなあ」 何せもっと厄介だったことは山ほどある。敵が明らかで、自分や相棒を確実に狙っていた中を突破したこともしばしばだった。 それに比べれば、少なくとも、今この目の前にある状態は、判りやすい。 解決は、するだろう。確実に。自分が関わろうが関わらまいが。…関わらないに越したことはないが。 ただ、時間が惜しい。マーティにとっては、それだけが問題だった。「…最高何時まで、大丈夫だと思う?」「あー…試合開始が十三時だろ? …引き延ばし引き延ばしても、三時間…四時間…は無理だね、あのチーム弱すぎる」 球場までは二時間はみたい。試合に三時間かかるとして、…十四時がタイムリミットだ、と彼は思った。 生命の危険は―――考えていない訳ではない。ただそれは、今ここでなくても、何処でも同じだ、とマーティは考えていた。何処にいようが、いつ何があるかなんて判りはしないのだ。 あの「冬の惑星」に居た頃。過去は霧の中だったし、先は全く見えなかった。それでもただ、毎日毎時毎分毎秒を、とにかく生きていた。次の瞬間に何があるか判らなかったから、とにくか前だけを見ていた。 その習慣が、彼の身体にはこれでもかとばかりに叩きこまれている。 周囲を見渡す。犯人は、やはり三人なのだろうか。 位置的には。変わらず入り口とゲート側の両方に彼等は陣取っている。本当に三人だけだろうか。とりあえず三人と仮定しよう。「…何か、通信機に向かって言ってるぜ」「ああ」 だが遠すぎる。幾らマーティの目が良くても、唇の動きを読む程に近くはない。 ちっ、とマーティは舌打ちをする。もどかしい。 どうしてこんなに周囲に人が多いのだろう。これから搭乗する人々、見送りに来ている人々、老若男女、百二百三百、どのくらい居るだろう? この場所が広すぎるのが悪いんだ、と彼は思う。広くても、人数があっても、銃の力というのは大きい。そしてまた、「もしかしたら」それ以外にも仲間が存在する可能性。ああ鬱陶しい。 これが単に自分や相棒だけが狙われている時だったら、話は早かったのに。 先ほどとはやや矛盾した考えを彼は巡らす。「…それにしても、何をあいつら、言ってるんだ?」 ノブルは囁く。売店の近くに居た彼等にとって、両出口の側に居る犯人達は実に遠い。「…さすがに俺にも判らないなあ…」 壁の時計は、彼等に刻々と過ぎて行く時間を告げている。…既に十二時になりかかっていた。 何を目的としてるんだ、とマーティは思う。それによって外側からの対応も変わってくるだろう。 困ったな、と彼はあごに手を置いた。
2006.07.24
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「…あれ、まだマーティさんとストンウェルさん、来てないんですか?」 ヒュ・ホイは先に球場にやって来ていたスタッフに訊ねた。「ええまだです。遅れるという連絡も入っていないし…」 共通時十一時半。 サンライズのその日のベンチ入りメンバーは、昨日と同じグラウンドへと入っていた。 既に客は入りつつある。これでもかとばかりに弱い「エディット・トマシーナ」だが、それだけにこのチームに対する地元民の愛情は深く、また複雑なものなのかもしれない。「ここの交通事情はアルクとは違いますからねえ…もしかしたら、それで時間が掛かっているのかもしれませんよ」「まあいーさあ。どうせストンウェルは今日はお休みだし、マーティは…」「マーティがわざわざ決めなくとも今日の相手なら大丈夫だろ」 皆口々に好きなことを言う。実際、昨日のストンウェルが打たれたことそのものがおかしいくらいだったのだ。 昨日のスコアは15対1だった。皆実に楽しくぽんぽんぽんと打ちまくった。特にトマソンあたりは飛ばしに飛ばし、場外ホームランも一発出たくらいだった。「けど、あのひと達が来なかったら、どんなにいい試合だって、没収ですよ。うちの負けになるんですよ」 ホイの言葉に、皆声を無くす。「そう言えば…そういうルールだった…よなあ。先生!」 柔軟運動をしていたテディベァルは、チームの生き字引に話を振る。「…えーと、確か、試合が終了するまでに、ベンチ入りメンバーが揃っていないことには、その試合は結果はともあれ没収、とありましたね」「…ちゃんと来ればいいんですけど…」 ふう、とホイはため息をつく。「携帯端末は持ってって無いのかよ?」「マーティは落とすのが嫌だから、って部屋に置いておく方だし」 何のための携帯端末だよ、とテディベァルはわめく。「ストンウェルは基本的にアレは持たないんですよねえ。従って連絡を取る方法は無し」「…ったくあいつらは…」 会話を聞いていた監督までが、頭を抱えた。「おいお前等、今度から絶対にどちらかに携帯端末を必ず持つ様に言っておけ!」「どっちか、でいいんですかい?」とトマソン。「だいたいあの二人は何かとくっついてるだろ」 ぷっ、とダイスは口にしていたドリンクを吹き出した。彼は本日の先発登板だった。 確かにあの二人はよく行動を一緒にしているけれど。「…あ」 ふとダイスは、顔を上げた。「ミュリエルさーん、昨日のあれ、回収しましたか?」「昨日のあれ?」「ほら…」 口に出して言うには、「盗聴器」はなかなか恥ずかしい、もしくは物騒な言葉である。 ほらほら、とダイスは指を回す。ミュリエルはああ、とうなづく。「そう言えば、彼のスタジアムジャンパーのポケットに入れて置いたんですねえ」「通信はできないかもしれないけど」「何なに何のことだよ」 昨日はあの場にいなかったトマソンやホイは興味深そうに「先生」の行動を見守る。 回収はしていないらしい。ベンチに引っ込むミュリエルの方に彼等は視線を飛ばした。ミュリエルは自分のジャンパーのポケットから、見覚えのあるイアホンを取り出した。片方を耳に押し込む。「ああ、まだ効いてるよ、ダイス」「何処に居るか、判ります? 場所によっては、呼び出すとか…」「君も結構頭回るようになったね…うーん、何かずいぶんざわついているな…え?」 ミュリエルの声色が変わった。「先生? どうしたの」 急に難しい顔になったミュリエルに、ホイは問いかけた。すると「先生」は監督に近づき、皆を手招きした。「何だミュリエル…それは」「すいませんちょっとこれは盗聴器です。…ああそんな顔しないで下さい。ちょっとした余興で」「それより何が」 監督もまた、声を潜める。さすがにいくらこの場所が広くて、そうそう向こうやこっちに声が届く場所ではない、と言っても、その単語は物騒だった。「…銃声が、しました。二発」 銃声。その言葉に彼等は身体を固くした。 特に彼等のホームグラウンドがあるアルクは、一昨年まで政情不安だった土地柄だ。銃声だの爆発物だの、と言った単語には敏感だった。「…だけどストンウェルは大丈夫だと思います。あくまで、彼及び彼の近くで鳴った、という訳ではなく、遠くで鳴っている様な感じです」「確か、あの二人、ストンウェルさんのお兄さんを送っていく、って言ったんですよね」 ダイスは行きがけの彼等の様子を思い出す様に言う。「…じゃあ何処だあ?」「わざわざ寄り道して行くとこはあのひと達には無いでしょう」「じゃ、宙港か!」 トマソンはどたどた、と自分のバッグのファスナーを開ける。中からノートサイズの薄型のTVを取り出した。アンテナを伸ばし広げると、やや荒っぽいながらも、映像が映る。「テディ、今日のニュースペイパー持ってるか?」「何で俺に聞くのよ! ホイ持ってる?」「ニュースペイパーだったら、確かここの売店で売ってたよ。ちょっと待って」「あ、僕が行ってきます」 控え捕手のエンドローズはベンチから飛び出した。「畜生、他惑星の電波ってのは合わせにくいな」 トマソンはダイヤルとアンテナを苦労して動かす。 無論一番簡単に局を合わせる仕組みがついている薄型TVが無い訳ではない。ただ彼が持っているのは、どの惑星でも対応できる様に、逆に選択がアナログ式になっているタイプだったのだ。電波の種類、周波数、向きや状態は惑星ごとに違う。妨害電波が流れている惑星だって少なくはないのだ。「高かったんだぜえ? 帝国全土対応ってのは」「あんたがそういう趣味だって聞いた時にはなかなか驚いたけどよー」 テディベァルは呆れ半分、感心半分でじっとその手元を見つめた。と、エンドローズがニュースペイパーを手に飛んでくる。「トマソンさん、ニュースはここの三番VHFの『8』に合わせて下さい。今の時間だったらやってるはずです」 おう、とトマソンは太い指でダイヤルを操作し始めた。ぴーぴーがーがー言っているだけの画面とスピーカーが、次第に画像と音声をクリアにしていく。「お、何か見えてきたぜ」「…ん? これ宙港じゃ」『…です』「おいトマソン、音声もう少し上げろよ」「待て待て、こういうのはなテディ、結構微妙な…」『…警官隊の要請を…』「警官隊?」「ちょっと待ってくれよ!」 ベンチに居たメンバーは、トマソンをぐるりと囲む格好になる。その一方でミュリエルは、イアホンの向こう側の様子に神経を集中させた。眼鏡の向こう側の瞳が真剣な色を帯びている。
2006.07.21
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ゲートをくぐるとその先にやや長いエスカレーターが待っている。一度上に上がり、そこで簡単な出星審査を受けてから船に乗り込むのだ、という。「行っちまったなあ、兄貴」 ふう、と腰に手を当て、ノブルはため息をつく。「久しぶりのおにーちゃんが、恋しいかい?」「や、そういう訳じゃあないんだけどさあ」「じゃあ何だよ。俺はきょうだいってのが居ないから、良く判らないんだが」「…奴もDDのファンではあったんだよ」「え?」 ノブルは固い髪をかき上げた。「そらまあ、俺ほどじゃあ無いけれどさ、何せ当時のあんたときたら、とんでもなかった」「…」「俺達はちょうどジュニア・ハイとかシニア・ハイだ。そういう頃のベースボール好きのガキにとっちゃ、…なあ」「言ったのか? 言いたくなったのか? 俺がそうだ、って」 マーティは苦笑する。「いや」 ノブルは首を横に振った。「今のあんたはマーティ・ラビイだ。それ以外の何もんでも無い。兄貴の言った様に、筋肉の付き方もがらっと違ってしまってる。だからこそ、今の使い方も良く合ってる訳だしさ」 まあな、とマーティはうなづいた。 確かにそうなのだ。良くも悪くも、あの「冬の惑星」に居た時間は、彼の中身だけでなく、身体もある程度変えてしまっている。 今の自分は果たして先発完投ができる体質かどうか、それすらも判らない。 過ぎてしまった時間は、決して戻ることは無いのだ。「ま、戻るとするか」 二人は出口に向かって歩き出した。ゲート側から対角線に突っ切るのが一番速い…そうノブルが足を向けようとした時。「お」 ふと気付いたように、マーティの足は反対側の売店へと向かっていた。「何だよあんた、いきなり。早く行かないとここの車の遅さときたら」「や、何かもしかして」 彼は売店のカウンターに並ぶガムの箱を一つ一つ確かめる。「おねーさん、このガムって、スカーレット社の新製品?」 売り子の女性は、男前の営業スマイルに一瞬顔を赤らめる。そして彼等の着ているスタジアム・ジャンパーに更に目を丸くする。「え、ええそうですわ…新製品です。はい」「じゃあそれ、二つ…や、三つね」 みっつ? とノブルは呆れた様に声を立てる。一つはまあ、後輩へのオミヤゲとしても。「…何あんたそんなに買い込んでるんだよ」「や、そんなに膨らむんだったら、俺も一度試してみたいなーと…」 呆れた、とノブルはポケットをまさぐって、煙草を取り出す。「あれ、お前、いつものプリンス・チャーミングじゃないのか?」「何あんた、今気付いたのかよ」「無敵艦隊か。何かまた物騒な名前だな。いつもの王子様の名前とは大違いじゃない。しかも何か、…妙な色だなあ…」「切らしたんだ。昨日言ってたろ」 そう言えばそうだった。その時にジャスティスが来たので、その騒ぎに取り紛れて忘れていたが…「それに何か、この惑星の場合、煙草に使う用紙と色ってのが決まってるらしくてさ、下手に白い紙巻き吸ってると、何かドラッグと間違われるとか…」「へえ」「さすがに俺もそういう間違われかたはしたくないぜ。ただでさえ、何っかこの惑星、俺達に敵対心持ってそうでなー…」「いやさっきの女の子はそうでもなかったようだけど」「そりゃああんたは色男だから」「…や、それはいいんだけど」 マーティの視線は、別の方向にあった。「白い紙巻き、か…?」「何?」 ほら、とマーティはあごをしゃくった。つられるようにノブルもそちらを向いた。ぴったりとした帽子を目深にかぶった男が、白い紙巻き煙草を吸っていた。横には、ゴルフだろうか、ヒットボールだろうか、そんなスポーツの道具を入れるバッグを持った女がついている。「…マーティ、何かおかしいぜ」「何が」「ああいう吸い方は、…煙草じゃないぜ」 彼は弾かれた様に男を見た。すると今度はその男は、女にも白い紙巻きを渡し、自分の火を渡してやっている。端からみれば、何ってことない、喫煙カップルではある。 火がついた途端、女はその煙を思い切り吸い込んだ。「…」 マーティは視力が良い。女のその瞬間の、とろりとした表情も見逃さなかった。「二人…だけか?」 ちら、と彼等は周囲を見渡す。ただの危惧であってほしい、と彼等は思う。何せ時計は十時を既に二十分は回っている。このままだらだらと居続けては、十三時の試合に間に合わない。「…とっとと行くか」「…おう」 顔を見合わせて、この際何があっても見過ごそう――― そう、思った時だった。 ばん! 銃声が響いた。
2006.07.20
