Over The Moon.

Over The Moon.

2005年06月25日
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カテゴリ: *能関係の日記*
全国宝生流学生能楽連盟自演会。略して全宝連。
1日目。

大会は2日あるんですが、
私にとっては今日が勝負。
なぜなら今日に連吟『杜若』の役謡と
仕舞『鞍馬天狗』があるから。

・・・この日のために今までどれだけ稽古したことか。
頑張ろう。



最初は全体連吟『鶴亀』から始まりました。
私たちも声出しのために参加。
その後しばらくして、
『杜若』の出番がやってきました。



狭い切り戸口で自分の出番を待っていると、
段々と緊張が高ぶっていくのが分かった。
絶句しないだろうか。ちゃんと謡えるだろうか。

師「とにかくワキはゆっくりね。
  シテと部屋の中で話している気分で」

師匠が最後にアドバイスをしてくださる。

シテと二人。部屋の中。
・・・そのほか謡の師匠にこれまで言われたことを思い出す。
おさめて謡う。間はゆっくりと。落ち着いて・・・

そうしているうちに前の仕舞が終わった。
私は眼鏡をはずす。

「じゃあ」

私たちは互いに顔を見合わせる。

「「よろしくお願いします」」

切戸が開く。


上がると広く四角い舞台が私を待っていた。
最初だからか、観客の数は少ない。
私は自分の座る位置めがけて行って、そこに座る。
緊張しても作法は忘れない。
扇を抜いて。横において。しばらくしてみんな同時に前に回す。
そうして他の人が袴に手を入れる中、
私だけが、扇を手に取る。

一呼吸。

「不思議やな賤しきしづの・・・」

何度も繰り返したこの台詞。
おさめるように、荒くならないように、何度も注意された。
でもおさめて謡っていたら、声がはれてない気がした。
ああいつもはもっと声が出るのに。
でも出そうとして変に甲高くなるのはいやだ。
そんなことを色々考えているうちに、
ワキの役謡は終わってしまった。

地謡の部分は、
稽古どおり地頭の猿さん(仮名)の声を探してそれに合わせる。
みんなの声を聴いているうちに、
自分が段々落ち着いてきているのが分かった。

・・・もっと早くこんな気分になりたかった。
そう思ってももう遅い。


『杜若』のキリを謡い終わって扇を置くと、会場から拍手が聞こえた。
切り戸に引っ込んで、そのまま楽屋へ向かうと
見所にいた師匠が駆けつけた。

師「は。なかなか良かったです」

頭を下げる。

師「ワキは昨日より良かったね。
 かけあいのところはもうちょっとおさめても良かったけど。
 でも誰も絶句しなかったから良かったです」

・・・無本だもんなぁ。
ああ怖かった。


師「じゃあすぐ『鞍馬天狗』の準備して」


そうなのだ。
連吟の後、仕舞を幾つか挟んで
すぐ『鞍馬天狗』がある。
ぼーっとしてる暇はない。


師「じゃあ、これ扇ね」

師匠から金地に深緑の筋の通った扇を手渡される。

師「シテ謡いはゆっくり、ゆったりね。
  じゃあまた見所で見てるから」

そのまま師匠は見所へ戻り、
私と地謡メンバーは慌しく、切戸の方へ向かう。


さっきより緊張してる気がする。
いや、さっきの緊張が持続してるのか?
よく分からない。でも、緊張してることに変わりはない。


切戸口にある小さな鏡で構えを確認する。
その後ろで 猫さん(仮名) が、私の袴を調えなおす。

「・・・緊張してきた」

思わず口に出すと、もっと緊張してる自覚が生まれて、しまったと思う。
そしたら 鴨くん(仮名) が言う。

「天狗になればいいよ」

・・・天狗。


そう、私は
この5分間だけ
鞍馬山の大天狗になるんだ。


切戸が開いた。


舞台へあがり、舞台の真正面に座る。
眼鏡がないから、幸いお客さんの顔は見えない。
・・・それでも緊張することに変わりはない。
扇を取って立ち上がり、前に進み出て構える。
扇を開く。


シテ謡いはゆっくりね。

はい。


「そもそも武略の・・・」


シテ謡いはゆっくり、ゆったりを意識した。
でも立ち上がって最初のサシをしたときに、
扇の先端が震えているのが見えた。
かまうもんか。

広い舞台。
歩数が合いにくくてきちっと止まれない。
問題の半身。
足を気にしている暇もない。
面切り。
合わせどころと合っているんだろうか。
落ち着け。
謡を聴くんだ。

「・・・考えきたるに」

・・・来た。

私は隅へ向かって進んでゆく。

「奢れる平家を」

稽古したんだ、この型を。

「西海に」

腕を返して半身になって

「おっ」

片足で飛び上がって

「下し」

下す!


