2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
全20件 (20件中 1-20件目)
1
「手をお出し。ほら、良い子だ。いいかい?この時計は世界に一つしかない時計だ。決して、手放してはいけないよ?」父はそう言いながら僕の手を強く握り締めた。「うん!僕、絶対失くさないよ!」「そぉだ。英雄は賢い奴だ。」そう言ってニコニコと笑った。そして、再び表情を変え強く手を握る。「いつ、どんな時だって手放してはいけない。良いね?これを死ぬまで守り通しなさい。」「…」「返事は!?」「は…はい…。」その時の父の形相は、今考えても恐ろしい。その次の日、父は亡くなった。それから、およそ10年がたつ。もう、あの時の少年は歳にして17になっていた。「ほら、遊びに行くぞ!!」「よっしゃあ!英雄の機嫌が良いぞ!今日は英雄のおごりだぜ!!」「ったく、お前んち、ほんと、親父もいないのにどこからそんなに金が出る?今日は一体いくらもってんだ?」「ん?地道な努力さ。今日は…ざっと10万ぐらいかな?思いっきり遊ぼうぜ!」英雄がお金を大量に所持しているのは、当然努力なんかじゃない。かといって、英雄の家は決して裕福ではない。母親は、朝から夜まで学費の為に働いている。ならば、お金はどこから出ているのか。それはおよそ4年前の事だった。まだ、中学生だった英雄は幼く、まだまだ少年だが、好奇心旺盛で、まさに“良い子”だった。授業中、父の命日の前日に貰い受けたアナログ式の腕時計をいじっていた。すると、時計盤の横に小さなネジがあり、それを押す事が出来る事に気がついた。何かに設計ミスだろうと、英雄はいじっていた。すると、小刻みにそのネジを三回押したとたん、秒針などを覆うガラスがパカッと開いた。最初はなんてオンボロなんだ、と父の形見をぼろくそのように思った。当然、その時はまだ、父がどうしてあそこまでこの時計に拘っているか知らなかったから。しかし、刻々と動く秒針をを、ふと押さえてみたくなった。そっと指を添え、秒針の動きを奪った。時計に大した変化は無い。しかし、周囲がいやに静まった。授業中なのにチョークの音も無い。英雄はふと顔を上げると、みんなマネキンの様に動かない。「ど、どうしたんだ!?」叫びながら時計から手を離し、立ち上がると周囲の冷たい目と笑いが起こった。「英雄?眠ってたのか?しっかりせんかい!」「あ…はい…」最初は見間違いだろうと思い込んだ。しかし、あの感じは不自然このうえなかった。しばらく考え込み、まるで漫画のようだが、この時計が時間を支配しているのではないか、と自分でもあきれるような結論に至った。そして、再び秒針をそっと押さえた。静かに教室に目を向けると、目の前で、筆箱が空中で静止していた。そして、教室も先ほどと同じように、皆マネキンのように固まった。ゆっくり針から手を離した。すると、大きな音を立てて筆箱が落ちた。その時、妙に何かをかみ締めたように握りこぶしを作った。そして、再び別の考えが浮かんだ。この針を戻せば、時間が戻る…?ゆっくりと針にさわり時を止める。そして、巻き戻す。すると、ビデオの巻き戻しのごとく、教室の中は、逆向きに動いた。そして、筆箱は机の上に独りでに戻った。机の上に筆箱が戻った状態で、針から手を放した。また、筆箱が床に落ちた。顔が、にやける。頭の中から、抑制していたモノが飛び出すような感じがした。時を戻そうと思うと、秒針の付け根に先ほどまで無かったと思われる小さな出っ張りがあった。何かと思い、押してみると、今度は世界が早送り。元の時間に戻った。この時計は、確かに“世界に一つ”だ。それを痛感すると同時に、英雄の中の悪が目覚めた。それから、容易には気付かれないようなありとあらゆる犯罪をした。未来に行って犯罪を犯す。そして過去に戻る。もう、誰にも捕まえられない。その繰り返しで、金は腐るほど手に入った。もう、英雄の中で悪と正義の区別はなくなっていた。「あぁ~まじ楽しかった。さすが、英雄。太っ腹!」「は!褒めたって貴様の為に使う金などねーよ!女の為なら幾らでもはたくけどな。」「英雄らしいねぇ。ま、また今度おごってくれよ!」「良い女がいたらな。」数人いた男たちは笑いながら英雄の家の前で別れた。そう、英雄は全てに恵まれていた。全てを手のひらで転がせていた。なのに、幸せではなかった。むしろ、不幸だった。世界に一つの時を計る力を持ちながら、日に日にやつれていった。英雄の中の“良い子”は決して偽善ではなかった。彼の良心が数々の犯罪を毎晩、悪夢となって彼を唸らせた。しかし、その力は麻薬のように彼の悪を魅了し、彼の善をかき消した。そんな毎日だった。ある日、英雄はその時計を落とした。どこで落としたかは定かではなかったが時計のひもが千切れたようだった。英雄は笑った。これで幸せになれると。これで開放されると。数日後、彼は自殺した。長い間、時計に頼って生きてきた彼に、生きる力は無かった。数々の不憫に耐え切れず首を吊ったのだった。時計はどこに行ったのか。それを探す事は不可能だろう。ただ、今日もどこかでその力は人々を魅了し、その力で人を不幸にしていく。そして、時計を手にした者は、ことごとく死を選択していった。
2005/05/31
コメント(0)
特別な人のために、僕は旅に出る。荷物は一つ、この手紙だけ。目的も一つ、君を忘れるため。昨日の夜、手紙が届いている事に気がついた。ポストの隅に、隠れるように潜んでいた。僕宛の手紙。送り主は、君。この手紙をいつ書いたのかは知らない。でも、今ちゃんとこうして君の手紙は僕の手元に届いた。そして、ようやく君の言葉を受け取った。その手紙を読んでいると、たちまち涙が溢れかえってきた。しばらく君に会っていないせいか、ここんとこ、随分涙もろくなってしまっているようだ。そして、気付けば何度も読み返して、昔へと想いを描いていた。色あせた世界はこの一枚の手紙で色づいて、鮮やかに、鮮明に思い出されていく。夏休み。あなたに誘われて、海へと遊びに行きました。あなたはドッキリ企画なんだ、とか言って、私に行き場所を教えてくれずにただ手を引っ張って海へと連れて行きました。私はどんな所に連れて行かれるのかと、不安ばかり。でも、内心ものすごく期待していました。なんでも、どんな事でもこだわるあなたの事だから、並大抵の場所じゃなければドッキリなんて、しそうにもなかったから。