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「60段階段」。以前、私が住んでいた横須賀の家は、階段を60段上った先に建っていた。しかも、その階段というのは、岩盤をツルハシのようなもので削った後、粒の揃わない砂利を混ぜたコンクリートで適当に塗り固められたものだった。その一段一段は、幅も高さもそれぞれが好き勝手に主張をして、ひび割れた隙間からは、逞しい雑草が「俺にも何か言わせろ」と顔を出していた。実はこれは戦時中に在日朝鮮人によって作られたものであると言うと、その造作の時代背景が判ってもらえると思う。私が子供の頃は、まだ周囲の防空壕も埋められておらず、よくその中に入って遊んだものだ。 この階段、訪れるゲストは皆決まって辛い表情をしたが、家に入るために必ず通過しなければならない自分にとっては、ごく当たり前のことだった。それは隣近所に住む90歳を越える老婆にとっても、素っ裸で走り回っていたその孫にとっても同じことだった。 しかし、日常の中に思い出は詰まる。高校1年生の春、まだ入部したばかりのラグビー部の練習の後、パンパンに張った太股が上がらなくて、四つん這いになりながら30分くらい掛けて上ったこともあったし、試合で鼻骨骨折をして顧問に送られて戻った時、母はそこを掃き掃除していたが、私の変わり果てた顔面に平静を装っていた。また、ある寝坊した朝は、不揃いの段差をものすごい勢いで駆け下りて、転がり落ちたこともあった。また、ある夏の夕暮れ時には、宙に向かって突き出したビワの木から山のように落ちたそのオレンジ色の果実をみんなで拾い合ったこともあった。また、大雪が降って巨大な滑り台のようになった冬の朝は、決まって隣のおじさんが早起きして雪掻きをしていた。そしていつも、どこかの物陰から出てきては私を出迎えてくれた「にゃあにゃあ」を私は胸に抱え上げて一緒に上った。 あの砂っぽいザラザラとした質感、猫の毛とドクダミ草の混じった匂い、風にあおられてざわめく木々の音、足を止めて振り返ると拡がっていた夕焼け空…。思い出の「60段階段」。今では自分も含め、そこを通る者はめっきり減ったが、いつの日かまた、上り下りを繰り返してみたい。
2002年11月13日
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そろそろ、また「にゃあにゃあ」の話の続きでもしたいのだが…。写真:夏の日のにゃあにゃあ
2002年11月08日
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ハートのマークの「MK」をご存じだろうか?1960年に京都で誕生したこの「MK」は、初乗り2km600円(他社660円)ワンメーター301m(他社274m)深夜割増20%(他社30%)の低額運賃(※いずれも東京都内の場合)、また黒塗りの車両にホテルマンのような制服・制帽の乗務員、さらにはその乗務員が降りてきてのドアサービス、全車禁煙等々のサービスで全国的に有名になったタクシー会社である。しかし東京都内の車両台数はたったの120台あまりで、手を挙げてたまたま出会える代物ではないらしい。しかし、先日それに出会った…。 例によって代官山で終電を逃してしまった私は、タクシーが洪水のように流れる駒沢通りへ出て個人タクシーが来るのを待つ。個人タクシーを嫌う人は割と多いが、初乗りが10円安いこと、乗り心地がいいこと、たばこ臭くない場合が多いことなどの理由から、私は割と良くそれを選ぶ。しかし、その夜も彼らは八幡通りや旧山手通りを私が帰る方向とは逆側の渋谷方面に向かって走っていくので、私は諦めて「有無を言わずに、次に来たタクシーに乗ろう」と心に決めた。次のタクシーはすぐに来たが、挙げた手に反応したそのクルマのお屋根の上のオブジェは、黄色いカタツムリでも、またはちょうちんでもなかった。 「キーッ」目の前に止まったそのクルマに近づこうとすると、運転手さんが横っ飛びしてこちらのドアから勢いよく飛び出してきた。そして「お待たせしました、MKタクシーです!」と元気良く言ったのだ。もちろんドアを手で開けてくれる。「ああ、これがMKタクシーか!」。 話を聞くと、その車両台数の少なさと群を抜くサービスから、ほとんど流しで走っているクルマはいないらしく、そのまだ研修中の身である運転手さん曰く「宝くじに当たるようなもの」らしい。自らを「宝くじ」(=当たりくじ)と称していることに気づいているかどうかは判らないが、まさに大当たりくじ。ブレーキの踏み方から会話の内容、そして運賃までまるでいつもと違っていた。 さっきまでの疲れなど何処吹く風。すっかり気分良く家の前に到着すると、またもや運転手さんの手によってドアを開けて頂いた後、制帽まで脱いで深々とおじぎされてしまいました。いやぁ、MKタクシーって本当に凄いですね。 さぁて、今夜もMKかなぁ?http://www.mk-group.co.jp/ http://www.tokyomk.com/
2002年11月01日
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