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タイド・ストンウェルという名は確かに、昔スカウトされた選手の中にあった。 いきなり何なの今はこっちは真夜中だよ、という向こう側の懐かしい声に謝りつつ、データを頼んだら、確かにその中に。「企業ではやらないんだ?」「…いや、その企業ってのが…」 ストンウェルは口ごもった。そしてポケットから昨日買った「インビンシブル・アルマダ」を出すと、窓を開け、火をつけた。「ここの煙草ってなあ…何っか軽いんだよなあ」「まあ仕方ないさ。禁煙惑星でないだけ、お前ましだろ」 ちぇ、とストンウェルは舌打ちをする。 何やらはぐらかされた様な気はするが、まあいい、とマーティは思った。仲間に頼んだデータは、もう少ししなくては続きが来ないのだ。「や、おはようございます。狭苦しくなってすまんですね」 ホテルの前に着くと、ジャスティス・ストンウェルは大きなトランクの上に座って足を組んでいた。 昨日と違い、スーツではなく、ダークグレイの丈夫な素材のジャンパーを身につけている。履いているのも、動きやすい、ゆったりしたズボンに、がっしりとしたブーツだった。 トランクなのは、その中にスーツが入れてあるせいか。もしこれがリュックや他の不定形なバッグだったら、彼が営業でこの地に来ていたなど、誰も考えつかないだろう。「荷物はそれだけですか? え…と」「名前の方で呼んでくれるとありがたいね」 葉巻を口にしたまま、ジャスティスは不敵に笑った。「OK、ジャスティスさん、結構身軽ですね。遠方からはるばるの割りには」「こいつはいつもそうなんだよ、トランク一個であちこちを飛び回る」「お前にそれが言えた義理かよ」「何い?」 ははは、と後部座席に移ったマーティは乾いた笑いを立てた。血の気の多さは確かに似ていた。「あ、それにしても、マーティさん、いつも弟が本当、世話になってますわ」「あ、いやいやそれはこっちも…」 多少社交儀礼的に言葉を返すと、ジャスティスはぐい、と後ろに身体ごとむけて、指を立てる。「いやあ、こいつ扱いづらいだろ」「お前何言ってんだよ」「扱い…まあ、確かに」「あんたまで何だよ~兄貴お前、何時の便?」「あ~共通時で10時半かな。まあそのあたりで出れば、明後日の午後の会議には間に合うだろうしよ」「…って何処まで行くんだよ」「コントラスト星系だ。何っか今あそこで、変わった鉱石が発見されたとか何とかでなあ、早いとこ行って、向こうのスタッフ召集して一気に攻め込まねえとな」 言いながら彼は、指無し手袋をはめた手をぐっ、と握りしめた。「…まるで戦争のような言い方ですね」 マーティはははは、と乾いた笑いを立てながら言う。するとジャスティスはふっと笑った。「戦争さ」「兄貴」「これは、俺等の戦争だ。や、俺の、というべきかね。お前もそうだろ、ノブル。グラウンドが、お前等の戦場だろ?」 それはそうだ、とマーティは思う。特に、スポーツの世界は、「代理戦争」の意味合いも強い。 ただ、この人の言っているのは、それだけではない、と彼は思った。「覚悟を決めて、ここで生きてくんだ、と思ったところが、戦場だ。生き抜くための場所がよ。それが俺には、今の仕事だし、お前はお前で、ベースボール・グラウンドなんだろ?」「ああそうだ」 ノブルは大きくうなづく。「俺はそれを選んだ。それに関しては後悔してねえぜ」「だろ?」 にやり、とジャスティスは笑った。「ただなあ、ホント、ノブルお前、一度実家に言っておけ。じゃねえと、お袋はともかく、兄貴のとばっちりがこっちにも来そうで怖えんだ」「…そんなに、あなた方のお兄さんってのは怖いんですか?」 マーティは改めて問いかけた。「…」「…」 双子の兄弟は、顔を見合わせて黙った。「…何って言うか…」「…なあ…」 そこまでこの兄弟を怖がらせる「兄」というのがどんな人物なのか、マーティは見たいような気がしてきた。 自分には「兄弟」は居ない。記憶にも存在しないし、「資料」にも無かった。 だから、だろうか。ついチームの年下の選手達が弟の様な感じがして、かまってしまうくせがある。 だが実際の「兄弟」を見ると、それとはやはり違うのだな、と感じさせられることもしばしばある。そんな時、自分はやはり天涯孤独だったのだな、と思わずにはいられない。 無論それを嘆く訳ではない。あくまで軽い、あっさりとした感情だった。「…そういえば、ジャスティスさん、その『変わった鉱石』というのは、どういうものなのですか?」「それは企業秘密だなあ」 がははは、とジャスティスは笑った。「いいじゃないか。どーせ俺達はそんな、お前んとこの鉱物には関係無い立場なんだしさ」「昔、ちょっと採掘現場に居たことがあるんで、興味があるんですよ」 ほお、という顔でジャスティスはマーティの方を向いた。「採掘現場、ですかい」「マーティ?」 間違いでは、ない。それが強制労働だとしても、作業そのものには変わりはない。「なるほど、なあ」「何がなるほど、だよ」 ふう、とジャスティスは煙を外に吐き出す。「や、俺は、マーティさん、あんたと良く似てた人を知ってた様な気がするんですがね」「まあ似た人はあちこちに居ますからねえ」 さらりとマーティは流す。「そう、だからまあそうなんだろうさ。あんたの筋肉の付き方は、スポーツ選手よりは、俺が良く見てきたあっちの連中に近いんだよな」「おい兄貴、失礼だぞ」「何が失礼だよ。向こうの連中は連中で、その仕事を一生懸命やってるんだ。失礼って言うなら、お前の方がその人達に失礼というものだぜ、ノブル」 弟はそう言われて言葉を無くした。「…そうですか。やっぱり判るんでしょうかね」「で、あんたは何の鉱石を採掘してたんですかね、マーティさん」「…パンコンガン鉱石、ってご存じですか?」
2006.07.17
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サンライズのメンバーは大抵が独身である。ヒュ・ホイのように妻子が居るという例は滅多にない。「だいたいマーティさんに浮いた話一つないってのが不思議なんですよね」と言うのが、その当のホイの意見だったが。「や、俺だって、ここに入る前には恋人ぐらい居たんだぜ?」「でもサンライズ入ったからフラれたんだろ? それじゃあ駄目駄目」 ひらひら、とストンウェルはコーヒーを呑みながら手を振る。どういうつもりで言ってるのだか、とマーティもまたコーヒーに口をつける。 何せこの同僚ときたら、昔はDDが居たからコモドドラゴンズに入ったのだと言うし、今は今で、マーティが入ったからサンライズからの打診に即座にOKを出したのだと言う。 主体性が無い、という訳ではない。そういう性格ではない。ただもう単純に、かつてはDDという投手に。 そして現在は――― そのあたりをあまり深く考えると何やら怖い考えになってしまいそうなので、マーティはあえて避けていた。 別にそういう感情であったとしても、驚くことは無い、と彼は思っていた。「冬の惑星」ではごくごくありふれたことであった。一過性の者も居たが、そのまま当時の相方とずっと続いている者も居る。 まあそれはそれでいい、と彼は思う。その時それが必要な者は確かに居たし、その後までそれが必要な者も居るのだから。 では自分は、と言えば。 マーティは自分自身の傾向はヘテロだと思っている。とりあえず同性に欲望を感じることは無い。 だがもし誰かから明け透けに感情をぶつけられたら? 果たして自分がそれに対して、強く断ることができるだろうか、と思うと、それはやや怪しいものだった。 確かかつての自分は、この同僚を「エッグ・ビーダー」…泡立て器、と呼んだのである。 何をこの男は、かきまぜたのだろう? ぼんやりとした記憶しかそのあたりには無い。困ったことに。当時の自分が逃げ出したかった「何か」と関わってはいるのかもしれないが、…推測の域を出るものではない。「一卵性なのか?」「や、二卵性。髪の毛とか色違うじゃないか。そりゃあまあ、パーツは似てるけどさ。同じ親だし」「ああ、だからストンウェルさんの方が背…」 無論その言葉を言いきる前に、ダイスの頭ははたかれるのだった。「そう言えばさ」 ストンウェルはホテルの前の道路に立てられた停車装置に手を触れた。 他の惑星だったらパーキング・メーターと間違われそうな形をしたそれは、道路に30m間隔くらいで立っている。 す、と一番近くにやって来ていたエレカが彼等の前に止まる。小さな、黄色い車は無人だった。「噂には聞いてたけどさ…」 へえ、とストンウェルは座席の他に何も無いその車内に驚く。「何かおもちゃの様だな」 用事が済んだらすぐに球場入りできるように、ということで着ているユニフォームとスタジアム・ジャンパーが青だけに、そのおもちゃ度は倍増していたとも言える。「何でもさ、ここの公共交通機関ってのは、結局『道』なんだとさ」「道?」「そ。道が勝手に車を動かしてくれる訳よ」「はあん、それでさっきのパーキングメイターのような奴で、お前、呼んでた訳か」 止まったままの車は、行き先を彼等に要求していた。ストンウェルは兄の泊まっているというホテルの名を告げる。車は音も無く、滑り出した。「そう言えばストンウェル、お前の兄さんって、何やってる人なんだ?」「兄貴? 営業マン。って言うか、まあ、鉱山会社の方らしいからさ、営業って言っても、ずいぶんと現場に出てることの方が多かったらしいけど」「鉱山」「ミリオン星系に行ってた、って言ったけどな」「へえ」 鉱物か、とマーティは目を細める。かつてはさんざん相手にしたものだった。「だから昨日なんか、あーんなスーツ着込んでたけどさ、まあだいたい向こうとかでは、作業着とかジャンパーとか、そんなものばかりだったろうなあ…だいたい兄貴の場合、スーツなんかは、肩幅とかありすぎで、特注だとか言ってたからなあ」「確かに、作業服の方が似合いそうだ」 全くだ、とストンウェルは笑った。「でもスポーツとかはやってないのか? いい筋肉してそうだったが」「昔はね。俺と一緒に、ジュニア・ハイやらシニア・ハイやらではベースボール・クラブに入ってた。俺がピッチャーで、奴は四番バッターって奴」「打つ側か」「昔っからあいつは力あったからなー」 だろうな、とマーティは黙ってうなづく。「俺等の惑星は、レーゲンボーゲンと違って、割と帝国の統一後はずーっと平和だったからさ、大会もコンスタントにあったりして、強弱ピラミッドなんかもあったりした訳よ」「ほー」 それは自分の故郷(らしい)ところとは違う(らしい)な、とマーティは思う。「だからウチの惑星の、シニア・ハイの大会なんかでいいとこ行くと、もうASLの各チームのスカウトが乗り込んできたりしてる訳よ。で、俺や兄貴もスカウトされて、まあ結局、入ったのは俺だけだったけど」「その上の兄さんってのは?」「…何であんた知ってんの?」 え、とマーティは一瞬顔が引きつるのを覚える。そう言えば、昨日聞いたのは、ミュリエルが仕掛けた盗聴器ごしの会話だったのだ。「…や、お前、前に言ってなかったっけ。上にもう一人兄貴が居るって」「…言ったかなあ」「きっと言ったのさ」「…ま、いいか。うん、もう一人上に居るんだけどさ、…あーのーひーとーはなー…」 うううう、とストンウェルは詰まる。「何、言いたくないような人なのか?」「や…凄すぎて言いたくないって言うか」「凄すぎて?」 そう言えば、昨日の会話でも、何やらこの兄弟が頭が上がらないようなことを言っていた気がする。「タイドって名前なんだけどよ、俺と兄貴の場合、俺が投げてジャスティスが打つ、って感じだったんだけどさ、…タイド兄はどっちもできたんだよなあ…」「でもそれは良くあることだろ」「や、だけどなあ…それであんひとは、一度コモドにスカウトされてんだよ。あんたが入団したのと同じ年、だったかな?」「それは…」「ま、あんたが覚えてる覚えてないはいいよ」 それは判っているから、とストンウェルは言外に含める。「ただタイド兄は、その時スカウトは断ったんだ。プロで充分やってく実力はあったんだけど、堅実な方がいい、とかで企業に入って、ベースボールはそれっきりだったかなあ…」「へえ…」
2006.07.15
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翌朝は良い天気だった。「おおーっ。試合日和だぜ」「…何だよマーティ…今日は俺、登板は無いんだぜ…」 ストンウェルはもぞもぞと毛布の中からつぶやく。開けた窓の光が目に入り、目を覚まされてしまった。「確かにな」 そう言いつつも、しゃっ、と窓際のベッドに陣取っていた彼はカーテンを一杯に開ける。 大きな窓からは朝の日差しが強烈に降り注いだ。「やっぱりなあ、いい天気でいい具合の気温の朝ってのは、気持ちいいもんだぜ」「…へいへい」 低血圧なのか、寝起きが悪い男は、のそのそとベッドから這い出す。う~、と頭を振ると、のっそりとシャワーを浴びに行った。 今回この惑星「エディット」でも、選手は二人一組で部屋を割り振られている。事情によっては個室のこともあるが、遠征はそのパターンだった。 そして大抵、この寝起きの悪い男を起こすのは、マーティの役割の様になっていた。 マーティ自身は、寝起きも良ければ寝付きも良い。深酒もしないし喫煙もしない。健康に気を使うこと、選手のお手本の様だが、本人はそれをさほど苦ともせずにやっている。 身に付いた習慣って怖いよな、と彼は時々思う。朝夜明けとともに起きる。すぐに身体を覚まさせる。食べ物の好き嫌いなんて言っていられない。栄養は摂れる時に摂れ。寝ても構わない時間になったらとっとと寝る。体力温存のために。 自分のずっと昔、がどんな生活パターンを送っていたかは判らない。現在のそれは、結局、「冬の惑星」に居た頃の名残だった。 それがいいかどうかは判らない。そしてどっちでもいい。既にそれは自分の中に染みついてしまったものであり、確かにその通り過ごしている限りは、自分はこの年齢にしてはまだまだ体力のある方なのだから。「おいストンウェル、寝てるなよー! お前今日確か、兄貴を送ってくんじゃなかったのか?」 張り上げる声に、浴室からぴしゃ、と音がした。…どうやら本当に寝ていたらしい。はあ、とマーティはため息をついた。 それにしても。彼は昨日の彼等の会話を思い返す。 どうやら、あのストンウェルの双子の兄は、かつての自分=DDに会ったことがあるらしい。無論マーティには覚えが無いのだが。 