私はあなたに完全に身をゆだね、甘えるように着いて行きました。なのに、いつまでたっても、私の目隠しは外れない。無理矢理付けられた目隠しのせいでフラフラユラユラ。それでも、あなたは私を力強く、「もう少しだから」と精一杯引っぱる。あなたの握る手から伝わる、確かな体温が、私をどこまでも安心させてくれました。不安定ながらもユラユラとあなたに着いて行き、ようやくあなたは「着いたぞ」と耳元で呟きました。あの時、正直私よりも疲れていたんじゃないんですか?私は何故かそれが嬉しかったのを覚えています。そして、あなたが私の目隠しを外すと、一面に広がる、信じられないくらい青い海。とても、私たちの身近にこんな場所があるなんて思えないほど!しかも、夏休みなのに人は全くいない!完全な貸切の真っ白なビーチ。私は思わず、「どこまで来たの!?」って叫んだの、覚えてますか?するとあなたは笑いこけて「いつもの海岸から見える小島だよ。俺達だけの隠れ場所さ」なんて誇らしげに私の顔を見てた。そう言うとあなたはいきなり服を脱ぎだして水着姿になると、海へと飛び込んで行って「早く早く!」って。私もすぐに追いかけるように海に飛び込んで二人で子供みたいにはしゃいで遊んだよね。私、それがすごく嬉しくて。このまま世界が止まってしまえば良いのに、なんて夢見てみたりするほど!それほど嬉しかったんだよ!あの時は本当に恥かしくて楽しかったしか言えなかったけど感謝してます。ありがとう。でも、こんな事でゴメンナサイ。慌しくいなくなる事、本当に許してください。私も、あなたとの未来、いっぱいいっぱい描いてました。海辺の真っ白な家に住んで、二人の男の子と女の子に囲まれて、家族四人。笑顔が絶えない幸せな家庭。いつも頭に描いては、こっそり一人で微笑んでました。あの夏、僕は最も輝いた一日の中にいた。君は傍で水をはねあげながら、無邪気に笑っていた。ありがとうなんて、言わなくても十分すぎるほどに君の笑顔を貰った。それだけで十分だと思っていた。僕は電車を乗り継いでいく。朝早く、通勤ラッシュもない。乗っているのはごく一部の、徹夜で乗り込んでいる人のみ。僕はその手紙を片手に抱いて、あの日の海辺の町に来た。まだ日も昇らない、薄明かりの中、手紙を読み返しながら歩いた。…あなたは今、何をしていますか?描いたとおりの将来に向かっていますか?私はあなたが夢に向かっていく姿を見たかったけれど、もう無理なんですね。でも、あなたと過ごせたこと、これ以上の幸せはないと思ってます。私の誇りだと思っています。あなたはどこが、自分自身を卑下する面がありますが、もっと自信を持ってください。あなたは、私が生涯誇る、最高の人ですから-朝日が、少しずつ顔を出そうとしてきた時、やっとの事で目的地へと着いた。そして、僕はゆっくり心境を語った。今までの手紙は全て焼いてきた。君を、忘れる為に。今、目の前に君がいる。もう、2年も、この場所を動いていないんだね。僕は結局、今という今まで、君を忘れずにいた。いつまでも、君を引っぱっていた。そして、未練がましく、現実を受け入れきらず、君からの最期の手紙に気付かないフリをしてきた。なかなか返事が来ないな、なんて2年も待っているフリをし続けた。でも、それでは何も変わらない事にようやく気がついたよ。ほら、君の最期の手紙の、返事を持ってきたよ。君の手紙と一緒に。花も、君の大好きな花も持ってきた。いっしょに飾ろう。手紙を横に据えよう。恥かしいけど、僕の最後の手紙を読むから、しっかり聴いていてくれ。笑わないでくれよ?君がもたらした日々は今でも、これからも僕の中でいつまでも輝いた日々になるよ。君が笑っていてくれれば、ありがとうなんていらない。そんな日々の毎日だった。楽しくて、笑わせる事に忙しくて、最高に充実していたよ。君のおかげだ。最後だけど、長くは書けない。君からの最後の願いを守る為にも。僕は夢に向かって精一杯走っていくよ。だから、決して笑顔を絶やさないでいて欲しい。これが僕の最後の言葉だ。本当にありがとう。僕は、自分の手紙を読み切ると花の横に添え、そっと立ち上がった。そして、君からの最期の手紙に火をつけた。綺麗に、炎は燃え上がった。燃えきる寸前、手紙の最期の言葉が、垣間見えた。いつかは私を忘れて、夢に向かってあなたらしく、走っていって下さい。あと、私はあなたがいるから、死ぬ事に恐れはないので心配しないでね。最後のお願いです。今まで、ありがとう-
2005/05/30
コメント(0)
「将来は何をするつもりなの?」将来…何になろうかな。弁護士とか、医者とか、頭の出来からいって無理だろう。「…夢とか無いの?」先生、そうは言ってもすぐには思いつかないよ。確かな夢なんて無いからさ。「…いや…別に。」「それじゃあ、なんで大学に行くの?」そんなの、成り行き。でも、それを口に出したら“説教”がはじまる。面倒は誰だって嫌だろ?「…自分の可能性を信じているからです。」「そう言い切れるなら、早く自分の夢を見つけなさい。そうしたら、夢はあなたに大きな力をくれるから。」それぐらいは分かっている。目標が確かであるほど、計画の濃度は濃くなる。そして、夢を見つけるのが早ければ早いほどそれは現実味を帯びてくる。「次の時までには、しっかり自分の将来を語れるようになってね。国坂くん。」「…はい。」ゆっくりと席を立ち上がりながら、確かに真剣に考えなければいけないのだろうなぁと痛感する。「有難うございました。失礼します。」小声で言うと面談室を出た。次の面談の生徒がそこで待っていた。「どうやった!?何を聞かれるん?」今から考えても、きっと答えには行き着かないよ、と思いながらも普通に答える。「成績について少し。後は自分の将来について。大学選択も含めてね。」「まじかよ…。大学も考えてないのに…。まだ2年なったばっかだぜ?早過ぎねぇか?」「いや、早い方がいいんだろ。多分。」ちょっとばかし分かったような口を利いて笑ってみた。「ちぇ…ダリィなぁ。」そう言うと、しぶしぶと面談室に入っていった。彼も、悩んでいるのだろうか。とてもそうは思えない。楽観的に今を楽しむ事しか考えて無さそうだ。バンドを組んで、ギター兼ヴォーカルをして、毎日遅くまで練習してるせいか、授業は寝てばかりだ。それは俺にも言えるかもしれない。客観的に見れば、彼も、俺も、大した差は無いはずだ。友達の前で将来何になる?