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つつ、つ。 ニルロゼが、左足を前に出す。 流石に、今までニルロゼに切り込んできた剣士達は、そのただならぬ様子に、互いの目を交差させた。 この少年は、自分達の敵う相手ではない。 殺気を感じない。 闘気も感じない。 いや。 こうして目の前に立ってはいるが、その気配も、断っているから、ひとたび目から離れれば、どこに居るか判らなくなくなるだろう。 その少年が、剣を構えている。 11人のいい年をした大人達は、ひたすらに、これから何が起こるのかを、恐れ、少年の背を見つめていた。 ひゅう! 矢が飛んできて、一人の大人の足の前に、刺さった!「おい。 弓使いが、どうやら・・ 見物は許さない、と言っているぜ」 ニルロゼが、振り返りもせずに言った。 大人が・・・ ゆるり、と立ち上がる。 ニルロゼに、剣を向けた。「へへ。 あんた、覚悟あるのか・・・」 ニルロゼが・・・・ 後ろなど全く見もしないのに、そう言ってくる。 ひゅっ! ニルロゼの脇をかすめ、矢が! 少年を狙った大人の剣に当たった。「だから言ったろう・・・ 見物は、許さないようだぜ、おじさま方」 ニルロゼは、ゆっくり、大人の一人を振り返った。「さあ。 俺に斬られて死ぬか? 嫌なら、さっさと出て行け」 ぎらり。 少年の剣が陽を反射した。「さあ、行くんだな・・・ 次の矢は、あんたら誰かに当たる。 結局、俺らの邪魔をする奴は、死あるのみ」 背の高い少年が剣を掲げている・・・ 大人たちは・・・ ゆるゆると、立ち上がると、のろのろと、庭を出て行き始めた。「さあ。 弓使い。 顔をみせてもらおうか・・・ この俺に、剣を抜かせる者の顔」 ニルロゼが、さほど大きな声を出したわけでもないが・・・ 東の樹の脇から。 ひとつの影が、姿をゆっくりと、現す。 ニルロゼは、剣を下に下げた。 相手にも気配と殺気がない。 ここまでできるとは・・・。 よほど鍛錬された、者だ・・・ 何者だ? ひょうう・・・ 少しだけ、風が出た。 ニルロゼは、東の鍛冶の剣を握る手が・・・ 思わず、震えた。 その蜂蜜色の瞳に、捕らえた人の姿があった。 少年は、相手の顔を見た。 そして、その相手も。 相手は・・・ ニルロゼと、同じくらいの年代の・・・ 少年であった。 少年二人は・・・ ただ、黙って。 何も言わずに、見つめ合っていた。 どのぐらい・・・ 二人は、対峙していたのであろう。 ようやく、相手の少年が、一歩。 ニルロゼに、近づいた。 皮でできた鎧を着込んでいる。 陽に焼けた顔。 黒く短い髪。 更に、二人の距離は近づいた。 彼らは、互いの武器を、ただ、”持っている”だけだった。 また、一歩と、近づく。 とうとう、二人は、あと二歩で、ぶつかるかという距離に、近づいた。 お互いの瞳に・・・・ 相手が、焼きつく。 黒く、短い髪の・・・弓使いが、初めて、そこで、ニヤリ、と笑った。「貴様、名前は」 ニルロゼも、ニヤリと笑い返した。「そういう貴様は」 二人は、少し離れ・・・ 互いの様子を観察しはじめた。「貴様は、なぜここに・・・?」 相手が言ってくる。 ニルロゼは、剣を仕舞った。「俺は、ビアル様の、お眼鏡にかなった料理人さ」「ほう」 相手も、弓を背に背負った。 二人は、何度もお互いを見つめ合った。「それで、貴様はなぜここにいる」 ニルロゼは聞いた。「・・・西の方に、住んでいる。 が、最近住みづらくなった。 仲間と、出て行こうと思っている・・・ 金が必要だ。 俺も、王のお眼鏡にかない、ここに通って金を得ている」 ニルロゼの瞳が細くなった。「そうか・・・・」 ニルロゼは、目をかるく瞬かせて言った。「その、西の方とは、ここからどのぐらいだ」「・・・200アワー・・」「そうか・・・」 ニルロゼは、ゆっくり、足を下げた。「弓使い。 いずれ会おう」 言うと、もう弓使いに背を向けた。 黒い髪の少年も、弓を再び取るそぶりなどなく、ニルロゼの背を見送る。 ニルロゼ・・・ ニルロゼ!!!! そう、呼んだ声が聞こえたのか・・・ ニルロゼは、弓使いを振り返った。 かならず行く! きっ、と、空気さえも斬れるような表情を、弓使いに見せ・・・ ニルロゼは、中庭を後にした。 