PR
カレンダー
キーワードサーチ
最後の一枚は先生が遊びたがった。
モデルにナイフを持たせ、大きな石膏像の頭に肘をかけさせた。
首狩族の女をイメージしたのかな?
ところが僕には石膏像が自分に見えた。
ギリシャ神話のArgusは首を斬られるのが宿命だったから。
そして自分の中の何かが抑える事ができなくなった。
気がついたらありえない角度から描いていたんだ。
僕の位置はモデルさんのほぼ正面だった。
こんなふうに全然見えていない。
そして顔をこんなに大きく描いたら、横幅がとてもおさまらない。
でもこの大きさで描きたいという気持ちを抑えられなかったんだ。
見えていないものを描くのにスラスラと動く。
自分の中にほんの少しだけ、何かのイメージがあったのだと思う。
でももちろんイメージはそれほど具体的なものではなく、すぐに行き詰った。
見えていないものを描いているから、一度止まると時間があってもそれ以上描けなくなってしまった。
ひじの下にあるはずの石膏像、首を斬られたArgusはどうしても描けなかった。
終わったあとで先生が見て言った。
「変なバランスだけど、なんか迫力あるよ」
それはひょっとしてお世辞だったかもしれないし、他にいいようがなかったのかもしれない。
でも気持ちよかった。
それは自分の描きたいものだったのだと思う。
そしてそれを正しく描けるようになったときに、本当に楽しめる絵が描けるのだと思う。