なんて話題、出しやしないし、出やしない。皆そんなもんなのかも知れない。内心、凄く将来を心配していながらも、表に出さないだけ。いや、それとも既にしっかりとした未来を見据えているのか。もしかしたら彼も、ギタリストとしてデビューしようとしてるのかも知れない。結局、一番甘いのは…俺という事。未だに、大学に行く理由すら思いつかない。大学で恋をする、サークルに入る、遊ぶ、その程度の事すら想像できない。少しばかり悔しくなり教室に戻ると隅の席に座り込み、帰りの準備を始めた。自分の程度が知れている事にようやく気付いた気分だ。なんともみすぼらしい。カバンに荷物を詰め込むと、冷めた態度で教室を出て、残って自主学習をする奴を冷ややかな目で見た。俺も、一年の頃は良く頑張っていたなぁなんて、お笑い種だ。テストの為の勉強など中学生で止めるべきだった。テストなど、大学も見据えられてない俺には少し、あやふやすぎる存在だ。確かに、点が良い方が選択の余地も広がる。しかし、単純に良ければ良いという話でもない。逆に選択出来なくなる場合もある。それを俺は知っている。親父がまさにそうだったから。カバンを担いで、自転車をまたぎ、軽快にこぐ。耳にはイヤホン。よけいな考え事をしない様に。家に帰ると夕飯時に毎回のように親父が夢を果たせなかった事を悔いて、それを俺に説き聞かせる。成績が良すぎた為に、大事な夢を見失って、目先の安定した未来に走ってしまった。こんな親父を見ていると同情してしまう。そして同時に、勉強はしない方が良いのだと誤った捉え方をしてしまう。だから、聞いているフリをして、ほとんど聞き流しだ。ベットの上でも考える事は同じ。今度は何て話せばいいだろう。夢はあった。でも、現実を見据えてみるとだめなんだ。そんなの理想で、妄想だ。授業中も最近はずっと上の空。あの、面談があってからずっと。そんな俺が頭をねじっていた時の、ある日の帰り道、公園のそばを通った時、世界が回り始めた。「ママ!僕、将来サッカー選手になるよ!!」小さい子供が自分の頭くらいあるサッカーボールを抱えて母親の所に駆け寄った。すると、母親は少し冷たそうに微笑み、しゃがみ込んで、子供の顔を見た。「テレビで出ているような人はね、大変な練習を積み重ねてやっと、一人の選手になれたのよ。」すると、母親は子供の肩に手を置き、子供の目を力強く見通した。「しかも、大変な才能がいる事なの。あなたには難しいわよ。」俺は思わず耳を疑った。親が、子供の夢を突き放すのかと。「だから、あなたはしっかり勉強して公務員になるの。そして、人の為に働くのよ」なんて親だ。子供をただの道具のように、自分の身代わりの様に扱う事が出来るものなのか。「嫌だ!だったら僕は一日中サッカーするんだ!そしたら、僕も選手になれるもん!」「無理なのよ。それは、出来る子と出来ない子がいるの。」「それじゃあ、僕は出来る子なんだ!」「我がままを言わないの!!私はあなたの為を思って…」「ママなんか大嫌いだ!僕はプロになるんだもん!」子供は大声で叫ぶと、泣き出した。そして、手に持ったサッカーボールを蹴り、ドリブルを始めた。母親はただ、呆れたように子供を見つめていた。子供ながらに信念を貫くその様に、俺は少年に日本代表まで上り詰めて欲しいと切に願った。それと同時に、羞恥心からなのか、顔が赤面した。あんな少年ですら、自分の夢に誇りを持っていた。俺は、どうだ?自分の夢を理想だとか、妄想だとか言って、ボロクソにけなした。誇りも何も無いのか?俺が、あそこまで憧れていたものは何だったんだ。「最近、下がってた成績は上がってきたわね。いい感じよ。」それはどうも。「でも、この将来は何?何を考えているの?」そう言うと先生は俺に紙切れを突きつけた。面談の事前にとった、アンケートだ。「何って…そのまんまじゃないですか。」「ふざけないで。こんなの、出来るわけが無いじゃないの。恥かしくないの?現実を見れていないのよ?」「いや、恥かしいどころか自信を持ってますよ。それは俺の誇りです。」「…夢がある事は良い事だわ。でもね、出来る事と出来ない事はしっかり知らなきゃいけない。」「…」「映画監督なんてとても、飯を食っていけるような職業じゃないわ。売れているのも極一部に過ぎない。」「…俺はまず、成長ものの映画を撮ってみたい。別にホームビデオでもいい。」「ちょっと…!」「夢を見失った少年が、死ぬも狂いで小さな頃の夢を思い出すんだ。そして最後にはそれを見つける。」「…そんなの…」「結局、周りに反対され続けるけど、それを振り払って、最後には夢を成し遂げる。俺の映画です。」「在り来たりで、陳腐だわ。はっきりいうけどあなたには才能が無い。」「だから学ぶんです。これから、少しずつ。」「折角進学校に来たのよ?親が許すわけが無い…」「そういう、一部の大人は子供の大事な夢を芽をむしって、無理矢理新しい種を埋め込むんだ。」「あなた、何を言っているのか…!」「何も言えずにただ、従う事しか出来なかった子供たちは、どうしたらいいんでしょうね?」「!!」「あなた達の一片の人生談の身代り小僧になるしか無いんでしょう。哀れにも。それじゃあ、話は終わったのでこれで。」「待ちなさい!あなたの言っている事は…」「あと、親は了解を得ていますから、ご心配なく。失礼しました。」「国坂くん!!」俺は大声で笑いながら面談室を飛び出してやった。もがいた分、色んなものが見えてきたから。そして、やっと出来た映画。-noble boast-は、ここで一幕、閉じるとしよう。
2005/05/29
コメント(0)
ある日の午後の事。いつもと同じように、変わり映えの無い帰り道を帰っていた。いつものように一人で、いつものように耳にはイヤホン。流れているのは陽気なラップ。ボリュームは最大で、外までガンガン漏れる。しかし、周りに人がいるわけでもないので気にするわけでもない。音楽に合わして頭を揺らしたり、たまに歌ったりしながら帰る。何も変わり映え無い一日は、どうでも良い事で大切な一日に変わる。少し気にかけてた女の子が自転車で後ろからやってくる。こちらに気付くと笑顔を向けてこう言った。「あ、バイバイ!」ほら、ね?もう、今日は特別な日だ。
2005/05/28
コメント(2)
