或る日の“ことのは”2

或る日の“ことのは”2

2010.02.08
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カテゴリ: 読書



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先月、ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー氏が亡くなりました。

正直なところ、ご存命だったということを知らず、

驚きは寧ろ、そちらにあったのですが、

学生時代に読んで以来、全く手にとっていなかったことを思い出し、

引っ張り出してみました、『ナインストーリーズ』。
(私は『ライ麦畑でつかまえて』は、借りて読んだので持っていません)



***



すごいわ、・・サリンジャー。

ああ、彼の文章は読み始めたら、もうブレーキが利かない。

時代も異なり、文化も違うのに、

ぐいぐいと惹き込まれて行く。



ビアス、ダール、ローソン、・・・

学生時代は、色々な作家に出会いましたので、

それらのうちの一人、という感覚で、特別好きでもなかったのですが、

改めて読んでみると、いま尚衰えぬその新鮮さに、ガツンと来ます。

とはいえ、『ライ麦畑~』を読んで、外に飛びだしたくなるほど、

青臭い自分はとうの昔に捨てましたし、それが許されるのは二十までですが。

と言っても、年をとってからの彼の作品は、それはそれで鮮烈で。

文学作品というのは、人生において少なくとも二度は読まねば、

その真価は測れない。

そんな気がします。

そして、今回読んだ本の訳者、野崎孝氏の対訳が、

サリンジャーの描く病んだ心、澄んだ心、優しい心を、読者に厭味なく伝え上げます。

『The Catcher in the Rye』に、
『ライ麦畑でつかまえて』という斬新なタイトルを付けた人ですが、

今でも古臭さを感じさせない、磨き上げられた言葉の一つ一つが、

読者の心に染入るように入ってくる。

サリンジャーと同じ目線を持ち、言葉を知りぬいた方の、素晴らしい対訳です。

今回、サリンジャー同様、野崎氏の訳に感動しました。



余談ですが、

学生時代、縁あって、一回だけエレナ・ファージョンの児童向短編を試訳しました。

私なりに頭を絞ったのですが、

先生に添削していただき、帰ってきた原稿を見て、驚きました。

ある程度、予測はしていましたが、

添削で、完膚なきまでに真っ赤でした。

対訳というのは、自分の言葉を注ぎ足すものではない

そう、書かれていました。

そして、参考として先生の言い回した訳を注ぎ込んでみると、

どんなに頭を捻っても、出てこなかった言葉が、

先生によって導き出されて、まるでパズルのピースのように、

かちりと音がするように、その文章に嵌るのです。

勿論、英語力が無ければ、訳以前の問題で、私に高度な力など無かったのですが。

ああ、訳者というのは、こういうものなのだ、

作者に忠実で、

作者の意図から寸分たりと外れてはならない、

作者の言葉は『絶対』で、

同じものを描写しても、一つの言葉の脚色もあってはならない、

それを深く感じ入り、恥じ入った出来事でした。




今回、サリンジャーを読み返してみて、

その音楽のように流れる、美しい文章と共に、

サリンジャーと、彼よりも先に亡くなった、野崎孝氏にも思いを馳せました。

サリンジャーが筆を折らなければ、

世の中に、もっと彼の作品が溢れたかと思うと、

残念でなりません。

彼が亡くなった自宅に、彼が遺した作品が残っていないか、

実はとても気になっています。




自宅に高い壁を作り、人と交わる事を拒み内側へ向かっていったサリンジャー。

彼は、常に人を描きながら、こうあるべき、かくあるべき、と言う断定を一切せず、

ただ、綺麗にそこに並べてくれた。

嫌味なひとも、可愛いひとも、困ったひとも、

皆そこに、必要不可欠な存在として並べてくれた。


ご冥福をお祈りすると共に、

彼への感謝を此処に記します。









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最終更新日  2010.02.18 17:44:57
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