ピカルディの三度。~T.H.の音楽日誌/映画日誌(米国発)

May 25, 2007
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「酒と泪と男と女」

 今夜はシューベルトのトリオに挑むことになってて、僕もすごく緊張してたのは事実。一応平静を装ってはみるものの、難曲を前にイマイチ気が乗らない。
 ポール(チェロ)もセス(ピアノ)も同様の動揺を感じていたようで、当然の成り行きとして 一杯呑んでから 練習を再開することになった。

 ちなみにポールは、普段は場末のクラブやバーでダブルベースを弾いている。いわゆる「夜の男」で、酒が入ると饒舌になり、オンナとギャンブルの話で盛り上がる。
 内心、ちょっと心配だったけど、ほろ酔い状態のまま練習スタート。

*****

 この曲、ロマン派のピアノ三重奏のなかでたぶん一番難しい。

 わかりやすいフレーズで元気よく四拍子で曲が始まるので、おぉっ!と気持ちが高ぶる。
字余り なのでズッコケる(笑)。せっかくの昂揚感がうろたえる。

99

 そしてその後も、期待させといては意外な調に転がったり、フレーズが終わらないうちに次のフレーズが始まっちゃう。調子に乗ったころに、ふっと rit. と a tempo が出てきたり。

 なんて言うか、弾いててひたすら疲れる。名曲であることに異論はないけど、弾くよりも聴くほうが楽しそう。
 そして、さんざん振り回されて、もうダメだーと諦めかけたところで、単純で美しい旋律が出てきて心が洗われる。この繰り返し。そうゆう「アメとムチ」な演出もまた心憎い。

 全体的に幸福感に満ちてるのに、どこか世紀末的な退廃と言うか、寂寥感、虚無感が漂っているのもこの曲の特徴。特に2楽章。
 宮廷音楽会で弾けば貴族にも好かれるだろうし、酒場で弾けば赤ら顔の庶民にも受け入れられるタイプの不思議な楽曲。終楽章(4楽章)がクドいのに目をつぶれば、長い曲だけど重すぎるということはない。

 ちなみに、シューベルトの室内楽って、この曲に限らず、チェロにとってはかなりクセがあって弾きづらそう。
 実際、ポールは汗をかきながら、「Oh, xxxx!」とか、「なんだこのxxxxing で xxxx なパッセージは!」とか、ぶつぶつ放送禁止用語を発しながら弾いてた。

 弾けてないのはお互いさまで、僕も最初は半分泣きべそかきながら弾いてたけど、途中で吹っ切れた。ポールの発する卑語を聞いていたら急に可笑しくなって、ゲラゲラ笑いながら弾き続けた。こんな難曲、そうでもしなきゃ弾いてらんない。

 一般にピアノ弾きはシューベルトに抵抗感のない人が多いから、セス氏にとっては特に違和感はなかったらしい。ただひとり冷静に弾きこなしていた。



 シューベルト嫌いの自分ではあるけど、この曲だったらもしかしたら弾けば弾くほど楽しめるようになるのかもしれない。そして、こうゆう曲はできればプロの方からきちんとレッスンを受けて教わってみたい。

 ま、ポールは決して賛同してはくれないと思う。
 彼は、「ったく、シューベルトってヤツは……。」とか言いながら、千鳥足で夜のしじまへと消えていった。





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最終更新日  May 28, 2007 03:11:19 AM
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