屋上に憧れて、私は飛び出そうとする。でも、そんなの許されない。だって、危険だから。落ちたりしたら、死んじゃうかもしれない。そんな事が起きたら先生だって親だって本人だってたまらない。でも、危険だから入るなといわれたら、よけいに行きたくなるし、見晴らしの良さそうな屋上に憧れるのはしょうがない。私はそう思う。だって漫画とかドラマとか、とにかく屋上が出てくるでしょ?で、そこでドラマ的な出会いをするの。別に私はそれを求めているわけじゃないけど、現実でもそれに匹敵するくらいの事あっていいんじゃないのかな?なんて、夢見がちな少女みたいだからこんな事人に言った事は無いけど…。「な~に考えてんの?たそがれちゃっさぁ」「…?あぁ、なんだ、ミーかぁ」「もお!ミーって呼ばない約束でしょ!?」「別にいいじゃん。可愛いし」私が笑いながら見ている、ぶりっ子みたいにふてくされるのは三上美知。私は美知という名は母と同じだから呼びづらいのでミーと呼ぶ。友達なのに名字で呼ぶのも嫌だし。「で、一体何を考えてたのかなぁ?リコちゃん?」「…リコはなし。そう呼んだら答えない」「えーだって可愛いじゃん」全く同じセリフを同じように返してしてやったりといった顔。そんな顔に少し苛立ちを隠せないのが私、吉上梨恵子。略してリコ。そう呼ぶのはミーだけだけど。私がミーと呼ぶと、向こうはリコと呼び返してくる。まったく、それは私の家で飼っている犬の名前。犬と同じ名前で呼ばれるのはたまらない。「冗談よ。で、ホントは何なの?」「どう答えたら喜んでくれる?」「ん~彼氏が欲しくなった、又は好きな人が出来た、かな?」「自分に恋っけが無いから私をダシに楽しみたいんでしょ?」「良く分かってるじゃん!」「残念だけど、私も恋の話は無いなぁ。ごめんね」私は嬉しそうに謝る。ミーはつまらなそうな顔をする。別にいつも通り。いっつもこんな調子。毎日毎日繰り返し。いつか終わりが来るとしたなら、屋上に出たときだろうな。きっと“そこ”は私の生活を180度変えてしまうんだろうなぁ。私は夢見がちな少女だから。
2005/05/27
コメント(0)
それはとてもとても硬い音。さらにとてもとても錆びた音。そしてそれはとてもとても古びた外見だった。町の中央に聳え立つやたらと高い塔。その頂上は町は愚か、周囲の全てを見渡せる。なんでこんな辺鄙な農村にこんな高い塔が立っているのだろうか。村人はみな、同じようにこの疑問を抱えた。しかもその塔は立ち入り禁止。村長が命じたわけでもなく最初から立ち入り禁止だったのだ。誰が建てて、誰が立ち入り禁止にしたのか、そして、なぜ塔の頂上からの景色のみが、村人に伝わっているのか。誰もその真相は知らない。ある時、一人の青年が立ち入り禁止のふだを飛び越えた。「今日こそ見てやるんだ!!」小さい頃、村に伝わる塔の頂上からの景色の話を母親から聞き、いつかこの目で見てやると誓っていた。塔の内部はこれといって何かが在る訳でもなく、周囲一帯に張り付いた蜘蛛の巣と頂上まで続くであろう階段のみがあった。その途中、窓もなく、その為光も頂上の出口から漏れる僅かのもののみ。しかし、青年はその足を戸惑う事無く進めていった。ある程度上ったが、依然として天辺までの距離は長い。するとある所で青年は急ぎ足になっていた歩みを止めた。なんと、木で出来た階段はそこで欠落して、無くなっていた。向こう側の階段まで数メートルはある。とても跳んで届くような距離じゃない。結局諦めざるを得なくなった。しかし、青年はいつか上ってやると、闘志を再び炊きつけて、天辺の光に思いをはせた。それからしばらくして、誰もが疑問に思い、それでありながら誰も気に止めないような塔に異変が起こった。ある日の午後、いきなり村に高々と鐘の音が鳴り響いた。村人は一体どこから鐘が鳴るのかと、探し回りだし、それが、あの塔の頂上から鳴っている事に気付いた。村人は唖然とした。誰もいない、誰も登れない塔からいきなり鐘が鳴り出したのだ。塔の頂上に鐘が在った事も驚きではあるが、風もない状態で、しかも聞いた事もない鐘の音が鳴ったのだ。人為的でなければあり得ない。しかもその音はとても堅く、とても錆びて、重厚な音を放っていた。鳥がつついたりして鳴るような音ではなかった。その鐘の音を聴いていた青年が血相を抱えて家に駆け入った。そして、手作りの梯子を手にすると塔へと再び向かった。塔の周りで頭を抱える村人たちの隙間を縫うように走りぬけ、柵を飛び越えて塔に入り込んだ。「おい!!入っちゃいかん!!」村長の声は確かに耳に聞こえたが、足を止めるわけもなく、階段を駆け上がった。そして階段の欠落している部分に手作りの梯子をかけると、慎重に渡り、再び階段に足をつけると、光へ一気に駆け上がった。そして念願の頂上か、と思うと頂上への出口は大量の金網で覆ってあった。しかも、ここからでは景色の一つも見えやしない。青年は必死になってその金網を手で引きちぎっていった。手は瞬く間に血まみれになり、見るも無残な形へとなった。しかし、手を休めずに網をちぎり続けた。血で、手が真っ赤に染まった時、青年は金網を全て破りきった。そしてゆっくりと、頂上に足を踏み出した。「……」その目に飛び込んできたのは見渡す限りの青緑の草原と山、そして、地球が丸いのだと思わせるように放物線を描いた地平線だった。村など、足元にありすぎて何も見えやしなかった。青年の開いた口はいつまでも閉まらなかった。そして、頬に涙が流れた。「はは…あはは…すごい……」深く息を吸い込むと一気に吐き出した。「ぅぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ…!!」大きな声で叫びきると、ゆっくりと胸をなでおろした。そして振り返ると、確かにそこには鐘があった。確かに錆びていた。でも、誰もいなかった。鐘がひとりでに鳴り出したのだろうか。すると、青年は鐘に文字がほってある事に気がついた。すぐさま近づいて読む。「…この鐘の紐を引くと、今から100年後にこの鐘が鳴る…」青年は再び開いた口が閉まらない。「しかし、誰かにその紐を再び引かれると貴方が引いた記録は失われ、新たに弾いたものの記録に更新される…」文章はそこで終わっていた。しかし、青年は全てを悟った気がした。その文章の下に数名の名前があった。おそらく、この鐘を鳴らしたものだろう。すると、その数名の最初の3名の名前の上に“塔の建設者”と刻まれていた。それはこの村に、おとぎ話のように伝えられる、過去の天才的な建設師の名前だった。そして、創設当時の年号も書かれてあった。