だいたい自分が入った年の、他にスカウトされて来た奴の、更にその身内なんて、…記憶処理されていなくても、そうそう覚えていないものではないだろうか。かなり昔である。 しかしそれは、その時の自分が多くのファンを相手にしているような立場だったからで、逆に立てば、それは貴重な体験だったのかもしれない。「あ、そーいえば、あんた今日、出る予定ある?」 ひょい、と頭にシャボンをつけたまま、ストンウェルは扉から顔を出した。黒い短い髪からぽとぽとと水滴がカーペットに落ちる。「そりゃあ俺はお呼びがあれば、だろ。お前だって一応ベンチには登録されてなかったか?」「登録はされてるさ。ただちょっと、今日宙港まで兄貴を送って行こうと思うからさ、あんたも来てくれないかな、と思って」「俺が?」 やや白々しくも思うが、マーティは問い返す。「そ。何かあんたに興味あるらしいよ」 くくく、とストンウェルは笑い、再びバスルームへ戻った。 興味、ね。 マーティはふと思い立って、携帯端末を取り出し、覚えのあるナンバーを押した。「…あ、俺。久しぶり…」「あーっほら、あそこあそこ!」 ダイスの声が食堂に響いた。何だよ、とテディベァルとトマソンが一斉に振り向く。指さす方向には、大きなTVスクリーンがあった。「…何だよ、朝っぱらからお前元気だよな」 トマソンがのっそりとつぶやく。画面には、女性の下着のCFが流れていた。「違うんですって、例の風船ガム!」「まだ言ってるのお前~」 頬杖をつきながら、テディベァルは目の前の太いソーセージをぷしゅ、と突いた。「だって本当だったんですよ」「おいおいダイちゃん、何また言ってるの」 隣のテーブルに付きながら、マーティはダイスの肩をぽん、と叩いた。このルーキーが自分を結構敬愛しているのは知っているので、こういった朝のちょっとしたスキンシップはかかさないことにしていた。案の定、ダイスはいきなり顔一杯に笑顔を浮かべる。「だから昨日俺言ってたCFが今流れたんですよ~」「はいはい。何ってメーカーの奴なんだよ」「何か、ここでは有名らしいですよ、スカーレット社の新製品だって」「肝心の名前覚えてねーんだもんよー、こいつ」 テディベァルは向かいに座るダイスのおでこをぴん、と弾く。「痛いじゃないですか~」「悔しかったらやってみろ」 けけけ、とテディベァルは笑った。「名前はいいから、何か箱とか特徴なかったか?」「箱…ああ、赤いんですよ。で、細身で」「スカーレット社の、赤の細身の、新製品、な。ふんふん」「…ってあんた、何やってるんだよ」 ぐい、とマーティの対面に座るストンウェルは驚いてのぞき込んだ。手の甲に彼はサインペンで書き込んでいたのだ。「や、どーせ俺達今日はちょっと練習前に宙港まで行くんだろ? だったらついでにどっかで見つけたら買ってきてやろうかと思ってさ」「…あんたほんっとうにこのガキに甘いんだから…」「そうガキガキ言わないで下さいよ」 ダイスが反論する。「二十歳前なんだろ? まだガキガキ」 全くもう、とダイスは食事を再開する。「…あへ、りゃあんららち、今日練習は遅れへふるほ?」 口の中をソーセージで一杯にさせながらテディベァルがもそもそと問いかける。「まあちゃんと時間には戻る様にするさ」「守って下さいよ! いくらあなた達が出番無かったとしても、登録してるメンバーがベンチに時間までに居ないと、没収試合なんですからね!」 ホイは決して大きくはないが、鋭い声で言った。はいはい、とさすがにマーティもストンウェルも、この「女房役」には頭が上がらなかった。チームの常識、良識、良心と呼ばれているのが、彼なのだ。「…やっぱり家庭持ちの意見は鋭いのよねえ」と浮いた話に無縁な男達は、ため息半分、やっかみ半分でつぶやくものだった。
2006.07.13
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忘れてる。 当の本人は、神妙な顔で、向こう側の会話を耳にしていた。「先生」もまた、同じ会話を聞いていた。「そういうことが、あったんですか? マーティ」「さあ俺には…」 実際、思い出せない。 記憶障害。そう言ってしまえばひとことで終わるのだが、このサンライズの中継ぎエースの男は、それを抱えていた。 無論普通の生活には全く困らない。ただ、パーソナルな自分の記憶に関してだけ、思い出す道筋がなかなか復活しないのだ、という。「ストンウェルと同じチームに居たあたりはまあ、それなりに思い出せるんだけどな。それ以前のこととなると、だいたいそれこそ思い出すための資料が足りないんだよ」「そういうものですか?」「そういうもんじゃないかい? 先生。どんなものでも、思い出すためのきっかけってのがあるだろ? 結構ああいう過去の写真やら雑誌記事やら、試合のヴィジョンなんかはそれなりになあ」 それでも、あまり思い出したくないこともあるけれど。「私なんかから見れば、DD時代のあなたはそれはそれで、面白いんですがねえ」 マーティはそれには目をつぶって、答えなかった。 元ナンバー1リーグの「コモドドラゴンズ」のエース、花形選手の「DD」。それがかつての自分だったらしい。 それが、遠征にたまたま来たレーゲンボーゲン星系の争乱の中、間違えられて政治犯として捕らえられてしまい、アルクの連星であるライ「冬の惑星」に数年間、送られていたのだ、と。 そのいきさつに関しては、どうやら自分の中で「つながって」いる。 だがそれ以上は、まだ半分以上他人事だった。 マーティ・ラビイという名は、流刑時代の仲間がつけた「マーチ・ラビット」=三月ウサギというあだ名のもじりだった。「俺は、今の自分が一番好きだよ」 彼はつぶやく。「お前がDDに最初に会ったのもその時じゃないか」「そうだったかなあ」 ノブルはひょい、と兄の言葉をかわす。 基本的にこの双子の兄に嘘は通用しないことは知っているから、言葉的には曖昧にしておく。「兄貴がコモドにスカウトされた年、やっぱり入ったのが、まだずいぶん若かったDDでよ。タイド兄は断ったけれど、コモドのそん時の上役はずいぶんいい人でよ、俺達にも何回か試合を見に行けるって回数券をくれたじゃないか」「ああ、それは覚えてるよ」 そしてその時に、ひどく楽しそうに練習場に走っていった青年の姿も。「…結局ノブル、お前俺の倍、通いやがってよ」「お前がじゃんけんに弱いのが悪いだろ、兄貴」 るせえ、とジャスティスはテーブルを叩いた。その弾みでコーヒーカップが倒れた。すいません~とノブルはウェイターを呼び、お代わりを頼んだ。「…それであれからずっとお前は彼のファンだったよな。だからあのチームにも入った」「…まあね」 それは正しい。ノブル・ストンウェルにとって、プロに入るということは、そういうことだった。 この双子の兄は、シニア・ハイの時に、自分と一緒にハイスクール・カップでいい線まで行ったのに、スカウトを断って、タイド兄と同じく、堅実な企業の方へと走った。 だが自分は―――「だが、彼が失踪した時に、即座に辞めるかと思ったらそうでもない」 それも、そうだった。 DDは、彼が一緒のチームでプレイするようになって、まもなくと言っていいくらいの時に、いきなり失踪した。 少なくとも、当時のノブルにとっては、そう見えたのだ。誰が、遠征先で政治犯と間違われた、なんて考えるだろう? だから彼はしばらく、信じられなかった。失踪。 でかでかと報じるマスコミに、思わず暴行を働いたこともある。いい加減にしろ、と顔に青筋を立てて。「待ってたのか?」「まあそれもあるけど。でも俺だってベースボールそのものが好きだったからさ。ねえ」 嘘だ。 と、その時ふとマーティは思った。「その割には、コモドがあーなっちまった時には、さっさとお前、捨てたな」 かつてナンバー1リーグにまで上がったチームは、ヒーローの消滅を機に、どんどん人気と成績が落ちて行った。 やがてそれは、興行成績にも響き、経営不振―――身売りへとつながっていったのは、ベースボール好きには有名な話だった。「ま、そもそもその頃にゃー、向こうも俺を切りたがってたからな。ビリシガージャ監督も交代させられたし。あのおっさんは俺結構好きだったけどよ、後がまがなー」「そこだ」 ぴ、とジャスティスは太い指を突き付けた。「何でそのタイミングなんだ? お前」「何でって」「そんな時期に出たところで、何の得がお前にあった?」「別に。得も損も。俺はただ、その時は何かもう居るのは何だしなあ、と思っただけだよ」 さらり、とノブルは答えた。「本当か?」「本当だよ。嘘に感じるか?」 ジャスティスはくわえた葉巻を噛みつぶす勢いでじっと弟を見た。「嘘はついてないようだな」「当然だろ」 嘘ではない。確かに。ノブルは思う。内容はともかく、嘘をついているかとどうか、はこの兄には隠せないのだ。それは自分も同様だったが。兄は自分に嘘はつけない。隠せない。 それまで長い期間居た所を辞めることを決意するのは、結構すこん、とした一瞬である。ある一瞬を越えてしまうと、考えはもう「続けるためにどうすればいいのか」ではなく「次はどうしよう」に向かうのだ。「それでお前、その後どうしてたんだよ」「何も。適当に仕事見つけて、食える程度にはやってたさ」「本当か?」「だからこーやって生きてるんだろ。お前程じゃあないが、兄貴、俺だって食ってくためになら、着たくもねえ服だって着たし、肉体労働もしたし、営業で飛び回ったりもしたさ」「ふん」 ふっ、と勢い良くジャスティスは煙を吐き出した。「…営業ですか…似合いませんねえ」「何なに、ストンウェルさん、営業やってたことあるんですか?」 ミュリエルのつぶやきに、ダイスが聞きつけて飛びつく。「みたいだね」「あーでも、あのひとなら結構イケるかもなあ」 テディベァルは相変わらず手放しでちゅ、とジュースを吸いながら天井を向く。「俺は無理だなあ」「マーティさんが無理? そんなことないでしょ」「や、マーティは駄目ですね」「何だよ、先生、その根拠は?」「いや、勘ですよ」 ははは、とミュリエルは静かに笑った。 勘ねえ。マーティはその大きな肩をすくめた。確かに自分にはできそうにない、と思う。それはそれでいい。結局野球馬鹿だった訳で。それだからこそ、こうやってグラウンドに戻ってこれた訳で。「そう、結局あのひとの場合、その期間が謎なんだよなあ…」 テディベァルは指を鳴らす。「その期間?」「だからよダイス、あん人がコモド辞めて、その後にウチに来るまでって、ちょっとあるじゃんかよ。その間営業とかやってた、って言ったってさあ」「…まあストンウェルがひと所そういう職で長続きするとは…私も思えないですねえ」「俺もそれには同感だよ」 マーティはうなづく。「ヒノデ夫人に聞けばまあ、それなりに判るかもしれないですがね」 ひらひら、とマーティは手を振る。「やめとけ。あのひとのことだから、そういうのは仲良くなってご自分でお聞きなさい、とやんわり言われてしまうがオチだぜ」 それもそうだ、と皆でうなづく。 そもそも、自分を呼び寄せた経路にしたところで、結構謎はまだ残っているのだ。 アルクでのクーデターの成功で、協力者として彼はマーティ・ラビイとして籍を再取得した。 その後、彼はしばらく、協力していた反政府組織の一つ「赤」の代表の元で「仕事」をしていた。 相棒がその「赤」の代表ウトホフトの表に持っている店のウェイターをしていた、という関係もあったが、彼自身の仕事は相変わらず「裏」であったことには間違いない。 ヒノデ夫人は、一体「表」と「裏」と、どちらの代表ウトホフト氏と話をつけて、自分を手に入れようとしたのだろう。 まあ無論、どちらであっても、おかしくはないのだ。 ヒノデ夫人率いる「サンライズ」はアルク指折りの大手食品産業である。「表」でも「裏」でもそれなりに「顔」であることは間違いないだろう。 ただ「DD」はともかく、「マーティ・ラビイ」は「裏」でなければ探せなかったのではなかろうか。 同じことがノブル・ストンウェルに関しても、全く言えなくはない。「まあいい」 ジャスティスはぐい、とまた葉巻を押しつける。「ただ納得できねえことをするな」「判ってるさ。人生は一度で、しかも長くはない」「そうだ」 にや、とジャスティスは笑った。「しばらく、この惑星に居るのか? それともレーゲンボーゲンへ戻るのか?」「や、今ロード中だから、明々後日ここを出発するんだ。明日でここのゲームは終わりだから」「そうか」「お前はどうなんだよ、兄貴」「俺か? 俺は明日発つ。こっちの仕事は今日片づいた」「へえ。首尾はどうだい」「聞くか?」 ノブルは黙って首を横に振った。「成功、だろ?」「間違いだ。大成功、だぜ」 はははは、と二人は声を立てて笑った。「俺今日先発だったから、明日は出る予定はねえんだ。何時だ? 宙港まで送ってくぜ」
2006.07.12
