炬燵蜜柑倶楽部。

炬燵蜜柑倶楽部。

2006.08.13
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カテゴリ: 本日のスイーツ!
「ん?」
 急にがががが、と音を立ててランドカーが止まった。
「エンストか?」
 ジャスティスは降りて、車の後ろを開けてみる。だが格別変わった様子もない。燃料切れでもないし、内部が焼き付いている様子もない。
「…何だ?」
 バーディ、と彼女を呼ぶ。
「何ですか?」
「今現在は、何処の位置に居ることになるんだ? 俺達は」
「はい、今はですねえ」
 がさがさ、と地図を開きながら彼女は出てくる。
「所長、今何時ですか?」
「あん? お前時計持っているんじゃないのか?」
「いえ、車の方に時計はついているからと普段は…」
「俺のはまだ共通時仕様だ。…まさか」
「まさか…」
 はっ、と気付くと、二人して慌てて車の中へ戻る。そして同時にがっくりと肩を落とした。
「…何ってこったい」
「すみません、不注意でした…」
「や、これは俺の手違いもある。いくらお前が不注意だらけの女だって、これはな」
 それはまるでフォローになっていないかもしれない。
「まあいい。共通時とここの差を計算すればいいだろう。今は…」
 時計を見た時だった。
「な、何だ?」
 デジタルの数字が全て8に変わっていた。
「ど、どうしたんですか所長…」
「…お前が時計持っていても、何にもならなかったかもしれねえ、ってことさ。…まあいい。とにかくここを把握しねえことには、まるで動きは取れねえな」
「そうですね。でももうレッドリバー・バレーは目の前なんですが」
 彼女は地図を見ながらつぶやく。
「そうなのか?」
「私がさっきまで時計を確認できた時点で、ここだったんですが」
 ばっさりと、ランドカーの上に彼女は地図を拡げた。
「この赤い辺りがレッドリバー・バレーだと言われているんです」
「…ずいぶんと広範囲だな」
 確かにそこは、地図上でも赤く塗られていた。バーディが記したルートは、その手前で止まっている。
「と言うことは、地図上では、俺達は既にそこに入っている、と考えられるな」
「そう…ですね。あ、そうなんだ!」
 急に彼女は嬉しそうな声になった。
「そうですね! 私達、レッドリバー・バレーに来てるんだ」
 今にもわーい♪とばかりに踊りだしそうな彼女を見て、呑気なもんだ、とジャスティスは眉を寄せた。
「おいお前、俺達遭難しかけているんだぞ」
「そうですね。じゃあなるべく早く、この中を調べて、それから脱出する方法を考えましょう」
 …全然判っていない、と彼は更に頭を抱えた。
 だがその時だった。
「危ない!」
「え」
 ジャスティスは彼女の手を掴むと、思い切り引っ張った。
「な」
 そのまま、地面に押し倒す。ばたばたと彼女が暴れるが、知ったことではない。
 数秒後、背後で爆発音が起こった。
「え゛」
 くぐもった声が、彼の下で聞こえる。
「ろ、ろいてくらはい」
 彼は言われる通りにどいてやる。そして新しく葉巻に火をつけると、ふう、と大きく煙を吐き出した。彼女を押し倒した時に、それまでくわえていたものを飛ばしてしまったらしい。
「…しょ、所長…これって一体」
「さーあ、何だろうなあ」
 さすがにこうなってくると、ジャスティスの口調もやけになってくる。葉巻をぐっと噛むと、どっかりと地面にあぐらをかいた。
「とにかく言えるのはな、バーディ、何かがここより奥に行こうとするのを、邪魔してる奴が居るってことだ」
「邪魔」
「だいたいお前、今までの『事故』を何だと思ってるんだ」
「だから、ちゃんと、調べはしました!」
「同業他社は違う、か? だけどな、それ以外についてはどうだ?」
「それも一応、調べました! …と言うか、レッドリバー・バレーを開発することに関して、アリゲータの人々は皆賛成してるんです」
 バーディは身を乗り出して主張する。真っ直ぐにジャスティスを見据える目には、嘘は無い。
「本当か?」
「本当です!」
 言ってみろ、とジャスティスはうながした。
 彼女の言うことを統合すると、こういうことだった。
 アリゾナはこう見えても結構植民の歴史は古いらしい。ただ、長く続いた統合戦争の際に、一度かなりの地を焼かれてしまったのだ、という。
 何処が焼いたのか、ということは、現在住んでいる彼等はあまり口にしたがらないのだ、という。
「となると、現在の正規軍…当時のアンジェラス軍だな」
「…そういうことになるんですか?」
「お前は、辺境はここが初めてだろう?」
 はい、とバーディはうなづく。
「俺は結構色んな辺境を回ってきた。そうするとな、元から辺境だった地と、辺境にさせられた地、というのがあるんだよ」
「させられた、地? ですか?」
 ああ、と彼はうなづく。
「それじゃあ、現在は『辺境』とされていても、植民そのものは元々はスムーズに行った所、というのは結構あるんですか?」
「あるな。少なくとも、俺にはそういう印象があった」
「私は…聞いたことがありません」
「そりゃあ、普通学校では、教えないさ」
 ふう、と彼はまた煙を吐いた。知らなくて済むなら知らない方が幸せじゃないか、という歴史はあちこちに残っている。それが「辺境」と呼ばれる地であればあるほど、顕著だったのだ。
「…私は、知りたいです」
「本当に、知りたいか?」
「はい。所長がご存じのことでしたら、私も聞きたいです。教えて下さい! お願いします!」
 彼女はそう言って、ジャスティスのジャンパーを掴んだ。
 彼は少しばかり迷う。知的好奇心が旺盛というのは良いことだとは思う。
 だが度を越すと、時には身を滅ぼしかねない。
 だが。
「おいバーディ、聞いたら、忘れろよ」
「…」
「判ったな?」
「は、はい!」
 他言は無用だ。彼はそう言葉に含めたのだ。





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最終更新日  2006.08.13 18:56:46
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