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”木憶 きおく”
高台にはえる
あたしは一本の木だった
毎年春になると
くれなゐの花を咲かせ
人々の目と心を彩った
お紅(おこう)とあたしは呼ばれてた
ある年の春
あたしは例年に増して
色濃いくれなゐの花を
真っ青な空に挿頭してた
あたしのその艶姿は
一匹の白蛇に見初められた
蛇はそのまま去るにされず
あたしのうろに居着いたのさ
それからまもなくおとずれたのは
あたしが一世一代の艶姿を脱ぎ捨てた日で
それは
あたしが禁犯した日で
あたしに恋した白蛇と
あたしはひとこと言葉交わした
にわかに空かき曇り
風吹き荒れ
暗雲立ち込め
神の怒りのイカヅチが
あたしの身を砕き
あたしはあたしを取り上げられ
あたしでしかない
あたしだけを許されて
微塵にされて
木っ端となって
崖から荒れ狂う海へと堕ちてった
うねりに巻かれ
巻きつけられて
あたしは
あたしは
おちて
おちて
おちて
おちて
おちきるとこまで堕ちてった
そしてそのあと
木っ端となったこの身ゆえ
ながい
ながい
ながい
ながい
としつきかけて
海の面に浮かび上がってた
目を開けたら
青空の海に太陽が浮かんでた
風のざわめきで目が覚めた
太陽と目が重なった
太陽と目が重なったのに
眩しくなくて
気がついたらあたしは
その目を見つめてた
あたしは自分のことを
碧い風に漂う波と思ってたけど
ヒンヤリ
ソッと
あたしの上を
行ったり来たりしてるのは
波だった
あたしの身と
あたしの頬を
愛おしそうに眺めながら
ずっとずっと
ずっとずっと
あたしをなぞってたのは
波だった
そして波は
長々と畝ねる白波は
あたしの耳に
繰り返し
繰り返し
繰り返し
繰り返し
こう囁いてた
わすれないよ
わすれない
わすれないでよ
わすれないで・・・
追記:
文章は記した時点で、読者の方にご覧頂いた時点でひとり歩きしていきます。
どのように受け取ってくださっても良いのです。
おこう が 木のままであるのが良かったか、
木っ端になって良かったか?
は読者の方々にお任せ致します。
おこう は善悪では自分の道を決めらなかったかも。
心中もの と言う分野が文学にあります。
今の時代より裁きの厳しい時代のこと、
そんな時代の恋を想い記しました。
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