いまからおよそ400年も前の事だった。青年はただ、ただ驚いた。しばらくして頭の中を整理すると、ゆっくりと鐘の紐を引いて塔を降りた。そして、降りるさいちゅう、階段をさらに激しく壊した。二度と誰も登れないようにと。そして梯子も壊し、何事も無かったかのように塔を出た。そして、村長にも村人にも、登れなかったと悔しそうに語ってみせた。血まみれの手は小さなポケットに入れて隠しておいた。青年は全てを悟っていた。塔を建てたのはおとぎ話の世界に出てくる伝説の建設者。塔を立ち入り禁止にしたのは、今から100年前に鐘の紐を引いた人。誰かに更新されるのを恐れたから。塔の階段を壊したのもきっと100年前の人。同じ事をしたから、よく分かる。塔の景色を伝えたのは、建設者。皆にこの塔に登って欲しかったから。塔を建てた理由は、自分の存在を残す為。皆に見せたいのに、次に人が来て欲しくないような仕組みに建てられた塔。矛盾の塔。これは伝説の人達が試していたのかもしれない。自分の目先だけの欲を捨てて、多くの人に感動を伝えられるのかどうかを。そんなの出来る人はきっと出てこないだろう。あんな景色、独り占めにしたいし、どんな人でも、結局は自分が大切だから。当然、それは僕も変わらない-
2005/05/26
コメント(0)
壊れた大地。氾濫した海。荒れ狂う空。この世界で様々な争いが起こり、人々は自然に殺され、人に殺され、感情に殺された。感情だけで行う、実に単純な殺し合いだ。自然から身を守る術をなくして我がままをこねる様に感情を抑える事も無く暴れまわる。領地や権力、そんなものを欲するわけでもなくただ、溜まりに溜まった感情を掃き捨てる。そんな人間の歩みは徐々に静かになっていった。男性が全て息絶えたからだ。女性同士は争う事無く、自然から怯える日々を望んだ。そして、女性だけの世界が生まれた。苦も無く互いに気楽に過ごしていた。自然から逃れる為壊れた大地に生まれた亀裂の隙間などに身を潜める事によって過ごしていった。そんな中の一人の女性が身篭っていた。戦で死んだ夫の子供だった。生まれたのは男の子だった。女性たちは沸いた。このまま人間が絶えるものと思っていた時に生まれた、小さな希望だった。そして男は少しずつ成長していった。しかし、ただ一人の男、女性はただただ甘やかし続けた。その結果、立派な一人の男として成長した時、全ては起こった。独占だ。男は好きなだけ女を選び、遊んでは捨て、男が生まれてきたら赤ん坊の時に殺していった。そんな時、一人の男が生まれた。その母親はあの男に見つかる前にあの男を殺してしまおうと立ち上がり一晩のうちに殺した。そして、新たに生まれた一人の男、今度は誤らないと厳しく、教育を仕込んだ。その結果、男はある程度成長すると溜まりに溜まった感情を掃き捨てるように女性を殺してまわった。厳しくした戒めだと言わんばかりに無差別に殺しまわった。村には男が一人。大地には男が一人。争う事も出来ずに、累々たる女性に屍の前に静かに息を引き取った。死臭漂う村の中で、小さな男の子と女の子が男に見つからない様にと息を潜めていた。
2005/05/25
コメント(0)
息を潜める。声を殺す。気配を無にする。足をそっと地面から離す。音は無し。静かに空中を水平移動させる。そっと次の一歩を踏み出す。丁寧に足を床につける。音は無し。見つかれば命は無い。必死にそう言い聞かせる。見つかれば今までの悪事が芋づる式に解けて、今までのものが全て泡となる。ここで失敗するわけにはいかない。しかし、急がなければ気配を感じとられてしまう。まさに速さと丁寧の葛藤だ。体を硬直させ、足以外は全てが凍りついたように動かない。背中のズボンのゴムに挟み込んだ“コレ”は見つかるわけにはいかないのだ。たとえ見つかって殺されてもだ。万が一見つかったのなら自身事、体を吹き飛ばした方が良い。そっと…慎重に…。もう少しで階段だ。階段に足をかけたら一気に駆け上がる。そして“コレ”をベットの隙間に押し込む。今しばらくは知らぬフリをしておけばいいだろう。…頭の中でイメージを描くと階段にゆっくりと足をかける。それと同時に、階段の正面のドアノブがゆっくりとおちた。「!!」張り裂けそうな心臓の高鳴りと同時に、足は駒の様に回り、階段をものともせず早さで駆け上がった。ドアを潜って来た者もその音を嗅ぎ付けて早々と階段を上ってくる。慌てて背中から取り出すと、ベットの下に放り投げた。「ちょっと。さっきから何をしてるの?」慌てて振り返り、深く息をついて、冷静になると「いや、何も。それよりもどこに行っていたの?」と、白を切ると同時に話題を転換して早めにこの部屋から人を連れ出して行った。“アレ”はきっとばれてない。早めにもっと確実な場所に隠しておかなければならないだろう。親に見つかると、色々と面倒だろうし。
2005/05/24
コメント(0)
僕は生涯、愛し続けたい。そんな人に巡り合えたのかも知れない。運命とか、直感とかじゃくて、気持ち一つ。守りたいとか、大切にしたいとかじゃなくて、抱きしめたい。今すぐ、両手一杯に、力一杯に抱きしめたい。それ以上の感情もないし、それ以上の望みも無い。小さいその肩を、周りに怯えて震えるその肩を、抱えて、二度と離したくない。ガラスの様に砕けやすくて、ダイヤのように美しく、無垢で、見え隠れする君の心。それを知っていたのに、強く抱きしめすぎて、君を殺したのは僕だ。砕けたガラス細工を掻き集めても、君は二度と形へと戻らなかった。それでも、僕は君を生涯愛す。いつか砕けた粉が反射して、ダイヤより美しい光を放つ日を、僕はただ、ただ待つ。
2005/05/23
コメント(0)
ここは公園。誰もいない。僕はブランコに一人で揺られる。時間は2時。夜中の2時だ。少し、パトカーとか車とかの気配に驚いたりする。家を出て、何時間たったかな…?6時間くらいかな…?泣いたりなんかしない。僕は旅立つんだ。狭い町から出て。お金は大して持ってないけど、きっと大丈夫。僕は大丈夫。そんな気がする。とりあえず今日はこの公園に。明日は別の公園に。次から次へと場所を移して、僕はいつかあそこに行く。僕の夢の世界。僕の好きなモノで溢れて飽きる事の無い、永遠の大地。きっとある。いつか着く。僕はそうだと信じてる。夢だから泡かもしれない。それでも気にしない。それを目指して旅立つ僕に、ただ惚れ惚れする。自分が格好良く見える。あぁ…眠くなってきた。明日はどうこに行こうか…。僕は一つ忘れていた。言い忘れていた。ここの気温はマイナス12度。寝ちゃいけない事も忘れていた。でも、僕は永遠の大地にたどり着いた。大好きなものも山ほど溢れている。飽きる事が無いはずだった。でも、五感が無い僕を満足させるものは無く、すぐ飽きてしまった。そっか、死ぬって事は地獄なんだ。天国に着いても感覚が無ければ待てをされたような犬の状態だ。目の前にあるものを楽しむ事が出来ない。僕は一つ勘違いしてた。理想と夢は違うって事。僕は叶わない夢を追っていたんだ。