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「けどお前、あれは、誰だ?」 二本目の葉巻に火を点けながら、ジャスティスは弟に問いかけた。「誰だ、って誰のことだい?」 葉巻を勧められたが、ノブルは手を振って断る。「俺のは吸えないってのかい?」「俺は単に、紙巻きの方が好きなんだ。忘れたかよ」 ジャスティスはにやり、と笑う。「ああそうだったな、お前は。コモドに居たあたりからだったか。誰かのせいだ、ってほざいていたよな」「そんなこと、俺言ったかなあ」 言いながら、彼はちらり、と斜め向こうを見た。「ちょっと待ってくれよ、ジャス兄」 ふらり、とノブルは立ち上がる。そして斜め向こうのボックス席をのぞき込んだ。「…何やってるんだよ、あんた等…」 同僚達は、わざとらしくもサングラスを掛けて、なおかつ姿勢を低くして、内緒の話をしているかの格好でそこに居た。「…や、別に、明日の試合のためのね」「そういうことは、後で時間が決まってるだろ!!」 慌てて四人が、その場から立ち上がったことは言うまでもない。 ふう、とノブルは歯をむきだしにしながらこめかみを引っ掻く。「おい何だよ。いきなり」「…出歯亀がウチの選手には多くてさ」「ふうん。まあ普段はお前もそうなんだろうがよ。それはまあいいさ。それよりさっきの質問に答えろ」 ちょっと待って、とノブルはレジの所まで行くと、煙草を一箱調達してきた。「プリンス・チャーミングがありゃしねえ」「お前そればっかだったよな」「そ。名前が童話の王子サマなのに、結構キツイんだぜ」「安っぽく感じるがな。まあいいさ。…はぐらかしてないで、とっとと答えろ」 ああ駄目か、とノブルは思いながらこの惑星のブランドらしい「インビンシブル・アルマダ」のパッケージを開いた。「…何だよこれ、シガレットの色が紫かよ」「お前知らないのか? ここじゃあ紙巻きは指定の用紙で無いと製造できねえんだよ」「…って言うと?」「だからお前、『プリンス・チャーミング』切らしてて正解だぜ。ここじゃ白い紙巻きってのは、ドラッグと勘違いされるからな」「へーえ、それは初耳」 感心したようにうなづくと、彼は紫の紙巻きに火をつけた。「…しかも軽いんでやんの。何これ」「文句言うな。この惑星はだいたい今、ドラッグ関係には結構ぴりぴりしてるんだぜ。知らなかったのか? それになあ」「なるほど。はいはい、答えね答え」 さすがにもうこの兄には脱線は効かないな、とノブルは思った。何せ双子なのだ。普通に生きてきたきょうだいであっても、互いのクセだの何だのは判ることが多いのに、この兄との間には、ちょっと厄介な特性というものがあるのだ。「あれ、の示すのをもうちょっと具体的に言ってくれねえか? 一応メンバーが今多いんでさ」「お前が親しそうにしていた、俺より背が高い色男のことだ」 それは適切だ、とノブルは思う。「あれはウチの中継ぎエースで、マーティ・ラビイってひとだよ。それがどうしたよ」「マーティ・ラビイ?」 ジャスティスはぐい、と腕をテーブルに乗せた。「本当にその名、なのか?」「本当。それ以外に何だって言うんだよ」「…さっきからなあ、俺のアタマには、ややこしい感覚が回ってるんだぜ?」「ふうん?」 ノブルはテープルに肘をつき、顎を乗せた。「って言うと?」「お前は嘘言ってない。けど本当のことを言ってもいない」 ノブルはくい、と紫の煙草を灰皿に押しつけた。「さすが兄貴だ」「…ほらやっぱり、移動させられちったじゃんかよぉ」「あのなー…普通あれだったら移動、じゃなくて撤退しないか?」「そういうあなたは、どうして居るんですか? マーティ」「そ、それは」 平然と言う「先生」の言葉に、マーティはやや動揺する。 結局四人は、出て行くふりをして、ストンウェル兄弟から死角になる、やや離れた席に移動していた。「…って、ストンウェルさんって、結構謎多いじゃないですか」 フォローするように、ダイスが口をはさむ。「でも俺達の中では、あん人は、割と知られてる方じゃないの? ほら、コモドん時の雑誌とか調べりゃ、家族構成とか判るしさー」 テディベァルはオーダーしなおしたミックスジュースをきゅっ、と手放しで吸い込む。「まあそこまで調べようって奴もウチの中にはいねーけどさあ」「それはまあそうだが。でも逆に、君より知られていないことが多いのではないかな? マーティ」 そこで俺に振るかい、とマーティは苦笑する。だが確かにそう言えばそうかもしれない、と彼は思う。「まあ確かにマーティの場合は、特別ですがね」 ミュリエルもまた、オーダーし直した紅茶をすする。「しかしここの紅茶はまずいですねえ。アルクの水が恋しいですよ」「そんなに違いがあるんですか?」 ダイスは自分もオーダーしなおしたコーヒーをじっと見つめる。「コーヒーより紅茶の方が違いは露骨ですからねえ…マーティは好き嫌い無いですねえ。何でも美味しそうに食べたり呑んだりしますけど」「まあ俺はな。食えるものは何でも美味しく、だからさ」「あ、それは俺も同感だよー」 テディベァルは片手を挙げた。そうかもしれない、とマーティは思う。テディベァルの出身惑星は、生活水準がそう高くない。働いても働いてもそうそう裕福に暮らすことはできないから、出稼ぎに出ることが多いのだ、と聞いている。 マーティの場合は、また事情が別ではあったが。「…食い物がちゃんとある生活ってのは、いいことだよ」「そうそう」 うんうん、とテディベァルはうなづく。「だから偏食は駄目なんだぞ~ダイス~」「だからそこでどーして俺に振るんですかっ!」「そこで、だ」 話の流れを無視して、「先生」はひょい、とポケットからイアホンを取り出した。「先ほどの続きと行きましょうか」「って…先生、もしかしてあんた」 マーティは「それ」を指さして絶句する。彼はそれには見覚えがあった。つい数年前まで、彼が「仕事」もしくは「活動」で何かと使っていた類の。「そ、ちょっとさっきストンウェルが立った隙に、片割れを彼のポケットに入れさせてもらったんだけど」 聞きますか? とミュリエルは片方マーティに渡した。俺達は~? とねだる二人はにっこりと拒絶して。「あとでね」 ぷー、と二人は膨れた。その顔から、先刻のチューイングガムのことを思い出したらしく、再びその議論に入っていった。 どうしてそんなものをこの「先生」が持っているのか疑問に思いつつも、イアホンの片方をマーティは耳に差し込む。「別人だよ」 ノブルはさらっ、と言う。「どうしてもそう言い切るのか?」「昔はともかく今は今だ。それ以上のことを言われても、俺だってあのひとだって困るだろ」 ふん、とジャスティスは二本目の葉巻をぐい、と灰皿に押しつけ、立て続けに三本目に火をつけた。「プリンス・チャーミングはDDの愛好していた煙草だったよな」「そうだっけ」「ファンだったろ」「そりゃあね」「だからお前は、コモドに入った。兄貴が六年前に蹴ったコモドに、だ」「…」 そう言えば、そうだったかもしれない。ノブルは思い返す。「兄貴はまだ当時、俺等二人がシニア・ハイに行ってたこともあったし、お袋一人の稼ぎじゃあ暮らしていけない、ってことで、いつどうなるか判らないプロのベースボール選手になるより、企業に入ることを選んだんじゃないか」「兄貴は…偉いひとだからな」 全くだ、とジャスティスは低い声でうなづく。「…一番怖いひとでもあるがな」「…全く」 同意してから、ああ違う! とジャスティスは片手をさっと払う。「何でお前と話すと、どんどん脱線するんだ。そうでなくてなあ」「だから、兄貴が言いたいのは、こういうことだろ? ウチのマーティが、その昔俺が大好きだったDDにそっくりだって」「そっくりどころか、…あれは同じじゃねえか」「さあ」 ノブルは両手を広げる。「…まあそう言いたいんならいいがな。俺も昔会ってるんだ、ってこと、忘れるなよ」「あれ、そんなこと、あったけ」 ノブルは記憶をひっくり返すように首をかしげた。「ある。一度だったがな」「…いつだったっけ」「忘れたのか?」
2006.07.11
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「…どうも一昨日辺りから、頭の中がむずむずすると思ったぜ」 言いながらジャスティス・ストンウェルは身体のあちこちをごそごそと探り出す。 ほいよ、とノブル・ストンウェルは銀色のジッポ型のライターを兄に投げた。おう、と兄は片手で受け取ると、即座に太い葉巻に火を点けた。「それはこっちの台詞だぜ、兄貴。おかげで何っか集中できないと思ったら」「それを今日のピッチングのひどさの理由にするんじゃねえよ」 彼は椅子にどっか、と背を投げ出した。対するノブルは、ややテーブルに前のめりの格好となる。 さほど隣のボックス席との間は空いてもいないし、高い壁がある訳でもないが、あちこちに植物があるので、落ち着いて話をするにはそう悪くない空間だった。「…三年ぶりだったから、忘れてたんだよ、お前が居る時の感覚って奴をさ」「…まあそれは、俺も同様だがな」「だいたい何でお前、ここに居るんだ」「俺は仕事さ。営業なんだぜ」「その割りには、ずっと気配が無かったじゃないか」 ふうっ、とジャスティスは煙を大きく吐き出す。「ずっとミリオン星系に居たんだぜ。そこで鉱物関係の営業だ。三年」「そりゃあ…さすがに俺でも判らないよな」 ノブルはこめかみを引っ掻きながら、ミリオン星系の位置を頭に思い描く。確か、帝都本星をはさんで、ちょうど一番遠い座標方面にあるはずだ。「レーゲンボーゲン、だと言ってたな」「ああ」「何でまた、お前、そんなとこに居るんだあ? ちょっと前まで政情不安だった星域じゃねえか」「悪いかよ。それに今は大したことないぜ」「別に悪くはねえがな、ノブルお前、コモド出てから、ずーっとお袋や兄貴に音信不通だったって言うじゃねえか」「う」 ノブルは飲みかけたコーヒーを吹き出しそうになる。「…な、何か言ってたか?」「お袋は言わん」 胸の前で腕を組み、ジャスティスは目を伏せる。「だがタイド兄貴は何か言いたそうだったぜ」「う~」 ノブルはテーブルに突っ伏せた。勢いで、ジャスティスの側のコーヒーがぴょん、と跳ねた。「…別にお前があいつに何されようが、俺の知ったことじゃねえが、お前がいたぶられると、こっちのアタマまで響くんだぜ」「判ってるがなあ、んなこと、俺のせいかよ」「お前のせい以外の何だって言うんだ?」 う~と再びノブルはうめいた。「せめて一言言っておけば良かったのによ。俺のようにな!」「仕方ねえじゃないか」 そう、仕方ない。ノブル・ストンウェルはテーブルからなかなか顔を上げられないまま、そう思っていた。「色々事情があったんだよ」「事情」 ぼそ、と「先生」ことミュリエルはつぶやいた。「はて、何の事情でしょうねえ」「知るかよ」とテディベァル。やはり声のヴォリュームは、いつもの彼らを知る者では信じられない程落とされている。 テーブルの上には、コーヒーが二つ、レモネードが一つ、ミルクティーが一つ。「…けど、あのひとにあんな兄弟が居るって皆さん知ってました?」 ダイスは眉を寄せる。「お前知らなかったの?」「知りませんよぉ。マーティさんどうです? 一番仲いいじゃないですか。知らなかったんですか?」「俺だってなあ」 テーブルの上に、大の男四人が顔を突き合わせてこそこそと話をする図というのは、何処か奇妙だ。 しかし小柄なテディベァルはともかく、あとの三人は、やや姿勢を低くしないと、いくらあたり構わず植物が置かれているティールームだとはいえ、斜め向こうのボックスから見えてしまうのは必至だった。 要するに、彼らが座っているのは、ストンウェル兄弟のすぐそばなのだ。「俺だって知らないさ」 マーティはため息混じりにつぶやく。 だいたい、幾らチームメイトだとは言え、皆それぞれに過去がある。いちいちそれを問いたださなくてはならない理由はない。 言いたい奴は言いたければ言えばいい、とマーティは常々思っていた。 もっともそのマーティ自身の過去が、実は一番チームの中で興味を持たれているところなのだが。「でも似てますねえ」「ネガポジ、ってテディが言いましたが、確かにその形容は正しい」「でもウチのストンウェルの方が、背ぇ低いよな」 けけけ、と姿勢を低くする必要のないテディベァルは笑う。「双子なんですかねえ」 ぼそ、とダイスはつぶやいた。「双子?」「だって、そりゃあ色あいはずいぶん違いますけど、造作が似すぎですよ」「それもそうだなあ…」 ふむふむ、と皆でうなづき合う。「…けど何で、あんた居るんだよ、先生」 テディベァルは今更の様にミュリエルに問いかけた。「先生」と呼ばれる、この帝大出の元専門講師はふふん、と顔をほころばす。「やっぱり興味あることは知りたいと思うのは当然でしょう?」 何に興味があるのやら、とマーティはため息をつく。 マーティ・ラビイにとって、ノブル・ストンウェルは現在の同僚であり―――過去にも同僚だったらしい。 「らしい」というあたりが、ようするに彼の過去の感覚だった。 マーティにとって、自分の過去は、一度その流れを乱されたものである。かつて彼は、ナンバー1リーグの「コモドドラコンズ」でノブル・ストンウェルとやはり同僚だったらしい。 らしい。 ある程度までは、その記憶の流れが戻って来たが、それでもまだ、その多くは他人事のようなものであり、更に多くが、まだ取り戻せないものなのだ。 その流れを乱したのは―――「どうしました? マーティさん」 ダイスの声で彼ははっと我に返る。「や、何でもない」 それは格別ここで口にすべきことではないのだ。
2006.07.10