アモ。 生きて・・・ 生きていたか!!!! すばらしい弓使いになっていたか! ニルロゼの瞳から、涙が溢れた。 アモは、ハーギーで互いに琢磨した大切な仲間である・・・ どおりで、似たような雰囲気を感じるわけだ! まさか、このような処で遭うとは・・・ 以前、あの樹の上で誰かが射てきたが・・・ アモだったのか。 俺に気が付いて欲しかったからか!! あれから、ハーギーを出た仲間は、4つにばらばらになった。 アモよ・・・ お前は、そのうちの一つに入ったはずだ。 そのうちの一つが、もう・・・ 居づらい場所になっているというのか・・・・ ニルロゼの若々しい顔に、苦い表情が浮かんだ。 俺らは、なにもかにも滅茶苦茶なハーギーから出て・・・ ”自由”になったはずだ。 しかし、”自由”は・・・急に得る”自由”は・・・ 少年は、王宮の中へと戻ると、長い廊下へと足を運びいれた。 陽光が傾いて彼の背を追いかけ、忽ち廊下に長い影が伸びる。 俺ら、あの狂った場所から。 出たかった。 それだけだ。 なのに、もう、それが・・・狂ってきているのか・・・ ニルロゼの右手が・・・ 美しい彫刻の施された壁に、当てられた。 ニルロゼの頭も、その壁に、寄りかかる。 少年の頬から、涙が消えなかった。 まだ・・・ まだ。 あいつは、いきている・・・ だから、俺らは苦しみ続けているんだ! あの、・・・ あの、あかい、 赤のもの!!!!! 早く、見つけなければ。 赤の、核。 ビアル・・・ ビアル。 あの、俺に触れてくれたビアルの手・・・ あの手なら。 俺は、俺は、赤をみつけるほど、”みえない”・・・ ビアル・・・ お前ならば・・・ トン、トン。 美しい扉が叩かれた。 中から、声がしない・・・ トン、トントン。 背の高い少年は、しつこく水色の扉を叩いた。 あれ? おかしいなあ~・・・ 入っていいのかな? 少年、ニルロゼは、”おじゃましまーーーーす”とつぶやきながら、扉を恐る恐る開いた。 と、中には、誰も居ない・・・ 頭を捻りながら、ニルロゼは、左右を注意深く見・・・ 本が置きっぱなしの机に近づいた。 どうしたんだろう? 誰もいないが・・・ どこに行った? ニルロゼは、腕組みをした。 全く、ビアルは困った奴だ・・・ そう思いながら、開いた本を閉じようとした時。 どきり。 ニルロゼの心臓が大きく鼓動した。 本に、紙が挟んである。 ビアルの字が書いてある。 うっ。 ニルロゼは、口をひんまげて、その紙を見た。「赤い部屋にいます」 紙には、そう、書いてあった。 ああ、俺は、赤い色が。 いやなんだよおおおおおおおおお 泣きそうな顔をしながら・・・ 蜂蜜色の髪の少年は、のろくさと、長い廊下を歩いていた。 ああ、やだやだ。 あの赤い部屋に、かよ・・・ 少年ニルロゼは、しかし、そこで、考え込んだ。 そういえばなんで、いちいち部屋を変えるんだろう・・・ というか、赤い変な奴と。 あの、青い衣装のお姫様。 お姫様が、二人。 ビアルは、二人のお姫様のお相手をしているのか・・・? でも、今はよりによって、赤いお姫様、か・・・ ニルロゼは、チッと舌打ちした。 そして、そっと右肩に彼は触れてみる。 袖で隠れてはいるが、そこには忌まわしい痕が残っていた。 自ら切り取った赤の紋章。 赤のメルサ。 赤のハーギー。 赤は・・・俺にとって赤は・・・ ニルロゼの瞳が、ギラギラと燃え上がる。 つい、我を忘れたニルロゼは、誰かが近くにいることに、ハッと気が付いた。 いつもの彼なら、かなり前から気が付くはずである。 どきり、とした。 唇を噛みながら・・・ ゆっくりと、振り返る。 少年の目の前に・・・ふくよかな体型の、素晴らしい衣装を着た男性・・・ 国王が、立っていた。 ニルロゼは、軽く目を細めた。 国王・・・ 少年は、国王にどのように接していいのか、計りかねた。 まずは、深々と頭を下げた。「ニルロゼ、だったね」 国王が、気品のある声を発した。「・・・」 言われた少年は、黙って国王の姿を目に捉える。 ニルロゼの方が、背が高い。 国王は、にこやかに、ニルロゼに笑いかけた。「君は・・・目覚まし以上に、剣が上手なようだね・・・」 ニルロゼは・・・ 軽く、足を下げた。 