やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

2008年10月27日
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カテゴリ: 読書感想

 本をずっと読みつづけることは、いい本を探して読むのではなく、いい本に巡り会うためなのだった。『金沢』を読み終わって至福の時間は過ぎたけれども、何度でも味わい返せるから惜しむことはない。

 大げさかもしれないが、そう言いたくなる小説だった。といっても筋がおもしろいとか、はらはらどきどきの高揚はない。淡々と語られる情景。なぞめいた、むしろわけのわからないような会話。

 文章がとぎれないため息継ぎが苦しいようになる。一度文章から離れると読みさしのところがわからなくなり、何度も同じところを読んでしまう。でもなぜか惹きつけられやめられないのである。

 そうして、その文章に慣れてくると、「あれ?どこかでこんな感じをあじわったよ」と既視感にたびたびおそわれる。

 いえいえ、わたしは金沢に粋な別宅を構え、夜な夜な酒宴にて粋人と会い、会話を楽しみ、夢幻の時間を過ごす、なんてことは経験していないのに。

 だから何処ということでなく、いつということもなくて、したかもしれない会話、見たかもしれないものを全部ひっくるめた、わたしのささやかな経験が増幅されてわたしに返ってくるような物語なのだ。

 これは読んでみなければわからない。どんな本でもそうだけれども特に。 

 さすが倉橋由美子が『偏愛文学館』で最後の最後に挙げた作家の小説である。それに倉橋由美子自身の作品「圭子さんシリーズ」には色濃く影響があったのではと思ったことである。

 読み直してみてあら、作品の影響か、ちょっとわかりにくい感想になってしまったと思う。

 要するに、小説の情景がどこかでみたような里山の風景に出会ったような、会話が人生の機微にふれるような普遍的なものを感じたということ。作者の奥深い素養が粋な境地をかもして、それに酔ってしまったところもある。






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最終更新日  2008年10月27日 21時24分13秒
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Re:『金沢』吉田健一(10/27)  
msk222  さん
最近、私的なことを吐露されていたばあチャルさんが、現在地に戻ったような。
最近、なんだか倉橋由美子に興味をもって書いたりしてきました。あの、男という性を意識過剰なほど敵視したような、見透かしたような…。
もっとも、それで女性のもつ一面を学ばせてもいただいているわけですが(笑)

先日の日記ですが、ごく近い友人が兄妹で親の遺した遺産をめぐって告訴にまで至る争いをしていました。もう、前期(?)高齢化という歳になって、肉親関係がズタズタになる最悪の状態でした。
幾ばくの財産が、その一家をみんなを不幸にしたわけで、つくづく僕の貧乏は正解だと思いました。
妻は、そういってくれませんが…。
(2008年10月27日 21時19分58秒)

Re:『金沢』吉田健一(10/27)  
薔薇豪城  さん
「何度も読み返したい」本に出会えた喜びが伝わってきました。本っていいですね。吉田健一は、日本の知性だと教わってきたのに、全然読んでいないんです。「金沢」読んでみたいと思います。 (2008年10月27日 21時28分20秒)

Re:『金沢』吉田健一(10/27)  
alex99  さん

一時、吉田健一氏のエッセイを集めていました
(読んでいましたと書かないところにご注意)
開高健と吉田健一の北陸でカニを食べるエッセイはたまりません
海鳴りの音が聞こえるよう

この小説、そんなにいいですか?
読んでみようかな?

「偏愛館」もばあチャルさんのお薦めだったので購入
ただし、肝心のその推奨小説類をあまり読んでいないのでその評価ぶりも隔靴掻痒の感あり
そのうちに順々に読んでゆこうと思っています
(2008年10月27日 23時07分41秒)

msk222さん  
ばあチャル  さん
>現在地に戻ったような。

そうなんですよ♪
こころ、精神、意識はいまさらですが不思議なものですね。

>最近、なんだか倉橋由美子に興味をもって書いたりしてきました。

mskさんのブログに倉橋由美子のことが書いてあったのですね。さがしてみます。

>幾ばくの財産が、その一家をみんなを不幸にしたわけで

ほんとに!ひとごとだといいんですけど。

>妻は、そういってくれませんが…。

わたしにはそれが禁句で…。でも絶対言ってない。言ってないと思う…(滝汗=朱鷺子さんのマネ)
(2008年10月28日 08時41分49秒)

薔薇豪城さん  
ばあチャル  さん
>本っていいですね。

ほんとに、ほんとに。だからわたしは本が大好きでうれしいです。でも、文章を読むって難儀なことでもあるんですよね。いつまでこの集中力が続くのかしらんと思うとちょっとあせります(笑)

>吉田健一は、日本の知性だと教わってきたのに、

言えます!でも、父上の吉田茂や現首相のお顔が浮かんでじゃま(失礼)しているような、損をされているような…(ああ、ミーハーでした)

(2008年10月28日 09時08分10秒)

Re:『金沢』吉田健一(10/27)  
きいぼ  さん
>本をずっと読みつづけることは、いい本を探して読むのではなく、いい本に巡り会うためなのだった。『金沢』を読み終わって至福の時間は過ぎたけれども、何度でも味わい返せるから惜しむことはない。

こういう本に出会えるなんて幸せですね。
ほんと、いい本に巡り合うための読書なのだと、本好きには、一つの大きな答えになった気がします。

吉田健一はまたしても未体験ゾーン。読みたい作家さんは増えてきて、どうしましょ~~と思ってます(笑)


(2008年10月28日 09時16分50秒)

alex99さん  
ばあチャル  さん
>(読んでいましたと書かないところにご注意)

ははは。それでこそ、です。

>開高健と吉田健一の北陸でカニを食べるエッセイはたまりません
>海鳴りの音が聞こえるよう

お読みになっているじゃありませんか(笑)わたしも太平洋側の人として、日本海のおいしい魚、料理、いつもなまつば、あこがれてます。みんな、かな?

