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短編 月影のなき秋にぞ想う
テレビのモニターを介してはおりましたが、
その御姿を嬉しくもあり、寂しくもあり、懐かしく、
その情景の中に溶け込んで、わたしは眺めていたように思います。
あなたは、相変わらずわたしのこころを揺すり、揺らし、
その振動は、心から全身に伝わり、わたしの指先まで浸透していきます。
そしてそれが、あなたとお逢いできなくなった理由でございました。
今こうして再び、偶然あなたの御姿を目にしたことが、
わたしにどのような影響を及ぼすのか、及ぼさないのか、
わたし自身にもわかる術はございませんが、
偶然目にしたあなたの御姿を、
わたしは自分の心に、刻みつけてしまったのだろうとは思っております。
そして、あなたの瞳が映していた遠い異郷のような景色の中の処々に、
蜉蝣のように浮遊するわたしの亡骸をみつけるにつけ、
過去であったにせよ、記憶となってしまったにせよ、
あなたとわたしが同じ空の下で触れ合っていたことに気づき涙するのです。
あはれ知る 人失ひて久しきを 月影のなき 秋にぞ想ふ
寒い、厳しい季節がもうすぐやってまいります。
どうぞご自愛くださいませ。
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