うたのおけいこ 短歌の領分

うたのおけいこ 短歌の領分

2024.05.21
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カテゴリ: 近代短歌の沃野
佐佐木信綱(ささき・のぶつな)

夏は来ぬ

卯の花の匂ふ垣根に  時鳥 ほととぎす はやも来鳴きて
忍音 しのびね もらす 夏は来ぬ

さみだれのそそぐ山田に  早乙女 さをとめ 裳裾 もすそ 濡らして
玉苗 たまなへ 植うる 夏は来ぬ

たちばな の香る軒端の 窓近く蛍飛び交ひ
怠り いさ むる 夏は来ぬ

あふち 散る川べの宿の  かど 遠く 水鶏 くひな 声して
夕月涼しき 夏は来ぬ

さつきやみ蛍飛び交ひ 水鶏鳴き卯の花咲きて
早苗植ゑわたす 夏は来ぬ


作曲:小山作之助
明治29年(1896)5月刊『新編教育唱歌集』所収


最後の「夏は来ぬ」の5音を除けば、それぞれが短歌の形になっている、さすが近代短歌の巨匠にふさわしい名歌詞。

忍音 しのびね :春に鳴きはじめてまだ日が浅いホトトギスやウグイスが、自信がなさそうに声をひそめて鳴く声。 初音 はつね 。雄鳥の求愛行動。

さみだれ:五月雨。梅雨。旧暦五月(現行暦のほぼ6月)頃に降る長雨。「さ」は「さつき(五月)」の「さ」と同源の接頭語。「みだれ」は「乱れ」ではなく、雨が降る意味の「水垂」といわれる。

玉苗 たまなへ :美しく瑞々しい稲の苗、早苗の美称。

蛍飛び交ひ怠り いさ む:「蛍の光、窓の雪」の故事にちなんで、怠け心をいさめる。

あふち (おうち):栴檀(せんだん)。香り高いことで知られる。

さつきやみ:五月闇。旧暦五月、梅雨どきの闇。昼ですら小暗く、照明のほとんどない時代の、月も見えない夕方以降は、本当に真っ暗に感じられのだろう。





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最終更新日  2024.05.22 06:51:45
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