あの町を襲った土砂崩れから、もうすぐ 1 年が過ぎようとしている。
あの日、かつて暮らしていた町が土砂に覆われているのを見た時、これは天罰だと思った。
―鬼が来て、あいつらを生き埋めにしてくれたんだ。
木戸亜弥は、そんな事を思いながらテレビを消して自宅を出て大学へと向かった。
あの日から―あの震災から母はおかしくなり、あの町に住む新興宗教の教祖と生活を共にするようになった。
胡散臭い女に、木戸家は支配された。
母は女に心酔し、引きこもりの兄と共に家を出た。
残された父と亜弥は、町を出た。
東京に戻ると、あの町での生活がいかに異常だったのかがわかった。
あの町は、滅びて良かったのだ―そんな事を思いながら亜弥が駅へと向かっていると、彼女は高校時代の恩師―土方歳三の姿を見かけた。
亜弥が彼に声を掛けようとした時、土方先生の傍に一人の女性が立っている事に気づいた。
その女性は、土方先生の奥さんのようで、妊婦さんのようだった。
「待ったか?」
「いいえ。」
その人はそう言うと、土方先生に向かって微笑んだ。
その人は、あの沖田家の若奥様だった。
どうして、あの若奥様が、何故土方先生と一緒に居るのだろう。
そんな事を亜弥が思っていると、そこへもう一人少女がやって来た。
―荻野さん。
少女は、かつてあの町で高校の同級生だった、荻野真珠だった。
何故、彼女まで土方先生と一緒に亜弥がそんな事を思っていると、三人は何やら楽しそうに話しながら雑踏の中へと消えていった。
世の中には、知らなくていい事がある―そう思った亜弥は、三人と正反対の方向へと歩き出した。
土砂によって崩壊した町の高台には、その昔この町に巣食い、疫病を 齎 し た 鬼 が 陰陽師 に よ って 封じ 込 め ら れ た という 祠 が あ った。
その祠の封印は、何者かによって破られていた。
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