誰かが闘いの様子を見ていたとは思っていたが・・・ 国王が、見ていたか。「いえ、ほんの少し、護衛程度ですよ」 ニルロゼは、相手を品定めするように、ゆっくりと、左足を、ずらす。「護衛ね・・・」 国王は、あくまでおだやかに笑っている・・・ 国王は、いきなりくるりとこちらに背を向け、向こうに歩き出した。「ついて来るがよい」 国王は、さっさと歩き出した。 ・・・ ニルロゼは、黙ってその背を見つめていた。 国王が、廊下を曲がりきった時に。 ようやく、ニルロゼは、その方向へと、ゆっくり足を進めた。 どこぞでも、俺は行くぜ。 ただし、最終的には、ビアルちゃんのところに、俺は戻るぜ。 なんたって、ビアルを起すのは、俺の役目だからなあ・・・ ニルロゼは、美しい絨毯を踏みしめ、国王の消えた角へと向かった。 なにが、起こっても、俺は。 斬り結び、潜り抜け、そして再び前を見る! あの赤をみつけるまで!!!! 赤を。 赤を、斬る!!!! ビアル! 俺に、示してくれ! 赤への道!!
August 31, 2012
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赤い部屋には。 アレは、いなかった。 目の前のビアルの肩が、やや、下に下がった感じがする・・・ ビアルは、くるりと方向転換をした。「あちらにいらっしゃる様です」 ビアルは、赤い部屋を出て、廊下をまた歩き出した。 どういう事だ・・・? ニルロゼは、事の次第が全く理解できていなかった。 とりあえず、あの恐ろしい、赤いヤツは、国王の娘、らしいという事は判った。 そして、そしてこのビアルは? 国王の、なんなんだ? 国王の・・・ ニルロゼは、腰に付けた東の鍛冶の剣に指先をあてた。 ンサージの剣を・・・ あの、戦いで。 ンサージの剣を持っていった。 それが、ハザの、国王! ハザには、何人か、国王がいるという・・・ ニルロゼの瞳が、揺らめいた。 ンサージ・・・ ぼーっとしていると、長身の彼はビアルにぶつかった。 ビアルは、なにも言わなかった。 にこりと、美しい微笑を見せる・・・ 目の前には、これまた美しい彫刻がびっしりと施された扉があった。 どうやらこの部屋に、入るらしい。 ビアルは、扉を叩いた。「入ってよろしいですか?」「まって」 女性の声が中から響く。 暫く待つと、ようやく、扉が中から開いた。「お待たせしました、ビアル・・・」 外に向けて開けられた扉によって、ニルロゼは、その室内を目にした。 淡い水色を基調とした、統一感のある部屋であった。 女性は、軽くニルロゼを見ると、扉にちょっと隠れた。「・・・ビアル。 あの方は・・・?」 ビアルは、その女性に、優しげに手を触れた。「ご安心を、姫。 私の、専属料理人です」「・・・まあ・・・」 姫、と呼ばれた女性は、ゆっくり、扉から姿を現した。 上品な青と水色で、美しい花があしらわれた服を、上手に着こなしている。 あまり、美しいとは形容しがたい顔つきや、体型であったが、流石に「姫」たる貫禄があった。「はじめまして。 ビアルの、大事なお方ですか?」 ニルロゼは、戸惑いながら、ぎこちない動作で腰を半分に折った。「は、は・・大事な、というほどでもないですが・・・」 ニルロゼは、ビアルを必死に見たが、彼の表情はまったく変わりがなく・・・ いったい、ドーなってんだよーーーーーー!?!?「ねえ、ビアル。 わたし、また、変な衣装を着ていたのよ・・・」「お気になさらずに。 お病気は、いずれ、治して差し上げますよ。 さあ、それより、今日は、メンガーの本を読むのでしたでしょう?」 ビアルのその言葉を聞くと、女性の顔がパッと華やいだ。「そうでしたね! ビアルはいつも、朗読がうまいわ・・・ それでも、今日は、ずいぶん遅かったわね。 大丈夫なのですか・・? 疲れてはいないのですか・・・?」 ビアルは、にこりと笑った。「大丈夫ですよ・・・ この、脇に居る料理人。 私の目を覚ますのも一級品なのです」 水色の美しい机で、3人は、ビアルの朗読で本を読んだ。 ニルロゼも、富豪に本を見せられたことがあったが、全く見たことのない文字であった。 ビアルが、途中で、美しい瞳をニルロゼに向けた。「ニルロゼ。 