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あるZoomの会議までに1時間ほど余裕があったので、暇つぶしにChatGPTの日本文学の教養度がどんなものか、次のような質問で試してみた。永井荷風の書いた短編「深川の唄」の中で、「秋の夜」という端唄が出てきます。歌詞は、「秋の夜は長いものとは、まんまるな月見る人の心かも、更けて待てども来ぬ人の 訪(おと)ずるものは鐘ばかり、数(かぞ)うる指も寝つ起きつ、わしゃ照らされているわいな」というものです。荷風は、どういう心境でこの端唄に引き込まれたのでしょう?一年ほど前の僕のブログに書いたように(「深川の唄」)、質問の文章は正確ではない。作品の中には、端唄の断片しか出てこないし、それが「秋の夜」と特定されてもいない。さてChatGPTはそんな間違いを指摘できるだろうか。あっという間に十数行の回答が生成された。その書き出しはこうである。「『深川の唄』は、深川の花街を舞台にした物語であり、主人公の女性と男性の禁断の恋愛を描いています。物語の中で、女性が夜の深川でこの端唄を歌う場面があります。」質問の文章の間違いを指摘するどころか、自信に満ちた調子で書かれたAIの回答は、顎が外れるほどに驚愕的な捏造だった。「深川の唄」に禁断の恋愛なんか出てこないし、主人公の女性が夜の深川でこの端唄を歌う場面なんかあるわけがない。深川という江戸情緒あふれた場所で、日本と西欧との両方に惹かれる荷風の心境を描いたものだ。その点を指摘すると、ChatGPTは間髪を入れず、「申し訳ありません。私の回答に誤りがありました。ご指摘いただきありがとうございます。確認の不足で誤った情報を提供してしまい、大変失礼いたしました」と謝罪の連発である。ひょっとして、永井荷風の別の作品で「秋の夜」を主人公が歌う場面があるのかも知れないと、確認してみた、「それとも、永井荷風の他の作品で『秋の夜』を女性が歌う場面があるのですか?」と。すると、AIの再回答は私の知る限り、永井荷風が執筆した作品の中で、女性が「秋の夜」という歌を歌う場面が描かれたものはありません。ただ、「秋の夜」という歌は、古くから日本の歌謡曲や浪曲などで歌われてきた伝統的な曲であり、永井荷風が深川で聴いたり、風情を愛でたりした可能性はあります。そのため、「秋の夜」という歌が永井荷風の作品に登場することはあっても、特定の場面や作品に限定されたものではないと思われます。一つ前の自分の回答で、「女性が夜の深川でこの端唄を歌う」と書いているではないか、なのに今度は「女性が『秋の夜』という歌を歌う場面が描かれたものはありません」と来た。この生成型AIは、自分の発言の歴史的な一貫性ということをまったく念頭に入れていないのだろうか。まるで政治家たちのようではないか。AIのいう「秋の夜」という曲が何なのかを探るため、続けて尋ねてみた、ちょっと意地悪く。「へえそうなんですか。その伝統的な『秋の夜』の歌詞を教えてください」と。しっちゃかめっちゃかなAIの回答の全文は「秋の夜」という曲には、複数のバージョンがありますが、代表的な歌詞を紹介します。秋の夜は 長いものとはまん丸の月 見る人の心更けて待てど 来ぬ人の訪ずるものは 鐘ばかりこの歌詞は、永井荷風の小説「深川の唄」にも登場するものと同じです。また、この歌詞以外にも、「秋の夜」という題名で、異なる歌詞の曲が存在することもあります。代表的な歌手としては、市川春代や森進一、美空ひばり、五木ひろし、北山修などが挙げられます。また、最近では、ポルノグラフィティがカバーしたバージョンもあります。いちいちこれらの歌手の「秋の夜」という曲を検証する暇もないので、ポルノグラフィティだけ検索してみたが、そんな曲はないようだ。あまりのちゃらんぽらんさに苛立ち始めた僕は、ポルノグラフィティに「秋の夜」という曲はないようです、と断定的に入力してみた。この捏造AIは「おっしゃる通りです。お答えが誤っていました。誤りをお詫び申し上げます。ポルノグラフィティは『秋の空』という曲を発表しており、混同してしまいました。申し訳ありませんでした」とすぐに前言を引っ込めた。何なんだこいつは、だいたい自分の答えに『お答え』とは何だ、もうこれ以上検証する気も失せ、Zoomの会議に参加することにした。現時点の生成型AIは驚くほどいい加減だ。知識の源泉としては役に立たない。感情を持たないし意見もないのだから話し相手にはならない。プログラミングを書く能力という点で可能性があるように世間では言われているが、試したことがないので不明だ。しかし、こいつの書くプログラムを信用していいのか、バグに塗れているんじゃないだろうか。
2023.05.02
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