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回転扉を押して、男達がホテルに戻って来た。「…だからさ、ホントなんですよお」 一つ扉を回すと、そのついでに言葉までも飛び込んで来る。 お帰りなさいませ、とドアマンの声が重なる。 だが話している当人達は、それにはお構いなし。 どうやら外でも大声で話していたらしいが、どんどんヴォリュームは上がってくる。「ホントかよ~結構お前の言うことは眉唾だしよ~ダイス~」「ホントですってば! 昨日ちゃんと俺、ここのTVのコマーシャルで見たんですから」 そして揃いの青のスタジアム・ジャンパーを着込んだ男達が、続いてぞろぞろと入ってくる。 ロビーに居た客達の視線が、一斉に彼らの方を向く。 やや複雑そうな表情が、彼らの上にはあった。何せ今日も、このアルク・サンライズに結局負けたのだ。この惑星のチーム「エディット・トマシーナ」は。「でもさー、いくら何でもよ、顔の倍ってのはよ」「そりゃテディさんの惑星じゃあ、膨らむものも膨らまなかったかもしれませんがねえ」「おい~」 べし、と跳ね跳ねの髪の小柄なほうが、そうでない方のいがぐり頭をはたいた。「…一体あいつら何を話してるんだよ、ホイ」 数歩下がって歩いている偉丈夫の男が、斜め前を行く同僚に、身をかがめて問いかける。「…ああ、何でもダイスが昨日、ここのコマーシャルで、すごく大きく膨らむチューイングガムを見たんですって。マーティさんは見ませんでした?」「…ガムかい…」 偉丈夫は呆れたように帽子を取ると、ぱたぱたと扇ぐ。「その話をしたら、ほらテディの奴、信じる信じないはおいといて、とりあえずダイスをからかうでしょ」「けどガム…なあ」 ふう、とマーティはため息をつく。「まあそんなげんなりするなって」 横から、頭半分背の低い男が肩に手を回し、ぽんぽんとその背を叩いた。その手をさりげなく払いながら、マーティは大きな目を半分伏せる。「いいけどさ。何かお前今日不調じゃないか? ストンウェル」「や、…そんなことは無いはずなんだけどなあ」 即答する。そして首をひねる。「だってよ、あんただってよく知ってるだろマーティ、ホイもさ、今朝の今朝まで、俺、絶好調だったじゃないの」「そんなにここの気候ってストンウェルさんに合わないんですかねえ」 さあ、と問われたマーティも両手を広げる。「実際俺、体調的には絶好調なんだよ?」 それは言えてるよな、とマーティとホイはうなづき合う。 実際、試合前の投げ込みだの柔軟だの走り込みだの、そういった部分では、決して調子悪くはないのだ。「…きっと俺、繊細なんだわ」「やーめーてー」 前方を歩いていた二人が、同時に振り向いた。鳥肌が立ったらしい。「あんたが繊細って言うんなら、俺なんて病弱だよ」「俺だって」「俺だって? 何なに何かな~ダイちゃ~ん」 ふふふ、と口元に笑みを浮かべながら、ストンウェルはぐい、と今年のルーキーに迫る。冗談ですよお、と言いつつ、思わず手で自身をガードするダイスの顔からは、脂汗がたらりと流れ落ちそうになった。「やー、でも確かに気持ちがふらふらしてるってのはあるかもしれませんよ」 追い打ちをかけるように、更に背後から落ち着いた声が飛ぶ。「あんたまで何だよ、先生」「メンタルな部分というものは投手にとっては大切ですからねえ。何かしら君の調子を狂わすものがこの惑星の環境にはあったのではないですかね」 ううむ、とストンウェルは立ち止まる。「何か、思い当たるフシでもあるのか?」 マーティが問いかける。「おや、心配してくれるの?」「そりゃあチームメイトだしなあ」 ちぇ、とストンウェルは苦笑し、肩をすくめる。そしてフロントに向かって声を張り上げた。「ねえここ、禁煙?」 いえ違いますよ、と声がする。「だけど吸い殻は所定の場所にお願いします」 へいへい、と言いながら、ストンウェルはバッグから煙草を取り出した。「あれ」 彼はお得意の「プリンス・チャーミング」の箱を逆さにする。「…ちくしょ、後二本ばかり残ってたと思うんだがな」「君いっそ禁煙したらどうですか? その煙草、結構強いじゃないですか。ニコチンの作用は…」「うっせ、俺には大切な大切な煙草ちゃんなのよー」「それならこれは、どうかい」 ぐい、と彼の目の前にたくましい腕と、太い指と、…そして葉巻が突き出された。 ストンウェルは目の前のそれをじっと見る。見て――― 次の瞬間、一気に5メートルは後ろに跳ね退いた。 何だ? とマーティはでかい目を更にでかくする。ホイは眼鏡のブリッジを修正する。「いやあ、久しぶりだなあ、ノブル」 ははは、と飛び退いたままの姿勢で、ノブル・ストンウェルは硬直していた。「ったく何だあのザマは!!」 破鐘を思い切り連打したような声がロビー中に響いた。ひー、とダイスは両手で耳を塞ぐ。 何だ何だ、と動揺するサンライズのメンバーの中、最初に落ち着きを取り戻したのは、マーティだった。 そしていきなりの来訪者を慌てて観察する。それは彼の永年の習性だった。 背は…自分より少し低い。でもストンウェルよりは高いな。けど彼を名前で呼んでいる。…知り合い? 身内? … い? マーティは開いた目が塞がらなかった。「ちょっと待て、ストンウェルお前、等、や、あなたも、…」「何だよ」「何だい」 声がユニゾンになる。二人が揃って、ようやく体勢を取り戻したサンライズレギュラー陣の方を向く。「げげげ、ネガポジ!」 確かにそうだった。 テディの奴上手いこと言うな、とマーティは二人を見比べて改めて思う。 来訪者の髪は明るい色。明るい瞳の色。 彼らのノブル・ストンウェルは髪も目も黒。 だがそれ以外の部分ときたら。 確かに身長はどう見ても来訪者の方があるけれど。 マーティはにこやかな顔を作る。去年何処かの雑誌の女性記者から、今度モデルしてくれませんか、と言われた上出来の笑みで。「あの~もしかして、ストンウェルの身内の方で…」「…兄貴だよ」 ぼそ、と同僚の声が、マーティの耳に届いた。「…だからかあ…くそ。やけに頭ん中がむずむずすると思ったらよお…」 つぶやく弟の頭を、兄はべし、と平手ではたく。「弟が、お世話になっとります。私、こいつの兄で、ジャスティス・ストンウェルといいますわ」
2006.07.07
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ぱきゅ。『打ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 背中を叩く声。思わずぐい、と振り向いていた。「…ああ、休憩時間の連中が、ヴォリュームを上げたんですな。しょうもない。下げて来るように言ってきましょう」 取引先の技術課長はふっくらとしたソファから腰を上げようとする。その姿はTVを観戦していた作業員と同じ作業服だ。 手で制する。「や、大丈夫です。技術課長。せっかくの休憩時間を邪魔しては」「そうですかあ。申し訳ございませんねえ」 にこやかに、技術課長は再びソファに腰を沈める。柔らかすぎる椅子に、おっと、とバランスを崩しそうになる。 いい調子で話は進んでいるのだ。その調子を狂わせたくはない。各星系を飛び回る優秀な営業部員は切に思う。「しかしこの惑星の方々は、皆ベースボールがお好きなのですね」「や、そうではないんですよ」 ぐい、と技術課長は身を乗り出してくる。何やらそれまでの商談より目が輝いている。内緒話のように、手を側立てる。「実はですね…うちの惑星のチームは、弱いんですよ」「は」「非常に弱い。ほんっとうに、弱い。今年も最下位だったら、ナンバー3からナンバー4に降格なんですよ。はははははははは」 ほとんどやけくその様に言ってから、技術課長はため息をつく。「は、あ…」「さすがに今年はふんばってますが…でもおそらく駄目でしょうね」「そ、そうですか…」 彼は言うべき言葉を見失ってしまう。 ところが急に、技術課長の両の拳が強く握りしめられ、どん、とテーブルを叩く。「でも、だからこそ! 今日の相手から点を取ったって言うのは大きいんですよ!」「今日の相手? ですか?」「アルク・サンライズ! 去年のナンバー3リーグの優勝チームじゃないですか!!」「サンライズ? えー…すみません、聞いたこと、無いですが…」「ああ、すみません、…もしや、ひょっとして、あなたは、ベースボールにはあまり関心が無い…」「や、そんなことはありません」 手を上げ、きっぱりと彼は否定する。「こう見えても、シニア・ハイの頃は、スラッガーで鳴らしたものです」 ほお、と途端に技術課長の顔が明るくなった。しかしそれはすぐに訝しげななものとなる。「…でしたら、あの新星サンライズの優勝騒ぎを知らないというのは」 や、と彼は両手を広げる。「それが、残念なことに、私、ミリオン星系に居たんですよ」「ミリオン星系?」「辺境です。三年ほど…その辺りを飛び回ってまして。最近帰ってきたばかりですよ」「ほーお…それは大変でしたなあ」「ええまあ。それも、産出鋼を、やはりその附近の辺境惑星群へ卸す仕事でしたので、もうASLの情報なぞまるで。それに忙しかったですからね。もう帰ったら寝るだけのような日々で。がはははははは」 彼は豪快に笑った。「そうですか…いやあすみませんねえ。や、去年、いきなり、やっぱり辺境のレーゲンボーゲン星系にある…レーゲンボーゲンは、ご存じですか?」「一応聞いてはいますが。ウチの会社の守備範囲ではないんですがね」「そこのアルクという惑星から、チームが一つ、去年ナンバー3リーグに入ったんですよ」「でもレーゲンボーゲンじゃあ、まるで反対ですね。さすがにまだ行ったことは無いですが、結構政情不安な惑星じゃあ無かったですか? 確か、私がミリオンに行った頃には、交替したばかりの政権が、ずいぶんと強引なことをやっていたと聞きましたが」「そうなんですよ」 技術課長は大きくうなづく。「だけどそれが一昨年ですか、その交替したばかりの政権が、クーデターで潰れてしまいましてね」 ほう、と今度は彼が驚く番だった。「またずいぶん短命な政権でしたなあ」「びっくりしましたよ。で、新しく成立した政権が、ようやく帝都本星と仲良くなったのですよ」「それまではそう良く無かったのですか?」「まあ~…そう良くは無かったですね」 それは大変だったろう、と彼は思う。「…すみません、ちょっと煙草を吸っても構わないでしょうか」「どうぞどうぞ」 彼はポケットからシガーケースを取り出す。厚みのある、革製のその中には、数本の葉巻が入っていた。「ほう、お珍しい」「如何ですか?」「いただきましょう。…しかしまあ、そのレーゲンボーゲンのチームですがね、その成果のせいか、全星域統合スポーツ連盟にようやく登録されましたよ」「それが、あのチームですか」 言いながら、彼は背後のTV画面を再び見る。 打者の縦縞のユニフォームに、この惑星「エディット」の文字が書かれている所を見ると、守っている青いユニフォームのチームが「サンライズ」ということだろう。 ふんふん、と彼はうなづく。帰りに「Photo&Sports」か「ASL TODAY」を久しぶりに買って帰ろうか、という気分にもなる。 昔はプレイするのが好きだった。今は観るのが好きだ。 無くてもまあ、日々過ごせてはいるが、あればあったに越したことはない。「まあだから、うちのチームなんかもう、そうそう打てるもんじゃないんですよ。けどさっきの騒ぎようからしたら…」「なるほど…」 曖昧にうなづいて、彼はではそろそろ話の続きを、と体勢を向き直す。全ては仕事がちゃんと終わってからだ。 ところが。 こんっ。 わぁっ、とまた声が上がる。負けずにアナウンサーの声も上がる。『おおっと何だあ! “暁の黒鮫”ノブル・ストンウェル、またも失投!』 マイクをスタンドごと掴み、放送席から立ち上がっていそうな勢いだった。 書類を揃え直していた彼の手が止まった。「…あの投手…」「ああ、確か先発投手で」『どうしたストンウェルーっ!!』 アナウンサーの声は、ひどく嬉しそうだった。 がたん、と彼は思わず立ち上がっていた。
2006.07.06
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のぼせ半分で、ダイスが大浴場から出て部屋に帰ると、長距離通信が入っている、とフロントからの知らせがあった。 何だろう、と伝言を聞いてみると、それは故郷の友人の一人だった。 同じように、実業学校で野球をやっていた仲間の一人だった。現在は、故郷の建設会社に入って、現場で汗を流しているという。 彼は少し考えて、通信回線を開いた。 数回のコールの後、見知った顔がそこには現れた。「よぉ、どうしたんだよ」『どうしたもこうしたもないよ! お前、初登板だったんじゃないかっ!!』「え?」 そう言えば。彼は思い出す。 レーゲンボーゲンの「中央放送局」は、サンライズの全試合を網羅しているはずだった。 彼は全く忘れていた。『俺さあ、全然知らなくて、会社の先輩に付き合って呑んでたら、いきなりTVにお前の姿がアップになってるじゃないか! 俺、すげえ驚いて、先輩に向かって思わずビール吹きそうになったぜ!』 あはは、とダイスは笑う。何となくそれがどういう光景か、想像できたのだ。「ごめんごめん、だけど俺も今日の今日まで、そうなるとは思ってなかったから。判ってたら、お前等に連絡したぜ」『だろうなあ』 回線の向こうの友人は、苦笑した。『何にしても、おめでとう。俺は嬉しいよ』「ん? 喜んでくれるのかよ。だって俺、今日負けだぜ」『あったりめーじゃないかっ! 何でそんなこと言うんだよっ。いい試合だったぜ。負けても何でもよ』 だって。彼は少し黙る。 向こう側の相手は、少しだけ、意気を弱める。『…おいダイス、もしかして、こないだ俺が言ったこと、気にしてる?』「ちょっとな」『ああごめん。お前がそんなに気にするとは、まるで俺、思わなかったからさ。でも、今日の試合、結局俺、ずっと見ていたんだけど』「ずっと見てたのか?」『ったりめーだろ! 思わず店の人達巻き込んで、大騒ぎしてしまったぜい。…後で先輩に笑われたけどな』「また、何をやったんだよ」 彼はあはは、と笑う。向こう側の友人は、それには笑って答えなかった。『…あのさ、何かさ、俺、お前は好きなことを仕事にできていいな、ってこないだ言ったけどさ、…結構その方が辛いこともあるかもな、って思ったよ。…マウンドのお前見てさ』「そうか?」 意外な言葉に、ダイスは驚く。『そうだよ。だって好きなことが仕事だったら、自分に言い訳って、できないだろ?』「言い訳?」『ほら、何か仕事で嫌なことがあったり、疲れてしまったりすることがあったりする時さ。大好きなことが、そこ以外にあれば、それを励みに毎日やって、何とか毎日をやり過ごしてくことができるじゃないか』「そういう…ものなのか?」『まあお前に判ってもらおうとは思わないけど』 うん、と彼はうなづいた。それは確かに、ダイスにとっては、考えにくい「日常」だった。「…うん確かに、俺はお前の言うことはよくは判らないけど」 そう、彼は、それでも野球のためだったら、別にしんどかろうが辛かろうが、…どうだっていいのだ。 野球ができれば、それで。『だよな』と向こう側の相手はうなづいた。『ま、でもよ、野球を辞めた訳じゃないぜ、俺も。日曜日に、会社の部活に出たりはしてるんだ。俺はそれでいい。それで楽しい』「へえ」 それでも続けているんだ、と彼は少し嬉しくなる。『…だけどお前は、それだけじゃ、駄目なんだろ?』 ああ、と彼はうなづいた。『だろ。そういうもんだよ。結局、向き不向きなんだ』「向き不向き」 そうなのか、と彼は何かがすとん、と肩から落ちていくのを感じた。 それで、いいのか。『あ、それとお前の彼女』「…もう別れたよ」『うん、それも聞いた』 さすがにそれも、話したくない話題の一つであったことには間違いない。『でも仕方ないよな。そういう子じゃなかったし。まあ今度は、野球バカのお前を好きになってくれる子を探せよ』 ああ、と彼はうなづいた。 そうだよな、野球バカの俺をまるごと好きになってくれる彼女を。 向こう側の友人は、さすがに通信料金が気になったのか、急に早口になる。『がんばれよ~俺、お前の投げる試合、見に行きたいんだからな』「うん。そうしたら内野席をおごるぜ」『お、ラッキー』 じゃあな、と言って友人の姿はモニターの闇に吸い込まれた。 向き不向き、か。ダイスは闇に目を向けながら思う。 そうかもしれない。自分は彼の様に、そんな片手間で野球を楽しむなんてことはできそうにない。それが自分だというのなら、もうそれは、仕方がない。どう仕様も、ないことなのだ。 そして、あのひと達も。 普段どう見ても本気に見えないような、チームメイトのことがダイスの心をよぎる。 「プロ」として、球団に居るという時点で、もう普通の人が「好き」なレベルを越えてしまっているのだ。それが無ければ、生きていけない。そんなもの。 そして彼も。彼が敬愛するマーティ・ラビイも。 不自然なまでの「雪焼け」が、火傷の跡が。ドンパチしていたという過去が。 かつての花形選手が。 何が彼にあったのか、ダイスには判らなかった。予想もできなかった。 ただ一つ、それでも彼には判ることがあった。 それでも、野球をしたいと、マーティも、思ったのだろう。 それだけのためにだったら、何でもできる位に。 ダイスはもっと、彼等のことを、知りたいと思った。 コンコン、とノックの音がした。「ダイちゃんごはんよ~急がないと皆で食べてしまうぞ~」 ひょい、とマーティが顔を出していく。 すぐ行きます、と彼はぴょん、と座っていたベッドから飛び跳ねた。