あなたに、興味を持っている人が、何人か・・・ いますね」 ニルロゼは、肩を竦めた。「俺は興味ない」 ビアルは本をめくりながら、姫の方を向いて言った。「かもしれませんが、ヤツラの暇つぶしになってやってください。 私から、王に頼んでおきましょう。 あの方々、ひねったら、王の料理長の腕を見せていただけるように、と」 ニルロゼは、蜂蜜色の瞳を大きくさせた! こりゃ、ビアルはいい事いう! そっかーー! そっかーーーーーーーー!!!! 急にニルロゼはやる気が出てきた! ふふふ。 あの料理を作った料理長に合間見えるのか!!! そうだった。 今下の方でニルロゼに興味の視線を刺しているあーーんな雑魚どもは、彼にとって速攻”ひねって”やれるってものなのだった! かくして大きな中庭に。 背の高い少年が、ぶらり、とやって来た。 はいはい。 11人ね。 少年は、つまらなそうに、庭の真ん中に歩み寄る。 凡人には、この庭に。 誰かが居るとは、目に見えないであろう。 と。 急に、ニルロゼの表情が変わった。 いきなり少年は、背をきちんと伸ばした。 足を軽く肩幅程に広げる。 その瞳を、東に向けた。 誰だ? 明らかに。 自分と近い力を持っている者がいる・・・ 蜂蜜色の髪の少年は、軽く瞳を伏せた。 まだ、だ。 この剣を抜くのは。 あの相手に顔は向けない。 その手はまだ、体から離れている。 と、左手が動き、短剣を抜いた。 バッ! と音を立て、左側から切り込む相手の剣を叩き落す。 邪魔だ! 俺の相手はあの東の奴だ! 右。後ろ。 3人に囲まれる。 ああ、何人でも来い。 さっさとな! 7人の剣を落とした。 剣の峰で相手の手首を叩いているので、しばらく相手は剣が持てないであろう。 あいつの動きはまだか。 ・・・! 弓か! ひゅっと突然飛んできた矢に、はっと瞳を開け、右側にのけぞった! ニルロゼの右脇を、弓が通り過ぎた! 蜂蜜色の髪の少年は、右手をゆっくり・・・ 東の鍛冶の剣にあてがった。 すらり 剣を抜く。 東の鍛冶の剣は、鞘は、全くの「普通の」鞘であるが。 ひとたびその鞘から剣が抜かれると、剣が”普通”でないことは、誰の目にも明らかであった。 美しく、煌いた。 やや短めの剣である。 ひゅう。 構えた。「・・・わかった・・・ 俺が、広場で踊っていた時・・・ 木の上に居た奴だな・・・」 カチリ! 目の前で、剣を掲げた。「お前は邪魔だ!」 叫ぶと、左手の短剣で、切りつけて来た相手の手を叩く! ニルロゼは、恐ろしい形相で、すさまじい言葉を放った。「俺の相手はただ一人だ! あんたら、本気の俺の傍に居たら死ぬぜ!!!」 わたしは、人の世とてきとうの神の世界とを行き来し、世の情勢をてきとうの神に報告すると言う使命を帯びた。 だが、どうやら、「自分の好きな場所」に行けるわけではないようであった。 ラ家の紋章が消えた体になってから初めて大地に降りた時も、どこに降りたかのはわからなかった。 どうしても、我がミョールの大地に触れたいと、てきとうの神に頼み込み・・・ 一度だけ、ミョール大陸に行ったが・・・ その後からは、降りるたびに、着く場所が違った。 わたしは、色々な方々と話をした・・・ どうやら、”戒”が・・・ 人々の生活を脅かしている。 てきとうの神が言っていた。 魂をたべる神がいると・・・・ いや、魂をとっていくのは、てきとうの神も、同じなのだが。 てきとうの神は、どうやら、その魂を生まれる魂に戻しているようだ。 魂をたべる神は、ひたすらに、食べるだけなのだろうか? 食べて、食べて、どうするというのだ? わたしは、”戒”の姿を捉えてみようと思った。 以前ミョールの民が苦しんでいたのも、”戒”の行いによるものかもしれない。 我がミョール神も、”戒”に食べられたという・・・ ほんとうだろうか? 正しいこととは。 なにか。 それは、わたしが見る。 わたしは、黒き者との接触をはかることから、始めた。 ”戒”の落とし子、黒き者ども・・・ 人々を惑わし、”戒”に魂を運ぶという。 ミョール。 見ていてください・・・ わたしは、わたしの信じる道を。
August 14, 2012
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