マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2008.09.05
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8月の氷雨

 眩暈による休憩が約20回。よろけた回数が7、8回。意識して山側に倒れたが、もし谷側へ倒れたらもちろん谷底へ転落だ。滑る大岩、足場の悪い泥道。いつの間にか左の足首を傷め、軍手も泥だらけになった。急な坂道の要所要所にスタッフの人。最後の眩暈から立ち上がった時はスタッフの人が心配そうにこちらを見ていた。そして「道路まであと10分ですよ」と。暫く登ると「道路まで2分です。頑張ってください」。今度は女の方だった。雨の中、ランナーのための見張り、ご苦労様です。

 山道が緩くなった。両側にはクマザサが茂る。道には雨が溜まり、まるで小川のようになっている。仕方なくその中を歩くと、シューズの底から水が侵入する。このトレイルシューズは川の中も歩けるよう底に小さな穴が開いている。むしろ入った水が出易いよう、穴が開けられているのだろう。やがて緑のトンネルの先が明るくなり、ようやくアルペンルートに出た。ここにもスタッフの人。

 さすがに舗装道路は歩き易い。暫くして50km地点の弘法AS。時計を見ると11時58分。去年は1時間ほどで登れた八郎坂が、今回は1時間40分ほどかかってしまった。60km地点の室堂ASまで残り10km。そして高度差は400mほどか。午後1時の制限までに室堂へ着くのはもう無理と諦める。泥だらけの軍手を捨て、雨具代わりにビニール袋を被る。そして頭にはこの日初めての帽子着用。水を飲み、ゼリーを3個ほど口にする。

 出発して直ぐ木道へ入る。バス通りよりも安全だからだ。雨に濡れた草が足にまとわりつく。おまけに所々で木道が傾いでいてとても歩き難い。トップグループのランナーが通った時もやはり走り難かったんだろうな。私は漠然とそんな空想をしていた。時々バス通りに出るが、再び木道がありガッカリさせられる。やがて広々とした湿原に小さな池とうが点在。弥陀ヶ原のようだ。バス道路を横切ると53km地点の弥陀ヶ原ASへ到着。

 キュウリを3本とバナナ1切れ食べ、ペットボトルに水を補給する。室堂ASまで8kmとか。水も半分で良いかと妥協。そこへスタッフの人が飛んで来て、バスに乗らないかと誘う。「どうしても室堂へ行く」と答えると態度を変え、「雨の立山も良いものですよ」と急に優しい声になった。ポシェットから豆大福を取り出し、歩きながら食べる。次第に手が冷たくなり、ビニール袋の中へと手を引っ込める。風が当たらない分暖かい。こんなことなら泥だらけの軍手を捨てるのじゃなかった。

 青いポンチョを着たランナーが後ろから着いてくる。私が走り出すと、彼の姿はやがて視界から消えた。蛇行するアルペンルート。念のため先ほどのASでスタッフの人に、レースが続行されているか確認してみた。時間内に室堂へ着き、雨具を持っていれば雄山山頂に向かわせているとのこと。そうか。そうなるとこのまま室堂へ着いてもリタイヤ扱いだ。それでも元気を出して行こう。しかしどこか変だ。もし弥陀ヶ原ASが資料どおり53km地点なら室堂まで残り7kmのはず。それを昨年も今回もスタッフの人が8kmと言うのは、どう考えてもおかしい。

 手を振りながら歩くと寒さも気にならない。時々通るバスの中から乗客が驚いて私を振り返るのが愉快だ。流れるガス。そしてガスが晴れると前方に懐かしい山が見え出す。大日岳に奥大日岳。別山の彼方には剣岳の山容も。やがて地獄谷の奥に一瞬だが雷鳥荘が見えた。道端にホテルが見え出す。去年室堂と間違えた建物だ。黄色のポンチョを着たランナーが足を引きずりながら歩いている。訊ねると股関節を傷めた由。

 収容バスが止まり、「乗りませんか」と窓からスタッフの声。手を振って断り、走って見せると車内から驚きの声が上がった。前方から雷鳥荘のライトバン。「大丈夫ですか」の声に、「黄色のポンチョの人が股関節を傷めているから声を掛けてやって」と一言。暫くして戻って来たライトバンには、手を振るランナーの姿があった。大きなカーブを曲がると室堂ASのテントが見え、スタッフの方が数人手を振っている。私は最後の力を振り絞って走り出した。まるでビクトリーランのように。14時20分室堂到着、氷雨の中の戦いに終止符を打つ。<続く>





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Last updated  2008.09.06 05:14:27
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