2005/05/22
コメント(0)
「ほらほら!見えるだろ!?」友達が絶景に感動して思わず叫んだ。大学の夏休み、友人4人でちょっとしたドライブに出た日の午後だった。「あ!…ごめん…」優しい友人は下を向いて深々と頭を下げているように見えた。僕は笑いながらかえす。「気にしなくていいよ。折角遠出したんだ。精一杯景色を楽しんでおいでよ」友人は一言、ごめん!ありがとう!そう言って車から離れた。さすがに僕は車から大層離れる事も出来ないし、周囲は夏の日差しで暑かったため、車の中に一人で入った。車の中に入ると冷房にあたり、不自由な体を満足させてあげる。心地良くなると頭が勝手に動き出してしまった。僕は運が良い。良い友人に恵まれて、美味しい物を食べる事が出来て、十分すぎる。多少、目が見えないというハンデはあるものの、大した事ではない様に思える。生まれながら僕の視力は極限まで下がっていたため、鼻から人の顔さえもろくに認識できない。目が見える人が羨ましく感じる事はあっても、悔やむ事もないし、それを理由に不利だと感じた事も無い。最初から見えていない事がむしろ幸運だったのかも知れない。いや、幸運だったんだ。そもそも、僕の視力は中学生になる頃には何も見えなくなるだろうと言われていた。そうでありながら、今もしっかり見えている。いや、しっかりでも無いが…。しかし、確実に視力が落ちていくのは痛感している。日に日に世界は色あせる。昨日見えていたものも、今日は見えない。失ったものはもう戻らない。少し思いにふけすぎて、悲観的になってしまった。不自由な体に苛立ちを覚える。仕方が無い事も認められずにいる。もう、どうしようもない自分がいる。「悪い!待たせた!」気軽なノリの声とともに、友人たちは帰ってきた。五分程度だっただろうか。「早すぎないか…?」「なんだよ、疑ってんのか?俺たちは十分見てきたよ、よけいな心配するな」笑いながらそう言って車に乗り込むと、どうでもいいような土産話を沢山聞かせてくれた。車の中は笑いが常に絶えず、僕は先ほど考えていた事など、すでに忘れいた。車で家のすぐそばまで送ってもらうと、僕は笑顔で皆と別れた。僕の家までの道は単純だ。ある程度見えなくてもすぐそこに入り口がある。「…あれ…?」思わず立ち止まった。「……?…ぇ…?」何も見えなくなった。目を瞑ったとか、そんな感覚じゃなかった。世界が変わった。目を精一杯見開いているのに、黒いボックスの中に詰められたような景色しか見えない。僕は、視力までも失ってしまった。しかし、だからと言って変わった事は何一つ無かった。変わったのは僕の心境だけだった。そう、色んな人に励まされ、以前以上に、僕は生きる気持ちで一杯になった。
2005/05/21
コメント(0)
「…何…?まだ思い出せないよ…」その時、男の言う事に曖昧ながら何かを感じ取り、しかし、男の言う涙が一体何なのか見当もつかずにいた。「…俺、本当ならここにいないんだ。もう、死んでたはずだから」でも、漠然と予想をするなら、きっと夢がそのまま事実になるのだろうと薄々感じていた。「…」「…?驚かないのか?」はぃ?深刻な顔をしながらあまりに突拍子の無い質問に唖然とした。「…冗談なの?」「まさか」「じゃあ、話してよ。色あせた記憶の塗り方を…早く教えて…」「…」少し、冗談染みた男の顔は、急に豹変し、私は直視できないほどに、目はギラギラとしていた。「俺、自殺しようとしたんだ。俺、こう見えても気味が悪いくらい正義だったんだ」「…正義?」「そう。親友であろうと悪事を働けば、信念に従って裁いてやった。それが正しいし、他の道は無いと思っていた」「…」「ある時、俺は不要になった。奴らの事を思ってした事は全て裏目に出て、どこにいても煙たがられる存在になって…」私は…「俺は正義を止めた。でも、悪にもならなかった。無になったんだ」…私は…「居ても居なくても同じ存在。そんな奴かな。そうしてると、急に無常を感じたんだ」…あなたは…「居なくても同じなら居ない方が俺としては楽なんじゃないかって。死んで始めて、俺の存在は知られるのさ」…違う…「だから俺は…」「次の日、自宅のマンションの屋上に出て飛び降りようとした。柵を乗り越えて」「!!」「すると私が走ってきて邪魔をしてくれた。私は何も知らないくせに大層な説教をして…」「違う。結末はそうじゃない」「あなたはこの話を私にしてくれた。屋上から引っ張り出した時に。全く同じ話を…」「色々、変わるもんなんだよ…」「…?」「お前は俺の飛び降りるのを妨げて、何回も引っ叩いた。痛いのは俺なのに泣くのはお前ばかり」「…」「必死に泣いて自殺の理由も問わずに“命を安物にしちゃいけない!”って正義をかましてくれた」そう…私は…「俺は正義の裏にたまった悪の全てが飛び出した。お前に思いっきり振り撒いてやった」「…ち…ちが」「違わない。それでもお前は見知らぬ俺のために必死に泣くんだ。そんなの絶対間違ってるって」「あなたの嫌いな…正義よ…?」「蒼い涙。信じられないほど透き通って、お前の頬を伝って雫になって落ちた。俺は何か思い知った」「…?」「そう、俺は下心のある偽りの正義で、お前は誰もが認めるような真の正義、嫌と言うほど見せ付けられた」「…」「俺は正義だからこそ知れた、“良い子”の弱点を躊躇わずに一気に掃き捨ててやった」…ぁ…そう…この人は…悪…。「するとお前は涙も止まり何事も無かったかのように目の前を去った。最初は勝ち誇ったような気分だったよ」…ぃや…「でも、異様なまでの豹変に俺は怖くなり、お前を探しまわした。やっと見つけたら俺は覚えてない、記憶が無いなど…」…だめ…!「ふざけた事を抜かしてくれた」「ち…近寄らないで…!」「…」男の目は、死んでいた。私は怯える事しか出来なかった。