2006.07.02
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きらきら、と火の粉が落ちる。 火の粉に混じって、銀のテープが落ちる。小さな花が落ちる。香りのいい花が落ちる。 ちょうど、その光は、開き掛けたドームに反射して、きらきらと球場全体に広がった。 俺はぽかんと口を開けて、その様子をしばらく見ていた。「…爆弾、ねえ」 はあ、と降る花の一つがトマソンの頭にひらりと乗っかる。「確かに…なあ」 客席は、いきなり起きたこのハプニングに、事情も知ることなく、拍手喝采している。どうも予定されていたこと、と理解されたようだ。 確かにそれは予定のようだった。 何故なら、その花火に引き続き、バックスクリーンの電光掲示板に、「ジャガーズ20周年おめでとう!」の文字が浮かび上がったのである。「ま、間違いじゃあ、ねえな」 いつの間にか、苦笑するストンウェルの後ろにマーティが来ていた。 友人の肩に腕と体重を乗せながら、彼は何も言わずに、降り注ぐ銀のテープを眺めていた。「だから言ったでしょうに」 シィズンは丸い肩をすくめながら、半ば呆れつつ戻ってくるメンツに言った。「今回の私の仕事は、このことで、球場内で火薬を使用するから、そのチェックと認可だったの」「じゃあ『爆弾』って言うのは」 ダイスはそれでも詰め寄る。「ルーキー君、スラングのお勉強もう少しした方がいいわよ。ここではああいうくす玉も『爆弾』って普通に言うの」「普通に…」「ジャガー氏だってここの人ですもの。私だって付き合わなくてはいけないでしょう? それが私のお仕事ですもの」 それじゃあまたね、と手を振って、彼女はベンチから退出して行った。 その場に居たメンツが、彼女のその言葉に脱力したのは、言うまでもなかった。「また、なんて言うんじゃねえよ…」 ストンウェルの言葉に、皆同感、とうなづく。「あーっ極楽~」 大きな浴槽に肩まで浸かって、テディベァルは頭にタオルを乗せている。笑った顔がほとんどとろけそうな勢いである。 負けた、とは言え、皆この瞬間は、決して暗い顔はしていなかった。まだ今期は始まったばかりなのだ。今日が駄目でも明日がある。 無論試合の、その時には、明日は無いというばかりの気迫も必要かもしれないが、終わってしまったら、既に明日のことを考えるのだと言う。 「爆弾」が実は、20周年記念の花火だった、ということを、報告された彼等のオーナーは、ほっと胸を撫で下ろした。『そう、それは良かった。でも今年も何かと色々起きそうね』「たまったもんじゃないですよ」と、マーティはため息をつく。『ああそう、そう言えば、エンタ・ジャガーズのオーナーから先程、私の元にダイレクト通信が入ったのよ』 モニターごしの彼女の声に、皆耳を集中させた。『試合前には馬鹿なことばかりしているチームの様に思ったが、なかなか試合は面白かった、ということよ。まあ悪印象よりは好印象が後に来る方がいいしね』 ほうっ、と皆一斉に胸を撫で下ろした。『もっとも、誉められているのかけなされているのか、難しいところだけどね』 そう言ってヒノデ夫人は、口元に手を当てて、ほほほほ、と笑った。『だけど爆弾あられ、は面白いわね。今度うちでも考えてみましょう。イリジャ、市場調査もしてらっしゃいね』 は、と営業社員は、姿勢を正した。『ところでみんな、今度の件の罰だけど』 ええっ、とテディベァルは叫んだ。「そんな、今更…」『ええっじゃないのよテディ。罰は罰。やったことに対する落とし前はつけましょうね』 だからって、それをにこやかに言われても。『ま、一週間程、宿舎の料理長が泣くことになるわね』 ええっ、と今度はホイとダイス以外の皆が叫んだ。「ど、どういう意味ですか?」 冷静な顔をしているホイに、ダイスはこっそり訊ねる。「ああ、宿舎の料理長のチャルダッシュって、選手のために『美味しく栄養のある料理』を作ることを生き甲斐のようにしているひとなんだよね」 それはダイスも良く知っていた。宿舎の料理は、決して見かけ的に派手とか豪華とか、そんな形容詞とは無縁だったが、涙が出る程美味しいのだ。 そして栄養価もきっちりとしているらしい。「僕はまあ、奥さんの手料理が一番だし…まあ僕のことはいいか」「はあ」「…つまり彼女の言う『罰』は、彼に『栄養はあるけれどあまり美味しくはない料理』を作らせることなんだよ」 ええっ、と結局テンポ遅れで、ダイスも叫ぶことになった。「昨年、その『罰』が来た時のチャルダッシュの嘆きようは凄かったよなあ…」 マーティもしみじみとうなづく。「うん、何となくその姿を見ているだけで俺すら胸が痛くなったぜ」 テディベァルまでがそんなことを言うのだ。確かに罰としては確かに効果的だ、とダイスは思った。「あ~もう。まあいいや、その時はその時だ!」 通信が切られ、ヒノデ夫人の笑みもモニターの闇に消えた時、誰かがそう叫んだ。 誰が言ったのかは定かではないが、まあそれは大した問題ではない。 「どうせそれは、遠征が終わってからのことだ。明日には明日の風が吹く! そして諸君、今日の汗は今日流してしまおうじゃないかっ!」 と言う訳で、皆ホテルの大風呂に雪崩れ込んだのである。 しかしこの大きな浴槽のある風呂、という奴に、ダイスは当初、戸惑った。 レーゲンボーゲンのアルクで「風呂」と言えば、個室で一人で入るのが普通である。泡立てた一人用の浴槽で、頭から足先まで洗って、シャワーでざっと流して出るタイプだ。 宿舎の風呂にしたところで、基本的にはそうだった。 シャワー室があるから、そこは大風呂に近いと言えばそうなのだが、それでも普段の生活においては、皆、個室の風呂なのだ。 だがしかし。 いくら同じ男だとは言っても、そうそう他人のすっぽんぽんの身体など見る機会はないから、それが大量に視界に入るとさすがに彼はびびった。 それにしても、入り方にも実にそれぞれ個性がある。 テディベァルなぞ、夏場のプールじゃないんだから、と言いたくなるくらい勢いよく飛び込んで、一気に湯をあふれさせて、ミュリエルから小言を食らっていた。 ホイは眼鏡が曇るから、と取ってきたせいか、何処か足取りが危なげである。 トマソンはタオル一枚ぶらさげて、のしのしとダイスの前を歩いて行く。何処までが脂肪で何処までが筋肉なのか、よく判らない身体だなあ、とついダイスは思ってしまう。 そんな中で、何となく彼は気恥ずかしくなり、さっさと洗ってしまおう、とせっけんを泡立てる。 すると、いきなり頭から湯を掛けられた。「な」 んなんだいったい、と顔を上げたら、彼を見下ろすマーティの大きな目と、視線が合った。「な、なんですか、いったい」「いや、今日のがんばったエースの背中でも流してやろうかな、と」「でも俺、負け投手ですよ?」「何を言ってるんだって。最初の負けなんて、勲章みたいなもんだぜ」 いいから後ろ向け、とほとんど無理矢理、マーティはダイスの向きを変えた。 ははは、とダイスはさすがにカラ笑いをする。するしかなかった。ぐい、と肩を押さえられて、右手で思い切り強く背中をこすられる。すごい力だ、と彼は思う。痛いくらいだ。「…マーティさんは、最初の試合は」「俺? さてどうだったかな」 はぐらかす。いつもの通りだ、と少し安心する自分が居た。「それにしても、すごい力だと思ったら…すごい筋肉ですね」「お、そうか? でもお前も結構ついてるじゃないか」「…だけど結構色白いですね」「…お前一体何処見てるの?」「いーや、それは俺も思ってたぞ」 ざば、と彼等の背後から音がした。 浴槽から上半身をのぞかせながら、ストンウェルは半ば眠そうな目で彼等をじっと見ていた。「…仕方ないだろ。何年も雪焼けしてたんだからさ」 雪焼け? ダイスは耳慣れない単語に、首をひねる。 アルクで雪焼けする様な居住区なんかあっただろうか、と記憶をたどる。 実際、言われてみれば、マーティの首から上と、服に隠れている部分の色の差は、とんでもないものがある。 そのまま横目で身体の線をたどる。確かに白い。 …ん? ダイスの視線は、一点で止まった。 脇腹から、背中にかけて、引きつれたような跡が、うっすらと残っている。 …火傷の跡? ストンウェルの視線も、そこに張り付いている。だがそれ以上彼は口にしない。 ああそうか、とダイスは思った。 たぶんそれは、それこそこの間の様に、彼が自分で言わない限り、聞いてはいけない類のことではないのだろうか。ダイスはそう思った。 だったら、言ってくれるまでは、触れずに置こう、と。 皆それぞれの事情が、あるのだから。「よーし、目をつぶれ」 笑いを含んだ声で、背後からマーティはダイスに呼びかける。え、と思っているうちに、彼はまた頭から湯をざぶん、とかけられた。 へへへ、と湯気の向こう側でストンウェルが笑っていた。
2006.07.02
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「くそ!」 九回の表。攻撃を終えた「サンライズ」メンバーは、確実に焦りのようなものを感じていた。 八回に更に一点を返された。これで同点だった。どうしても九回の表に、彼等は点をもう一点入れなくてはならなかった。なのにその点がとうとう取れなかった。 くそ、とトマソンはバットを大地に叩き付けていた。彼にしては珍しいことだった。 取れば。そしてその一点を、この九回の裏で守りきれば、勝てるのだ。 本当にそうなのか判らないが、シィズンの言うところの「爆弾」は撤去されるだろうし、自分も初マウンドに勝利という記録を残せる、とダイスは思う。 なのに、だ。 こうなったら延長戦だ、と彼等は思う。ダイスもそれを思って、ぞくぞくしてくる自分を感じていた。 ああ、緊張しているな。自分でもそれがよく判った。 と。 その肩を、ぽん、と叩かれた。「…何ですか?」 振り向くと、マーティが居た。 どういうリアクションを取っていいのか判らなかったので、えーと、とダイスは言葉を探す。 するとマーティは、いきなり自分の顔をむぎゅ、と左右から押しつぶした。 は? ダイスの頭の中は、真っ白になった。 そして次の瞬間、マーティはまたにっこりと、いつもの笑いになった。 黙ったまま。 そしてその笑いのまま、彼をグラウンドへと押し出した。 何の意味があるんだ!? 訳が判らなかった。 考えるな、と彼の理性は叫ぶ。 だが、あまりにも唐突すぎたその行動に、疑問は理性を大きく飛び越えた。 何なんだ何なんだ何なんだ。 ホイもマスクごしに、そんなダイスを見て、大丈夫かこいつ、という顔をしている。 そう思われても。ダイスは困惑する。 とにかく、投げるしかない。疑問は疑問で置いておくしかない。 しかし。 ああっ駄目だっ! ダイスは口を押さえる。 笑いそうになる。タイム、と彼は審判に合図をして、グラブで顔を隠し、発作的に湧いてきた笑いをとりあえず散らす。 ホイもさすがに、心配して駆け寄ってくる。「だ、大丈夫です、ちょっと思い出し笑いを…」「思い出し笑い~?」 呆れた、という顔で彼は戻っていく。 いかんいかん。どうしてこうなんだ、とダイスは必死で笑いを止めようとする。緊張していた上でのことだったので、歯止めが効かなくなっているのだ。 ああ今は、投げなくちゃ投げなくちゃ。 プレイ、と審判が叫ぶ。そう、投げなくちゃ。 振りかぶって。 …えええええっ! 彼は驚いた。 ぐん、と思い切り、腕が伸びた、様な気がした。 球が思い切り、走る。 ぱしん、といい音がミットに響く。「ストライク!」 打者は見送り。 何がなんだか、彼には判らなかった。思わず腕をぶらぶら、と動かしてみる。別に何も変わりはない。「へーい、ダイちゃんいい調子っ」 マーティの声が聞こえて来た。 思わず彼の頭に、先程の顔が浮かび上がり、また笑いの発作が起きそうになる。 だがそうそうタイムは掛けられない。がんばれ俺、とダイスは自分を叱咤激励する。何とかして押さえて、それから笑ってしまえ。 そして願いはどうやら天に届いたらしい。「ストライク、バッターアウト!」 大きく主審は腕を上げる。 三球三振。彼はその様子も半分に、笑っていた。 何かもう、背中から笑いが突き上げるのだ。何が何だか判らない。 