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Oaktree さんより画像拝借
春
春の訪れ <14>
一家の大黒柱であった 初 を亡くした春の家は、
比較的裕福な暮らしをしていた 清治 の兄が、
病弱な弟と姪を不憫に思い、
二人が命をつないでいける程の援助を言い出してくれたことによって、
なんとか家計が回っているようである・・・
っという噂を、診療所にやってくる村人から晋吉は知った。
晋吉は春の母 初 の死をきっかけに、医者になる志を強くした。
この出来事がなくとも、医者以外に己の未来を考えるだけの勇ましさを、
晋吉はもともと持ち合わせてなかったし、
この家に生まれたサダメとして、医者という十字架を負っている
っとそれまで、少なからずも彼は考えていたのだが、
初 の死後は、自らの選択として村医者の十字架を受け入れるようになり、
祖父や、父から認められる程に医師としての技術も知識も身につけ、
早く診療所の仕事を任せられるようになりたい
と晋吉は思うようになっていった。
っと言っても、
早く一人前になって春を娶る、春と夫婦になって彼女を支え、護りたい
などということを、彼は思い描いていたわけではなかった。
何はともあれ、自分が一人前にならなければ、
人を支えてやることなどできるはずもない
っという世の理を察知したからかもしれなかった。
彼は、学業に余った時間があれば、
祖父や父の書斎の専門的な医学書を紐解くようになり、
父に急患が訪れたときは、診察室で父の傍らに控えるようになっていた。
勿論、春への想いを忘れたわけではなく、
春に逢いたい という気持ちはいつでも抱いていたし、
彼が 春 と出会ったばかりの頃のような
”心惹かれる可愛い娘(こ)”っといった、”淡い恋心”だけでは、
どうにもならない現実を理解する年齢になっていく程に、
ますます 春に逢いたい っという気持ちは、
晋吉の心に強く募っていったのも事実であった。
そして日々医者を目指し学ぶことが、彼のその衝動を抑制し、
春に逢う、春の前に現れるにしても、春の支えになれなければならぬ・・・
っと晋吉は、己に言い聞かせるようになっていた。
15・6歳になった頃には晋吉も、
春の家と自分の家の生活の様子の甚だしい違いが、どんな意味を持つのか?
っということも、受け入れ難くはあったがはっきりと理解するようになっていた。
社会の仕組みを理解するということは、
己の可能と限界の境を垣間見ることなのかもしれぬ・・・
っと彼は感じていた。
それでも少なくとも・・・
己は村医者としてならば、病弱な春を一生支え、護ってやれるはずである
っと晋吉は強く信じていたのだった。
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