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2004.10.28
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カテゴリ: 近代文学
 大正7年に「時事新報」に連載されたもの。
 希望を胸にアメリカから帰国した若い医師が、親友に婚約者を奪われ、研究も失敗し、新たに婚約した相手も病死し……と次々に不幸に見舞われながら、周りに支えられ研究に意欲を燃やす。
 解説によると、これは、久米正雄自身が、夏目漱石の長女・筆子に失恋した体験を元にしているのだそうだ。筆子は、久米正雄の紹介で夏目家に出入りするようになった松岡譲(『漱石の思い出』をまとめた)と結婚したのである。

 菊池寛の小説と共通するのは、資産階級の話であること、登場人物が皆饒舌であること。
 純文学作家が大衆小説に手を染めた、と見ることもできるが、もともとこういうものを書く素地があったのだろう。
 それでも照れくさいのか、斜に構えた森戸子爵という登場人物が、偶然の出会いがあったりすると、
「下手な小説家が使いそうな邂逅だね」(p664) 
と言い、主人公が酒におぼれると、
「今の通俗小説家だってそんな古臭い趣向は立てないくらい陳腐ですね」(p712)

「こう云うところがなくては、読者に受けまいと思って拵えたヤマ場のようだね。併しこの作者は普通の通俗作家と違って、殆ど嘘は書かないはずだからね」(p721)とまで言う。
 もっとも、このせりふの「作者」は、久米正雄のことではなく、運命のことなのだろう。

(講談社「大衆文学大系」第7巻で読んだが、絶版)





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Last updated  2004.10.28 06:24:55
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