二人目も、同じだった。無我夢中で投げているうちに、バッターが見送っていた。 そして気付いた時、…2アウトになっていた。 ベンチでは、にやにやとマーティが笑っていた。 この事態に、とダイスは呆れる。が。 忘れてた、と彼はその時ようやく気付いた。 この二人の打者の間、彼は、頭上の脅威のことも、勝たなくてはならない、ということも全く忘れていた。 そうか。 気付くべきではなかったのかもしれない、と彼は思う。マーティは、気付くと緊張してしまうだろう彼の気を、瞬間的に逸らしたのだ。 全くあのひとは、とダイスは苦笑する。ふざけてるのか、真面目なのか判らない。 でも。 最後の打者を、彼は見据える。いや、最後であってはいけないのだ。 …でも、どっちでもいいのかもしれない。 目の前の打者を押さえること。それだけが大事なのだ。 彼はホイのサインを見る。うなづく。ふりかぶる。 ふりかぶって――― しまった! ダイスはその時、内心叫んでいた。 投げた瞬間、それがほんの僅か、手から離れるのが早いのに気付いた。 すっぽ抜けた! 打者は、それを待ちかまえていたように、打ちの姿勢に入る。彼はとっさに守りの体勢に入る。無駄だと判っていても。 かきーん、と音が、実に球場内に、爽やかに響いた。 ああ、とダイスは白球が、綺麗な弧を描いて、レフトスタンドに吸い込まれていくのを目で追っていた。 わああああああああ、とスタンドから歓声が飛ぶ。 紙テープ、風船、紙吹雪。そんなものが一気に飛び出す。 そして、その歓声に混じって、低い機械音が彼の耳に飛び込んできた。 はっ、として天井を見上げると、すきまから、夕暮れの青紫の空が、見えてくる。 開き出しているんだ、と彼は気付いた。 どうしよう、とダイスは周囲を見渡す。どうにもならない。彼はは思わず、立ちすくんだ。立ちすくむしかできなかった。 その時、だった。「どいてろ!」 がん、と横から誰かに体当たりされて、ダイスは吹っ飛んだ。聞き覚えのある声。「…す、ストンウェルさん!」「ホイ、球貸せ!」「は、はい?」 ヒュ・ホイは何が何だか判らない、と言った声で、だが素直に控えの球を、ストンウェルに渡す。 渡された球を彼はぐっと握り、斜め上を向く。 開きかける。黒い天井に、薄紫が、だんだん広がってくる。そしてその真ん中に、銀のくす球。頭上の脅威。 何をするつもりだ、とダイスは腰を抜かした姿勢のまま、ぼんやりとストンウェルの姿を見ていた。 食い入るように、銀の球を見る彼の視線は、獲物を見つけた鮫のようだった。 そしてふりかぶる。 …ふりかぶる?「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 ストンウェルが、吠えた。 白球が、真っ直ぐ、銀の球に向かって飛んでいく。ドームが開く。開く。 ぷつん。 あ、とダイスは口を開いた。銀の球が―――落ちる! 落ちる、と思った時!「嘘だあ」 テディベァルはぽかんと口を開けて、そう言った。 白球が、銀の球を直撃した。 直撃して、そのまま、空へと飛んでいった。 飛んでいき… だん! 音が響いた。「は」 ストンウェルは吠えた口が閉じる前に、そう発音していた。「花火い?」
2006.07.02
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回が進むにつれて、皆「勝たなければ」という気持ちで焦りが出てくる。 特に、今回の様に、頭上の脅威にさらされている場合は。 しかしそれでも、ホイのリードは冷静だった。ダイスは感心する。 きっとこのひとは、きっとどんな状態になってもそうなのだろうな、と彼は思う。地味だけど、こういう人はプロだよな、と。 無論、色んな選手のタイプがある。 華があり続けるというのも、「見せ物」としてのベースボール・プレイヤーとしては重要なことだし、そういうキャラクターであることも、また「プロ」であると彼は思う。 じゃあ俺は。 ダイスは振りかぶって、投げる。 さすがに、まだ彼はそこまで考えていない。考えられない。 今はただ、目の前の、ホイのミットに向かって投げるだけだった。 ストライク、と審判が告げる。ホイがよし、とうなづく。 ストライク、という言葉は、そもそもは「良い球なんだから、打て」という命令から来ているのだ、ということをダイスは実業時代の監督から聞いたことがある。遠い遠い昔、地球という人類発祥の惑星で、そのスポーツが生まれた頃のエピソードだ。 そう、打たれてもいいのだ。 ちら、と右を向くと、テディベァルが闘志むき出しにして打球を待っている。 この人だったら絶対に打たれても守ってくれそうだな、と彼は思える。きっとこけてもただでは起きないだろうこの「ぬいぐるみ」は。 背後でぱんぱん、とグラブを叩く音が聞こえる。右では、冷静に打者の姿を追っている「先生」が居る。 大丈夫、俺は。ダイスは次第に気持ちが落ち着いてくる自分を感じる。 だがジャガーズの方も、彼等が気合いを入れるのに比例するように、志気が上がって来ていた。 カーン。 鋭い音が響いた。「わあっ」 ダイスの頭上を、強い打球が通り過ぎて行った。 ぱっと振り向くと、センター前にまで打球は飛んでいる。ワンバウンドで拾っても、一塁には間に合わない。 ふう、と彼は帽子を取って、一気に吹き出た汗を拭いた。 3対2。まだ一点リードとしているからとは言え、油断はできなかった。 あと何回だっけ… 彼は、新しいボールをぐっと握った。次の打者が、左打席に入る。 ダイスは左打者はあまり好きではない。彼の投げやすい方向が、左打者には打ちやすいコースだったりする。 ヒュ・ホイはそれを知っている。だから彼には、いつもその逆を要求してくるのだが。ホイはその時、ダイスの投げ易いコースを指定してきた。 いいのか? と目でダイスは訴える。するとOK、とホイはうなづいた。打者が一塁に居るのに、だ。 ただし、思い切り。 そういう意味のサインを捕手は返す。判った、とダイスはうなづいた。 振りかぶり、自分の一番速い球を。 星系内の大会で、誰も打てなかった、俺の。 ぱん! ボールはミットに大きな音を立てた。 オーケイ、とうなづきながらホイは彼に返す。もう一発それを、とサインを送る。 行けるかも、とダイスは思った。いや、行くしかないのだ。 もう一発! 渾身の力を込めて。 …だが。 キーン、と音が響いた。 三遊間。綺麗な流し打ちだった。 テディベァルが飛びついたが、ダイレクトキャッチはならなかった。 そのまま、体勢が悪いにも関わらずセカンドへ。間に合わない。一塁は一塁で悠々セーフだった。 ホイはダイスの方へ来る気配は無かった。 ダイスは思わずベンチの方を見る。監督も、動かない。どうやら、初登板のルーキーに、このまま続けさせる気らしい。 勝っても負けても、それは経験値。 あの監督だったら言いそうだった。 そしてそれは間違っていない、とダイスは思う。自分の様なな若造が、勝つことばかり覚えてはいけない、と。 そう言うだろう、と彼は思った。 だが彼は、どうしても勝ちたかった。自分の完投でなくていい。誰であるにせよ、とにかく、勝ちたいのだ。頭上の脅威が彼を急かす。 だがベンチは動く気配が無い。 信じろ、と自分に言い聞かせる。虚勢だっていい。とにかく、今は。自分自身を。 ダイスは歯を食いしばる。 ストンウェルはあの試合の時、マウンドでどんなことを考えていたのだろうか。負けをひっくり返してしまった試合のことをダイスは思い出す。 彼の気持ちを見習えるものなら見習いたいものだった。 怖いものが無い、という訳ではないのだろうが、逆境であればある程、闘志がわくというのは。 でも俺は俺でしかないんだ。彼は思う。正直言って、怖い。怖かった。 それでも俺は、今ここで投げなくてはならないのだ。 だったら。 ホイのサインを見る。右打者仕様だ。やるしかない。 その回も何とか締めたが、さすがにダイスのベンチに戻る足取りは、重かった。「大丈夫か?」 マーティは問いかける。「大丈夫です」「うん、それならいい」 本当は、助けて欲しい、とダイスは思う。だけどそれは無いらしい。 マーティは肩を作ろうとしていない。監督の方針が今日はそう決まってしまったのだろう、とダイスは予測をつける。 皆ベンチの中で言葉少なになっていた。 そしてその後ろで、場違いなピンクのスーツの女が、退屈そうに、グラウンドとメンバーの間に視線を往復させていた。
2006.07.02
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「お、こんなとこに居た居た。おいダイス、出番だぜ」 どのくらいそこでぼうっとしていたのだろう。 上半分の扉を開けて、テディベァルが声を張り上げた。ただでさえ大きな声が、トイレの壁に反響する。「す、すぐ行きます」 そう言って、ダイスは頭をぶん、と振った。「それじゃ、俺引き続き、あの女を捜しに行くからな。がんばれダイちゃん♪」 …投げキッスを飛ばす先輩に、ダイスはさすがにやや硬直した。気を取り直してベンチへ行くと、ストンウェルが椅子に足を投げ出して彼の方を見た。「お、大の方だったのか?」 へへ、とストンウェルは笑う。 この人は何処まで知ってるんだろう、とダイスは思う。 そう思って思わずじっとその顔を見てしまうと、いきなり彼は両方のほっぺたをつまみ上げられた。「何ふるんれすかあ!」「いやあ、ずいぶんと熱っぽく見てくれるのでつい…」 そういうことを真面目な顔で言わないでくれ、と彼は思う。「マーティは?」「あ、まだ探しに、と言ってました」「ふうん」 それ以上はストンウェルは答えなかった。その返事一つに含みは感じられるが、自分の出番が迫っている以上、ダイスにはそれ以上追求することはできなかった。 その回は、三振と、フライ二つで上手く終わった。「いい感じじゃない」 ヒュ・ホイはにっこりと笑って背中を叩く。「そうですか?」「うん、ずいぶん堅さが取れてきた」 小柄なこの捕手は、「チームの良識」「チームの良心」と呼ばれるだけあって、人をフォローしたり、元気付けるのが上手い。 しかしそれでも、あのトラブルに足を突っ込むメンツに入っているんだよなあ、とダイスは不思議に思ったりする。 ベンチに戻ると、廊下に続く扉が開いていた。しかも、人気が少ない。 何だろう、と思っていると、扉のすきまからストンウェルがひらひらと手招きをしていた。 トバリ監督の目を盗んで、そうっとダイスは外に出た。 そしてそこには、例のメンツが、何かをぐるりと囲んでいた。「よぉエース、やっと来たか」「何ですか? 一体」 ストンウェルは身体を横にずらす。 すると、輪の中には、一人の女が居た。ほっぺたがふっくらとした、ぽっちゃりとした、ピンクのスーツ。低いヒール。 まさか。「マーティさん、このひとは…」「あらルーキー君。ご機嫌よう。初めまして」「あなた…」 「ふっくら」と「でぶ」の形容が迷う程度のスタイルの女は、実に自信ありげな笑みを浮かべた。 そしてその声は、と言えば。「あ、あなた、一昨日の夜、会長と夜、話してませんでした?」「あら、良く知ってるじゃない。何で知ってるの」 彼女は前で腕を組むと、あっさりと認める。「なあんだ、あなた達、今日はそのことで、私を捕まえたって訳?」「そうだ、と言ったら?」 マーティは短く答える。「まあね。そりゃあ疑うのも当然かもねえ」 ふふふ、と女は笑った。慣れた口調だった。「お前が何度も何度もうちへの『嫌がらせ』をやっているのは判ってるからな。シィズン」「私は移り気なのよ。そういう名ですもの。そうよね、私も去年は実に色々あなた方にやってきたわね。でも証拠が無いですもの。それに私がどうこう言ったところで仕方ないでしょう?」 その言葉には、暗に「連盟」の存在を示していた。「でもルーキー君、あの時間にあんな所に居たなんて、どうしたの? お寝坊してしまった訳?」 今度はくすくす、とシィズンという女は笑った。図星だけに、ダイスには返す言葉も無かった。「いい加減にしろ、シィズン」「いい加減にして欲しいのは、私の方だわ。あなた方ねえ、いつもいつも私が『嫌がらせ』ばかりしている訳じゃあないのよ」「じゃあ何だよ」 テディベァルがぐい、とにらむ。「可愛いぬいぐるみさん。あくまで私は、お仕事で色々やってるの。ご存じ?」「知ってるさあ」「だから、色んなお仕事があるってことよ」「じゃあ今回は『嫌がらせ』じゃねえってことか?」 トマソンは野太い声で問いかけた。「さあそれは。あなた方の受け取り方次第じゃないかしら」 あくまで彼女は余裕だった。「だけどあなた、あの時『爆弾』って言ってませんでした?」「…ああ、そこまで聞こえたの」 なあるほど、と彼女は大きくうなづいた。「否定しないんでしょ」「否定しないわよ。確かに私はそう言ったわ」「喋ってたのは、ジャガー氏でしょ」「そうよ。よく判ったわね。耳いいじゃない、ルーキー君」「だから…」 そう言いかけた時だった。「おい何やってるんだよ! こっちの攻撃、終わっちまうぜ!」 ダレスが声を張り上げていた。「…仕方ねえ、行くか。マーティ、こいつどうする?」「シィズン、あんたジャガー氏にずっとくっついていないとまずいのか?」「いいえ。基本的に私のお仕事はもう終わったの。今日はその結果を見に来ただけ」「じゃあお前、今から試合終了まで、うちのベンチで見ていろ」 マーティは命令の口調を使った。それを聞いたダイスは思わず背筋にぞっとするものが走るのを感じた。 何だろう、この迫力は。 ただの、「楽しくやって居られればいい」というベースボール・プレイヤーのそれとは何か違うような気が…彼にはしていた。「ええいいわ。そしてあなた方が負けるのをきっかり確かめてやりましょ」 ふふふ、とシィズンは笑った。 再び自分にブレッシャーがかかるのを、ダイスは感じた。
2006.06.29
