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2015.06.20
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( Jacques Le Goff, L’europe est-elle nee au Moyen Age? , Editions du Seuil, 2003 )
~藤原書店、2014年~


 2014年4月1日に亡くなった、フランスを代表する中世史家ジャック・ル・ゴフによる中世史の概論です。

 『思想』1083号、124-148頁は、池上俊一先生ほかによるル・ゴフへの追悼となっています。同じく『思想』1087号、136-150頁には、ル・ゴフ最後のインタビュー(池上俊一訳)が掲載されています。
『煉獄の誕生』(紹介記事は書いていませんが)、 『中世の高利貸』 など、ル・ゴフの著作は学生時代からいろいろと読み勉強してきて、その博覧強記ぶりや斬新な視点に感動してきました。あらためて、偉大な中世史家の冥福をお祈りします。

 本書の構成は、次のとおりです。

―――
コレクション「ヨーロッパをつくる」の創刊にあたって
はじめに

序章 中世以前

 I 異文化の混交
 II キリスト教化と統一
第二章 流産したヨーロッパ―八世紀から十世紀
 I シャルルマーニュの帝国
 II カロリング朝期の世界
第三章 空想のヨーロッパと潜在的ヨーロッパ―紀元千年
第四章 封建制ヨーロッパ―十一世紀から十二世紀
 I 農村空間の変化
 II さまざまな階層とその精神構造
 III 流動的キリスト教世界と封建制王国
 IV キリスト教精神の変容

第五章 都市と大学の「黄金期」ヨーロッパ―十三世紀
 I 都市の成功
 II 商業の成功
 III 教育と大学の成功
 IV 托鉢修道会の成功―大聖堂の時代

 I おびえる中世
 II 新時代の鼓動
 III ヨーロッパの地図
おわりに

謝辞
訳者あとがき
ヨーロッパ中世史年表(276-1495)
テーマ別参考文献
主要人名索引
地名索引
―――

 中世を中心に論じていますが、序章の中で、先史時代(地理的環境)にまで目が配られているのが興味深かったです。

 本書が切り取る約1000年にも及ぶ中世という時代には(実はル・ゴフは「長い中世」という概念を提唱しており、それによれば「中世」は19世紀頃まで続きますが)、それは数え切れない出来事、重要人物、技術革新などが起きています。本書は、いわゆる政治史的・法制史的な部分に特化することなく、できる限り広い視野を持ちながら、またその一方でポイントは明確に絞りながら、中世に生まれた「ヨーロッパ」の要素を指摘していきます。

 本書の中で、特に興味深く感じたところについて、メモしておきます。

 800年のクリスマスに戴冠されたシャルルマーニュは、教養・知識を奨励し、保護することに尽力しました。ル・ゴフはこう言います。「知識を奨励し保護することは、君主の基本的義務のひとつである」。現代(の、少なくとも日本)の状況を見ると、いろいろ考えさせられますよね。

 またこの時代、シャルルマーニュと取り巻き連中は宮廷アカデミーを結成していたそうですが、この会員たちに「古代をしのばせるあだ名」がつけられていた、というのも面白かったです。

 本書で最も興味深かったのは、15世紀のボヘミア王イジー・ス・ポジェブラトという人物の願いです。彼は、ある会議を提案しようと、一つの文書を残しています。その内容は実現されなかったそうですが、いわば「統一ヨーロッパ会議の最初のプロジェクト」(401頁)でした。飢饉、度重なる戦争で疲弊した時代、彼はその文書の中でヨーロッパ国家間の戦争放棄を宣言しています。「こんな戦争や略奪や争乱や火災や殺人が、キリスト教世界それ自体にほうぼうから襲いかかり、農村は荒廃し、都市は略奪され、地方は寸断され、王国や公国は多くの不幸にさいなまれていることを、痛切なる思いで報告せねばならぬ。こうしたものすべてがついに終わりを迎え、完全に消え去らんことを。そして、称えるべき連合を通じて、慈悲と友愛にふさわしい状態がまた訪れんことを」(344頁)。6世紀も前から、このような思いを抱く人はいました。それから6世紀の間に、世界はヨーロッパ規模どころでは収まらない戦争を経験し、また現在も、「痛切なる思いで報告」せざるをえない事態がいろんなところで起きています。15世紀のボヘミア王のように思えるのも人間、悲しい事態を引き起こすのも人間。

 なんともとりとめのないメモとなってしまいました。

 内容自体も興味深いですし、本書ではまた、テーマ別参考文献もとても役立ちます。邦訳が刊行されている著作については、邦訳の情報も補足されているので、本書を読み、さらに興味をもったテーマの勉強を進めていくのにも、良いガイダンスとなると思います。

『中世とは何か』(藤原書店、2005年)刊行時から、本書の刊行は予告されていましたが、もはやなかったことになっているのではと心配していました。邦訳が刊行されたことを嬉しく思います(なかなか原著にあたる語学力的・時間的な余力がないので…)。





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Last updated  2015.06.21 13:57:27
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