「それで…俺は……お前の記憶を取り戻そうと…色々…したんだ…」彼は目だけでなく口も覚束なくなりそうだった。「なのに…会う度に俺を…忘れてくれ…るもん…だから……大変だった…」「喋らないで!!」「…この罪を…お前の涙を取り戻す為…なら…と…なんで…も…したさ…」「…だめ…!」「体が…おかしくなり…もう…本当の事を…話す事でしか……無理だと…気付いて…」「待って…!今、救急車呼ぶから!!」私は強がっていた彼が、いきなり病弱な姿に変わりゆく様を、ただ涙を流して見ることしか出来なかった。「…なみ…だ……思い……だ…」「…ぅん…!分かったから…!」遠くで救急車の音が夜空に響いた。彼は儚いその命を引き取った。だが、決して安売りはしなかった。彼は私の失った記憶を運んできた。そこには、私の忘れた事が沢山あった。悪意ばかりが表に出ていた私が、正義を思い出した。もう、放火など考えたりしないだろう。これっぽっちも。屋上に私は一人でた。屋上の中央に小さな手紙が置いてあった。彼の最初で最後の手紙だ。私は白い便箋を丁寧に読み始めた。そこには彼なりの正義が溢れていた。
2005/05/20
コメント(0)
「待てよ」私は、その不満そうな面を丁寧に振り返らせた。「…何?」「逆だ」「…?」「お前が俺の空間に入り込んできたんだ。そうだろ?」「…」えっと…そう。カギは確かに不自然に壊れていた…。「あんたが先に入った、そう言いたいの?」「それはそれで正解だ。しかし、ここはお前の場所で良い」「?」「お前が入り込んできたのは俺のアパートの屋上さ」「!」この男…!「お前、少し前の…記憶が部分的に無いんだろ?」「…なんで知ってるの…私は家族以外には話してない」「俺の目の前で記憶を無くしたんだ。俺が分からないはずが無い」「!!」やっぱりこの男…!!「あんた…!」「俺はお前の記憶を持って来てやった。だからもう一度、見せてくれ」「…?」「俺は死ぬ前にもう一度見ておきたい。お前が記憶とともに無くした蒼い涙を」
2005/05/19
コメント(0)
今、あの男にキレても仕方が無い。でも、人を呼ぶのも面倒だ。寝転がって私は大の字を描いた。瞑った目を大きく開き、空に目を向ける。雲は今にも私の手で掴めそうで、空は立ち上がったらぶつかりそうなほどに近くにあった。気付くと、夢うつつで深い眠りについた。私は綺麗な空を見て回るのだ。自転車に乗って空を見ながら風に気持ちよくぶつかる。空を見上げながら走っていると、大きなマンションが私の視界をさえぎる。しかも、飛び降りようとする少年を抱えて。それはもう、大きく構えていた。私は血相を抱えて叫びながら駆け上がる。屋上に飛び出すと大きな声で叫ぶ。「待って!!」振り向きもせず、柵から手を離そうとした。私は無我夢中でその男を捕らえて屋上に引きずり出し、大声で叫びながら、何回も引っ叩いて泣いた。綺麗な涙-、これは…私?頬を伝う冷たい涙で目を覚ました。拭き取ってみると、濁って、どよんだ涙だった。空は気付けば夜空へと変わり、周囲はすっかり冷え切り、校内は誰一人の気配も無かった。「ぅわぁ…」慌てて、変な声を上げて、私は事の重大さに気付く。時間がとうに12時を回っていたのだ。再び開きもしないドアに戻ると、私は思いっきり引っぱった。すると静かに開いた。「ったく…何時まで寝てんだよ…俺のほうが眠いわ…」何故か冷静に男の声に反応し声の方に目をやると男はあくびをしながら呆れた顔で私を見た。私は思わず声を張り上げた。「誰のせいで!!」「学校って良い場所だろ?授業とか先生とかは学校じゃなくて、規則であり、人だろ?」「…?」「場所的に見れば学校は天国なんだ。同じ年代の話題の合う人が集まって、色んな出会いをする」「…」「遊んだり、喋ったり。悪くない場所だ」「…自分の愚かさを知れと…?」「さらに、学校には屋上がある。会社の屋上でもない。デパートの屋上でもない。」「…」「どんな場所よりも空に近づける、誰も知らない、最高の空間さ」「あんたが知っていた」「!」「私の空間にあんたが入り込んできた。そうでしょ?」「…」「どうも。新鮮な説教を」私は屋上の踊り場をこえ、階段を軽快に下りた。
2005/05/18
コメント(0)
何?あの男?…。頭がおかしくなりそう。私はあの男から逃げるなり屋上へと逃げ出した。皆が一身に先生たちのよた話を聞いている間、一人、私は屋上で風に吹かれる。屋上はそもそも立ち入り禁止だが、屋上への窓をこじ開けて私は外へと身をのり出したのだ。いや、最初から壊れてたっけ…?あれ…?なんか…?…。屋上から見える景色は大した物ではない。でも、綺麗なんだ。綺麗に見える気がする。多分、同じ景色を山の頂上で見るよりも、きっと綺麗だろう。私はその景色に惚れて、いつも一人きり、休み時間も、授業時間も、弁当も、ここですごす。それはもう、私にには無くてはならない時間で-「屋上の景色って良いよなぁ」!?「よぉ」…またあの男。…無視。「…授業でねぇのか?」…。「ま、大した授業でもないけどな。でも、あれでも必死にやってるんだぜ?」…綺麗な景色…。「徹夜とかもしょっちゅうでさ……しかもよ……それなのにさ……」…はぁ。いい加減気付いたらどう…?風に混じれながら流れていく男の声を、私はせき止めもせず、ただ、流した。気がつくと後ろに男はいなかった。「…バァカ…」私は無き男に、吐き捨てた。私は何がしたいかも分からなくなり、踏んだり蹴ったりで校内に戻ろうとした。すると、私がこじ開けたはずの窓のカギが再び重く捻じ曲がったいた。「!!…っあの男!!…」私は周囲を見渡す。しかし、立ち入り禁止の屋上に、他の出口など無い。「何をお求めでしょう!?」「は!?」私は醜い怒声とともに振り返ると男はカギを持ってたっていた。「窓は俺の入り口だ。お前の入り口じゃない」「…何?シカトされてキレてるわけ?」「…面白い事言うな。なんで今更キレる?とっくに俺はキレてるさ」…。「よほど学校が好きなんだろうね。気持ち悪い」「まぁいいや。なんかお前見てると、情けの言葉も虚しいよ。じゃあな」男はカギを使って屋上のドアを開け中に入るとカギを絞めた。「ちょっ…!!!ふざけんじゃない!!開けろ!!」「頭、冷やしてろ」「!!」男はそう言うと躊躇い無く、姿を消した。私は、取り残されてしまった。
2005/05/17
コメント(0)
