おしゃれ手紙

2007.12.01
XML
カテゴリ: 昭和恋々

四人で入ると、中が足だらけだった。
外から帰った冷たい足が新しく入ってくると、元の暖かさに戻るまでしばらく時間がかかり、私たちは掛け布団の裾を両手で押さえていなければならなかった。
こたつの上には、いつも蜜柑があった。
蜜柑の色を冬の風景の中の一点の温かい色のように言う人がいるが、私はそうは思わない。
あのころのこたつの上の蜜柑は冷え冷えと冷たい色に見えた。
いまでこそ一年中蜜柑を見ることができるが、私たちの子供のころは、家の中に蜜柑や柚子の色がなくなると、春がきた。
冬の温かい色と言えば、布団をめくって覗いた、こたつの底の炭火の色である。
薄闇の中で、それは小さな太陽のようだった。
そんな名残なのだろうか
春になってこたつがなくなり、畳で埋められたその部分は、そこを踏んで通るとき、気のせいかほんのりと暖かかった。

「昭和恋々:堀こたつ」 久世光彦

子どもの頃、家には、いわゆる掘りごたつはなかった。
どの家にもなかったので、知らなかったが、テレビを見て知った。
楽しそうなシーンにどうしても、堀ごたつが欲しくなった私は、ちゃぶ台を置くことを考えた。
ちゃぶ台を置いて、その下に炭を入れた寝る時に使う、小さなこたつを置いた。
そして布団をかけた。
上に置く板は、空想であることにした。
そうして作った「掘りごたつ」だったけれど、入って遊ぶことはなかった。
外で遊ぶことが楽しくてたまらなかったのだ。

■昭和恋々■

たとえば・・・私たちは、あの日のように雨や風の音を聴くことが、いまあるのだろうか。
このごろみたいに、夜は明るくていいのだろうか。
春を待つという、懸命で可憐な気持ちを、今どれほどの人が知っているのだろうか。

・・・あの頃を想うと心が和むが、いまに還ると胸が痛む。
久世光彦


バナー
ボタン


◎自然と人間が仲良く暮らしていたころの話です。
*おとごの朔日(さくじつ)* UP
・・・・・・・・・・・・・





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007.12.02 20:14:54
コメント(4) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Favorite Blog

2023年11月パキスタ… New! 隠居人はせじぃさん

『生命式』1 New! Mドングリさん

どんなハードボイル… New! hoshiochiさん

行儀は悪いが天気は… New! ぶどう^_^さん

『たずねびと』 太… New! あけみ・さん

Comments

天地 はるな @ Re[3]:昔語り:親戚の集まり(06/26) maki5417さんへ 当時、私は、自分の肯定間…
天地 はるな @ Re[1]:小早川家の秋★午前十時の映画祭(06/27) maki5417さんへ 1950年代か60年代のはじ…
maki5417 @ Re:小早川家の秋★午前十時の映画祭(06/27) 東宝作品とは知りませんでした。 小津監…
maki5417 @ Re[2]:昔語り:親戚の集まり(06/26) 天地 はるなさんへ 表には出さないけれ…
天地 はるな @ Re[1]:昔語り:親戚の集まり(06/26) さんへ 当時は、大学に行くと縁談がなく…

Keyword Search

▼キーワード検索

Calendar


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: