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春
春の訪れ <12>
春の両親には、大した身寄りも、頼りとなる身内もなかったのだが、
そしてこんなに突然、大切な人に逝かれてしまった春の父 清治 の心持ちは如何ばかりか・・・
っと慮る、村の人々の力で、葬儀はとりおこなわれた。
このように、葬儀に村人の協力を得られた理由(わけ)には、
亡くなった 初 の人柄というのもあったろうが、
その多くは、晋吉の祖父、修吉の力添えであった。
修吉は訃報を耳にすると、何かの間違いではないか・・・
っといった面持ちで、まるで雲の上を歩いているような足取りで
無言で自室へ向い、しばらくの間そこに篭っていたが、
やがて、喪服に着替え春の家へと出かけていったのだった。
修吉が到着したとき、春の小さな家には、既に村人の多くが集まっていた。
喪主である清治は、普段にも増して弱々しく、消え入りそうな姿で、
変わり果てた姿となって帰ってきた妻の傍に座っているのが精一杯であった。
修吉は清治の隣に腰を下ろすと、
もう何も心配するでない。
そなたは、そこで安らかにゆっくりしていられよ・・・
っと、今はもう屍となった 初 に向かって語りかけたかと思うと、
スクっと立ち上がり、初 の葬儀を取り仕切り、
細かい指図を、村人のひとりひとりに示し、
葬儀費用のほとんどを、彼が引き受けたのだった。
修吉のその言動を目の当たりにした村人は、
徳の高さとはこういうことをいうのだろう・・・っと感じ入り、
彼の指示に従うのが 死者への供養 と解し、
我も、我もと彼の指示を仰いだのだった。
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