「やっぱ止めようよ!!後悔するよ…?…」そんな事、言われなくても分かってる。「本気でやるつもりだったの!!ダメだよ…!…」口先だけじゃん!羽交い絞めにでもして止めようとか思わないわけ!?…。こんなとこ燃えて灰になれ!!苦痛よりも後悔の方が良い!!「…なにくだんねぇことしてんの…?こんな薄ぐれー校舎の裏で…」なっ…!とっさに私が振り返ると後ろには男がいた。見たことは…多分ない。クラスも違う…はず。学年すら違うかも…。「…何!?文句ある?あんた、こんな学校に思い入れでもあんの?」「で、思い入れがないからお前はこの校舎を焼き払うつもりか?無理、無理。そんなんじゃぼやにもならねぇよ」「そんなんじゃ…!…っ…」私はそいつの目を見る事が出来なかった。やり場のなくなった私の羞恥心から起こる衝動を抑える事が出来ず、私はライターをガソリンに近づけた。「ばかやろうっ!!」見知らぬ男は私を思いっきり引っ叩いて、引っくり返した。「何すんのよ、あんた!」「さいてー!!何、女に手を上げてんのよ!?」友達はとっさに叫んだが、私は呆気を取られて男の目に思わず見入った。「どっちが…。無抵抗な“校舎”に手をかける方がずっとさいてーだ」…は?「第一、後悔とかお前らの考えてるレベルの話じゃねぇんだよ…」…。「学校のどこが嫌いかしらねぇけど、苦痛から逃れたい一心なんだろうな」……。「ほんと、くだらねぇな、お前ら」私は顔が火照りゆくのを感じた。気味が悪いくらいに全てを見透かされてて、しかもこんな男に救われて。恥かしさでその場にとてもいられなくなった。「…あんたに…あんたなんかに、何が分かるんだよ!?」「…ある程度なら分かる」「調子にのらないでよ!?」私はライターを力一杯男に投げつけると、立ち上がって走って校舎に逃げ入った。友達も男に醜い言葉を吐きつけて、私の後を追うように追いかけて、逃げ出した。「…」男は深く溜め息をついた。
2005/05/16
コメント(0)
現代を蠢く人間がしている事は、最も人間らしくなく世界の裏で蠢く人間の思想は、最も人間らしい。そんな気がする。もう数年したらまた世界規模の戦争が起こるだろう。核の使用は禁止等と、暗黙のルールが敷かれ、殺し合いを銘打った“世界公式スポーツ”が大規模に始まろうとしている。暗黙のルールの中には、違反も当然ある。死んでしまえば異論も出来ない。第三次世界大戦と名付けられるだろうこの戦争で、人類は人の慈悲を失い、無残にも滅亡を辿るのだろう。自分の首を自分で絞めてそれがいつか幸せを生むと信じて。人間は忘れるのだ。60年たつと、全てを。歴史は60年単位で動く。60年たてば、どんな罪も“歴史”になり、再び人は繰り返す。第二次世界大戦からもうしばらくで、60年たつ。人類は現代なお隠し続けている野望を抑える事が出来るのだろうか。戦争を、ゲームのように、殺人を娯楽のように思える世界は、今、確かに存在する-
2005/05/15
コメント(0)
ぼくは怪我した。転んだだけだ。擦り傷かな?膝の皿から赤々しい血が流れてる。泣きながら走って帰る。痛みなんてたいしてない。転んだ事が“痛い”のだ。でもぼくはそれを知らなかった。子供の頃はとりあえず泣いて、家でママに心配されて、叱られるのだ。それがほとなくぼくの幸せだった。いつだったか小学生になって、今のように転んで怪我をして帰ったとき、ママに怒られた。「もう小学生なんだから我慢しなさい!」ぼくは泣きながら唇をかんで泣き声を押し殺したっけ?今考えるとその時のぼくは初心だし、素直だなぁとちょっと微笑ましかったりする。でも、何故我慢していたのか。ママに怒られるのが怖いからか。転んでも、怪我しても、水道で洗ったりするだけで、家まで走らなくなったりして。でも、今なら全て分かる。我慢する必要なんて無いし自分の子供が泣けば親は嫌でも助けずにはいられないってね。子供なのにそんな事がわかるかって?“痛い”理由も分からないのにって?そりゃぼくはもう社会人だからそれくらい分かるさ。朝の通勤中に転んだから家に帰るのさ。泣きながらね。そしたらママは絆創膏を出してくれる。あぁ、なんでぼくはもっと早く気がつかなかったのだろう。家に帰りつくと、母親は情けない顔をして絆創膏を出して治療をした。ため息と同時に愚痴のように吐いた。「…なんでこんなにイタい子になってしまったのかしら…?」ぼくは笑って返した。「我慢しなくて良いって気がついたからだよ、ママ!」母親は再び大きくため息をついた。
2005/05/14
コメント(0)
朝、早々に私は家を出た。今日はとても気持ちが高ぶって、気分も良かった。自転車をまたいで風を横切りながら、思わずお気に入りの歌なんか口ずさみながら学校に向かって走っていく。空も綺麗すぎるほどに青々と輝き、街中なのに早朝の冷たい空気が心地よく、おいしかったりと完璧すぎる一日の始まりだった。「ルララルラ~ルララルラァ~♪」周囲には人がいたにもかかわらず、声は大きくなる一方。見知らぬ人への羞恥心など微塵も沸かなかった。朝、早々に俺は家を出た。今日は嫌というほどに気分が悪く、吐き気すらした。バイクをまたいで、かなりのスピードを出しながら実業系の学校へと向かう。昨日考え事にふけっていたせいで一睡も出来なかったのだ。アスファルトが黒々と日の光を反射し、周囲を走る車の排気ガスで吐き気はより一層高まった。昨日ようやく出した結論に早く辿りつこうと、バイクのスピードはどんどん上がる。目にはいってくるものも何もなく、周囲への配慮など忘れ信号も無視して学校へと急ぐ。大きな交差点で綺麗な歌声と、バイクのエンジン音が高鳴った。次の瞬間、音は混じり合い巨大なクラッシュ音が周囲を圧倒した。バイクと自転車の接触事故だった。当時、バイクは時速90キロも出ていた。言うまでもなく、女性は即死。男性も間もなく死亡した。女性の死に顔には涙が大量に溢れていた。最も不幸な一日になった。男性の死に顔は安らかだった。自殺を望んだ彼にとっては最も幸せな一日となった。
2005/05/13
コメント(0)
今月からぼくは、一人で戦争をおっぱじめる。相手は俺。サボりまくりで妥協する俺に、勉強に励もうとするぼくが挑む。その戦況は日記で分かる。ぼくが勝てばその日のうちに日記が更新される。俺が勝てば、その日は更新されない。今日は特別だけど明日から実行だ。いつも俺が勝るぼくの中で、俺がぼくに怯えるような、全面戦争だ!
2005/05/01
コメント(0)
全20件 (20件中 1-20件目)
1