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2007.07.06
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カテゴリ: ヨーロッパ映画
AE FOND KISS

Ken Loach
104min

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寸評:9・11以後のこの世界でのロミオとジュリエット。パキスタン移民2世カシムとアイルランド出身の音楽教師ロシーンの恋愛物語。カシムは実践的信仰心とパキスタンの伝統的家族主義の父親の反対にあう。DISCASのレビューを読んでいたら辛口なものが多いのにビックリしたが、もともと社会派のケン・ローチ監督であり、異人種・異宗教の若い2人の関係のあり方に込められた、2つの世界の理解・和解・共存の可能性や希望の前向きな考察を見落としてはならないだろう。それと恐らく無神論のケン・ローチの現代における宗教功罪論も。

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妹タハラを学校に迎えに行った兄カシムはアイルランド出身の音楽教師ロシーンと知り合うことになり2人は急速に接近していく。しかしそんな2人を待ち受けていた障害は、パキスタン人のコミュニティー、イスラームの宗教に忠実であり、息子にも忠実であることを求めるカシムの父親の反対であり、またロシーンが勤める公共とはいえカトリックの宗教を条件とするカトリック系学校のあり方に象徴されるスコットランド社会の障壁であった。

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宗教についてイスラームとカトリック、社会についてパキスタンの家族主義やイスラームコミュニティーとスコットランド社会、それぞれどちらか一方を批判するのではなく両方を公平に考察していることに対する評価が高いようだが、実はそうでなければこの映画の持つメッセージは伝わらない。そこにこそこの映画の原点があるからだ。

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後半で「永続的な家族の愛と、いつ捨てられるかも知れない白人女との一時の愛とどちらが大切か」と何人もの登場人物の口で語られ、実際表面的にカシムが葛藤するのは家族かロシーンかという二者択一だ。しかしそれにはもっと深い意味があり、それを見落とすとこの映画は浅薄に見えてしまう。問題の本質は、何故カシムがロシーンを選ぶと家族を捨てることになり、また家族崩壊を招くことになるか、その構造自体なのだ。スコットランド社会の方で言えば、なぜイスラームの男と同棲することが学校の職を失うことに繋がるのかという構造自体だ。

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この構造は、ここではカシムとロシーンの恋愛に関して問題となる、いわば「個人レベル」の問題として描かれる。しかしこの構造は「世界レベル」「政治レベル」で考えれば、英米とイスラーム(ないしテロリストやテロ国家)の対立と本質的に同じことなのだ。だからここでこの物語を単に父と子の対立の構図だけで見てしまってはならない。そのため当然カシムの父親の心情は理解できるように描かれているし、決して悪人としては描かれない。父をしてこのような対立や異文化排斥の妄執を持たせることの問題なのだ。

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カシムとロシーンはしばしば喧嘩をする。最初の愛のシーンでは抱き合いながら何度も自分が上になろうとして「私の勝ち」「いやボクの勝ち」などとくり返される。これは男女が主導権を取り合う姿の中に象徴した2つの世界の対立、葛藤、戦いだ。そのような対立を越えて2人が一緒にやっていこうという2人の意志が、差別主義を捨てて2つの世界が共存していこうという意志を象徴し、そのことの必要性が説かれていると言ってよいのではないか。 (以下ネタバレ含む) だからこそ2人の前途は多難そうではあるけれど、ラストは明るい希望を持たせたものになっている。

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さすがに社会派のケン・ローチ、恋愛映画であって恋愛映画ではない。2人の恋愛、2人の対立・葛藤、2人に立ちはだかる障壁のもつ本質、そして9・11後的2つの世界の対立、これらがすべて重層的に重なって、しかし前向きな希望を提示した映画だと思った。そんな映画だから「2人は本当に愛し合っているの?」というような見方で見てしまうと、そういう純粋恋愛面は描き足らずなのかも知れない。(付記:カシムの姉の婚約者の母親は、パキスタン人社会内での階級差別主義者として醜く描かれてはいなかったろうか?。)

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カシムとロシーンを演じた2人の役者さん、実に好演だったと感じましたが、こういう見たことのない俳優が演じるドラマは良いです。名俳優が色々な役を演じるのを見る楽しみもありますが、こうした社会的主張の多いドラマ作品の場合には未知の俳優でなければ表現しにくいものもありますね。先日見た 『麦の穂をゆらす風』 でもそうでしたが、ケン・ローチは役者選びが上手だと思います。『麦の穂』ではデミアン役のキリアン・マーフィーがとにかく名演でしたが、どちらの映画も恋人シネードとロシーン役の女優さんが良かった。

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Last updated  2007.07.08 05:08:14
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