・・・本当に下せたかどうかは判断できない。
もう無我夢中だったから。


そうして舞台を回って、最後に飛びかえりをして
仕舞『鞍馬天狗』は終わった。


舞台を出て、後ろで切戸が閉まって、楽屋へ行って。
先ほどと同じように、そこに師匠がいらっしゃった。

「舞台を広く使ってたね。良かった。
 それとシテ謡いもよかったと思います」

・・・はい。

「でもちょっと歩幅がちょこちょこしてたね。もったいなかった」

・・・はい。

「まあ、おおむね良かったんじゃないでしょうか」

・・・。


・・・おおむね、かぁ・・・。
おおむねだよな・・・。


師匠に対して地謡メンバーとともに
「ありがとうございました」とお礼をして
顔を上げたそのときようやく、
「終わった」という実感がわいてきた。
良かったとも駄目だったとも思わず、
ただ無心に「終わった」という事実の実感。

やっと終わった。
終わったんだ。

・・・どっと力が抜けた。



その後ロビーへ行くと
「渡理ちゃ~ん」
ぽにさん がいらっしゃいました。

ぽにさんはこのブログを通してお友達になった方です。
東京にいらっしゃるので、見に来てくださいました。

私は緊張して全然駄目だったという話をしたら、
「いや、よかったよ」
という風に言ってくださってかなり救われました。

本番は稽古の力なんて出ない。
やっぱりいかに稽古量をこなして
本番に落ちても大丈夫なようにするかが大事なんだなぁ。



その日は他大学の仕舞も幾つか見ました。
会の終わりには、舞囃子が5番。
2日合わせて9番出ます。
去年は 犬さん(仮名) と猫さんの全2番しか出なかったのでえらい差。

私は多分来年の全宝連で
舞囃子をやることになります。
まだ全然決めてないので
その参考にと、全部の舞囃子を拝見する。

なんとなく見ていたんですが、
そのうち『羽衣』の舞囃子が気になりました。

完璧とはいえない。
でも、すっごく稽古したんだなぁという舞。
着実に、そつなくこなす。
・・・上手い。
こういう舞囃子をしたいなぁ。



その日は夕方からレセプションがありました。
立食パーティーみたいな感じで、他大学と交流する。

「・・・『杜若』、凄かったですね」

一緒に話をしていた方が言う。

「見所で聴いてましたけど、「これはありえない」と思いました。
 混声地なのにまとまりがあって、心持もしっかりしてる。
 猫さんのシテ謡にも聴き入ってしまいました」

私が言うのもなんですが、
うちの宝生会は無尽蔵に稽古するだけあって
どっちかというと上手いほうです。

・・・やっぱり先輩たちは凄いなぁ。
ずっとうちの宝生会のクオリティを保ってる。
来年、再来年になってから
私はそれを維持できるのだろうか。


レセプションも終盤に差し掛かった頃、
一人の学生に声をかけられました。

「あの、
 『鞍馬天狗』をやられた方ですよね」

「あ、はい。」

「見てました。
 お上手でした」

そそそそんなことないんですけど
でも、嬉しい(笑)。

「うちの2年生なんて全然声出ませんもん。
 なんででしょうね・・・やっぱり稽古の違いですかね」

稽古かな。
私は器用なほうじゃないから
稽古しないと上手くなれない。
・・・実際まだ上手くはないけれど。

「今日は舞われましたか?」

「ええ。
 舞囃子で『羽衣』を」

はごろも。
――え、あの『羽衣』の人だ!!

「見ました!! お上手でしたね!!」

嬉しくなって感想を言う。
上手いと思ったこと。稽古したんだなぁと思ったこと。


そしたらその方は言いました。


「僕は去年の全宝連で猫さんの舞囃子を見たんです。
 ・・・あれは衝撃でした。
 上手すぎた。あんなん学生のレベルじゃなかったです。
 だから去年猫さんに質問したんです、どうやったらそんなに上手くなれるのかって。
 そしたら」

その人は苦笑する。

「『100回稽古するよう言われたので100回稽古したんです』
 と言われて
 ああ、凄ぇ、と思いましたね(笑)」

・・・
・・・猫さん凄い。

「だから僕も稽古しようと思って。
 今回舞囃子を出すために、
 僕も何度やったか数えながら稽古しました」


だからあんなに上手だったのか。
やっぱり稽古したからなんだ。


「次は舞囃子をやるんですか?」
「はい」
「でしたらぜひ全宝連で。
 来年の舞台で見せてください」


私は笑いながらも
「そうですね、出来れば」と答えました。



最後に師匠のご挨拶がありました。

「最近学生の仕舞のレベルが上がってきてます。
 これもこうやって、全宝連などで刺激し合えてるからだと思うんですよね。
 舞台あっての稽古だし、稽古あっての舞台だと思います。
 この勢いを維持しつつ
 能楽会をもっと活性化してほしいですね」



こうして全宝連一日目が終了しました。
明日の舞台も頑張らねば。



(→では 2日目 へ)





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Last updated  2005年10月22日 21時02分52秒
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