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おかげでその回、二点は取られたものの、その後はお互いスコアボードに0を並べることとなった。 だが彼は次第に回が進むたびに、妙なことに気付いた。 マーティとストンウェルだった。 彼が投げている、裏の時には、ベンチにその姿を見せるのだが、それ以外の時は、何処かに消えている。 初登板の自分を心配してくれるというのなら、それはそれで彼も嬉しい。だが、それでいて、自軍の攻撃の時に全く居ない、というのも妙だ、とダイスは思う。 マーティは中継ぎの投手だから、その間投げ込んでいつでも出られる様にしている、とも考えられる。それが一番考えやすい。 が、ストンウェルは昨日の先発だ。今日は絶対と言っていい程、出番はない。 六回の表、ダイスはちらちら、と彼等の行動をうかがう。確かにそっと抜け出しているのだ。 彼は二人が扉を閉めた瞬間、後を追った。 連盟ルールでは、投手は守備専任のDH制を取っているから、彼が自軍の攻撃時にグラウンドに出ることはない。彼等の動きを追う時間も少しは、あった。 右か、左か。どちらにしても、球場なのだ。廊下は一本しかない。彼は辺りをざっと見渡して、右に駆けだした。 と。「マーティさん!」 廊下のカーブを少し曲がったあたりで、彼はようやく目標を一つ見つけた。「…何だ、お前か。驚かせるなよ」 大きな目が、見開かれている。「何やってるんですか、こんなとこで」「お前こそ何やってるんだよ。ベンチに居なくちゃならないだろ」「マーティさんを、追いかけて来たに決まってるじゃないですか! 一体お二人とも、何やってるんですか!?」 ち、とマーティは舌打ちをする。 だがすぐに笑顔に戻った。ダイスはこの貼り付けた様な笑顔は好きではなかった。そしてその笑顔のまま、ぽん、と後輩の肩を叩く。「心配するなって。お前のマウンドは守ってやるから」「そういうことじゃないんですよ!」 俺は思わず怒鳴っていた。 最寄りの売店の売り子がびっくりしてこっちを向いた。「まずいな…ちょっと来い」 ぐい、とマーティはダイスの腕を掴み、そのままトイレまで連れて行った。「…さて、ここなら大丈夫だな」「大丈夫、って何ですか」「一応ここは男子専用だからな…まああいつの神経ならそのあたりは無視しそうだが、さしあたり、ここならまず話も聞かれないだろ」「だから、何ですか」「単刀直入に言えば、俺等は、あの女を捜してたの」「あ、そうなんですか」 だったら、始めからそう言ってくれれば良かったのに、と彼は思う。 しかし、ダイスが「居た」と言ってから、行動がおかしかった訳なので、そのあたりに気付かない彼自身が鈍感と言えば、言える。「でまあ、ようやくイリジャの奴が、あの女を見つけたから、そろそろやってくるだろ」「聞きました。何かそのひとが、よく『嫌がらせ』してくるってことですね」「ま、正確に言えば、『連盟』がな」「何でですか?」「そりゃあ、新入りいじめは伝統的なものだろう」「だけど」 ん? とマーティは後輩の顔をのぞき込む。「でもウチのチームでは、今のところ無いですよ。だから伝統って訳でも」「『連盟』は伝統があるから、そういうことするんだよ」 あまりにも、それはとってつけた様な言い訳だ、とダイスは思った。「あ、お前不服そうな顔しているな」「してますよ」 ふふん、という顔でマーティは腰に手を当て、ダイスを見た。「お前、納得しないとてこでも動かない、って奴だもんなあ」「え」「ピッチング、見てりゃ判るじゃないの。球は正直よ。俺なんか、ちょっと気ぃ抜くと、すぐに頭の中がとっちらかる。そういう時には、どんだけ真っ直ぐ投げようと思っても、真っ直ぐに行かないんだぜ」 ダイスは何となく、彼の言葉に不安なものを感じて、眉を寄せた。「ええまあ。俺は、知りたいことは、知りたいですから」「ほんと、真っ直ぐだからなあ。羨ましい」「そんなことないですよ。今だって、さっきから、ずーっと頭の中がぐるぐるしてます」 実際そうだった。そしてそれを振り切る様に、球を投げてきた。それが功を奏した場合はいいのだが、上手く行かなかった時には、…ホイが思わずマスクを取ってしまう自体になってしまうのだ。「…ま、あの女が連れて来られたら、お前ちょっともう一度、声合わせしてくれや」「判りました。…でもマーティさん」「何?」「…マーティさんには、その嫌がらせの本当の対象が、判ってるんじゃないですか?」 出て行こうと踏み出しかけた彼は、その足を止めた。「何でそう思う」「勘ですが」 そう、実際それは、ダイスにとって、勘に過ぎなかった。「勘、ね」 マーティは苦笑する。「…なるほど。最強の理由だな、それは」 確かにそうだった。何の根拠もそこにはないのだ。ただ自分の中で、そう感じるものが、確かにダイスの中にあったのだ。 無論それは、全くのゼロからではない。ダイスの中の、マーティに関する様々な情報が、その時、そういう形で統合されたのかもしれない。 しかしまあ、本人にしてみれば「勘」の一言で尽きる。だからこそ、「最強の理由」なのだ。「まあな」 マーティは軽く答える。 一体何に、とダイスが問いかけると、彼はあっさりと言った。「俺だよ」 さすがに、それにはダイスも数秒黙った。次の言葉を捜した。「…あなたが? マーティさん個人が、対象なんですか?」「そうだよ」 彼は重ねて答えた。「俺は今ではただのサンライズの中継ぎ投手、戸籍はレーゲンボーゲン星系アルクにある、マーティ・ラビイだと思ってるんだがね、いつまでもそう思ってくれない奴等ってのが居るのよ」「DD」 「有名な選手」の名前をダイスは口にする。「そう。それ。今でも俺を、それだと思っている奴等が、『連盟』には多すぎるんだよ。下手に歳くっちまった奴ってのは始末が悪い。こっちがすっかり忘れさせられてしまっていることを妙に根に持ってたりするらしいんだよ」「忘れ…」「俺はね、ダイス、ある時点から前の記憶が、断片的にしか無いの」 は、と彼は心臓が飛び跳ねるのを感じた。「自分がそいつだ、というのを思い出したのもつい最近だったからね。それも本当に断片的だから、下手すると、ストンウェルの方が、よっぽど当時の俺に関しては良く知ってる。あの頃あいつは、俺のチームメイトだったからね」 ダイスはふと、ストンウェルの言葉を思い出した。 好きな選手が居て、その選手と一緒にプレイできたら。「…で、その俺の忘れてる俺らしい奴が、何かやらかしたらしいことに対して、今でも何か覚えていて、根に持ってるお偉いさんが、居るんだよ」「『連盟』に?」「そう」 廊下に視線を落として、彼はうなづいた。「だから奴等にしてみれば、そんな、昔、自分達をコケにしたDDが、何ごとも無かったような顔をして、楽しそうに野球しているのが気にくわないんじゃねえかなあ…全く、なあ…」 マーティは彼はふい、と明後日の方を向いた。「俺の望みは、ただ楽しくベースボールをやることだけなんだぜ? 非常にささやかな、望みだと思わないかい? ダイちゃん」 別に有名になろうとは思わない。 別に金持ちになろうとも思わない。 ただもう、皆と一緒に、ベースボールを毎日やっていたいだけなのに。 そんな気持ちが、ダイスには伝わってくる。 マーティは目を伏せた。だがそれは一瞬だった。 再び開いた大きめの目は、後輩に向かって、不敵に笑う。「だけどな、だからと言って、奴らの言うがままになっているってのはつまらないだろう?」「…それはそうですけど」「だろ? だから、俺達は本当に、毎度楽しくゲームをしなくちゃならないんだよ」「楽しく」 ダイスはその言葉を繰り返す。「そうさ。連中は俺を―――俺達を困らせて楽しんでいるのさ。困ってる俺達を見るのが楽しいんだ。だったらこっちが輪をかけて楽しめば、こっちの勝ちだ」 ふっふっふ、と彼は笑う。 は、とダイスは口を開けた。どういう理屈だ。「あのな、ダイス」 はい、と彼は反射的に答えていた。思わず姿勢を正す。するとマーティはぐい、とその肩を壁に押しつけた。「相手を不幸にしてやりたい、って思う奴に対する、一番の攻撃方法って何か知ってるか?」「…何ですか?」「こっちがシアワセになることさ」
2006.06.29
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ジャガーズの攻撃が始まる。 向こうは白と、淡い赤のストライプのユニフォームのバッターが打席に入るのを見て、ダイスはようやく自分がマウンドに立っているんだ、という実感が湧いた。 …ああ、本当に俺、投げるんだなあ。 同じサイズの球場で、何度も何度も試合はしたことがある。 学生の野球は、継投はそうしない。彼が居た時期の実業学校では、そうそう投手向きの人材はいなかったから、彼はもう、これでもか、とばかりに毎度毎度投げた。 だから、慣れているはずなのに。彼は思う。 なのに、心臓が、さっきから飛び跳ねてる。 ロージンバッグを拾い、ぱたぱたとはたく。だが手にかいた汗で、それはすぐに流れてしまう。 どうしよう。俺、緊張してる。 スタンドに、ぎっしりと入っている人・人・人。 そう、この観客にとって、自分達は「敵」なのだ。 思い出さなくてもいいことを、彼は思い出してしまった。ジャガーズを応援する観客の声が、急に、敵意をもったものに感じられてしまう。 背中がぞくりとする。 審判が、投球練習をうながす。彼はあきらめて、ロージンバッグを落とす。 投げ込みはしてある。大丈夫。大丈夫なはずだ。だが。 ! おい! とマスクの向こうで、ヒュ・ホイの目が大きく開いた。 慌てて立ち上がった彼の、伸ばした手の中に、ボールは入っていた。 ヒュ・ホイは軽く手を挙げてひらひらと振ると、球を返した。 プロテクターの前で、一本指を立てる。その指を、彼は自軍のベンチの方へと向けた。 見ろ、ってことか? ダイスは視線をそちらへ向ける。 そこには、マーティの姿があった。ストンウェルの姿もあった。彼等はダイスの視線に気付いたのか、にっこり笑って腰を叩いたり、その場で跳ねたりする。力を抜け、ってことか。 いざとなったら自分達中継ぎ陣が居るから、と。 そう考えると、確かに彼も、少し気が楽になった。 そしてその一方で、彼等の手は借りなくて済むように、と願う自分自身が居るのに気付いた。 よし、と彼はプレイ開始を告げる主審の声に、顔を引き締めた。 ぱん、とキャッチャーミットに響くその音と、その直後、静まった客席を、彼はそうそう忘れられない、と思った。 だがしかし、だ。 回が進むにつれて、当初は速球を見送っていたジャガーズの選手も、次第に彼の球に当ててくる様になった。 確かに物事はそう甘くはない、と彼は思う。 確かにダイスは速球型ではある。それもプロでもそうそうその速度を出せない位の。だからこそ、実業学校時代、「怪物」というあだ名がつけられたこともある。 だが決して、それは「打てない球」ではないらしい。 「打てる球」「打てない球」は速度ではない。 確かにとんでもない速さ、見ることができない速さの球は、そう簡単には打つことができないだろうが、速度がゆっくりでも「打てない球」はある。 彼の球は、確かに速いかもしれないが、速さに目が慣れればなれる程、打たれる可能性は増えてくるのだ。 ヒュ・ホイもそれを考えて、彼には微妙なコースを突くように、とサインを出してくる。 しかしコントロールには、さほどに自信がある訳ではなかった。 そりゃあ、張り切りすぎている時のマーティほどではないけれどさ。 内心彼は、つぶやく。 マーティ・ラビイは、中継ぎエースとして、ここ一発の気合いの剛球で相手を仕留めるタイプの投手なのだが、彼の問題は、一瞬の気を抜いた時のコントロールの滅茶苦茶さにあった。 初戦で負けたのは、ピッチング、というより、外野に打たれたボールをホームに中継する時に、手元が狂ってしまったのである。 しかしそういう場合をのぞけば、そうそうコントロールも狂う訳ではないので、一球一球が大切な役として、彼は「エース」なのである。 しかしまだダイスは一瞬の集中力や精神力が弱かった。それは当然かもしれない。 それはもう、実戦を積んで行くしかない部分だった。気分の乱れが、そのままコントロールに現れる。未熟者だ、と彼自身思っていたのだ。 その点では、同じ先発要員でも、ピンチになればなるほど肝が据わるストンウェルを彼は尊敬せずには居られない。昨年、アルクのサンライズ・ホームグラウンドで、彼が珍しくリリーフに入った試合を見たことがあった。ちょうどその時期、サンライズは投手の故障が相次いだのだ。 十点近い点を取られた先発の継投だった。 七回の表。正直、敗戦処理じゃないか、と思ったくらいだった。だが。 だがその時の彼と来たら。 吠えたのだ。内野席で見てた彼に、鳥肌が立つくらいだった。 しかも恐ろしいことに、その試合は勝ってしまったのである! 彼の気迫勝ちだった。 実際には、取られた分を取り返した打者の働きもあるんだろうが、ストンウェルのその時の気迫が、チームメイトを奮い起こしたのだ、とは翌日のニュースペイパーも書いていた。 それに比べると、さすがにまだ、自分にはそういうものが足りない、とダイスは思わざるを得ない。 何故だろう? それはずっと考えてきたことでもあった。 しかしその迷いは、やはり球に現れる。セットポジションから投げる。 …しまった! 彼は内心、叫んだ。すっぽ抜けた。ホイがあ、という顔をしている。 狙った様に、相手バッターが思い切りバットを振る。真っ直ぐ、ライナーだった。 彼は思いきり、手を伸ばした。 速い球は芯で打ち返されると、そのまま勢いがついている。球は、ダイスのグラブをかすめて、少し上に伸びた。 ショートのマルヴェルが取ったが、一塁は楽々セーフだった。どっと額から汗が吹き出る。 ふう、と彼はホイから新しく球を受け取ると、ベンチを見る。リラーックス、と大声でマーティが叫んでいる。 ちら、と後ろを見ると、トマソンがにっ、と歯をむいて笑った。 ああそうだ、三点までは、取られてもいいんだっけ。 そう思ったら、少しは彼も気が楽になった。
2006.06.29
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