三角猫の巣窟

三角猫の巣窟

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

サイド自由欄

コメント新着

三角猫@ Re[1]:修正について考える(11/12) 本好きさんへ 本の感想文が減ったのはい…
本好き@ Re:修正について考える(11/12) 最近は、本の感想文が減って、寂しいです…
三角猫 @ Re[1]:進学と就職について考える(09/27) 四角いハムスターさんへ おっしゃる通り…
四角いハムスター@ Re:進学と就職について考える(09/27) ご無沙汰しております。  最近はコメント…
三角猫 @ Re[3]:葬儀について考える(04/29) 四角いハムスターさんへ 伝染病や地震で…
2016.01.11
XML
カテゴリ: 小説
老人ホームに入って七ヶ月になる八十六歳の男がウェーバーやガス・ロビンソンと釣りをしたりタトゥーを入れたりして楽しく過ごしつつ死について考えたり過去を回想したり、老人ホームで火事がおきて友人シドニーが死んだりする話。
わたしの一人称で、四月から翌年の四月までの○月○日の出来事を書いていく日記形式。誰かに向けて書かれた書簡とは違い、日記は基本的に他人に見せるものではなく、自分の記憶や思考や感情を整理するために書かれるので、「昔、ベイリーさんによくいわれたことを思い出す。ベイリーさんというのはわたしの父に仕えていた黒人の男だ。父と母がなくなってからは、わたしに仕えてくれた」というように日記で他人に向けて説明すること自体が物語論としてのリアリティを損ねている。もし誰かに読ませるために日記を書いているとしたら語りの形式として矛盾しているし、物語論としての整合性をつけるべきだろう。
さらには一回の日記が数ページしかなくて場面が断片的になっているうえにプロットもなく、物語としての読み応えがない。プロットがないと物語に終わりがこないので、最後にはシドニーの死で物語を終わらせているあたりは月並み。死についての考察も死を恐れているという月並みな思考で、元弁護士が主人公の割には馬をやたら撃ち殺す男とか首吊り自慰に失敗して死んだ少年とかの様々な社会問題についての考察が浅く、哲学的な面白さもない。小説になっていない偽エッセイのようなもので、エッセイならまだ書き手自身の素直な思考なり感情なりが表出されているものの、この偽エッセイにはどこにも見所がない。若い作家の処女作に相応のへたくそさである。
作者はあとがきで「二十六歳で八十六歳の老人の話を書いていたのはなぜか、と人に聞かれます。数年後にふりかえってみたところ、その答えは、理解したいという思いにつきます。」と言っているものの、果たして想像で老いることを理解できるものか疑問である。老人について想像して小説を書くより、老人ホームに行って老人の話を直接聞いたほうがよほど老人を理解できるだろう。それに退職して暇をもてあました老人の日記ブログが溢れている現代となっては、作者の想像上の老人の物語をわざわざ読む理由はない。
帯には「執筆時若干二十六歳の作者が驚くべき想像力で心の震えを描いた、完璧な小説。」と誇大広告が書いてあるのでそのぶんだけ評価を減らした。この小説が原書房にとって完璧な小説なら、私は原書房の他の小説は二度と読まない。訳者の金原瑞人の「生、人生、老い、若さ、死──すべてがこの薄い一冊に凝縮されている。」というコメントも帯に載っているものの、どれだけ中身のない人生を送ればすべてが凝縮されているなどと言えるのか、訳者の見識を疑う。

★☆☆☆☆

四月の痛み [ フランク・タ-ナ-・ホロン ]

四月の痛み [ フランク・タ-ナ-・ホロン ]
価格:1,512円(税込、送料込)






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2016.02.10 23:58:33
コメント(0) | コメントを書く
[小説] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: