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スチュワート・ピゴットのドイツワイン番組、今週は宝探しの巻。宝と言っても宝石ではなく、葡萄畑である。昔はグラン・クリュとして名をはせていたが、つい最近まで、その存在すら忘れられていた葡萄畑。そういう畑がドイツには幾つもある。一つはモーゼル中流のヴォルファー・ゴルドグルーベ。2000年にスイス人のダニエル・フォレンヴァイダーが打ち捨てられていた畑を買い取り、翌年リリースしてすぐに話題になった。ゴルドグルーベは最大斜度70%の急斜面で、耕地整理されていないので樹齢100歳前後の古木が残っている一方で、トラクターが走れる農道が無い。そしていくつもの狭い区画に分かれているので、農作業はすべて手作業で行わなければならない。普通の醸造所は、食べていくために一定の量を確保することを、まず優先する。すると、ヘクタールあたりの収穫量が多くなる。収穫量が多くなると質が落ちて、葡萄畑のポテンシャルが十分にワインに反映されない。すると、妥当な値段で売れないし、評判にもならない。平地のワインと同じ値段で売れていたら、きつい農作業の割に合わない。それで打ち捨てられる。忘れられたグラン・クリュは、大抵こういう過程をたどっている。ヴォルファー・ゴルドグルーベもそうだったのだが、彼はそこから素晴らしいワインを造ってみせた。手間がかかって、古木ゆえに生産量もわずかで、割に合わない厄介な葡萄畑は、実はグラン・クリュに他ならなかったのだ。なぜ、よそ者のフォレンヴァイダーに、地元の生産者に出来なかったことが出来たか。ひとつに、彼は醸造所の出身ではないかったから、醸造所の経営にはああしなければ、こうしなければという固定観念がなかった。素晴らしい葡萄畑であることに彼が気づいて、経営することよりも、まず素晴らしいワインを造ろうとした。そこが違う。初めにワインありき、だった。食べていくためではない、いや、もちろんそれもあったのだろうけれど、理想とするワインを造ってやろうという、強い意思があった。2000年の秋は冷涼で雨勝ちで、スタートのヴィンテージとしては恵まれていなかった。しかし、スイスから友人や親戚一同が収穫を大勢手伝いに来てくれたおかげで---葡萄の木よりヘルパーの方が多かったくらいだ、とダニエルは笑う---高品質なワインを造るのに必要な選別作業を十分に行うことができたそうだ。そのファーストヴィンテージが、ゴー・ミヨの目に留まっていきなり脚光を浴びた。「よいワインを造れば、すぐに有名になれる。それが今のドイツワイン業界」と、ピゴットは言う。次に紹介されたのがザールのファン・フォルクセン醸造所。ダニエル・フォレンヴァイダーと同じ2000年に、当時売りに出ていた醸造所を買い取ったローマン・ニエヴォドニツァンスキーが、忘れられた葡萄畑ヴィルティンガー・ゴッテスフースとヴァヴェナー・ゴルトベルクのポテンシャルを見事に引き出した。遅摘み、低収穫量、野生酵母による発酵を、醸造補助物質を使わず必要なだけ時間をかけてゆっくりと行う。彼のワインはベーシックなザールリースリングから、引き締まったアスリートのような、ほっそりとしていながら力強い、見事な個性を持っている。忘れられない思い出として、ローマンはエゴン・ミュラー醸造所で1971シャルツホーフベルガー・アウスレーゼ・ゴルトカプセルを飲んだ時のことを語った。「まるで雷に打たれたようだった。先代のエゴン・ミュラーが当時まだ健在だったのだけど、彼に素晴らしいワインを造ってくださって感謝します、と思わすお礼を言ったんだ。そうしたら、この若造、何を言っているんだという顔で僕を睨み、憮然として言ったんだ。『それを造ったのはわしじゃない。葡萄畑だ』とね」。初めに葡萄畑ありき。その潜在能力を引き出すのは、醸造家の意思による。三軒目はラインガウのエヴァ・フリッケ。昨年までライツ醸造所の醸造責任者をしていた、気鋭の女性醸造家だ。ブレーメンの医者を両親に持つ彼女は、もともとワインは好きじゃなかった、という。しかし、いつしかその多様な個性に惹かれてワイン造りを学び、10年間ライツ醸造所で働いていた。ある日、ロルヒ村のクローネの畑の一画を買わないか、という老人が彼女のもとを訪ねてきた。