仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2022.05.29
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カテゴリ: 東北
男鹿半島で大晦日(昔は小正月の1月15日)の夜にナマハゲとよばれる鬼たちが家々を訪問する。ナマハゲは 神の側面と恐ろしい鬼の側面の両面を兼ね備えた存在 で、 来訪神とよばれる民俗神 である。日本では、ナマハゲ以外に岩手県のスネカなど、多くの 来訪神の行事 が伝承されている。

来訪神とは、一年の節目の日に、異界からやってくる神を意味するが、実際の行事では村の若者や子供たちが様々な面を被り仮装して神に扮して家々を訪れる。

ナマハゲは「ナモミハギ」が 語源 と言われる。冬の間に仕事せずにいろりに当たっていて、膝や手の甲などが低温やけど症状になった状態を火斑(ナモミ)といい、ナモミをはぎ取るの意味がナモミハギである。 怠け者を戒める のがナマハゲの語源ということになる。

ナマハゲの 起源

(1)漢の武帝が連れてきた5匹の鬼が悪事を働くので、村人たちは鬼たちが一晩に千段の石段を築けば自由を許し、できなかったら村から出ていくという条件を出した。鬼たちは夜明けまでに999段を完成させたところで、物まねのうまい村人が鶏の鳴き声を上げ、鬼たちはやむなく負けを認めた。以来、村人たちは騙した鬼から祟られないために年に一度ナマハゲの行事を行うようになった。
(2)異邦人の船が男鹿半島沖で難破し、その異邦人が山に住み着き、夜な夜な村に下りてきてナマハゲになった。
(3)修験の道場とされていた男鹿三山に住む荒神様が、怠け者を叱るためにやってくる。

(1)(2)は異文化の移入をイメージさせる話で、しかも大陸からの伝来を示唆するもの。ナマハゲ起源伝承に 大陸文化の痕跡が見え隠れする のは、大変興味深い。

一方で、岩手県(大船渡市など)に伝わるスネカは1月15日夜に家々を訪問して、冬に閉じこもりがちな子どもたちを戒め、健やかな成長を願う来訪神行事である。地域の青年たちが鬼とも獣ともつかない恐ろしい形相の面をつけてスネカを演じる。語源は、ナマハゲ同様に、脛(すね)にできる火斑をはぎ取るという意味といわれる。

スネカに関する伝承では、難破船からの異邦人説、交易船が三陸沿岸に伝えた説、など起源は定かでないが、おそらくナマハゲの影響を強く受けていると考えられる。そもそも来訪神行事は太平洋沿岸には少なく、日本海沿岸に多く伝えられているが、この分布域も考えるべき問題か。

ナマハゲもスネカも、 怖い性格と、新年に幸せをもたらす性格とを併せ持つ来訪神 である( 来訪神の両義性 )。柳田国男や折口信夫の学説では、日本の民俗神は基本的に 客人神(まろうどかみ)が本来の姿だった といわれている。来訪神はまさに客人神である。現代の日本人は神とは幸せをもたらすものと信じているが、このような信仰が古くからあったかどうかは疑問であり、おそらく日本人の古い神の姿は、 ナマハゲなどの来訪神のように二つの性格を持っていた

日本人はこの神の性格の両義性を受け入れ、都合の悪い面を無視したり拒絶したりすることのできない心性を有していたようだ。何か悪いことが起きるかもしれないという戒めにも似た心情を持ち合わせながら幸せを願うという信仰があるように思う。このような神や仏に対する両義的な意識が日本の基層信仰の中にあり、来訪神行事の中にその一側面が垣間見えているのでないか。

■出典 八木透『日本の民俗信仰を知るための30章』淡交社、2020年(2版)(初版2019年)
(おだずまジャーナルで要約しています。)

■関連する過去の記事
秋田美人を考える(再)
日本三大美人と秋田 (2016年1月31日)
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海の民、山の民 (2010年12月25日)
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秋田ナマハゲは秘密結社か 再論 (2010年5月20日)
なまはげと東北人の記憶を考える (10年4月27日)
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最終更新日  2022.05.29 21:13:15コメント(0) | コメントを書く


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