こんな国に生まれて…日本狼…純粋バカ一代…山崎友二

こんな国に生まれて…日本狼…純粋バカ一代…山崎友二

2021.02.13
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カテゴリ: 純粋バカ一代
【1】
神戸の震災の後に仕事に行くべきだと、会社まで変わったのだけど、北海道で1本現場をやってくれないかと言われた。部長まで出てきてたのむと言われては断ることもできずに、承諾した。
これがサラリーマンの宿命かと思った。自分の希望だけ通るわけではないのだ。会社のことも考えなければならない。しかたない半年間の仕事らしいが、それを終わらせてから、神戸行の希望をもう一度言ってみようか。会社の意向も一度飲んだんだから、次は従業員の希望も叶えてくれるだろうと、甘い考えで北海道行を決めた。
北海道の現場を1本終わらせて、直属の課長に電話で相談した。震災後の復旧工事に行けると思って中途入社した会社なんだから、どうか神戸に行かせてほしいとお願いした。
課長の尽力で、どうやら、西日本支社に出向という形で、神戸に行けることになった。

【2】
自分の車を持っていくことにした。
横浜から神戸までの移動。距離500km以上と見た。当然、全線高速道路を使うことにした。
途中、パークイングエリアでは、トイレ休憩と缶コーヒーを買うために立ち寄った。
たしか、静岡の磐田パーキングエリアだったと思う。立ち寄ったが、車を駐車場に置いて、トイレまで歩いていくのが面倒なので、トイレ前まで、車を乗りあげた。
4WDなので、20センチほどの段差は難なく乗り越えた。もちろん、車を乗り入れてはいけないところと知っていてやった。
トイレを済ませて、出てくると、車の横に初老の警備員が立っていた。
「これ、あんたの車か?」
「そうです」
「そうですじゃないよ。なにやってるんだよ」
「なにやってるか?トイレ休憩ですけど」

【3】

「トイレじゃないよ!。どこに車止めてるんだよ!」
「ええと、ここは、トイレ前ですけど」

「そうですね。だめですよね。すぐ移動しましょう」
「移動しましょうじゃないよ!だめなんだよ!」
「はいはい、すぐ出発します。トイレも済んだんで、もう用はないんで」
と、車に乗り込んだ。警備員は窓の横に来た。
「おいおい!どこ行くんだ!」
「え、本線に戻るんですけど」
「本線に戻るって…逃げるのか?」
「はい、逃げます。それじゃあ。さようなら。お元気で」
「おいおい」
まだ制止しようとする警備員を振り切った。

【4】
本線に戻って、時速100kmほどで走っていた。それ以上出しても、速度違反より、長距離ドライブでは疲れると考えていた。
後方から、赤色灯をつけたパトカーがぐんぐん近づいてきた。交通機動隊か高速機動隊と呼ばれるものだな。俺の車を追い抜くと、車の前でスピードを落とした。
パーキングエリアの老警備員が警察に通報したんだろうか。パトカーは、後ろの俺の様子を見るように、しばらく俺の車の前を走っていた。
次のインターで降りるように誘導されるだんだろうか。俺は、窓を開けて、風に手をかざして、平気な振りをしていた。
パトカーは、俺の車の横に来て、並走する形になった。車種はスカイラインだな。高速道路に使用されるんだから、早いんだろうな。
助手席の窓がすーっと開いて
「どこまで行くんだ?」と聞いてきた。

【5】
「神戸まで」と、大声でつっけんどんに答えた。
警官二人は、なにか話してるようだった。俺は、「この車『GTE』?」といやみを込めて言った。警官は「『GTS』だよ」と、なめんなよといった態度だった。
また、警官二人はなにか話しているようだった。助手席の警官は俺に向かって言った。
「眠くなったら、休んでけよ」
「はい、了解!」と、敬礼してみせた。
「じゃあ、俺たちは行くからな」と言って、パトカーの窓は閉まった。
まだこちらを見ている警官に、再度敬礼をした。助手席の警官は、何か言って前方を指さすと、パトカーはびゅ~んと走って行って、どんどん見えなくなった。
神戸復興関係の車と知り、俺を見逃したな。たぶん。かっこよかったよ。
(終)





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最終更新日  2021.02.13 07:18:09
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