一緒に畑を見に行くと、雑草が生い茂っていたが古木の急斜面で、一目で気に入ってしまい、買うことにした。しかし醸造設備もなければ農機具も持っていない。どうやって畑を耕し、農薬を散布するのかなどということは、ちっとも考えていなかったそうだ。それでも色々な友人の助けを借りて、農機具も少しずつ買い揃え、今はちゃんと自前で見事なワインを造っているというあたり、最初に出てきたダニエルに似ている。ワイン造りは毎年違う。同じ農作業でも天候などの条件が違うと、まるで違う意味をもってくる、とエヴァはいう。「オーストラリアでは『何回収穫を経験したの』が初対面の醸造家のあいさつみたいになっているけど、変よね。それぞれのヴィンテージから何を学んだかが重要で、回数は問題じゃないのに」と笑う。最後に紹介されたのは、南ファルツの若手5人の醸造家団体ズュードファルツ・コネクションが再発見した、グレーフェンハウザーのピノ・ノワール。山の中にある急斜面で、熟した葡萄はスズメバチ、イノシシ、鳥や鹿など、様々な虫や動物に狙われている。2006年と2010年はスズメバチに収穫を全部食べられてしまい、造ることが出来なかったそうだ。そこで、葡萄のある高さにしっかりとネットを張って防御している。無名の、苦労の多い葡萄畑でワインを造り続けるのは、そこが昔から素晴らしいワインの出来る畑として、戦前まで数百年間守られてきた畑だからだ。それが戦後、農作業の機械化と甘口ブームに押されて放置され、もともと16haだったのが2.5haまで減ってしまった。雑木林のようになっていた昔の葡萄畑を開墾して復活させたのが、1999年に知り合った彼らなのだ。よい葡萄畑からよいワインをつくれば、醸造所の伝統とか醸造経験の長さに関係なく、それなりに認めてもらえる。ドイツワインは今、ある意味で幸運な状況にあるのかもしれない。
2012/01/26
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17日早朝、ルーヴァーのカルトホイザーホフ醸造所をはじめ、モーゼルのいくつかの醸造所でアイスヴァインが収穫された。氷点下7~8℃になんとか達したが、前日の好天で葡萄畑と葡萄が温まっていたため、葡萄畑によっては十分に凍らなかったという。バーデンのカイザーシュトゥールでも収穫されたが、収穫量はごくわずかだ。一般に、アイスヴァインは早めに寒気が訪れた方が、果実の状態がよく高品質なものになる。逆に待てば待つほど、既に熟した葡萄は痛む一方で、鳥についばまれたり干からびたり、雨で糖分が洗い流されたりで、生産が難しくなる。1月中旬にやっと収穫されたのは、いずれにしても待ち続けた醸造所には朗報であった。******************************さて、シュトゥワート・ピゴットのドイツワイン番組"Weinwunder Deutschland"第二回のテーマはフランケンのジルヴァーナーとミュラートゥルガウ。脚光を浴びるリースリングとは相対的に、どちらも日陰者的な扱いを受けてきた葡萄品種だ。1990年代までは確かに青臭く薄く美味しくないジルヴァーナーが多かった。それは収穫量を上げて完熟を待たずに収穫し、いい加減な醸造がなされていたことが少なからずあったからだ。そしてミュラートゥルガウは、今でも量産品種として生産されていることが多いのだが、志のある生産者の手にかかると素晴らしいワインになるという。最初に紹介されたのはエッシェンドルフにあるホルスト・ザウアー醸造所。職人気質な主人はジルヴァーナーはフランケン気質そのものだという。引っ込み思案で本来の持ち味を示すまで、じっくりつきあう必要がある。すべて計画通りにすすめなければ気がすまず、成り行き任せに出来ないところもフランケンらしい、と。そうした葡萄に向き合って、進むべき方向に向かうのをさりげなく手助けしてやるのが造り手の仕事だ。葡萄に夜も昼もないし、土曜も日曜も関係ない。醸造家の日常は仕事に始まり、仕事に終わる。だから仕事が楽しくなければやっていけない。もしも仕事が楽しくないのなら、何か別の仕事を探すべきだ。そして品質は苦しみの中から生まれる。