>この小説、そんなにいいですか?
>読んでみようかな?

そうおっしゃられると、恐~。また矢が…。
(2008年10月28日 09時40分37秒)

きいぼさん  
ばあチャル  さん
>こういう本に出会えるなんて幸せですね。
>ほんと、いい本に巡り合うための読書なのだと、本好きには、一つの大きな答えになった気がします。

解説に吉田健一は「書棚には、500冊ばかりの本があれば、それで十分というのが」口癖だったとありました。本を読みつくした方の名言でしょうが、わたしたち(いえ、わたし)は、いまだに数をこなさなければいい本には巡り会えませんね~(笑)
(2008年10月28日 09時53分31秒)

Re:alex99さん(10/27)  
alex99  さん
ばあチャルさん
>>(読んでいましたと書かないところにご注意)

>ははは。それでこそ、です。

>>開高健と吉田健一の北陸でカニを食べるエッセイはたまりません
>>海鳴りの音が聞こえるよう

>お読みになっているじゃありませんか(笑)わたしも太平洋側の人として、日本海のおいしい魚、料理、いつもなまつば、あこがれてます。みんな、かな?

>>この小説、そんなにいいですか?
>>読んでみようかな?

>そうおっしゃられると、恐~。また矢が…。
-----

斎藤美奈子さんの件ですか?
実は私ばあチャルさんに謝らなければいけない
あの本を酷評しましたが、一部だけを読んで批評したのです
後で全部(に近く)(笑)読んでみると実に面白かった

遅まきながら、陳謝申し上げます

 <(_ _)>

(2008年10月28日 13時55分06秒)

Re[1]:alex99さん(10/27)  
ばあチャル  さん
alex99さん
>ばあチャルさん
>>>(読んでいましたと書かないところにご注意)
>>
>>ははは。それでこそ、です。
>>
>>>開高健と吉田健一の北陸でカニを食べるエッセイはたまりません
>>>海鳴りの音が聞こえるよう
>>
>>お読みになっているじゃありませんか(笑)わたしも太平洋側の人として、日本海のおいしい魚、料理、いつもなまつば、あこがれてます。みんな、かな?
>>
>>>この小説、そんなにいいですか?
>>>読んでみようかな?
>>
>>そうおっしゃられると、恐~。また矢が…。
>-----

>斎藤美奈子さんの件ですか?
>実は私ばあチャルさんに謝らなければいけない
>あの本を酷評しましたが、一部だけを読んで批評したのです
>後で全部(に近く)(笑)読んでみると実に面白かった

>遅まきながら、陳謝申し上げます

> <(_ _)>

あらら、よくおぼえていらっしゃる!
記憶力「しんけいすいじゃくゲーム」のよう(笑)
でも正直、嬉しいところでもあります。
(2008年10月28日 15時07分47秒)

Re:『金沢』吉田健一(10/27)  
きいぼ  さん
>開高健と吉田健一の北陸でカニを食べるエッセイはたまりません@alex99さん

>お読みになっているじゃありませんか(笑)わたしも太平洋側の人として、日本海のおいしい魚、料理、いつもなまつば、あこがれてます。みんな、かな?@ばあチャルさん

おぉぉ、日本海側に住んでる私。開高健さんが絶賛し、滞在中の4日間毎日通った(酔いどれ紀行)というフランス料理店「ル・ポットフー」が地元にありま~す。
吉田健一さんは、「酒肴酒」で、地元の銘酒「初孫」を絶賛しているらしいです・・・。

本に関係ない話ですいません。このお二人の名前を見たら、書かずにいられなくなりました・・・(笑)。
でも、私の憧れは築地の玉子焼き、そして築地で食べるお寿司だったりします。いつか食べた~い!






(2008年10月28日 15時50分00秒)

きいぼさん  
ばあチャル  さん

>おぉぉ、日本海側に住んでる私。開高健さんが絶賛し、滞在中の4日間毎日通った(酔いどれ紀行)というフランス料理店「ル・ポットフー」が地元にありま~す。

きいぼさんの料理する話の量が半端じゃない鮭のことといい、さんまやかれいのことといい、ああ、日本海の味よ~と思って拝見してますよ。

>吉田健一さんは、「酒肴酒」で、地元の銘酒「初孫」を絶賛しているらしいです・・・。

していますよ、してますよ。
わたしが読んだその名も『酒宴』という文でも、〇〇の「初孫」は
「軟らかに出来ていて、味も淡々として君子の交わりに似たものがあり、それでいて飲んでいるうちに何だかお風呂に入っているような気持ちになって来る。自分の廻りにあるものはお膳でも、火鉢でも、手を突き出せば向こうまで通りそうに思われて…(省略)…春風が吹いて来るのと一つになった酔い心地なのである」とべたぼめです。
飲みたくなるではありませんか♪

>でも、私の憧れは築地の玉子焼き、そして築地で食べるお寿司だったりします。いつか食べた~い!

たしかに築地は全国からおいしいものが集まってきますからね。贅沢なところですよぉ(笑)
(2008年10月29日 07時37分02秒)

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