それは完成に至る最後の10%で、生産者によってはそこまでしなくてもいい、というかもしれないが、そこまでやり遂げるかどうかでワインは別物になる、という。今は娘のサンドラが醸造所を手伝っている。この父に仕込まれた彼女の腕も確かなのだろう。次は同じ村の通りを挟んだ向かいにあるライナー・ザウアー醸造所。ここも親子で醸造している。父のワインはボックスボイテルに瓶詰され、息子ダニエルのワインはブルゴーニュ型のボトルに詰めている。父は破砕して果肉、果皮を果汁に漬け込む低温マセレーションを4時間前後で切り上げるが、息子は5,6時間から5日間も低温マセレーションを行い、葡萄のポテンシャルを徹底的に引き出そうとする。チャレンジ精神旺盛な息子だ。「ただ、そうやって失敗した時は精神的に痛い。一年の成果がまるごとダメになってしまうし、経営的にも痛みを伴う。家族で醸造所をやって、それを子供に引き継いでいくのがどういうことなのかを考えたり、色んな意味で落ち込む。それが心配だ」と父は言っていた。一方息子はマセレーションだけでなく、コンクリート製の卵型発酵漕でのワイン造りにも挑戦している。角が無いのでマストは発酵中理想的に循環し、より繊細で調和のとれた味わいになるんだ、と興奮気味に語る。近年2台目を購入して益々意気盛んだ。彼のフライラウムは中身の詰まったアロマティックな、印象に残る味だった。三軒目はミュラートゥルガウで高品質なワイン造りをするヴィンツァーホフ・シュタール。タウバー渓谷にある斜度60%の急斜面の葡萄畑で、標高が高く冷涼で、土壌は水はけのよさがミュラートゥルガウとは思えないほどエレガントなワインを生むそうだ。ピゴットお気に入りの醸造家だが、私はまだ飲んだことがない。最後に登場した三軒の醸造所の若手醸造家3人が集まり、自分たちのワインと、ドイツ国内の価格が2倍以上するフランスのシャルドネ、イタリアのピノグリと目隠し試飲。総じてフランケンのジルヴァーナー、ミュラートゥルガウは香味が澄んで生き生きとして、対抗馬は樽香が強かったり、疲れた印象を受ける、とのコメント。冷涼ワインの長所だろう。日陰者扱いされてきたジルヴァーナーとミュラートゥルガウは、丁寧に作れば豊かなフルーツのアロマの良いワインになる。という結論であった。
2012/01/18
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スチュワート・ピゴットのワイン番組『Weinwunder Deutschland』。2010年12月からドイツの放送局バイエリッシェ・ルンドフンクで6回シリーズで放映されたのは記憶に新しい。そして先週土曜から、新シリーズが始まった。昔ならドイツに居なければ見られなかったかもしれないが、今はインターネットで視聴が出来る。しかも放映されてから7日間は、何度でも繰り返し見ることもできる。ありがたいことである。http://www.br.de/fernsehen/bayerisches-fernsehen/sendungen/weinwunder-deutschland/index.html1月7日の第一回目のテーマはシャトーのワインと新参者。一般には高級なワインはラベルに「シャトー」とかかれ、高いお金を払うものと思われているかもしれないが、シャトーでは維持管理費などで経費がかさむので、ワイン代を高くせざるをえない面がある。一方、小規模な醸造所を立ち上げてワインを造りはじめたばかりの新参者には、背負っているものが少ないぶんだけワインを安くできる。それでいて、素晴らしいワインもある、という。今回取り上げられているのは『シャトー』の代表としてシュロス・ヨハニスベルクとマキシミン・グリュンハウス。新参者の代表としてラインヘッセンのエヴァ・フォルマーとバーデンのシェルター・ワイナリー。シュロス・ヨハニスベルクはドイツで最も有名な醸造所の一つだが、2005年に当時35歳のクリスチャン・ヴィッテを経営責任者に迎え、様々な改革を行った。木樽の並ぶロマンティックなセラーだけでなく、最新鋭の醸造設備も多額の投資を行って取り入れた。醸造所で最も安いワインが13ユーロ以上というのも、そうした事情あってのことだ。一方、2007年にマインツ近郊に11haの葡萄畑で醸造所を立ち上げた女性醸造家、エヴァ・フォルマーのワインは、一番安いものは5.80Euro、一番高いのでも13Euro。シュロス・ヨハニスベルクの一番安いワインが一番高い彼女のワインと同じなのだ。だが、グリーンハーヴェストを行って収穫量を切り詰め、ゆっくりと丁寧に発酵したドルンフェルダーは「究極のドルンフェルダー嫌い」を自称するピゴットも手放しで賞賛する。ショイレーベも昔は甘口が多かったが、最近はソーヴィニヨン・ブランを彷彿とさせる辛口が増えている。エヴァが言うには辛口にするには発酵を止めるタイミングが重要で、それは3~4時間しかない。そのタイミングを逃さないために、タンクの横に寝袋を敷いて寝るという。パワフルな女性である。場面は一転してルーヴァーのマキシミン・グリュンハウス。1000年を超える伝統を誇るグリュンハウスの一番安いワインは9,90Euro。シューベルト氏は醸造所経営は毎日が革新なのだと、父から教わったという。確かにシューベルト家が所有する森の樹齢180歳の樫で造った新樽でヴァイスブルグンダーを発酵したり、一本21,90Euroもするリースリングのファインヘルブ「スペリオール」をリリースしたり、そろそろリリースされるはずのシュペートブルグンダーを始めたりと、色々と取り組んでいる。酸味がこの醸造所のリースリングでは持ち味なのだが、1989年にワイン商の一団が訪れ1988年産を試飲したことがあった。6月上旬の蒸し暑い日で、酸の鋭い1988年産は受けが悪く、「あなたのワインにはがっかりさせられた」とコメントを聞いてシューベルト氏と奥さんは頭に来たという。試飲が終わりの頃に雷鳴とともに一雨降って、気温が急に下がったので、シューベルト氏はふと思いついて、セラーから酷評された1988のカビネットをもう一度持って上がり、「まだお出ししていませんでした」と言って注いで回ったところ、「なんと生き生きとしてチャーミングな酸味だ!こんな素晴らしいワインをどうして最初から出さなかったのか」と文句を言われた、と笑う。してやったりと溜飲をさげたその翌日に、娘が誕生したのだそうである。ワインの印象は飲む環境によって左右され、主観的なものでしかありえない、ということだ。さて、最後に紹介されたのはバーデンのシェルター・ワイナリー。2003年に北ドイツ出身の夫婦が4haの葡萄畑を購入、最初は防空壕跡を利用して醸造したので「シェルター・ワイナリー」と名付けたそうだが、昨年創業8年目にして大きな醸造棟を新築。一番不安だったのはワインの販売だったそうで、二人ともワイン造りは好きだったが、人前に出てしゃべるのは苦手で、まして売って歩くなんてどうしようか、と思っていたそうだ。しかし創業して間もなく評判を聞いたワイン商が二人訪れ、その場で樽ごと買い占めたそうである。「あれは本当に幸運だった」というが、その前に良いワインを造っていたからこその成功だ。ドイツでは、こうした情報は比較的早く伝わる。しかし概して言えるのは、伝統と格式を誇る醸造所よりも、夢と情熱をワインにかけた新参者の醸造所の方が、若干安く高品質なワインが買えるという点だ。もっとも、数年後には現在の新参者も中堅醸造所となって、価格も格相応に値上がりする可能性が高い。といったことを、ピゴットは今回の放送で伝えていた。彼は母語が英語なので、せめて英語の字幕をつければ世界的に伝わるのだが。番組を見ているうちに美味しいドイツワインが飲みたくなった。ドイツワインがあれば、他の国のワインは要らないかもしれないと、改めて思った。次回は14日の土曜、日本時間の夜11時半の放送だ。テーマはフランケンのジルヴァーナーとミュラートゥルガウ。ピゴットはフランケンで1年間畑を借りて、自分でワインを醸造したことがあるので、その話も出てくるかもしれない。見逃しても、一週間はネットで見ることが出来る。ありがたい世の中になったものだ。
2012/01/10
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新年あけましておめでとうございます。今年が皆様にとってどうぞよい年になりますように。
2012/01/01
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